SKO41に入った鮮血帝だけど、なにか質問ある?   作:ごはんはまだですか?

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第9話 クリスマスは仕事です(憤怒)

 デスペナを気にしなくて済むし殺伐とした空気がないしで、もともと演習自体は人気なのだが、予約が半年待ちどころか、キャンセル待ちすら半年待たされるほどの超絶人気団体用演習がある。

 戦闘フィールドはただの市街地でしかないのだが、ほかの演習との大きな違いは拠点守備NPCを使えるという点だった。

 城以上の拠点を占拠した特典でNPCを制作したはいいが、見せびらかす機会は友人を招くかネット上で語るか敵プレイヤーが攻めてきた時ぐらいしかなく、しかも最後のものであれば消滅させられる危険性が多分にあるとなっては喜べはしない。

ゆえに、安心して自慢のNPCを連れて歩け、共に戦場を駆け巡れる、この集団演習が人気なのだ。

 

 自慢したいのは非公式ラスボスと称されることもあるDQNギルド『アインズ・ウール・ゴウン』であっても同じことで、暇さえあれば演習の申込をしつづけ、こうして今日ようやくその日を迎えることができたのだ。

 

 ランダムで選ばれたミズガルドの市街地に降り立つAOGのメンバーを落ちかけた夕陽が照らしだす。ロストする恐れがないため、伝説級や神器級の完全武装を身に纏う面々は最高峰ギルドの名に相応しい姿だった。

 その後ろにはNPCが、あいにくと用事があり来られなかったメンバーの空いた席を埋めるように並んでいる。レベル1でしかないメイドや男性従業員たちまでいるのは、製作者たちが自分の子を自慢したいからだ。

 

 

 

 太陽をも射落とす翼王が爆裂型の曲射で遠距離から場を乱し、錬金術師と死者の大魔法使いが自らの魔法を織り交ぜながらアルベドら防御特化のNPCを指示し近付く者を足止めし、コキュートスやセバス等の近接攻撃型NPCを引き連れた侍と騎士が次々と敵を屠っていく。

 いつもと違うフォーメーションやNPCに行動指示を出すためにぎこちなさはあるが、演習という気易さと、自らが作り上げたキャラクターを動かせる嬉しさで、致命的なミスは今のところみられない。むしろ自分の子かわいさで暴走しないかが心配だった。

 現にペロロンチーノなぞは、当たるのかどうかさえ考えずに従わせているシャルティアに次々と攻撃魔法を放たせている。もっともメイド様を傷つけるものは許さないと、一般メイドどころかプレアデス達も後ろに下げるホワイトプリム諸々よりがは戦いに貢献しているほうだが。

 

 今日ばかりは召喚モンスターではなく、アウラと彼女の使役する魔獣を引き連れたジルクニフはちらりと左手の時計に目をやる。開始から1時間ちかく経とうとしているが、決着はまだまだ尽きそうにない。

 レンガつくりやクラックフレームの中世ヨーロッパ風の建物が連なるフィールドは古き良きRPGのことを思い出させる。味方の本拠地近くにある広場に陣取ったジルクニフは遠くの丘を一瞥した。

 敵方の陣地にはためくのは大きく翼を広げた鶴の旗。アインズ・ウール・ゴウンと同じく上位ランク常連のギルド:千年王国の紋章だ。揃いの装備に身を包み統一感あるものたちの数が事前情報よりも多いのは、彼らもこちらと同じようにNPCを引連れているからだろう。

 

 予定よりも長引く戦闘に焦って漏らした舌打ちは、前線から下がってきた たっち・みー のメール通知音でかき消された。

 悩みを多分に含んだためらいでもって、点滅するコンソールから戦場に目を上げるワールドチャンピオンの姿に、ジルクニフはアウラを通して魔獣たちに防御陣形を築かせ“いのちをだいじに”と命令を出しておく。

 

「回復する暇くらいは稼いでやる。その片手間にでも些事を片しておけ」

「私事で迷惑をかけてすみません、ジルクニフさん」

「気にするな」

 

 アイテムによる体力の回復量をUPさせる支援系の魔法を たっち・みー にかけながら、ライオンのビーストマンはまた時計に目を落とす。

 予定よりも大幅に遅れているのは、両陣営とも遊びながら戦っているからだ。本来であればランク上位陣同士の総力戦ともなれば、天をも地をも魔法が飛び交い、山のように風のように戦士たちが苛烈に攻めたて、知恵者の針の穴を通すような緻密でよく練られた策が戦場の黒を一瞬で白に裏返させる。そんな風に戦況が刻一刻と変わり、目を離せない争いになるはずなのに、NPCを自慢したいがばかりに――とはいっても本当の切り札は隠したまま――魔法やスキルを無駄打ちしては演習を長引かせているのだ。

