カオスな4人衆!?最強のSランク武偵を目指せ‼   作:サバ缶みそ味

113 / 142
 
 嵐の前の静けさ(オイ

 クロメーテルさんの初登場は大人っぽい女性だったのだけれ挿絵を見ていると巻が進むにつれてどもどんどんと可愛くなっちゃって‥‥だが男だ ちくせう

 緋弾では静刃さんの挿絵も出てたのでそろそろ鵺ちゃんの挿絵もほしいなー…


113話

 昼間のコンテナターミナルは静寂に包まれていた。そんなコンテナターミナルの中にある積み木の様に積まれたコンテナでできた迷路をアリアは静かに駆けていく。

 物陰から覗き安全を確保しつつ慎重に進んでいくと、何かを見つけたのかアリアは深呼吸を一度してから飛び出した。

 

「武偵よ!あなた達は包囲されているわ‼大人しく捕まりなさい!」

 

 銃口を向けたその先にいるのは船から降ろされたコンテナからAKMやAKMS、レミントンM31やマイクロUZIといった銃器の数々を黒いバンに積み込もうとしていた防弾チョッキをつけた覆面の男達だった。彼らは突然出てきたアリアに驚いていたが、手前にいた3人の覆面の男がすぐさま持っていたAKS-47をリロードし、撃とうとした。

 引き金が引か甲としたその時、アリアの後ろから布のようなヒラヒラしたものが3つ飛んできてAKS-47に巻きつくと銃身をひしゃげさせた。

 

『開幕撃とうなんて非合理的ぃー』

 

「かなめは磁気推進繊盾(P・ファイバー)を使ってバンを止めて。他の連中はすぐに片付けるわ」

 

 アリアは無線を切ると一気に敵前まで駆ける。銃器が磁気推進繊盾で無力化された手前の3人の男達は銃を捨ててKM2000ナイフを取り出してアリアに斬り付けようとした。

 アリアは正面から突いてきたナイフを躱して腕を掴んで投げ倒し、右から突き刺してこようと来る相手はひらりと身を回転して避けてその勢いで相手の顎を思い切り裏拳で殴り倒し、左から襲ってくる相手は軽くいなして横腹を肘鉄で突いて前かがみになった顔面に回し蹴りで打ちのめした。自分よりも体格の大きい男達をいとも容易くあしらうアリアに怯んだ男は持っていたH&K P8で撃とうとした。だがそれよりも早くアリアがコルトガバメントを引き抜き撃ち倒す。

 コルトガバメントを構えたままゆっくりとバンの運転席を覗く。バンに乗って逃げようとしたのか運転席と助手席に乗っている男達はかなめのUAV、磁気推進繊盾に巻きつかれてお縄にかかっていた。

 

『アリア先輩、バンの方は私が後始末しておきます。5人程コンテナの迷路の方へ逃げていきましたよ?』

「知ってる。すぐに追いつめるわ」

 

 アリアはコルトガバメントをリロードしてコンテナの迷路へと逃げた覆面の男達を追いかけていった。迷路のように入り組んだ細道を駆けていくとすぐに見つけた。こちらが顔を出した途端に一斉に掃射してきた。物陰から様子を伺う。相手は3人、親の仇のように只管にこちらに撃ち続けている。アリアはそれに気にせず無線を繋いだ。

 

「あかり、志乃、桃子、今よ」

 

 アリアの合図と同時に、アリアに向けて撃ち続けている男達の頭上からあかりと志乃、そいて桃子が高く積まれたコンテナから飛び降りてきた。突然上から現れた3人に男達は怯み、志乃は持っている刀で銃器を切り捨て相手の喉元に刃を向け、桃子は服に仕込んでいる極細繊維ことTNK(ツイステッドナノケプラー)ワイヤーを相手の喉に当て、あかりは組み伏せてから相手の持っている銃器を奪い、銃口を向けた。

 

「武偵よ。抵抗はやめなさい!」

「大人しくした方が見の為よ…?それともこのまま暴れて喉を掻き斬られたい?」

 

「アリアせんぱーい!やりましたー!」

 

 元気いっぱいの笑顔で手を振るあかりにアリアは苦笑いして返し、辺りを見回す。あかり達が捕まえたのは3人。ここへ逃げ出したのは5人、残りの2人は何処へ逃げたか或いは身を潜めている。まだまだ油断はできないと細心の注意を払う。そんな事よりも‥‥とアリアはイラッと目つきを鋭くする。

