SKO41に入った鮮血帝だけど、なにか質問ある?   作:ごはんはまだですか?

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第1話 ゲームスタート

 自分はひどく恵まれた方だと、この世界をみて思う。

 

 常に浄化された空気がドーム内を満たす、人工心肺もいらないアーコロジー楽園(ニライカナイ)で生まれ育ち、富民層の親のおかげで大学院まで進むことができ、これまた親のコネで一流と呼ばれる企業に入社して、人脈にも恵まれ、信頼できる友がいて、何不自由ない生活を送れる。

 

 人工太陽が放つ、爽やかな朝日に照らされた室内で、本物の鶏の卵とチーズで出来たオムレツ、それに遺伝子無調整の小麦粉から出来たパンを食べながら、慈琉(じる)くにふは思う。

 

(ああ、名前は本名だ。

 笑ったやつは後で全力でしばく。ハゲるまでしばく。

 第一子誕生にはっちゃけた父親が、国を治められるような大きな男になってほしいとつけたのだ。始めの案では国夫という漢字だったが、世界に一つだけの名前にしたいとひらがなで届けられたのだ。せめてくにおにして欲しかった)

 

 話がそれてしまったな。

 そう、自分は恵まれた生まれだという話だ。

 TVの中では、汚染された水で農業プラントが一つ潰れただとか、○○市で硫化水素が発生しただとか、暗いニュースばかりが流れている。

 だけど、目を窓の外に向ければ、木々の緑も、ドームの天井に映し出された空の青さも、汚れなどなにひとつない美しさを保っていた。

 

 恵まれているのだろう。

 人工肺のせいで運動も碌にできず、錠剤で栄養を補給し、子供の小遣いのような賃金で働かされている貧困層に比べれば。

 

 だが、なにか足りないという気持ちがあった。

 

 だが、ちっぽけなひどく劣った存在だと常に心のどこかで思っていた。

 

 きっと、それは満たされた退屈さゆえだろうと、次々にいろんなことに手を出てみた。ヨットに乗ったり、絵を描いたり、チェスをしてみたり、バイクに乗ってみたり、電子ゲームにも手を出したこともあった。

 そのほとんどで成功をおさめてきたが、心の底でくすぶる劣等感が払拭されることはなかった。

 

 食べ終わった食器を皿洗い機に入れると、俺はオーディオルームへ向かう。

 壁一面のプロジェクターも、背の高さほどのスピーカーも素通りで、片隅にあるダイブシステムに手を伸ばす。

 やわらかな革張りのカウチに寝そべると、ヘッドギアを着けて電源を入れる。重低な起動音とともに灯った青い光が、薄暗い部屋をわずかに照らした。

 

 今日は知人に勧められたネットゲームに手を出すつもりだった。

 なんでも一世を風靡したDMMOで、複雑な世界観と豊富な職業やスキルが人気だという。

 

「これで少しは無聊が慰められればいいのだが」

 

 あきらめ半分にため息を吐きながら、電子空間に浮かび上がったゲームタイトルを眺める。

 

 

 

<Yggdrasil -ユグドラシル->

 

 

 

△はじまり の 草原

 

 さわさわと草を渡る風が、黄色の体毛を揺らす。電脳世界に降り立った先は、晴れ渡った草原だった。ここで昼寝でもしたらさぞかし心地よいだろう。

 なにげなく視線をやったステータスメニューに表示されている現在地情報に、なんともわかりやすい地名だとジルクニフはあきれ返った。複雑で緻密で奥深い北欧神話を元にした世界観はどこにいったのだ。

 

 プレイヤーネームは”ジルクニフ”だ。どうせ真面目にやるつもりがなく、始め、名前は「ああああ」にしようと思ったが、すでに何十人と同じ名前がいてやめて、本名にしたのだ。

 種族はネコ科のビーストマンだ。選んだ理由は、人間種以外は苦労をするという事前情報から、少しでも手ごたえがあった方がいいということと、今は二足歩行のネコだが種族を上げていくとライオンへと変れることが大きかった。

 映像データーでしかみたことはないが、黄金のタテガミを揺らす百獣の王者に魅かれていた。いつかライオンのような立派な強い王に()りたかった。

 

