カオスな4人衆!?最強のSランク武偵を目指せ‼   作:サバ缶みそ味

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 気が付けば再び1万文字越え‥‥(白目
 もうどーにでもなーれっ☆
 
 


115話

 どうしてこうなった。遠山キンジは憂鬱であった。

 

 クロメーテルに変装してはや3日が経過した。外語学校への転校できるまでの10日間、2年C組に入ることに。他の生徒にバレたら即退学なのだが、かなめが手伝ってくれたおかげで変装はバレることは無かった‥‥

 

 だが、同じく2年C組にいたカズキに一発でバレてしまった。カズキも秘密にしてくれると言っていたのだがもう不安しかない。彼がいつうっかり口を滑らしてしまうか、毎日ハラハラドキドキしていた。

 

 部屋に戻ればかなめが弄ってくるところまではまだ耐えれる。だがある日、カズキにアリアが協力しろと依頼があり、カズキは自分達を連れて行く気満々だった。クロメーテルのままアリアと接触するのはまずい為自分は欠席をした。

 しかしその次の日かなめから『お兄ちゃん逃げて超逃げて』とメールが来て何事かと思えば、寮のドアの前でアリアが物凄い怖い形相をし、両手にガバメントを持ってウロウロしていた。明らかに自分を探しており、もし見つかったら間違いなく風穴地獄が待っている。

 

 かなめもアリアに無理やり連れてこられたようでどこか遠い目をしていた。これは間違いなくカズキ(あのバカ野郎)が何かしでかしたに違いない。変装を解いても、クロメーテルのままでもどちらにしてもアリアに見つかってはまずい。キンジは一先ず自分の部屋、かなめの部屋に戻るのはまずいとその場を去った。

 

 最悪野宿は避けたい。そうなると寄れる場所があるとすれば近くの寮にいるカズキの所に行くしかない。そう考えて早速移動しようとたキンジは思い出した。

 

『なあカズキ、お前寮にいるんだろ?自炊はしてんのか?』

『ん?ピザとコーラだけど?』

 

 そうだ、あいつはピザを注文し、ピザ生活をしていた。ピザ食べてコーラも飲んで、ちゃんと片づけてはしているのだろうか。他にもカズキがピザパーティー‼とか騒ぎ出して何かやらかし巻き込まれてしまったら一溜まりもない。キンジはカズキのところへ泊まり込みに行くのをやめた。ならば他に寄れるところはあるのか‥‥理子は最近連絡取れないし、レキは遠くに行っており、白雪のところに行けば間違いなくアリアが乱入してくる。

 

 何処かいい場所は無いか、そう悩んでいると携帯が鳴った。形態を確認すると電話の相手は公安0課の獅堂だった。確か獅堂ら公安0課に絡まれていざこざはあったが、獅堂がやる事があるときは呼ぶと言っていた。何事かと電話を繋ぐと、案の定仕事を手伝えという内容だった。

 

 本当は乗る気がしなかったのだが、このまま断れば獅堂が無理矢理連れにやってくるか、クロメーテルのまま野宿する羽目になる。やむを得ないというわけでキンジは了承することになった。

 

「‥‥と、まあ獅堂の仕事を手伝う事になったが、おかげで妖刕のアパートで一泊することはできたのはよかったさ」

 

 鬼の形相で探し回るアリア、胃を痛める最もな原因であるあの騒がしい4人組の一人に会わなくて済んだ。ただそれだけはよかった。

 

「やっとカズキから解放されてホッとできたのも良かった‥‥だけど」

 

 キンジはジト目で横をチラリと見る。

 

「カズキの次はナオト、お前かよ!?」

 

 キンジは横で鵺と共にスロットマシンでスロットマシンを回しているナオトに項垂れた。

 

「中々当たらないな‥‥」

「むー…このスロットクソ台だじょ!」

「つか話聞いてねえし!?」

 

 まさか今度はナオトに出くわすとは思いもしなかった。どうしてこうも自分はこの騒がしいバカ4人組にばったりと出会ってしまうのだろうか。自分の運の無さに嘆く。

 

「スロットしてる場合かっ!?」

 

