SKO41に入った鮮血帝だけど、なにか質問ある? 作:ごはんはまだですか?
元ネタがわかるひとは、ハヤカワ文庫でボクと握手!
現世界ではSF心を、異世界ではファンタジー心を満たしてくれるオーバーロードは最高だぜ
異形種を選ぶのには浅かれ深かれ理由がある。
スキル構成を考えてや、好みのゲームスタイルを行うためなど、純粋にゲームを楽しむために選んだもの。
好きな映画に出てくるモンスターを目指したもの、抜きゲのおなじみモンスターがヒロインの声をしていれば一挙両得ではないかと笑い半分に選んだもの、でっかい昆虫はロマンだと語ったもの。
何ものにも指図されない絶対的な強者になりたかったもの。自分がされたように一番大切なものを無慈悲に奪えるもの。
はっきりと理由を言えるものもいるし、選んだ理由が自分自身さえわからないものもいる。だが、わからなかったり、意味なんてなかったりしても、気が付いていないだけで、そこには望みや悩み、心の奥底に隠れた理由があるのだ。
幼少期に見た変わった看板が忘れられない。空を自由に飛びたい。好きだった人の飼っていたペット。本当の自分と正反対なものになりたい。
それらの話を聞くことは、心理学者ではない私であっても非常に面白く興味深いことだった。
「チグリス・ユーフラテスさんが異形種を選んだ理由を知りたがるのには、そんな訳があったんですか」
「私は好きな小説からなんて単純な理由ですから、余計に複雑な理由がある人が気になるのかもしれません」
「ふふ、それを言ったら暑い日だったから服どころか肉すら脱ぎ捨てたいと、骨を選んだ私の方が単純ですよ(^^)」
存在感のある闇としか言いようのない得体のしれないナニかが笑うように浮かぶ光の粒を点滅すれば、向かいに座るスケルトンも笑顔のアイコンを浮かべる。
チグリス・ユーフラテスいわく、この姿は夜に飛び交う蛍を表現しているのだと主張しているのだが、向こうが見えない黒い
そんな姿からも、平坦で朴訥な彼の穏やかな喋り方からも、戦闘になると脳筋族に混じってヒャッハーしながら鉄砲玉のように飛び出していく様は想像できない。忍びなのに忍ばないとはコレいかに?
「ギルメンのほとんどには聞きましたね。面白いあたりでは、安価で決めただとか、神の啓示があっただとか」
「なにそれこわい。面白いで片付けて大丈夫なんですか」
「さあ、よくは知りませんが、いあいあ とか くつるふたぐん とか言ってましたよ」
「特定した」
一瞬、危ない妙な宗教にはまっている人間がいるのかと思ったが、どうやらただの怪奇趣味だったようだ。よかったよかった。アレも怪しい妙な宗教には違いないが、少なくとも危険ではないだろう。多分。窓に映る影も
―ブゥン
安堵に胸をなでおろしていると、話の区切りを待っていたかのようなタイミングで、二人の居る円卓の間に新たなメンバーがログインしてきた。
最近、ようやく中級種族になれたジルクニフだった。
ケット・シーに似た愛らしい姿は昔の話、今はすらっとしたヒョウのようなビーストマンだ。肉食獣らしく正面を向いた目に、広めの丸い耳が若い印象を出していた。艶やかな短い毛が覆う細い肉体には太い手足が揃い、成長すれば大きくなりそうな予感を携えている。
「ア、モモンガさんにチグリス・ユーフラテスさん。こんにちは」
「こん^^」
「こん^^」
開口一番、どもったジルクニフに、からかいの意味を込めて挨拶の定型文を二人して投げつける。
現在時間は夜の九時を回ったところだが、このギルドでの挨拶は常に“こんにちは”だ。社会人ギルドなので夜の八時から十一時くらいまでがログイン率が高いのだが、同じ社会人といっても就業時間はバラバラで、九時でも仕事終りの者もいれば、あとちょっとだけやってから出勤するという者もいる。だから、常に挨拶は“こんにちは”になった。