 

「あのバカ‥‥どこに行ってんのよ」

 

「アリア先輩!上です‼」

 

 あかりが焦りながらアリアに呼びかけている。見上げればコンテナの上で2人の男がこちらに向けて銃口を向けて狙っていた。コンテナの上に身を潜めて相手を射ち殺せるチャンスを伺っていたのだろう。アリアは視線を鋭く睨み付ける。あの腕ならすぐに避けれる。だが、避けるまでもない。

 

 相手が引き金を引く寸前、突然何かに撃たれた様に仰け反って倒れた。隣で突然撃たれて倒れたことにもう一人はたじろいでいた。何処から撃ってきたのか、あたりを見まわしているうちにもう一人も仰け反って倒れた。

 

 アリアはこれで全員片付いたことに一息入れると、ムッとした顔をして狙撃手がいる方へ向いて無線を繋いだ。

 

 

「‥‥かずき、あんたさっさと片付けなさいよ」

『そう嫉妬するなって!もうアリアちゃんってばお茶目!』

「うっさい‼おちょくるなら風穴開けるわよ‼というかあんた道に迷いかけてたでしょ!」

 

『ウォーオオー、トゥー、トゥナァイト♪アリアがープンスコ』

「歌って誤魔化すな!」

 

 アリアはカズキにさっさと戻って来いと無線で怒鳴った。それでカズキはおちょくってくるので余計にアリアは苛立ちを募らせる。そんな様を見ていたあかりと志乃は苦笑いをした。

 

「カズキ先輩ってあのアリア先輩に恐れもせずに平然と相手してるのって‥‥ある意味すごいですね…」

「まあ、あのカズキ先輩達って恐れ知らずだもんねぇ‥‥」

 

 

___

 

「はっはー!どうよ?見た?俺のエイム力見てた?」

 

「あんた、狙撃手ならちゃんと私のサポートしなさいよ。最初から普通にできてたでしょ」

「ねえ見た?どうよ?見た見た?」

「だから人の話を聞きなさいよ!」

 

 覆面の男達を全員逮捕し、警察に渡して調書を受け終わってくたびれたアリアにカズキがしつこくドヤ顔でアピールしてくる。カチンときたアリアはガバメントを引き抜いて風穴を開けようとするがあかりとかなめに宥められる。

 

「はあ‥‥今レキがいないからレキの次に狙撃のできるあんたに協力を頼んだのだけど、余計に気苦労が増えるだけね」

「いやー、照れるなぁ」

「褒めてないわよ!」

 

 アリアはこれ以上言っても理解しないだろうとカズキをジト目で睨むとコホンと咳払いをしてカズキに尋ねた。

 

「カズキ、あんたに協力を依頼したのはあんたに聞きたい事があるから呼んだのよ」

「え?聞きたい事?俺の好きな物はピザだけど?」

「誰があんたの大好物を聞くのよ」

「これからピザパーティーとかするんじゃないのか?」

「‥‥そのポジティブすぎる思考にほんと腹立つ」

 

 きっとカズキやあの騒がしい連中に『何故太陽は昇る?月はなぜ輝く?』と聞いても絶対に適当にふざけて返答してくるだろう。これでは話は進まない。アリアは改めてカズキに尋ねた。

 

「キンジを探しているの。何処を探しても見つからないのだけど…レキや理子とは連絡取れないし、白雪に聞いたのだけど分からないみたいなのよね。それなら腐れ縁のあんた達なら何か知ってるんじゃないかと思って呼んだのよ」

 

「あーキンジか。キンジならクロメー」

 

 『キンジならクロメーテルに変装してるけど?』とカズキが言う前にかなめがカズキの足を踏んづけた。言ってはならない、かなめは焦り引きつった笑みでカズキに首を横に振る。今ここでしかもあかり達が入る前でバラしてしまったらキンジは即退学、そしてアリアからの怒りの風穴が待っている。それよりもキンジはクロメーテルに変装しているという事をバラしてはいけないという事をカズキはすっかり忘れていた。

 それを思い出してカズキはヤベッと直ぐに口を閉ざしたが時はすでに遅し。アリアはジト目でずんずんとカズキに歩み寄る。

 