 人混みを押し退けて駆けつけてきた静刃がナオトと鵺にチョップを入れた。妖刕も何だかんだで同じように苦労しているのだなとキンジは仲間がいたという安心感を抱いた。

 

「だって楽しそうだったし」

「せっかく来たんだから少しは楽しませろだじょ」

 

「いやあの、ナオト先輩?もう目的忘れてますよね?」

 

 獅堂や静刃と同じ公安0課の可鵡偉が苦笑いでナオトに尋ねた。ナオトはキョトンとしてボーっとしていたがすぐにポンと手を叩く。

 

「大丈夫。だいたい大丈夫」

 

「いや、ぜってえ忘れてただろおい」

「僕達は張り込みをするよう獅堂さんから指示があったんですよ」

「‥‥あーうん、そうだっけ?」

「静刃さん、僕もう不安いっぱいなんですけど」

「慣れろ可鵡偉。これがこいつらなんだ」

 

 獅堂から匿名の犯罪組織が密会をしており自分達はそこの張り込みをしろという指示で来たのだが、ナオトの調子からしてもう幸先が不安すぎる。それにしても、とキンジはため息を漏らす。

 

「潜入する場所って…またここかよ」

 

 キンジは辺りを見回す。水路みたいなプールの周りにあるのはスロットマシンとバニーガール、そしてスーツやドレスを着た人々。キンジ達は公営カジノである『ピラミディオン台場』にいた。この場所はかつてアリアと共に警備の依頼で来ていたが、パトラの襲撃に遭ったいわば因縁があるような場所だ。その上ナオトもいるという事は絶対に碌な事が無いとキンジは予感していた。

 それでも仕事には専念しなければと、キンジは切り替える。静刃はいつも通りの口元が隠れるコートを着て、自分達はどこかの青年社長のようなスーツを着て潜入している。因みに鵺は相変わらずピンクの派手なゴスロリだ。

 

「けどよ、犯罪組織の者を見つけろって何処を探せばいいんだ?」

 

「このピラミディオンの3階はVIPフロアとなっている。恐らくだが、ホシはそこにいるんだろう」

「以前より警備が強化されています。遠山先輩ならご存知でしょう?前にこのカジノで()()()()()()()()()()()とか」

 

全くもって心当たりがあり過ぎる。自分達のいざこざのおかげで余計警備が強化されていることには頭が上がらない。そんなキンジの憂鬱に気にせず可鵡偉はリストを渡した。

 

「密入国したであろう武装組織の顔写真とリストです。このカジノ内にうろついている可能性がありますので一通り覚えてくださいね?」

「いや、こんなリストどっから手に入れたんだよ」

菊池財閥(裏方にお詳しいお方)からだ。お前もいつでも戦えるようにしておけよ?」

 

 静刃に急かされキンジはやるしかないのかと諦めて承ることにした。いつでもヒステリアモードになれるように、電動式水上バイクで行き来しているバニーガールを見てヒスるしかないかと、考えた。

 

「それからナオトも‥‥って、あいつもういねえし!?」

「目を離すとこれだよ‼なんであいつらは人の話を聞かないんだ!?」

 

 更には鵺もいない。どうして興味ない話は聞かずに勝手に何処かへ行ってしまうのか、また探して振り出しに戻るしかない。静刃とキンジは同時にため息を漏らす。

 

「妖刕、お前も苦労してんだな‥‥」

「こうなりゃ力を合わせてあのバカをどうにかするぞ」

 

「いや二人とも、意気投合してないで探しに行きましょうよ」

 

___

 

 ナオトと鵺は2階のフロア、特設カジノにいた。会員のパスを持つ金持ちだけが掛けに参加できるルーレットの賭け金は最低100万。勝ち続ければ一攫千金、負ければ地獄。そんなゲームに二人は参加していた。

 

「ここはやっぱり黒だじょ」

「えー、気分的に赤がいい」

「まあまあ、ここは鵺の実力に任せるがいい。黒の13に50倍賭けるじょ‼」

 