「とりあえずレベルでも上げていくか」

 

 ジルクニフは、現実よりも鮮やかな青空の下、なにはともかくゲームを楽しむことにした。

 

 

***

 

 

 はじめのうちは順調だった。

 

 元々、ゲームの類をいくつかこなしているため、要領もわかっていて、さくさくと戦闘をこなしていき、レベルは上がっていき、少ないが金銭やアイテムも手に入った。

 

 だが始めてそう経たないうちに、先人の忠告通り、異形種は苦労をするということを身に持って知ることとなる。

 PKである。はじまりの草原では初心者狩りに散々遭い、進んだ先の森でも人間種プレイヤーによる異業種狩りが横行していた。ようやく10を超えたレベルはすぐさまデスペナで元に戻り、手に入ったドロップアイテムはこちらがドロップするはめになった。

 上って下がって、手に入れて盗られて、罵倒されて、遊びで狩られて、死体蹴りされて、散々な目にあった。

 

 それでもユグドラシルを続けているのは意地だった。

 力ある強者に暇つぶしで虫けらのように扱われるのは悔しいことで、一番低い第一位階の魔法さえも使えないまま終わることは許せないことで、何も守れず何も残せずに去ることは、……できなかった。

 

 そう、ただの意地だ。

 

 ジルクニフはたかだかゲームに夢中になっている自分を自嘲すると、今日もまたユグドラシルの世界へとダイブしていく。

 

 

 

△深い 青の 森

 

 高い木が頭上を覆い太陽を隠している森は暗いのだが、それでもフィールドのかなり先まで見ることができるのは作りものの世界であるからだ。

 こればかりは現実よりもいい点だ。虫や、まとわりつくような湿気もないことだしな。

 

 ……ふと、ジルクニフは胸の内に湧いた疑問に首をかしげた。

 

 どうして俺は現実の森を知っているのだ?

 整備された公園や庭木ぐらいしか自然を知らないのに、立ち入るものを拒む森の暗さや湿った空気を思い出せるのだ?

 

 浮いた疑問は、モンスターがポップしたことで泡と消えた。だが、どこか頭にまとわりついた。

 

 ひのきのぼうでウサギ型モンスターを殴り続ければ、HPが0になると同時に軽快な電子音がレベルアップを知らせる。

 ジルクニフはそれに構うことなく、ドロップアイテムを急ぎ回収すると場を後にする。

 モンスターを倒し油断している時が、一番PKに襲われやすいのだと実体験で学んでいるからだ。

 

 周辺と変わらない大木の一本の後ろに身を潜めると、人気がないのを確認してから手に入れたアイテムを確認する。ボックスに入っていたのはHPを回復できる”きのみ”だったので、さっそく使用する。アイテム欄で選択してダブルクリックすれば、減っているHPバーがわずかばかり戻った。

 

 回復した次はレベルが上がった時になったもう一つの電子音の正体を確かめる。

 コントロールを操り、ステータスをオープンすると、そこにはレベルアップを知らせる履歴の下に、魔法を覚えたという文字があった。

 焦る気持ちを抑えながら確認すれば、スキルの中に確かに魔法が増えていた。たかだか第一位階の、それも少しばかり移動速度が速くなる程度の魔法でしかなかったが、ようやく待ち望んだ初めての魔法に、ジルクニフは自然にガッツポーズをとっていた。

 

「よし、今日はついているな」

 

「ほ~、じゃあ俺達にも運をわけてもらおうか」

 

 そんな風に浮かれていたから、密かに忍び寄る影に気がつけなかった。否、高レベルの気配遮断と身を隠すスキルを使用されていたため、例え慎重に身がまえていたとしても、ようやく10を越した低レベルのジルクニフでは気が付くことはできなかっただろう。

 

 視線を向ければ、レア度の高そうなゴテゴテした装備をした二人のプレイヤーがいた。

 手には武器を構え、いつでも戦闘に移れる様子からいやでも強請(ゆすり)もしくは強奪が目的だとわかる。

 PK自体が目的ではないのならアイテムを渡せば、見逃してくれるだろう。だがあいにくと所持アイテムは先ほど使ったきのみでしまいだった。いつもであれば先を見越して低級ポーションの一つや二つ持っておくのだが、すでに使いきっていて空っぽだ。所持金額も薬草がぎりぎり買えるだけしか持っていない上に、PKにどうせ盗られるのだからと、装備はひのきのぼうと初心者のズボンしかない。