「今‥‥クロメーテルって言わなかったかしら?確かにあんたのチームの中にクロメーテルって子は今日は来てないようだけど、その子とキンジと何か関係があるのかしら?」

「い、いやぁ?俺はそうな事をヒトゥッコトゥみょみょみょみょみょみょーん」

 

 かなめは頭を抱える。この先輩は嘘をつくのが下手のようだ。カズキは途中で噛んでふざけて誤魔化そうとしたがアリアはジロリと睨んで更に迫る。

 

「正直に言いなさい?じゃないと風穴開けるわよ?」

 

「‥‥キンジなら今日クロメーテルって子とデートしにいったぜ‼」

 

「‥‥はああああっ!?」

「はいいっ!?」

 

 ドヤ顔で告げるカズキにアリアは怒りを込めた驚きの声を上げて、かなめはギョッと驚いた。今にもバレそうな嘘だが、どうやら効果はあったらしい。アリアは怒りで声を荒げる。

 

「あ、あ、あんた、それ本当なの!?」

「おう。昨日だっけかな?キンジのやつ、クロメーテルちゃんと一緒に帰ってて俺に『俺、明日この子とデートしてイチャイチャしてくるぜぇ』って言ってきやがったしな」

「な、な、な、なんですってぇぇぇぇっ‼」

 

 アリアは顔を赤くして怒り心頭になる。今までに見たこともない程に激昂しているアリアにあかりと志乃はあわわと慌てふためいているが、カズキはこの状況を楽しんでいるようで更に調子に乗り出す。

 

「しかもこれ見よがしにイチャイチャしてさー、恋人繋ぎしやがってさー、ぎゅっと抱きしめてやがってさー。『俺、この子とディナーして二人きりで観覧車に乗って夜景を見て花火をみるぜぇ』って言ってたぜ!」

 

「ディナーするのに観覧車乗って花火見るってプランおかしすぎませんか」

「あのバカキンジィィィ‼なんであいつの部屋にあの子の写真があるのかと思ってたら‥‥そうだったのね!」

 

 かなめは冷静にツッコミをいれるがアリアは冷静に欠け、カズキの出鱈目を鵜呑みにして激昂していた。アリアはメラメラと燃え上がる怒りと苛立ちに何処にぶつければいいか分からずこの場で地団駄する。

 

「あのバカキンジ‥‥‼絶対に会ったら一先ず風穴地獄よ‼」

 

「クロメーテルちゃん、あの遠山キンジの毒牙にかかってるなんて‥‥早く助けなきゃ!」

 

 アリアはキンジを見つけ次第〆るようで、あかりはクロメーテルに事の次第を聞いて説得させるようだ。かなめはため息をついた。カズキの出鱈目のおかげで変装しなくても変装してもどの道ひどい目にあうだろう兄にどこか哀れに思えてきた。

 

「でもなんであいつを探してるんだ?」

「キンジに知らせなきゃいけないのよ。私とキンジ、命を狙われているから用心しなさいって」

 

「アリア先輩、狙われているんですか!?」

 

 アリアが命を狙われている、その事を聞いたあかりは驚愕する。強襲科は犯罪組織から恨まれ憎まれることもあり報復してくる場合もある。アリアは怒りが収まったのか冷静に詳しく話した。

 

「私、というかキンジが主ね‥‥キンジが留年確定する前に受けるはずだった武検選抜、キンジは辞退していたじから幸いで、会場で爆発事故が起きて一石マサト含めた武偵複数が意識不明の重体になって病院送りにされた事故は知ってる?」

「知らない」

「うんそうよね、聞くまでもなかったわよね」

 

 即答するカズキにアリアはため息をついて呆れた。

 

「最初は検事達による一次試験かと思ってたけども…どうやらそうでもないようなの。武偵局は隠そうとしているけどあれは完全に狙った殺人、その犯人を捜せと検事が私に依頼してきたわ」

「でもそれで何でキンジが狙われてるってわかったんだ?」

「話によると爆弾は出席を辞退したキンジの席に仕掛けられていたのよ‥‥」

 

「お兄ちゃんへの報復、ですか‥‥?」

 

 かなめは真剣な表情でアリアに尋ねた。アリアは静かに首を縦に振る。

 

「考えられるとすれば‥‥『色金』関連ね」

「え?色気?」

 