 何処から持ってきたのか鵺はドヤ顔でチップを50枚黒のマス目に置いた。一枚100万を意味するチップが50枚も動いたことにギャラリーがザワザワと盛り上がる。流石のナオトもこの賭けにはギョッとする。

 

「そんなに!?大丈夫なの‥‥?」

「そう焦るな焦るな。これでも鵺はお金ある方だし‥‥まぁ負けても公安0課に擦りつけば万事OKだじょ」

 

 それなら問題ないとナオトは納得した。果たしてこの賭けは成功するのかナオトは息を呑む。ルーレットが回転し、純白の玉がルーレット内部で縁に沿って転がっていく。玉がどこのマスに止まるかギャラリーはザワザワとしていたがナオトは横で鵺がニヤニヤしながら相手に見えないように片手の指をクイッと動かしていたのに気づいた。転がっていく玉は次第に速度が緩んでいき、カツンと玉は見事に13番のホールに入った。ギャラリーはさらに盛り上がり、鵺はそれ見た事かとゲスそうにギザギザの歯を見せて笑った。明らかに鵺は何か力を使ってズルをしていたのだが、別にいいやとナオトは気にしなかった。

 

「びょははは‼どうだ見たか!これで鵺達は大金持ちだじょ‼」

「明日したから回らない寿司ざんまいだっ」

 

 大勝したと鵺とナオトは大喜びでハイタッチをした。明日は回らない寿司か高いお肉を買ってすき焼きか、二人はワクワクする。

 

「お前ら何してんだっ!?」

 

 そんな二人に静刃が容赦なくげんこつを入れた。ひたすら探し回っていたようで静刃はぜえぜえと息が上がっている。

 

「おう喜べ。お前らの活動資金に貢献したんだじょ」

「これでウォーターオーブンが買える」

「いやいらねえよ!?というか真面目に仕事しろ!」

 

 静刃はどうしたものかと項垂れた。これではこちらの仕事に集中できなくなる。鵺は悪ノリするしやはり置いておくべきであったと後悔した。

 

「カジノで大勝してしまった‥‥」

 

 賭け金の2倍の金額を手に入れてしまったナオトは大金をものにした実感はないのだがこれをどう使うか悩んだ。ウォーターオーブンを買うか、明日お寿司でも食べに行くか、カズキ達が知れば八つ当たりしてくるかもしれないのでここは静刃に預けておくか。そう考えていた時、ふと増えているギャラリーの方に目をやった。ザワザワとする人混みの中に、色素の薄い茶髪のロングヘヤーの軍服のようなコートを着た女性が通り過ぎていくのを見かけた。ナオトは見間違いかと思ったがあの女性には見覚えがあった。追いかけて確かめなくては、ナオトは椅子から降りて立ち上がる。

 

「おい、またどこへ行くつもりだ?」

 

 何処か勝手に行くつもりかと静刃はナオトを止める。だがいつものナオトの様子とは違う事に一目で気づいた。ナオトは小声で静刃と鵺に伝える。

 

「いた‥‥!伊藤マキリがいた」

「なっ!?本当か!?」

 

 静刃は耳を疑った。まさかこんなカジノに伊藤マキリが現れるなんて思いもしない。逃げるための口実化と一瞬疑ったが、伊藤マキリを目撃して、戦った事のあるのはナオト達4人組だ。ナオトの様子からして確かな物らしい。

 

「間違いないんだな…?」

「本当。2階の奥の通路に行った」

「ぬ?派手にやるか?」

 

 ナオトと鵺はすぐにでも追いかけていくつもりだ。静刃は迷う、ここは無暗に突撃すべきではなくキンジと可鵡偉に伝えるべきか。しかし可夢偉は我を忘れてマキリに襲いかかるだろうし、キンジだけで可鵡偉を止めることができるか。マキリの戦闘力は未知数、知っているのはナオトだけ。マキリの他にも仲間がいるかもしれない、だからといって獅堂や応援が来るまで時間がかかる、とそんな事を考えているうちに既にナオトと鵺は駆け足で追いかけようとしていた。

 

「ちょ、待て!ああくそっ‼俺達でやるしかねえか!」

 