 

 右翼に当たる戦線では、全身鎧ではなく白いドレスを着たアルベドがスカートをひるがえしながら身丈に迫る大きな両手斧を振りまわしている。

 左翼では、ただでさえ地上ゆえに動きのにぶったガルガンチュアが建物に狭まれ街路にひっかかって動けなくなっている。

 他のメンバーも大なり小なり遊びながら戦っている。それもそうだ。これは演習(あそび)なのだから。

 

 とはいっても、今日は用事があるのだと誘いを断ったのに、2時間程度ですからと頼みこまれて、渋々参加したジルクニフにしてみれば暢気に楽しめる心の余裕はなかった。

 彼女(ロクシー)が来る時間まではまだあるし、迎える支度は済んでいるとはしても、急いた気持ちをなだめることは難しかった。

 なにせ今日は年に一度の聖夜。恋人たちのクリスマスイブ。

 AOGの数少ない3人の女性陣が“用事”があっておらず、100人近くのむさ苦しい男性プレイヤーに――ネカマと女性型NPCならばいるが――囲まれて過ごす暇なぞないのだ。

 

 

 

 とはいっても、戦士職でも魔法職でも、はたまた天下の奇才たる軍略家でもない身では、戦うこと自体を楽しみ熱中している群衆を相手に一人で立ち向かい幕を引くことなんて出来ずにいた。せいぜいが空気を読みながらじりじりと戦線を上げていき、少しでも早く終わるようにと焼け石に水をかけるような努力をするしかなかった。

 

 バフの効果時間が切れそうになったのか、アウラが鞭を振るうと支配下にある幻獣たちにステータスアップのアイコンが灯った。白いチョッキを身にまとう少女のぴしんと伸びた背筋が、創造主たちとともに戦える喜びと誇りに満ちているように思えるのは、かつての生きて動く彼女を知っているからか。

 弓を背負ったアウラは全姿全霊でもって周辺を守ってくれているのだが、敵が攻めてきていない状況では、これも遊びでしかなかった。先ほど散々に辟易した時間の浪費を自らがさせていることに可笑しさがあった。

 

「なにか戦況に変化はありましたか?」

「変らずだ」

「……長引きそうですね」

 

 東西に道が伸びるひらけた広場にあって、ため息が同時に二つ吐き出される。

 思わぬ偶然に、フルヘルムに隠された目と、獣の紫色の目線が交わる。そして、少しの間をおいて気恥ずかしさを誤魔化す日本人的な笑い声がどちらともなく上がった。

 

「落ちるついでに嫌がらせをしようとおもっているのだが、のるか?」

「いいですよ。是非とも手を貸してほしいといわれて来ましたが、この戦況では私の力は必要なさそうですし」

 

 メールに落とす目線、いくどとなく時計に逸らされる意識で、互いに早く現実に帰りたがっていることを知ったことで、仲間意識が芽生え、赤信号二人で渡れば怖くないとばかりに、普段では進んでやらない他人への嫌がらせをやってみようと思ったのだ。

 

 

 

 街の中心。

 ひらけた広場には屋台や街路樹が並び、平穏な賑やかさを作っている。その中を武器を持ったものたちが駆け巡り、剣戟の火花を散らせていた。

 ぷにっと萌えの元に<伝言>が届いたのは、プレイアデスと千年王国の騎士NPCを戦わせていた時のことだった。

 

『そちらの戦況はどうなっておる?』

 

 〆切がギリギリでこられず血涙を流し悔しがるホワイトブリムのために、メイドたちの雄姿を撮影していたヘロヘロに身振りで場を任せると、ぷにっと萌えはジルクニフとの<伝言>に耳を傾ける。

 

「よくも悪くもありませんよー。どうぞ」

『もし我とたっちが抜けるが、敵味方無差別に混乱か恐慌にしたとしたら、勝てるか?』

 

 何か策があるのかと思惑を読み取ろうとしながら、ぷにっと萌えは現在の状況を改めて顧みる。

 先ほどはよくも悪くもないと言ったが、実際にはじり貧状態に陥っていた。アイテムもMPも残り少なく、戯れているうちならともかく本気でぶち当ることとなれば、メンバーがてんでバラバラに散り、策を張り巡らせてもいない今のままでは、地力の差で押し切られ負けるだろう。

 

