SKO41に入った鮮血帝だけど、なにか質問ある?   作:ごはんはまだですか?

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至高の御方々が7階層の守護者を(褒め)殺す話
10巻のラストを読んだ後、デミウルゴスを褒め回したい衝動に駆られた。ムツゴ○ウさんのように全力で褒め倒したい!ついでに照れさせたい


1022話 守護者殺し

 ぬちゃりと柔らかく潰れたモノが奥歯にまとわりつく。

 背筋を震えさせる気持ち悪い食感と吐き気を催すエグみのある甘さに、無理矢理にでも飲みこんで口の中から消し去りたいのに、喉は鳴るだけで思い通りにならず、こびりついた黒い油汚れのように頬に溜まる生ぬるい肉はいつまでも口の中から消えない。空吐きで喉から上がったガスの酸味が鼻をピリピリと刺激し、噛めば噛むほど怖気の走る味が濁った汚染水の如く染みだして舌を侵食していく。

 吐き捨てたい。そう思っても、隣テーブルの客が黙々と食べる様や忙しなく働いている店員をみれば、粗末にすることを阻まれて、眦に涙を滲ませて大人しく咀嚼するしかなかった。背中を丸め俯く目線の先にある皿の上には、まだ料理は残っていた。見た目と香りだけは美味しそうなのがまた恨めしい。

 

「合成肉ってグリスの味がしないですか」

「わかります。甘ったるい機械油ですよね」

「俺は石鹸で洗った油粘土を押す」

 

 日本からナザリックへと“帰って”きたスーツ姿の鈴木悟は、大切に持っていた竜の秘宝を円卓の間の片隅に拵えられた所定の場所に置いた。そして見なれた異形に変化する仲間と会話を交わしながら、同じく人化の指輪を外すとオーバーロードへと戻る。漂泊し磨いたような骨の上に金と紫で縁取られた漆黒のアカデミックガウンを羽織えば、人間であった期間の方が長いはずなのに、保護スーツを脱いだ時のように身も心も軽くなり人心地つく。

 

「うぷ、口直しにさっぱりしたものが食べたい。毒無効スキル仕事しろ」

「教授とか、よくあの食生活で長生きしたよな。アーコロジーだともっとマシなもん食えんのか?」

「少なくとも私の住んでいた所はナザリックの足もとにも及ばんぞ」

「やまいこさんも、月曜日になると保存食を持てるだけ持って出勤してきますしね」

 

 まずいまずいと文句を言いながらも、合成食糧を食べるためだけに何人かで集まっては月一で世界を渡るのだから不思議だ。それがどんなものであれ故郷の味というのは特別なのだろうか。

 ジルクニフを除いたゲテモノ食いの会のメンバーたちが人から異形にすっかりと変わったタイミングで、コンコンと規則正しいリズムで部屋の扉をノックされた。

 

「ウルベルト様はお帰りでしょうか?」

「おお、入れ」

 

 特殊能力の効果でよく通る耳あたりのよい声をかけてきたのはデミウルゴスだった。入室の許可をとり入ってきた彼の腕には分厚い書類が抱えられている。

 

「現在、進めている養豚場の件で、報告に参りました」

「羊じゃなくて、豚?」

 

 確かこの主従は聖王国の方で牧場を運営しており、たくさんの羊型混合魔獣(キマイラ)を飼っていたはずだ。そんな疑問が思わずモモンガの口から出た。牧場で悪さをしたとかでたっち・みーに二人して正座させられていたのは記憶に新しい。なにをしたのかまでは聞いていないが、動物虐待ならばよくないと思う。

 

「はい。“豚”で、ございます」

 

 豚のことを思い浮かたのか、本当にうれしそうな満面の笑みで質問に答えたデミウルゴスに、冷静で知恵者の守護者の動物好きという意外な一面をみて、モモンガの顔にも笑みがほころんだ。

 彼から報告書を受け取ったウルベルトがペラペラとめくり、それを横からジルクニフが覗きこむ。

 