 キンジと可鵡偉に伝えるのは後。静刃はやけくそになりナオトと鵺の跡を追いかけていく。

 

___

 

 2階の奥の通路を突き進み、非常口の階段を上がる。3階の関係者以外立ち入り禁止フロアを無視してナオトと鵺、静刃は誰一人もいない通路を進む。

 

 静刃はいつでも戦えるよう右目の『バーミリオンの瞳』を赤く光らせ準潜在能力開放(セミオープンアウト)の状態でマキリを探す。相手に見つからないように慎重に進んで欲しいのだが、ナオトは不用心に堂々と真ん中を突き進んでいた。

 

「お前‥‥やっぱり隠密行動下手だろ」

「やったことないし」

 

 即答するナオトに静刃はやっぱりと納得する。だってあの騒がしい4人組が黙って行動できるはずがない。やはりと静刃は片手で顔を覆う。ふと静刃はホルスターにFN5-7があるのにナオトが銃も構えずにいる事に気づく。

 

「なんで銃を使わないんだ?」

「だってあいつ指パッチンで弾を逸らしてくるし、弾の無駄でしょ」

「ゆ、指パッチン…?」

「指パッチンで空気砲を撃ってくる」

 

 説明するのが面倒だと言わんばかりにムスッとして答えた。理屈は分からないがどうやら伊藤マキリは指を弾かせることで空気の弾丸を飛ばしてくるようだ。手の内が分かれば対策はできる。

 

「後はお前が相手に気づかれないように静かに行動してくれれば大助かりなんだけどな」

「お腹すいたなー‥‥」

「おう鵺も酒が飲みたいじょ」

「お前ら絶対やる気ねえだろ」

 

 ナオトと鵺は外の景色を眺めながら愚痴をこぼす。本当に探す気があるのだろうか、いやここで自分がヤッケになったら誰が引っ張らねばならないのか、静刃は気を持ち直す。

 

 突き当りの通路を曲がろうとした瞬間、静刃のバーミリオンの瞳から『警戒信号』が表示された。狙いはナオトと鵺ではない、自分に来る。狙いは顔面。

 

「…っ!?伏せろ!」

 

 静刃は咄嗟に叫び両腕で防ぎ防御態勢を取る。その直後に片腕にミシリと痛みが走る。拳銃程度の弾丸ならダメージは無効の防御力を持つこの黒套で何とか防ぎきれる。黒套の防御ができない顔を狙って来たという事は完全に相手は殺しにかかってきているようだ。静刃は通路の先にいる人物に睨みつけた。

 

 軍服のようなコートを着た氷のような冷たい瞳で無表情でこちらを見ている女性、間違いなくあの女性が伊藤マキリだ。静刃は確信した。マキリは静かにナオトを見つめる。

 

「気配も隠さないで後をつけてくるのは誰かと思いましたが、やはり貴方でしたか‥‥」

 

「‥‥」

 

 ナオトは何も答えずに真剣な眼差しでじっと拳を構えている。いつでも戦えるようだ。そんなナオトにマキリはやれやれとため息を漏らした。

 

「貴方といい、これから会いに行く自由すぎる彼といい‥‥賑やかなだけの貴方達が、私達の邪魔をしてくるとは、一体何を考えているのですか?」

「‥‥何て言おうか忘れた」

 

 緊張感の無い一言に静刃はこけそうになった。先ほど真剣になっていたのは何を言おう思い出そうとしていただけかと。やっぱり何も考えていない、とマキリは無表情のまま呆れ気味に見つめてきた。

 

「やはり‥‥一人ずつ始末をしておくべきですね」

 

 マキリは静かに片手をこちらに向けた。その瞬間に静刃のバーミリオンの瞳に『警戒信号』が表示される。ナオトが言っていた見えない空気の弾丸を放ってくる。

 

「ナオト、鵺、来るぞ‼」

 

 静刃の声と同時にナオトは駆けていた。静刃はバーミリオンの瞳に捉える。マキリの指が高速でぱちんと弾く動きをした瞬間に見えない空気の弾丸が放たれ、ナオトの頬を掠めた。

 