 ストレージからマップを取り出す。

 祭気分で参加し、勝敗なんてどうでもいい戦いなのに、いつもの癖で敵味方の動きをメモしていたマップに、更にペンで矢印や線を書き足しながら、ぐるぐると思考を巡らせる。

 

「うーん、……ちょっと整えてからタイミングを合わせてもらえれば、たぶん、勝てるかなぁ。ペロロンかチグリスがいたら、速攻で決着つけれたんだけど」

 

 遠距離特化のペロロンチーノはシャルティアと上空をのんきに飛んでいたところ、案の定、敵の対空攻撃を浴びてすでに落ちている。侵入にかけてギルド内で右に出る者はいないといわれるチグリス・ユーフラテスも前に出過ぎて、同じく退場済みだ。

 フォローを入れさせてもらうならば、二人とも無鉄砲な面はあるが普段はもう少し辺りをみれるのだが、デスペナのない演習という気軽さ、1から作り上げた自慢のNPCの晴れ舞台、クリスマスに暇だというやるせなさ、リアルを充実させている仲間への憤り、そんな諸々が入り混じり、皆大なり小なりはっちゃけているのだ。

 普段はおとなしく場の調和に腐心しているモモンガでさえも、これがペロロンの分だ! などと叫びながらアルベドから借りたバルディッシュをふるっている。とても楽しそうだと思いました。(粉みかん)

 

 ストレスが溜まっているのだろうかと、自分も含めて癖の強い問題児ばかりのギルメンを相手に苦労かけてすみませんと、心中で謝罪しながら、ぷにっと萌えは<伝言>を通してジルクニフと作戦をつめていく。

 

「で、結局、なにをするんですかー?」

『ただの自慢話だ』

 

 

 

 アウラのスキル<山彦>で拡張された声が、うわんとフィールド全体に隅々まで満ちる。

 <山彦>は野伏が覚える、音声を大きくするスキルだ。恐れ状態にして相手の動きを硬直させる<咆哮>や、支配下の魔獣や召喚獣に一斉に命令を出す<号令>などの声に関係する魔法やスキルの能力の効果を上げるために使われることが多い。

 だが、今回<山彦>で響き渡ったのは、なんの効果も付属されていない、ただの肉声だった。だが、ソレはロンギヌスの槍よりも確実に強く、えぐるような深さで、聞く者を仕留めた。

 

『わるいが、彼女との約束の時間になるから落ちるぞ』

『すみません、妻が呼びに来たので落ちます』

 

 空から降ってくるふたつの声に耳あるすべてのものが止まる。

 剣を切り結んだ状態で、魔法を重ねかけしようとする途中で、後ろにNPCを引連れて歩きだそうと一歩進んだ形で、時が止まったかのように全てのプレイヤーが固まった。

 情報を受け止めきれずにフリーズしているのは下策でしかなかった。彼らがすべきだったのはソレを言った敵を消し去ってしまうべきだった。もしくは、それ以上なにも聞かずにすむように耳をふさぐべきだった。

 

 

 思考が止まるのと同じく身体の動きまで止めてしまった彼らに、声が降り注ぐ。

 

『お前たちもゲームにばっか夢中になってないで、たまには彼女を構ってやらないとすねるぞ』

 

 ソレは横殴りの雨よりも痛いまでに強く、彼らの心を打ちつけて冷たく濡らした。

 

『家族サービスって面倒ですし疲れますけど、終わってみればよかったなぁって充実感がありますよね』

 

 ソレは天を焦がす雷よりも早く、彼らのやわらかいところへ棘のように突き刺さった。

 

『今年は、左手の薬指にプレゼントを贈るつもりだ』

『妹がほしいと娘にねだられたので、ちょっとがんばってきます』

 

 ソレはどんな嵐よりも激しく、彼らの奥底に積み隠してきた澱をかき乱した。

 

 

 

『明日は休みだが、たぶんログインはしないと思う。メリークリスマス』

『みなさんも、いいクリスマスの夜を。では失礼します』

 

 

 

 沈黙があった。

 

 言われた言葉をかみしめる間があった。

 何度も何度も、噛み締めるように噛み砕くように脳内を、明るい口調で言われた言葉が繰り返し巡っていく。

 思い出すたびに怒りが湧き、思い返すたびに哀しみが募る。

 

 針でつつけば破裂してしまいそうなほどに膨らんだ緊張の中、場違いな明るい電子音が鳴り響く。

 

【嫉妬する者たちのマスク を 手に入れた▼】ピロリン

 

 

 

 その日、演習場の片隅でケモノたちが魂の叫びをあげた。

 




正月も仕事です(今年もよろしくおねがいします)
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