 規制にひっかかるため、スライムやロボット系の異形種であっても全装備を外して全裸になることはできない。更にはひのきのぼうはどこでも拾えて、売っても値がつかない初心者救援装備だ。

 渡せるものは低級おつかいクエストでもらえる程度の金銭しかなかった。だが、ついているという言葉を聞かれているため、正直に言っても信じてくれはしないだろう。

 

 つまりは逃げるしかなかった。

 立ち向かったところで敵いはしないし、ましてやデスペナでレベルダウンしてせっかく覚えた魔法を失うなどしたくはなかった。

 

 三十六計逃げるにしかず。

 ジルクニフは覚えたばかりの<早足>を使うと、ログアウトのできる安全地帯を目指して走りだす。

 

「てめえ逃げんな」

 

 すぐに後ろを追いかけてくる二人を尻目に走っていく。

 人間種に移動ペナルティがかかる足場の悪い苔の生えた岩場や荒れた茂みの中を抜けていくが、レベル差のせいで振り払えないでいた。

 

 後ろから迫る光に気が付き、慌て横に跳べば、先ほどまでいた場所を<火の玉>が通り過ぎる。間一髪だった。

 姿勢を立て直しながら振り返れば、ずいぶんと近くにまで近付かれてしまっていることに気が付く。

 むしろここまで逃げ切れたほうが善戦した方だろう。五分近く逃げられたのは地形での有利さと相手が飛び道具や魔法を使わなかった上に今まで真剣ではなく遊んでいたことが大きかった。

 

 だが、スキルを使うようになってしまえば、もう遊びはおしまいだ。

 

「アイテムなんて持っていないと言っても、貴殿らは信じないのだろうな」

 

 懐には塵芥程度しかないのだと、両手を開けてしめしてみるが剣呑な雰囲気は当たり前だが和らぐことはなかった。

 

 残念だと表すアイコンを浮かべれば、相手からは笑顔のアイコンが返される。

 

「悪あがきをさせていただくぞ」

 

 移動速度を上げるためにストレージに納めていたひのきのぼうを取り出し構える。

 チャキッと武器を構えた時になる効果音を耳に、どうして持ち手に巻いた布と木しかないのに鍔鳴りがするのだろうと、そんな場合ではないのに常々思っていた疑問が湧いてきた。

 

 相手が構えるごてごてとした飾りの付いたら高そうな武器は、触れたことも見たこともない伝説級だろうか遺物級だろうか。初心者にちょうどいいフィールドにいるくらいだから廃人レベルほど高くはないのだろうが、それでも己では手も足もでないほどのレベル差だろう。

 それでも諦めて回線を切って逃げることをしないのは、絶望的な、それこそ姿をみただけで死を覚悟するほどの格の違いを感じなかったからだ。

 

(もっとも、そんな相手がいたところで逃げるような無様なことはしないがな)

 

 ゲームのホログラムには反映されていないが、ジルクニフの口元には自然と笑みが浮かんでいた。

 負けて失うものは、わずかな金と魔法。それに己のプライドぐらいだ。

 なんて安い負け戦だ。

 命も国も喪わないで済むなんて。

 

「死ねよ、厨ニ初心者」

 

「いいや、死ぬのはそちらだ」

 

 声と共に落ちてきた稲光がPK二人の体と、彼らと向き合っていたジルクニフの視界を焼く。強すぎる光に、保護機能が働きモニターの明暗値が一気に落ちる。

 暗くなった画面が徐々に戻れば、目の前には先ほどまで対応していた相手の死体が転がっていた。本物の死体とはまるで違うが、体の端からポリゴンとなり崩れていく様は、独特の薄気味悪さがあった。

 

 電脳世界に溶けていくポリゴンを眺めていると、道の向こうからフレンドリーに手を振りながら近づいてくる一団があった。

 

「初心者狩りをしていて逆に狩られるなんてNDK?NDK?」

「開幕ぶっぱ、やっぱさいつよ~www」

 