「なるほど‥‥私の目を見て何処を狙ってくるか、読んでいましたか」

 

 ナオトが一気に迫ってくる中、マキリは無表情だが納得したように頷いていた。マキリのもう片方の手で飛ばした空気の弾丸は鵺と静刃の方へと飛んでいく。

 

「いだっ!?いってえじょこの野郎‼」

「っ‼」

 

 鵺は額に直撃したが額に手を当ててプンスカと怒り、静刃はギリギリのところを躱す。

 

「こちらも何かと厄介の様ですね‥‥」

 

 マキリは静かに呟くと、懐まで迫って来ているナオトの方へと視線を戻す。ナオトは前へ一歩強く踏み出し、力いっぱいに拳を放つ。このままマキリの鳩尾へと当たる―――――ことはなくマキリの横腹へと逸れていった。マキリが自ら懐へ迫って来たと思いきや、トンと軽く右肩を突いて体の軸を逸らしたのだ。勢いで空を切ったナオトは驚く。

 

「―――――私の技がレラ・ノチゥだけ、ではない」

 

 囁くようにマキリはナオトに告げると、無防備になっているナオトに向けて片手で二本指を突き立てようとゆっくりと腕を引いた。これは避けないと、死ぬ。マキリの構えを見た刹那、ナオトはゾッとした。

 

「ナオト避けろぉっ‼‼」

 

 静刃の咄嗟の叫びに反応したのかナオトは身をかがめた。頭上に物凄い勢いと速さでマキリの指貫による刺突が放たれた。火縄銃が発砲した音を立てたかと思う程の音が響くき、壁に亀裂が走った。

 

「あ、危なかった‥‥‼」

 

 もしあれを直撃したら某世紀末救世主に突かれたモヒカン男のようにミンチよりヒドイ末路を迎えていたかもしれない。安心するのも束の間、かがんでいたナオトに向けてマキリがもう一度指剣で突き刺そうとして来ていた。

 

巴局(ハゴク)っ‼」

 

 静刃が妖刕の柄を握ったまま、左足を軸に着けて伸ばした右足を旋回させ、マキリに向けて放った。マキリはちらりと横目で見た瞬間に静刃の右足に指剣を突き放つ。互いの技がぶつかり合い衝撃と旋風が広がった。

 

「————なんつう指をしてんだよ」

「‥‥貴方は誰?騒がしい彼らのお友達?」

 

 静刃は舌打ちして右足を戻すと、反対方向に回転して回し蹴りを放つ。しかしマキリは予想していたのか後ろへと下がり指を弾いて空気の弾丸を放っていた。

 

「腐れ縁だこの野郎‼」

 

 畜生と静刃は空気の弾丸を防いでやけくそに叫んだ。マキリは静刃の体に狙ってもダメージは無いと勘付いたのか、静刃の顔面を狙おうとした。その時、静刃の背中を踏み台にして鵺が飛び掛って来た。

 

「おうおう‼こんな面白そうな輩がいるなんてなぁ!ナオト、早く教えろだじょ‼」

 

 好戦的な笑みを見せて鵺は爪を突き立てて切り裂こうと両手を振り下ろそうとした。だがそれよりも早くマキリが空気の弾丸を放ち鵺の両手を弾き、鵺はバンザイの状態のまま無防備になりマキリが飛ばしてくる空気の弾丸に何度も直撃してしまう。

 

「あだだだだっ!?だからそれやめろ‼反則だじょ‼」

「当たっても手応えは無い、彼女はもしや妖の類か‥‥」

 

 マキリは静刃と鵺を見つめる。騒がしい彼らの仲間がまだいたとは、マキリは予想だにしていなかった。片方は動きを読み、もう片方は妖。

 

「これは…少しばかり面倒ですね」

 

 気づけばナオトが再びこちらに迫ってくる。真正面からとはなんとも無防備な、マキリは内心呆れていたが警戒する。何を考えているのか分からない相手は油断はできない。空気の弾丸は既に読まれている、ならば一思いにもう一度指剣で突き刺してやろう、と4本指で突き刺そうと構えた。ナオトが懐に迫り、前へ一歩踏み出したと同時にマキリは指剣を放った。