……というのは新参者に説明している表向きの理由だ。初期クラン時には社会人らしくお疲れ様が挨拶だったが、某社畜メンバーが「常にお疲れだよ畜生!」とキレて暴れる事件があり、それ以降、挨拶の文句を変更したという壮絶な経緯があった。
「今、メイン種族を選んだ理由で盛り上がっていたんですよ」
そんな過去を思い出しながらも、モモンガは表面上はにこやかな声で話しかける。
「ちなみに私は好きな小説のラストシーンからです」
「……モモンガさんは、生きとし生けるものに死という平等を与えるためですか」
「私はどこの魔王ですか(笑)」
「アインズ・ウール・ゴウンの外ではそんな噂が流れているのですかねー」
ユグドラシル非公式のラスボスと呼ばれるのは伊達ではなく、悪の組織としてやりたい放題しているDQNギルドのことは、掲示板やアフィを少し探せば眉唾な与太話がいくらでもみつかる。
彼らの名誉を守るためにぼかして一例をあげれば、某ワールド・ディザスターの中の人は悪魔の魂が封印された人間だとか、某ゴーレムクラスターは木星人だとか、某アーチャーが販売日の三日前からエロゲショップに並んでいただとか。
それに比べれば、死を振り撒く魔導王だの十八万の兵をゲーム感覚で殺しただの、自分の噂話はまだマシなほうで、むしろ死霊使いらしくロールプレイにぴったりでどこかに書き残しておきたいぐらいだ。もっともそんな五年後に夜中に部屋で転がるようなマネはしないがな。
「まだ聞いていませんでしたが、ジルクニフさんはどんな理由で種族を決めたんですか?」
「ライオンが好きだからだ」「でもキリンさんはも~っと好きです」
いつの間にか物陰に潜んでいた るし☆ふぁー はそれだけ言うと、すぐに転送して消えていった。
「なんだったんだ今のは」
「かなり昔、古典のCMネタだったと思いますが……、アレのすることにいちいち意味を探していたらやってられないですよ」
思わず口に出た呟きに、モモンガが返答をする。後半の言葉は妙に実感がこもった響きがあった。
「それでジルクニフさんの選んだ理由でしたね」
「ライオンって、エジプト神話の怪物でしたっけ?」
イラストやCGでしかライオンをみたことのないこの世界の住人の認知度はこんなものかと、ジルニクフは鼻白む。もっとも、そう言うジルクニフも実物のライオンは現世ではみたことがないし、前世では火を吹いたり石化の魔眼を持っていたりとまっとうなライオンはいなかったのだが。
「確か数百年前に全滅した、ネコ科の大型肉食獣ですよ」
「へー、恐竜と戦ったりしてたんですか。すごいですね」
現実味を持たず、まるでおとぎ話をするように、骸骨と闇が本当のことを知っているものからみれば失笑ものの会話をしている。そう、小卒が大半を占めるこの世界の住人の認知度はこんなものだ。
ここは大人らしく簡単にさらっと説明をして、あとはまた違う話に移ればいい。わかっている。そうすべきだと理解している。
だけど、鮮血の二つ名を持つ前世とは違い、現世ではイージーモードで生きてきたジルクニフは、好きなものをぞんざいに扱われて無視できるほど大人ではなかった。
「百獣の王であるライオンは、オスに鬣のある種が有名で社交性を持ちネコ科では唯一といっていい群れで狩りをする動物で、他にも獅子とかレオとか―――」
つまりタブラ顔負けのオタクトークをはじめ、開始十分でモモンガとチグリス・ユーフラテスの両名を宇宙の神秘に心飛ばすほどの悟りへとたどり着かせた。
それから一時間ほどして、先ほど去っていった るし☆ふぁー が戻ってきても気が付かないほど熱中して延々と話し続けるその顔は、好きなロボットを語る子供のようにきらめいていた。
「タテガミのふさふさは――、ふさふさの――、種によってはメスにもふさふさが――」
後日、ジルクニフの中の人はハゲだという噂がギルド内を駆け巡り、おのれアインズ・ウール・ゴウン!と叫ぶ姿があったそうな。