「王国に管理されていない豚が多過ぎて困っているから、飼育実績のある二人に私が頼んだ」

「ジルクニフさんが?」

「豚は少しならば問題はないのだが、頭数が多いと土地を枯らしてしまい後々まで影響が出てるのだ。減らすだけなら私の得意とするところだが、利用できるなら骨の髄まで利用してみようと思ってな」

 

 皮は品質がよくないが、労働力か肉としてなら役に立つだろうと、ぺろりと唇をなめるジルクニフのしぐさに、人間の姿だというのに肉に飢えたライオンが透けてみえた。

 わざわざ読む気にはならない分厚い書類を、真剣な目でウルベルトとジルクニフの二人が目を通しながら意見を交わす様を、眺めるのにも飽きて手持無沙汰に隣のデミウルゴスに話しかける。

 

「それにしても、わざわざウルベルトさんの帰ってくるのを待っていたのか? 書類ぐらいなら置いておけばよかったのに」

「そうだな、こんなに厚いのを持ち待っていて重かっただろ?」

 

 バサバサと書類を振り鳴らすウルベルトも言葉をはさんできた。『紙を手にした山羊』という単語に、今すぐ書類を取り上げるべきかと謎の危機感を覚えたが、それは心の奥底にしまい込むとモモンガはナザリック随一の働き者に心配な眼差しを向ける。賢いとした設定のおかげで調停や交渉も準備や運営もなにを任せてもそつなくこなすため、ギルメンにNPCに引っ張りだこでいつも忙しそうに働いているのを見かける。嬉しそうな顔で24時間駆けまわっているデミウルゴスの姿はあの(・・)ヘロヘロをもってして社畜だと慄かせたほどだった。

 そんな彼の負担を少しでも減らそうとするのは、ごくごく自然な流れだった。

 

「いえ、このぐらい大した負担ではございませんので」

「そうはいっても、仕事を抱え込みすぎて大変ではないか? 他のものに頼ってもいいし、無理ならちゃんと断れよ。なにか困ることがあったら、私でもウルベルトさんでも誰でもいいから遠慮せずにすぐに言えよ」

「ありがとうございます、モモンガ様! そこまで心を砕いていただきまして、このデミウルゴス、益々仕事に身が入る気持ちであります」

「あー……、まあ、ほどほどにな」

 

 無理はしないようにといったのに、仕事に燃える新入社員のような輝かしい笑顔で感謝をされ、モモンガは密かにフォローをする腹つもりを決めた。役者(アクター)故にか他人の感情に機微なパンドラか、見た目は胎児だが頭脳は落ち着いた大人なヴィクティム辺りにも、気にかけておいてもらうように頼んでおくか。

 

「――――それに、」

 

 迷うことや戸惑うことなんてありえないとばかりに口端には常に余裕な笑みを浮かべ、背筋をしゃんと伸ばして立つスマートな悪魔。そんな彼が口ごもりためらう様をみせた。内心の感情が隠せないのか、包む浅黒い炎はノックしているように不規則に燃え、後ろから伸びる尻尾は左足に巻きついている。

 モモンガは珍しいと思いながら、デミウルゴスが続きを話すのを静かに待つ。円卓にいた他の者たちの目耳も沈黙につられて、“炎獄の創造主”の二つ名を持つ7階層の守護者の元へと集まっていた。

 

「それに待っていたのは直接お声を賜り、褒めていただきたかったので……いえ、なんでもございません」

 

 恥ずかしいからか小声で告げられた理由に、ざわりと場が沸く。

 

 

 

 もし、これを言ったのがアウラだったらどうだろうか。

 幻覚のしっぽをぶんぶんと振りながら「褒めてほしいから待ってましたっ!」と輝かしい太陽の笑みで言われれば、抱きあげてほめちぎったことだろう。

 