 

「ナオトっ!?」

 

 バーミリオンの瞳に『警戒信号』が表示され無謀だと静刃が咄嗟に叫んだ途端、ナオトの体がビクリと反応した。言うなれば、ナオトはビックリしたのだ。ビックリしたと同時に体が横へ少し逸れ、放つはずであった右手とは反対に左手で掌を放った。マキリの刺突は横腹を掠め、同じようにマキリの体に拳が掠める。

 ナオトの不規則な動き、ビックリナイフならぬ『ビックリパンチ』にマキリは静かに見開いた。まさかここまで肉薄してきたとは思いもしなかった。かつてイギリスでマンホールに穴を開けて落としたタクトのように、不覚を取らされるなんて。

 

「やはり‥‥貴方達は脅威、私達を脅かす存在になる」

 

「‥‥びっくりした‥‥!」

 

 ナオトはびっくりしたままマキリの話は聞いていないが、ここで始末をしなければ本当に脅威、天敵になる。ここは完全に抹殺しなければ‥‥マキリは本気で始末しようと構えた。

 

 その時、どこかで盛大に何かが切断されつ音が響いた。すると天井がゆっくりとずり落ちるように斬り崩れていく。

 

「は‥‥!?」

 

 真上で起きたことにナオトはぎょっとした。天井だけでない、自分達の入る場所が音を立てながら揺れている。奥から警報と、悲鳴が聞こえてくる。その後を追うように次第に銃声が喧しく響いてきた。そんな喧しい音を聞いたマキリはため息を漏らした。

 

「フレイヤ、余計なことをしましたね…」

 

 マキリは殺意を解くとくるりと踵を返した。殺気を解いて背を向けたことに静刃は身構える。

 

「逃げる気か…!」

「用事ができました。貴方達の相手はまたいずれ‥‥」

 

 相手にしている暇はないと言わんばかりにマキリは静刃を無視する様に走って去ろうとした。逃げるマキリをこのまま逃がさまいと静刃は追いかけようとしたが、ナオトはムスっとして腕を組んでいた。

 

「鵺‥‥ビーム」

「おっしゃああ‼ビーム解禁だじょ‼」

 

 待ってましたと言わんばかりに鵺は喜び、右目を緋色に光らせるとマキリに向けて緋色の閃光を放った。マキリは後ろをちらりと見て一度見開いていたが、ひらりと躱した。鵺の閃光はマキリに当たることなく突き進み壁を爆破し向こうのガラス張りの壁を突き抜けていく。崩れた瓦礫の土煙が舞いがあり、煙を掻い潜って追いかけたがマキリを見失ってしまった。

 

「…逃げたか」

「じゃ、もう一発でも撃ち込んでやるか」

「お前ら何してんだぁぁぁっ!?」

 

 余計に破壊してどうすると静刃はツッコミを入れた。気づけば下のフロアでは砂でできたアヌビス像が大暴れし、物騒な面をした連中が銃声がドンパチと響き、逃げる客たちは悲鳴を上げて阿鼻叫喚。状況は最悪である。

 

「しゃあねえ‥‥マキリは諦めて、早く遠山と可鵡偉と合流して撤退するぞ‼」

 

 ピラミディオンの惨状を見てきっと今頃獅堂はかんかんに怒っているだろう。そう思いながらも今は抜け出すことに集中しようとした。

 

「ねえ‥‥あれってリストに乗ってる武装組織の連中だよね?」

 

 静刃はナオトの指さす方に視線を向ける。確かに獅堂が渡して来たリストに乗っていた連中だ。誰かを追いかけているようだが、本当に武装組織が潜んでいたとは。

 

「今はそれどこじゃ‥‥」

 

 静刃は止めようとしたが、ナオトと鵺はやる気満々の笑顔に満ち溢れていた。

 

___

 

