SKO41に入った鮮血帝だけど、なにか質問ある?   作:ごはんはまだですか?

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双子の出番が少ない気がして


1023話 本日開店!フィオーラ・フィオーレ

 窓のない地下にあって、夜になり照明が落とされると途端に声を出すのを憚られる、墳墓の名に相応しい静寂な雰囲気が辺りに満ちる。

 

 

 転移をせずに歩いているのは疲れているからだった。

 ほぼ一日中、机に向かい書類仕事をしていた身体は、疲労無効スキルがあるのにひどく疲れていた。それは魂にこびりついた人間の残滓が悲鳴をあげているからかもしれない。と、カッコイイことを言ってみるのは深夜のテンションだからか。

 ずっしりと鉛を背負っているように足も肩も重いのに、頭だけは熱を持ち、ふわふわと酩酊感が渦巻いている。

 

 左を見れば居住区に続く通路、右を見れば娯楽区に続く通路。

 分かれ道で立ち止まり首を巡らせ、落ち付き休めれる左にしばし目を留め、次に騒いで気を晴らせる右を眺め、そして最後に隣に立つジルクニフを見る。同じくこちらを見ていた紫の眼としばらく見つめあっていたが、やがてどちらともな く右へと足を進めた。それは明日が辛くなるのは十分承知で、休まなければならないとわかっていながらも、徹夜明けに寄り道しながら帰るサラリーマンの心境と同じだった。

 

 今は分厚く積もった報告書のことも、精神的に重くなる内容のことも考えずに酒を飲みたかった。

 

「自転を24時間にするために星の重量を隕石等で調整した痕跡があるってなんだよ。おそらく、その時に文明は一度滅びているとか言われても、なんて返事すりゃいいんだよ」

「自分自身に会った途端に自己認識が崩れて死ぬなんて思ってもみなかったし、復活させた後に事あるごとに責められて仕事を押し付けられるようになるとは……」

 

 ぐちぐちと二人分の愚痴が静かな廊下に響く。だけど、その音声は眠るものに配慮して潜められていて、二人の生真面目な性分がこんなところでも表われていた。

 

 ラウンジに行くか、酒場に行くか、そう贅沢に迷う目にバーから漏れる明かりが止まる。中からは楽しげな会話がかすかに聞こえてくるが、その声の持ち主たちはこんな時間にこんな場所にいるはずはないし、第一、今日はバーが開いている日ではないはずだ。

 モモンガは疑問のままに扉を開けて中へと入って行く。

 

 カラン。固い樫で出来た焦げ茶色のドアの上で、真鍮のベルが軽やかに鳴る。

 来客を知らせる音に、話し合っていた3人がこちらを振り向いた。いつもの姿ではなく人間形体のブルー・プラネットはカウンターの向こうに、子供では足がつかない高さのあるカウンターチェアに座っているのは6階層の守護者アウラとマーレだった。隠れるような場所のない狭い室内にはマスターである茸生物は見当たらない。

 

「ブルプラさん、こんな真夜中に子供たちを酒場に連れ出して……あとで怒られても知りませんよ」

「違います、モモンガ様。あたしたちが頼んだんです」

「そ、そうです。ブルー・プラネット様は悪くないです」

 

 諌める調子でモモンガが言うと、自分たちのせいで怒られてしまうと思ったのか双子が慌てて弁明を始めた。確かに『大人の世界』に憧れる気持ちはよくわかる。それに子供たちを責めるのは辛いが、それでも日付をまたぎ、すでに朝が近いような時間帯に未成年が酒場にいることはよろしくないことだ。

 

「アウラとマーレも、茶釜さんにナイショにしておいてあげるから、もう寝なさい」

「お、お姉ちゃん、今日はもう帰ろう」

「でも……」

 

 いつもならいい子の返事がすぐにあるのに、めずらしく歯切れが悪く口ごもる様子に、ちょっとぐらいならいいかなと甘やかす気持ちがわいてくる。

 そっくりの顔をあわせてうなだれる双子の幼さ故のやわらかく細い髪に、無骨な手が載せられた。指先まで太く、手のひらは厚く固く岩のようだが、撫でる手つきは彼の不器用な笑顔に似て優しかった。

 

「モモンガさん、今回だけお願いします」

「なにか事情があるんですか?」

「茶釜様においしい飲み物を作ってあげたいんです」

「い、いつもお仕事のあとは、の、喉がカラカラだって辛そうで……」

 

 だから、彼女にはこっそりと、使われていない部屋を借りてジュースを作る練習をしている。そんな健気な動機に思わずモモンガのない涙腺が緩む。うちの子、マジ天使……!

 

 モモンガはしばらく固まっていたが、ローブの裾を捌き踵を返すとドアを開ける。気を損ねてしまったのかと不安がるアウラとマーレの方を振り向かず、ナザリックの全てのトップである男は一人言を大きな声で聞こえるように呟く。

 

「そういえば、今日はBAR『fiora-fiore』の開店している日だった気がするナー。楽しみだナー。きっとおいしいジュースが飲めるんだろうナー」

 

 意味を読み取った双子たちの色違いの双眸が明るく輝くのを肩越しでちらりと確認すると、モモンガはドアの向こうへと出て行った。準備が終わり、呼びかけられるのを心待ちにしながら。

 ちなみに眠気の限界にきているジルクニフは、その隣で目を開けたまま半分寝ていた。

 

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