 軽口を叩きながら、悠々とした足運びで現れたのは三人の異形種プレイヤーたちだった。なんかてかてかしていた。

 

 そのうちの二人が死んだPKのアイテムを拾いにいき、ライトニングを放ったのであろう、みるからに魔法詠唱者といった格好の者はこちらに近づいてきた。

 宝石や金で彩られたローブを、この程度なぞ惜しくはないとばかりに地にぞろりと引きずり、悪魔のものだと言われても納得できる禍禍しい頭蓋骨が据え付けられた杖を持つ姿は、

 

「異形種狩りに遭われているようなので、お節介かもしれませんが手を出させていただきました。大丈夫ですか?」

 

 親切そうな声で差し出される手は、

 

 白い骨、

 死、そのもの、

 

 死を支配するものだった。

 

「ア、アインズ・ウール・ゴウン……っ」

 

 まるで圧し殺される家畜の悲鳴ような、ひきつった声でそれだけ呟くと、オーバーロードは肯定してゆるやかに肉も骨もない頭で頷いた。

 

 

 

 そこがジルクニフの限界だった。

 

 力任せにヘッドギアを剥ぎ取ると、叩きつけるようにボタンを押して電源を切った。

 

 

 

***

 

 

 

 ネコ科のビーストマンの姿が断線ログアウトを示すモノクロになり、その足元に所持アイテムのひのきのぼうと金が転がる。

 

「えっ?」

 

「うわ~、回線ブッチするなんて、俺らの悪名広がり過ぎ?」

「助けてもらったけど、DQNギルドとは関わりたくないんですね。わかりますwww」

 

 モモンガは行き場のなくなった手を見つめると、ただひたすら混乱した声を漏らすのであった。

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

 

 

 

 そんな悲しい思いはしたが、その初心者との関係はそれで終わりだとモモンガは思っていた。

 

 だが、不思議なことにあれだけ初対面の時には怯えて逃げたのが嘘のように、次に偶然会った時には友好的に挨拶をしてきたのだった。

 

 そうしているうちに、ぷにっと萌えさんと一緒にキノコ狩りをしに行ってたり、ホワイトブリムさんと廃城系ダンジョンにメイドモンスターを探しに行ったり、たっち・みーさんに人生相談をしていたり、女性メンバーと円満ハーレムの作り方を議論していたりと気が付けばジルクニフはすっかりとアインズ・ウール・ゴウンのメンバーと打ち解けていた。

 ……ただ一人、モモンガを除いて。

 

「なんだか距離を感じるんですよね。フツーに挨拶とか世間話とかはしてくれるんですけど」

「初めの苦手意識が残っているんですかねー」

 

 のほほんとした口調のブループラネットですら、彼の住むニライカナイの写真を見たり、庭木の育て方の相談にのったりする関係だ。

 

「でも、気にはなっているみたいですよ。結構、モモンガさんのことを聞かれますし」

「俺もこの前、弱点を聞かれた―! ちゃんと、熟女に弱いって答えといたぜ♪」

 

 床で正座をしていた るし★ふぁー が会話に加わってきた。

 そういえば、たびたびジルクニフから視線を感じることがあった。何か言いたいことがあるのかと水を向けても、二三語、交わして話が終わってしまうので、気のせいだと思っていた。だけど、もしかしたら気のせいではなかったのか?

 ずっと避けられていると思っていたが、もしかしたら出会い頭で逃げた気まずさが残っているだけかもしれない。距離を感じるからといって、本心をしらずにこちらからも距離を作ってしまい、そんなすれ違いで親しくなれたかもしれない人を失うのは……惜しかった。

 

 モモンガは一つ頷くと椅子から立ち上がった。

 

「彼と話してみることにします」

「それがいいと思いますよ」

 

 手を振って見送ってくれるブループラネットに、決意のアイコン((`・ω・´))を返すと転送の準備をする。

 

「ギルドの勧誘もしなくてはいけませんしね」

 

 勝手に年上好きにしてくれた るし★ふぁー に正座の延長を言い渡すと、モモンガは三十五人目の新しい仲間を迎えにいくのだった。

 

 

▼ジルクニフ が 仲間になった!

 

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