 一体何が起きているのか、キンジは混乱するしかなかった。可鵡偉と共にナオトを探していたが、天井から何か盛大に斬れる音がしたかと思えば天井と床が斬り崩れ、その直後に銃声が響き銃器を持った物騒な奴等が銃を乱射し、砂と風の嵐が舞い上がったかと思えば、突然何処からともなくアヌビス像の群れが現れその物騒な連中と戦い始め、そして上のフロアから緋色の閃光が突き抜けていったのが見えた。今やピラミディオンは再び戦場と化していた。

 

「遠山先輩‼何が起こってるんですかこれ!?」

「俺にも分からねえよ!?」

 

 ただ分かるとすればアヌビス像だ。あれは間違いなくパトラが作った砂の像。ならばここにパトラがいるのか?キンジは戸惑いながらも辺りを見回す。しかしどこもかしもパニックになって逃げ惑う人ばかり。

 

 その時、キンジはゾクリと殺気を感じた。この殺意は憎しみがと怒りがかなり込められたおぞましい物。キンジ恐る恐る突き刺さるような殺気のする方へと振り向く。

 

 遠くから斬り崩れて丸見えになった3階のあるフロアに黒いドレスを着て黒い羽毛のコートを羽織った女性がこちらを見ているのに気づいた。その女性は片手に黒い剣が握られている。まさかその剣で斬ったのか、キンジは戸惑う。その女性がずっとこちらを見つめて黒い剣を振り上げようとしていた。

 

「キンジ、逃げなさいっ‼」

 

 自分を呼ぶ声にキンジはビクリと反応した。自分の横からスーツを着た巨漢がメリケンサックを握って殴りかかろうとしていたが、その巨漢の男をカナが殴り飛ばした。まさかこんな所に兄、遠山金一もといカナがいることにキンジはぎょっとした。

 

「か、カナ!?何でこんな所に!?」

「それはこっちの台詞‼気をつけなさい!ここで暴れている輩は全員貴方を狙っているわ‼」

 

 それを聞いたキンジはぎょっとする。何故また自分が狙われるのか、心当たりがない。可鵡偉は呑気ながらもにこやかに笑う。

 

「遠山先輩、人気者ですねー」

「それどころじゃないだろ!?」

 

 キンジはホルスターからデザートイーグルを引き抜く。騒然とする中、幾人か退いていく連中の姿が見えるが、明らかにこちらに気づいて向かってくる輩の姿が見えた。やはりカナの言う通り、狙いは自分かとキンジは舌打ちする。ヒステリアモードにはまだなれていない。

 

「遠山先輩、リストに乗ってる相手です。状況は明らかに獅堂さんに怒られると思いますが、仕事はやっておきましょうか」

「フレイヤは去ってくれたようだけど‥‥キンジ、注意しなさい」

 

 可鵡偉は半ばやけくそ気味に戦う態勢に入っていた。カナが言うフレイヤとは誰の事か分からないが、今の状態で迎撃するしかない。

 

「‥‥あれ?」

 

 キンジはふと気づいた。様子がおかしい。武装した連中は確かにこちらに向かってきているが、よく見ると必死に逃げているように見えた。

 

 何が起きているのか目を凝らして見ると、ナオトが只管スタングレネードを投げつけ、相手を投げ倒しては手錠をかけ、鵺が掴んでは投げ、掴んでは振り回して投げと大暴れしていた。そしてその二人を必死に静刃が止めようとしていた。

 

 どったんばったん大騒ぎどころかもはや大乱闘。ピラミディオンは崩壊し内部はあちこち壊され荒らされとやりたい放題と化している様を見てキンジは遠い眼差しで可鵡偉に尋ねた。

 

「これ、結果的にどうなんだ‥‥?」

「そうですね‥‥獅堂さん、怒り狂ってると思いますよ?」

 

 可鵡偉はもう諦めていた。もうどうにでもなれとキンジは項垂れる。とりあえず危険は去りそうだとカナは安堵したが、壊しながら大暴れしているナオトを見て苦笑いをこぼした。

 




 今日の被害者はピラミディオンさんでした。

ピラミディオン「原作で滅茶苦茶にされたのに、更に滅茶苦茶にされたでゴザル」

オベリスク「一度ある事は二度もあるで」
ホワイトハウス「せやな」

 次の被害者は誰かなー‥‥

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