SKO41に入った鮮血帝だけど、なにか質問ある?   作:ごはんはまだですか?

5 / 26
ジルクニフ出ません


ハロウィン番外編

 10月31日。ここしばらくは会社に寝泊まりする激務が続き、やはり神なぞはいないと改めて思う神無月の終り。

 久しぶりとなる我が家に帰ると、夕食もそこそこにネクタイすら緩めずユグドラシルを起動する。逸る気持ちでナノデバイスを繋ぎながらパソコンに貼られたメモに目をやれば、ハロウィンの文字があった。

 

「カボチャとコスプレの日か……」

 

 仕事にせかされているうちにイベントの最終日になってしまっていた。だが常に仮装をしているような姿にあっては、わざわざ行事に乗っかる意義がわいてこない。

 また今年もイベント専用モンスター狩りでもしてこようかと、算段をつけると付箋を剥がして丸めるとゴミ箱に投げ入れる。放射線を描いて綺麗に目標に入ったことに満足感を覚えると、鈴木悟は椅子に深く座り、ゲームの世界にダイブしていった。

 

 

 

△ナザリック地下大墳墓 九階層 円卓

 

 思わずモモンガはコンソールに表示された地名を確認する。そこには確かに初期ログイン場所のエリア名が表示されている。だが、視線を上げれば神々しいまでの王城と謳われた自慢のギルド本拠地は、なくなっていた。

 

 綺羅々々しい金や銀、はたまた派手なピンクやオレンジのモールが天井から垂れさがり、重厚なシャンデリアには水晶の花が飾られて美しい七色の光をきらめかせていた。

 テーブルの上には顔の描かれたカボチャの飾りが大小いくつも転がり、椅子には一抱えもある大きなぬいぐるみが置かれている。よくみれば大分かわいらしくデフォルメされてはいるが、それぞれ本来の椅子の持ち主を模したぬいぐるみだと気が付いた。ペロロンチーノの席には黄色いひよこが、タブラ・スマラグディナの席には鉢巻をしたタコが、武人建御雷と弐式炎雷の席には虎のパンツを履いた赤鬼と青鬼が、といった具合だ。

 部屋の片隅に控えるNPCのメイドも、いつもの楚々とした格好とは違い、ひざ丈までのふりふりなピンクのメイド服にネコ耳で今にも萌え萌えきゅん(はーと)とか言いだしそうだ。

 

「しばらく間を空けているうちに何が起きたんだ?」

 

 丸文字で“はっぴー☆はろうぃん”と書かれたバルーンが漂う室内は、いくら瞬きしても元の姿に戻ることはない。モモンガが立ち上がれば、空いた席に丸みを帯びた骸骨のぬいぐるみがPOPした。

 

「この無駄に凝ったギミックは るし★ふぁー さんの仕業か。だが、ファンシーすぎるし餡ころさんっぽいかな?」

 

 出現したモモンガぬいぐるみの両頬をはさみこめば、やわらかなクッションのような弾力がもちもちと手を押し返してくる。いつまでも触っていたかったが、あと4時間もしないうちにイベントが終わるとあってはのんびりしている暇はなかった。乗り気でない行事ではあっても、スルーすることができないのは装備できないアイテムもため込んでしまう貧乏性だからだ。

 

 誰か捕まるかとフレンドリストを出せば、イベント最終日ということもありほぼ全員がログインしていた。さらにそこからギルド内用の連絡板を読みこむ。更新順に上がるツリーにはやはりハロウィンについての文字がいくつも連ねられていた。

 『ハロウィン外装買占め隊』『ゴーストの出現場所について』『レシピ:カボチャの煮付け』『ハロウィンってケルトの祭では?』『今年もくりぼっちの人の数→』…………。

 モモンガは反射的にくりぼっちスレを開きそうになったが、今日はハロウィンだと鋼の意志で抑え込むといくつかのスレッドを斜め読みしていけば、ナザリック内がハロウィン一色に染まっていく経緯がわかった。

