SKO41に入った鮮血帝だけど、なにか質問ある? 作:ごはんはまだですか?
まるで音まで凍りついたようだ。
身を切り裂く冷気の刃のような風と、左右どころか上下もわからなくなる激しい吹雪が行く手を阻まんと吹き荒れる極寒の地として知られる<氷河>だが、侵入者のない平穏時には同じ場所だと信じられないほど静かな地である。
気まぐれに粉雪を落とす分厚い雪雲は暗く黒く、目の前に落ちた雪につられて空を見上げても、闇の中にに紛れてしまい、降っているのかいないのかわからない。
黒い空の下には底まで凍てついた青白い大地が、果てなどないようにどこまでも続いている。こんなにも寒い場所なのに、吐いた息が蒸気とにごらないのは、空気中の水分がすべて凍りつき乾燥しているからだ。あたりが雪と氷で覆われた場所が乾燥しているというのも、聞いてもすぐには信じられない話だ。
冷たいだけではない冷えを感じさせる薄暗い<氷河>の転移門近くに、ぽつんと影を落とす姿があった。
それはモモンガとジルクニフ、それにコキュートスの3人だった。
彼らがこんなところでしゃがみ込んで何をしているのかというと、アイスを作っていた。
「本当にこれでアイスになるのか」
「そうテレビでやってみましたし」
銀色のボウルを押さえているジルクニフが疑う声で問えば、ヘラで中身をかき混ぜているオーバーロードは自信ありげに答えた。コキュートスはいつものように変わらない表情でそれを眺めている。
コタツでアイスを食べたいと会話の最中に出た時に、モモンガは前に観た教育番組の理科の実験を思い出し、こうして彼を誘って5階層に作りにきたのだった。食堂から持ってきた塩を雪の上に撒き凝固点降下により接点融解を起こして温度を下げ、ボウルの中にいれた液体を凍らせているのだ。
モモンガが教育番組にはまったのは、かき混ざるのを真剣な目つきで見ているジルクニフの勘違いが原因だった。
「高卒だと思っていたが違うのか。話も普通にあうし、疑ったことすらなかったな。そうか……違うのか」
なにかのきっかけで最終学歴が小学校だと告げたさいに、そう驚かれた。
誰かとの記憶と紛れてしまったのだろうが、高校を卒業できていたと思われ、更にはその資格を疑うことすらなかったと聞かされてモモンガは嬉しくなった。
まさか|前世<WEB版>の自分と間違われたと思いつきもせず、その話はそれで終わったのだが、モモンガの中では終わらなかった。おだてられれば豚でさえも木に登る。人ならばさらにだ。小卒が高卒と間違われたのだ。鈴木悟はこれも知識を湯水の如く与えてくれたクランから始まるメンバーのお陰だと感謝した。そして、更に知識を手に入れるべく、ながら見をできる教育番組を集めだしたのだった。
会社にとって都合のよい、なにも考えない歯車にすべく貧民層の手には学べるものは届きにくくなっていたが、それでも探せばいくつか方法はあった。鈴木悟が選んだのは20世紀終盤のテレビ番組の録画をみることだった。今では行われていない教育番組という理科や国語などをわかりやすく説明するものは、画像が粗く音声も聞き取りづらかったが、飽きないようにか雑学が多くエンターテイメント性もあり面白かった。
その中の一つ、理科の番組でアイスの作り方をやっていて、一度作って食べてみたいと思っていたのだ。そして機会が訪れた。
シャカシャカとヘラが動くたびに、徐々に凍り始めた液体が金属のボールにこすれて水っぽい音を立てる。
わざわざ氷に塩をかけて温度を下げなくても、常に気温が氷下点を指す<氷河>ならば何もしなくてもアイスになるとは知らないモモンガは一心不乱にアイスを作ることに集中していた。
「段々アイスになってきましたね」
「あとどれくらいで終わる? 指が冷たくて辛くなってきたぞ」
「あとはコキュートスと作りますし、先に戻っててもらってもいいですよ」
「風邪ヲ ヒイテ ハ 大変デス。スグ ニ 温カイ所へ 戻ラレタ方ガ……」
心配そうに四本の手をわたわたと動かすコキュートスと、同じ様に心配そうに眦を下げるモモンガに、ジルクニフは口角を上げるとにっこりと笑った。
「そう言ってカキ氷を任せた結果、どうなったかを忘れるほど愚かではないぞ」
咎めるようにみつめる紫色の眼差しに、死の支配者と蟲の王はそろって身を小さくした。みんなで食べられるようにと頑張ったのだが、さすがに2・5mのコキュートスよりも大きなカキ氷の山は削り過ぎたかもしれない。
細やかな装飾の入った漆黒のローブをまとう死の体現と、氷山を背負い氷柱を生やす凍河の支配者がしょんぼりとするのを眺めながら、鬣のような金色の髪をした“人間”の青年はまだ笑っていた。まるで楽しくてしかたがないといった様子で。
次回更新 3月2日(木)