 キョトンとするカズキをアリアとかなめは無視する。アリアに秘められいた『緋緋色金』を巡って戦役は起きていた。緋緋色金に込められている強大な力は誰もが口から手が出る程の欲しい代物。だが、キンジはアリアの中に潜んでいた『緋緋神』との戦いの末、アリアは『緋緋神』の力を受け継ぎ、『緋緋色金』を宇宙へと返していった。

 

「この『緋緋色金』の件で大損をした輩が報復で狙っている可能性があるわ…イ・ウー『主戦派』の残党か、別の犯罪組織か‥‥それとも政府の誰かか」

「腹いせでお兄ちゃんを狙うなんて、非合理的ですね。ぶちのめしてやりましょうよ」

 

「お?かなめちゃん、それ面白そうだな。アリア、それを俺達に依頼してくれよ!」

「はぁ?なんでよ」

 

 いきなりノリノリになったカズキにアリアは訝し気に睨む。

 

「Sランク相当の依頼っぽいしな、遂行すれば単位貰えて俺は無事に進級できるし、アリアはキンジが無事で両方特じゃねえか!」

「カズキ先輩、結構がめついですね‥‥」

「いや得しているのあんただけじゃないの!」

「じゃあキンジが何処にいるか教える、ってのはどうだ?」

 

「「なっ!?」」

 

 それを聞いたアリアとかなめはぎょっとする。何故キンジの事を知っているのかと、それを教えてはまずいのではと言う二重の意味で驚く。カズキはニシシと笑って訪ねる。

 

「どうだ?乗るか?」

「‥‥仕方ないわね。あかり達ならまだしもあんたと組むのは癪だけどのってあげるわ」

 

 キンジの居場所の情報を掴めるのなら仕方ないと、アリアはあまり乗る気はしないが承諾した。これではいつカズキがついついキンジが女装していることを、しかもクロメーテルに変装していることをバラしてしまうのか、かなめは我ながら兄の災難には少し同情した。

 

____

 

「不知火、どうだ?収穫はあったか?」

『アリア達が片付けた武装組織の件ですけど…どうやらダミーのようですね』

 

 不知火の報告を聞いて獅堂は眉をひそめて舌打ちをする。またしてもハズレかと苛立ちを募らせた。

 

「猿の野郎は武器を横流しして別の組織に売り飛ばしている、その証拠が掴めれば締め上げれるんだがな…しゃあねえ、不知火そのまま捜査を続けろ」

 

 猿楽製薬は武器製造の他にその武器を密輸、或いは国内の犯罪組織にも流している、そしてその協力者も何人かいる。猿楽を潰せば芋づる形式にしょっ引けるのだが今現在これといった収穫は無い。獅堂は携帯を閉じるとため息を大きくついて胡坐をかく。

 

「わざわざの静刃のところで集合しなくてもよかったんじゃねえのか?」

 

 ストライプ柄のスーツを着た灘がしかめっ面で獅堂に尋ねる。獅堂と灘、可鵡偉、大門は静刃のアパートに集合していた。体格の大きい男達が複数いるせいか畳の部屋は窮屈になっていた。

 

「なに、猿の野郎の尻尾を掴み損ねたが別件での仕事の話がある。ついでという事で全員に集まってもらっただけだ」

「別件…?他に請け負ったのか?」

 

 大門が不思議そうに尋ねるが、獅堂は苦虫を嚙み潰したような顔をして懐から分厚い茶封筒に入った資料を取り出してちゃぶ台に叩きつけた。

 

「あの菊池財閥の菊池雅人(くそやろう)からだ。どっかの武装組織共が密入国してたむろするらしい。俺らはその張り込みをしろとお触れが下った」

 

 獅堂が嫌そうな顔をして『くそやろう』と呼ぶ相手はあの菊池財閥の菊池サラコの旦那である菊池雅人しかいない。その場の誰しもが察した。

 

「あの野郎が言うには『締め上げればもしかしたら猿楽と裏で繋がってるかもよ?』だとよ‥‥今忙しいってのに他人事のように押し付けやがって!」

「仕方あるまい、公安である故に請け負わなければならんだろう。拙僧はかまわんぞ」

「というか菊池財閥のおかげで旧公安0課が残ってるから顔が上がらねえよなぁ」

 