 普段から着せ替えをして楽しんでいる女性陣を発端に、NPC愛が溢れてやまないものたちが自分たちの愛し子にもたまには違う外装を与えてみたくなり、それが徐々に室内の装飾にまで感染していったのだ。さすがに一から変えてしまうのは手間暇がかかりすぎるし、本来のナザリックを壊すことになってしまうので、今あるものに足したり入れ替えたりするだけのものにはなっているが。

 そこにいくまでの可否を問う話し合いの中には、なかなかログインしないギルド長を心配する声がいくつもあった。

 

「私はみんなが楽しんでいるなら、大歓迎です。よ、っと」

 

 すでに見る者はいないだろう終わった多数決の決議の最後にsageで書き込むと、モモンガは皆ががんばって飾りつけたであろうナザリックを見学しに歩きだした。

 

 

 

「ふへー、みんな楽しみすぎだろ」

 

 地表から順番に周って行ったが、短い期間の行事に全力を注いだ大人の悪ふざけを見せつけられた気分だった。

 花火が上がり続ける墓地の中心にそびえる大霊廟にはWelcomeのネオンが点滅し、取り囲む8体の戦士像はカボチャの被りものをしていた。おどろおどろしい巨木にもイルミネーションが灯り、一部は動物を模したトピアリーに替えられている。

 

 ここはどこの観光地だと呆れながら扉をくぐれば、赤い革のスーツを着たゾンビたちが機敏な踊りで出迎えてくれた。黒棺に通じる落とし穴に気を付けながら、階層守護者のシャルティアを探していくと、ぽかんとひらけた場所に見上げるほどのプレゼントボックスが置いてあった。

 

 紫の星が散る黄色の箱に近づけば、触れてもいないのに赤いリボンが解け、中から吸血鬼の恰好をしたシャルティアが飛び出して、こちらも同じように踊りだした。

 元々、このNPCは吸血鬼なのだが、製作者であるペロロンチーノの趣味でゴスロリじみた服装を普段はしている。だが、今日はスーツに黒のマントと“いかにも”な衣装を身に着けていた。

 裏地だけ赤いマントを翻して現れるのは、デミウルゴスの外装を転用したのか、少しばかり似た黒のスーツだが、身を包むほどの大きな外套に隠れて分かりづらいが上着の後ろはバロック風に膨らみながら伸びて燕尾のように仕立て上げられている。持ち上げられた胸に挟まれたネクタイと、しゅっと細まった袖の先にはそれぞれルビーが飾られている。耳のすぐ後ろで結んだ白銀の髪をまとめるのは、コウモリの羽根の髪飾りだ。

 踏み出したステップには顔が映るまで磨かれた皮靴があり、いつもとは違う低いヒールが歳相当の幼さを、はたまた外見よりも仕事を選ぶ大人らしさを醸し出していた。

 

 やがて踊り終えたシャルティアはまた箱の中に入っていった。

 

「ペロロンチーノさん、本気出し過ぎ」

 

 外装にこだわっているのもそうだが、踊りのギミックにも魅せ場を所々作り上げて、見る者を楽しませる仕上がりになっていた。俺の嫁、最高やろ? 友人の自慢げな声が今にも聞こえてきそうだった。

 

「俺も、パンドラになんか仮装させたほうがいいのかなー」

 

 モモンガは踊っているシャルティアの写真を保存してしまうと、次の階層へと向かった。

 

 

 

 巨大なアヒルちゃんが浮かぶ地底湖を渡り、氷河に降りれば、雪の白と、飾られた緑と赤が織りなすクリスマスが広がっていた。

 おそらくはおおざっぱなところが多分にある建御雷が次のシーズンまでも纏めて済ます気なのだろう。それまでの間に侵入者があったらどうするつもりなのだ。等間隔に並ぶモミの木の間を練り歩きながら、モモンガはギルド長としてやらなければいけない仕事リストを更新していく。