 もし、これを言ったのがマーレだったらどうだろうか。

 おどおどと上目使いで「ほ、褒めてもらいたくて来ちゃいました……ご、ごめんなさい、やっぱり、なんでもないです」と陰る月のように耳を下げて言われたら、優しく頭を撫でながらいい子だと褒めてやったことだろう。

 

 愛らしい子供が言えば、文句なしに可愛いだろう。

 

 だが、かっちりした職業に就いていそうな切れ者という雰囲気の成人男性がやればどうだろう。

 シャツのボタンを一番上まで止め、裾からネクタイからアイロンが掛けられ皺の一つもなく、髪はきっちりと一本も乱れることないオールバック。靴は顔が映るほど磨かれ、尻尾を包む銀のプレートも鏡の如く。動きの一つ一つは紳士的に優雅で、常に余裕ある姿勢を崩さない。

 そんな180cm強の男が、へにょり眉を下げて困った表情で、褒めてほしいと乞うのだ。

 

「これがギャップ萌えです」

「タブラさん」

 

 いつの間にか部屋に来ていたタブラが、子どもにものを教えるかの如く、ゆっくりとした口調で言う。ギャップ萌え。その単語が、湧き出つつある気持ちにストンと嵌る。覚えたばかりの感情に名前が付いた瞬間だった。

 

 優秀な出来た男が、褒めてもらえるかと期待に胸を膨らませて廊下を歩く。

 しゃんとした優雅な指揮官が、ご機嫌に尻尾を揺らしながら仕事を励む。

 ナザリック以外の存在を虫以下と蔑み嘲笑う悪魔が、乱れていないかと気にして自らの主人に出会う前には何度も身だしなみを整える。

 

「それがギャップ萌えなのです」

 

 タブラは大切なことなので二度言った。

 

 

 

 まず動いたのは、やはりというべきかウルベルトだった。

 数歩で距離を縮めるべく大股で歩くと、自分が生みだした子供の前に立つ。そして持っていた書類の束をアイテムボックスにしまい込み、空いた両手を伸ばすとオールバックを乱すようにデミウルゴスの頭をやや乱暴に撫でた。長く鋭い爪を当てないように掌でわしゃわしゃと溢れる気持ちのままに力いっぱい撫でまわす。

 

「デミウルゴス。お前は俺の誇りだ」

 

 一人が動けば周りの人間も動きやすくなるものだ。すぐに何人もの者が彼に続いて口ぐちに褒めたたえる。「お疲れさま」「いつもありがとう」「カッコイイ!」ある者は頭を撫で、ある者は肩を叩き、ある者は持っていた飴を渡す。

 そのたびにデミウルゴスの尻尾は振られ、赤味が増す頬は喜びにほころぶ。

 

 改めてこの機会に褒めようとモモンガも彼を中心に作られた人団子の中に遅れて入っていくと、その頃には、尖った耳の先まで照れて真っ赤になっていた。

 

「デミウルゴスが頑張ってくれていると思えば、安心できるというものだ。感謝の思いにたえない」

 

 自分でも驚くような嬉しげな声で、デミウルゴスに感謝の言葉をかけながら乱れた髪をすいて整えてやる。嬉しさや喜びでいっぱいいっぱいになった悪魔はもはや言葉は発せず、テディベアを抱く幼児のように自らの尻尾を胸に抱きかかえてプルプルと震えていた。泣く寸前にもみえるが、感情を抑えきれず笑みの形で固まった口元がすべてを語っていた。

 

 ふと、後ろをみれば、がんばり屋の悪魔を褒めたたえるための列ができていた。

 <伝言>で呼び集められたのか先ほどまで円卓にはいなかった者も集まっている。そして並んでいるのはギルドメンバーだけではない。第七階層の配下たちも、ほかの階の守護者やNPCたちも、世話になっていることや助けてもらっている感謝を伝えるために並んでいた。

 

 モモンガは満面の笑みを浮かべる。

 

「たまには、いっぱい褒められろ」

 

 ナザリック随一の働き者に、もう一度感謝を伝えるためにモモンガは、褒め殺す列の最後尾に並び直した。

 

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