 大門と灘は苦笑いしながら怒れる獅堂を落ち着かせる。政権交代での『事業仕分け』で真っ先に公安0課が標的にされて解体さそうになった。そこを菊池財閥による鶴の一声、或いは菊池サラコの『ありがたいお話』で完全消滅は避ける事はできた。獅堂はいらない借りが増えたと愚痴をこぼす。

 

「そこで二手に分かれる。俺と大門、灘、不知火は引き続き猿の野郎とマキリの捜査。静刃と可鵡偉は張り込みだ」

 

「俺達だけでか?」

 

 暫く黙って聞いていた静刃がゆっくりと口を開く。張り込みなら容易いが人手はそれで十分なのか改めて確認をした。

 

「いや…明日に遠山を無理矢理つけてく。それにナオトも連れてけ。いいかナオト、今は俺らのチームだ。連携を崩さずに‥‥って、あいつどこ行った?」

 

 獅堂は畳の部屋を見回す。気が付けば肝心のナオトの姿が見当たらない。いつの間にと灘たちもキョロキョロする中、可鵡偉が苦笑いしながら手を挙げる。

 

「ナオトさんなら…『することないから暇』とか言って鵺ちゃんを連れて散歩に出て行きましたよ?」

「散歩って…あの野郎、緊張感ねえのか」

「散歩‥‥いやダメだ!あいつ、すぐに迷子になる!」

 

 静刃は思い出して慌てだす。ナオトは知らない土地だと入って数秒で迷子になることを思い出した。それを聞いた獅堂はガクリとこけそうになり灘と大門はどっと笑う。

 

「はぁああ!?なんだとあのバカ野郎‼どんだけフリーダムなんだよ!?」

 

「いやー、ここまで獅堂を怒らせるバカ初めて見るな」

「はっはっは‼風のような自由な男よ!拙僧は気に入ったぞ‼」

 

「てめえらニヤニヤしてねえであのバカを探しに行くぞ‼」

 

 獅堂は怒鳴りながら灘達と共にナオトを探しに出て行った。ポツンと残された可鵡偉はナオトを探しに行かず残った静刃を不思議そうに見つめる。

 

「静刃さんは探しに行かないんですか‥‥?」

「‥‥何を考えているか分からない奴のいそうな場所なんてわかりっこねえだろ」

 

 確かに、と可鵡偉は納得して頷く。昨日の事を考えると、彼は本当に何を考えているのか分からない何処か自由すぎる人だ。そこまで彼の事知っている静刃はかなりの気苦労をしたのだろう、と可鵡偉は同情した。

 

****

 

「びょう、気の向くまま風の吹くまま歩いていたがこんな所があったとはのう」

「‥‥暇なときはよく行く」

 

 ビルが立ち並ぶ都会の中にある閑散とした釣り堀でナオトと鵺は静かに釣り糸を垂らしてボーっとしていた。静刃のアパートで獅堂達がワラワラと押しかけてきて窮屈ですることなくて退屈だったので外へと出て行った。何をしようか考えているうちにこの釣り堀を見かけたのでここで時間を潰すことにしたのであった。

 

「しっかし、ちんまい魚しか釣れんじょ。ナマズがいると言いっておったが本当にいるのか?」

 

 鵺はヘラブナを釣り上げるとしけた顔をして池へと投げ捨てる。どうやらナマズを釣って食べる気でいるらしい。ずっと黙っていたナオトであったが鵺をチラリと見て尋ねた。

 

「ところで、何で過去に戻って来たの?」

「びょう、やっぱり気になるかじょ?」

 

 ようやく聞いてきたかと言わんばかりに鵺はギザギザの歯を見せて笑う。だがナオトは気にしていないかのように釣り針に練り餌をつけて再び釣り糸を垂らす。

 

「なんだじょ、興味ないのか?」

 

 興味あるのかないのかよく分からないナオトに鵺はプンスコと頬を膨らませた。それでもナオトは無言でウキをじっと見つめているので仕方なしにため息をつく。

 

「静刃の奴は話す気ではなさそうだからのう、特別に鵺が教えてやるじょ」

 

 再びヘラブナを釣り上げた鵺はつまらなさそうな顔をして池に投げ捨ててから話を進める。

 