 

 位置やバランスを考えずに適当に設置しただろう煙筒が上に載る大白球を覗けば、リースを首にかけ、赤いサンタ帽を被ったコキュートスが佇んでいた。自意識がないNPCなのに、どこか途方に暮れた哀愁が漂っている気がする。

 

「愛されてはいると思うぞ。ちょっと無頓着なだけで」

 

 不憫に感じたモモンガは、木彫りの鹿()を侍らかしたコキュートスを励ますと、後ろ髪をひかれる思いで転移門へと歩いていった。

 

 

 

 一足早いクリスマスムードの氷河を抜ければ、ジャングルにたどり着く。

 おそらくはこちらだろうと円形闘技場ではなく、双子の住処とされている樹の方へと足を向ければ、予想通り、辺り一面に溢れたぬいぐるみやカボチャが歓迎してくれた。

 元より女性陣がお茶会を開いたりしている城ということもあり、オレンジやパープルが踊るファンシーで明るくポップな飾りつけがされていた。円卓に似た雰囲気に、あそこの飾り付けをしたのは4人だろうなと中りをつけながら、アウラとマーレを探す。

 

 なかなかみつからない双子たちはぬいぐるみの山に隠れていた。というよりもぬいぐるみと化していた。

 もこもこしたロンパースに、同じくもこもこした大きなグローブとシューズをつけて、アウラは桃色のネコに、マーレは水色のウサギになっていた。被ったフードの上の耳も、もちろん、もこもこしている。

 庇護欲を誘う幼い姿をしているうえに、こんなかわいい格好をしているためLv.100といわれても信じられそうにない。触り心地よさそうな見た目に負けて頭を撫ぜれば、洗濯したてのタオルのふわふわを思い出す感触がした。

 こんな子供に「トリック・オア・トリート」と言われたら、相好を崩していくらでもお菓子を差し出してしまいそうだ。ボーナス課金まったなし!

 可愛い可愛いといつまででも構っていられるが、もしも茶釜さんたちにデレデレした姿をみられたら、この先ずっとなにかあるたびにロリコンだのショタコンだのからかわれるのが目に見えている。

 モモンガは最後に一撫ぜすると、持っていた食事アイテムを二人に渡し、次の階層へと期待しながら足を進めた。

 

 

 

 そして始めに戻る。

 

「いかにも悪魔ってデミウルゴスはカッコ良かったし、対のヴィクティムの天使もよかったな~。

 ふへー、みんな楽しみすぎだろ」

 

 それぞれが贅や工夫を凝らした仮装や装飾に、モモンガは満足げなため息を漏らす。製作者の話を聞くまでもなく、見る者を楽しませるように、また自分たちも楽しんで作ったのが伝わってきた。

 期間限定のモンスターを狩るのに忙しかったり、元は死者や化け物が人間界に混じる祭りということでハロウィン期間だけ異形種であってもミドガルズよりも上のワールドの街が―――無論、PKは不可だが―――解放されているので、そこで遊んでいたり、皆ハロウィンイベントに忙しいのか、今日は誰にも会わなかったが、彼らの作り上げたものを見て回っただけでも十分に満足することが出来た。

 左腕を掲げて時計をみれば、もう15分もしないうちにハロウィンは終わろうとしていた。

 

「んー、写真もたくさん撮ったし、もう寝るか」

 

 連日の仕事の疲れが泥のように溜まっていて、そろそろ眠気が限界に近付いていた。このまま寝落ちして強制終了させられる前に、ログアウトしておかなければとわかりつつも、モモンガは最後にギルドの連絡板を立ち上げる。

 そして、ただ一言だけ書き込んでモモンガは落ちていった。

 

 

 

 ハロウィン、楽しかったです。またやりましょう。




某作者のハロウィン話と、被っている場所が何箇所かありましたんで、そのうち替えます。
明日も4時起きなんで、今日は尾張!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。