「未来に戻った静刃は自分達の戦いを終えた後、過去でやらかしたことによって崩れた歴史のバランスを直すためにこっちに戻って来た…というのは建前であって、要は遠山キンジとかいう男を救いに来たんだじょ」

「なるほど‥‥カズキの言う通り、静刃はトランクスだったのか」

 

 言ってる意味が分からない。静刃がいれば呆れていただろうが、いつも通りだと鵺はびょうびょうと高笑いをする。

 

「それもあるが実はもう一つある―――【十四の銀河】に関することだじょ」

 

 【十四の銀河】、その言葉を聞いたナオトはようやく鵺の方へと顔を向けた。

 

「まあ関連する程度の事だが、鵺達は『パンスペルミアの砦』とかいう計画を阻止しにきた」

「‥‥パンツ丸見えの砦?」

「うん、たぶんそういうだろうと思った‥‥パンスヘルミアの砦、推測だが不連続体の妖を絶滅させ、異能が操りやすくして世界を変えるとかいう計画だじょ」

 

 妖がどれくらいいるのか、異能を操るとかどうやって操るのか、スケールが大きいので想像がつかないナオトは不思議そうに首を傾げた。

 

「そんなこと、できるの?」

「できなくもない。ましてや世界を変える力を持つ【十四の銀河】なら可能だじょ‥‥それに、妖を絶滅させるのも『ある一匹の妖』ならできる」

「…ある妖?」

 

「妖の祖であり、全ての妖の原点であり、頂点である妖‥‥【影鰐】だじょ」

 

 影鰐‥‥影の鰐かとナオトは首を傾げる。何となく理解できていないナオトに鵺はニシシと笑う。

 

「思いつかんのも無理ないじょ。人も妖も奴に喰われる。あれは本当に化け物だからのう…奴も【十四の銀河】に一枚噛んでいやもしれん。だから静刃と鵺は影鰐を仕留めに戻って来た」

「‥‥静刃や鵺は、その影鰐と戦うのなら勝てるの?」

 

「さあ、わからん。ま、その時なったら考えるじょ」

 

 なるようになる、と鵺は釣り上げた鯉をバケツにぶち込んでギザギザの歯を見せて気楽に笑った。そう言えばと話してを聞いているうちにナオトは気になって尋ねる。

 

「こっちに戻って来たんなら、アリスベルも連れてけばよかったのに」

「あー‥‥それか、まあ、うんそれは仕方ない」

 

 うーんと視線を逸らしながら苦笑いする鵺に何かまずい事でも聞いたのかとナオトは更に気になってきてずいずいと鵺に寄る。

 

「もしかして‥‥喧嘩別れ?」

「違う。そういう意味では…って、こういう話はメッチャノリノリだな!?メッチャニヤニヤしてるじょ!?というか顔ちかっ!?」

 

 愉悦な笑みをしているナオトに思わず鵺はツッコミをいれる。今まで興味なさそうにしたのにこういった話になると物凄く興味を示しだす彼に鵺は肩を竦めた。

 

「まったく、お前達は雰囲気というもんがないじょ」

「‥‥また力になる」

「‥‥それなら有り難い。派手に暴れる時は協力してもらうじょ」

 

 未だに【十四の銀河】や【影鰐】の尻尾はつかめてはいないが、彼らと関わればいずれ全容が掴めるかもしれない。この4人組の力はある意味計り知れないものが秘められている。きっと静刃の力になるし、また大暴れできると鵺はギザギザの歯を見せて笑った。

 

 結局数時間釣り糸を垂らしても一匹も釣れなかったナオトは重い腰を上げた。使っていた練り餌を全部使いきった。

 

「一匹も釣れかった‥‥」

「お前、へたっぴだじょ」

「まだ、他の釣り堀に行けばワンチャン」

 

 まだ釣り堀に行くのかとやる気満々のナオトに鵺は苦笑いした。

 

 そして店を出た直後、ナオトを探していた獅堂にばったり出会い、ナオトはげんこつをくらった。





 原作では武検選抜試験は検事の方々が笑顔で武偵を病院送りしておりましたが…こちらではキンちゃんを狙った爆破攻撃に巻き込まれた、ということで(焼き土下座

 影鰐…カオスな4名様が作詞作曲、歌ったOP曲はかなり好きです。影鰐、DVDレンタルしたいけども何処にもないのよね‥‥(´・ω・`)やっぱり通販かぁ…

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。