カオスな4人衆!?最強のSランク武偵を目指せ‼   作:サバ缶みそ味

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 遅くなりました!
 7月ギリギリ滑り込みセーフ!(大遅刻

 暑さのせいで疲れがとれない……
 各地はどんどんと酷暑になっていくようで、皆さんも熱中症には気を付けてください


141話

「たっくん、もっくん、やっくん…」

 

「さっきからあんた何やってんの?」

 

 夜が深くなり行き交う車も人も見えなくなっても尚煌々と輝く街中にある一つの高層ビルの入り口の前にタクト達は立っていた。先ほどから楽しそうにリズムをとっていたタクトに虞美人はジト目で睨んだ。

 

「ふっふっふ、俺の自慢のラップを披露しようと練習しようとしていたのさ!」

「いや、そんなのはいいから。ていうか全然ラップでもなんでもないのだけど」

 

 こうは言ってもタクトは止めることなく偽ラップを口ずさみノリノリでくねくねと踊り出す。聞く耳を持たないタクトに虞美人は頭を抱えて大きなため息を漏らす。果たして彼を連れて大丈夫なのか、虞美人はますます不安になった。

 ここまでの道中、人の話は聞かないし余所見をして勝手にうろうろしだし迷子になりかけたりと何度も路線をはずされたことか。更にはこの状況をちゃんと理解しているのか。否、彼は理解していないだろうと虞美人はタクトを嫌そうに睨む。

 

「あんたねぇ…敵の拠点の前にいるのよ?自覚というものはないの?」

「え?エナジーボンボン?重要だよね!」

「もうやだ会話にならない…」

 

 今自分達がいる場所の目の前にある高層ビルは上海藍幇の新拠点であり、今は董卓の私用の建物の一つである。董卓を捕らえ、この抗争の終息と黒幕を暴く為に潜入するというのにタクトから緊張感というものが微塵も感じられない。

 

「燕青と鉄牛は準備があるとかいってどっかいくし、このバカと一緒に待たされたらこっちの身が持たないっての…!」

「よーし、兎に角入ってみようぜぇ?」

「だから待てといってるでしょうが!?」

 

 勝手に我先にと入口へと入ろうとしたタクトの首根っこを掴んで食い止める。このまま待たされたら本当にこちらの身が精神的に持たない。早く来ないかと苛立ちを募らせていく。

 

「わりぃわりい‼待たせちまったな‼」

 

 ようやく来たかと大きなため息をつきながら声のする方へと顔を向くと、やって来る鉄牛の隣に顔も姿もタクトにそっくりな人物がいた。虞美人は一度物凄く嫌そうな顔をするがすぐにため息をついてジト目で睨んだ。

 

「確か、あんたは変装が得意と言っていたけれども……馬鹿が増えたかと思ったじゃないの」

 

「まあまあ、俺の十八番なんだから仕方ないだろ?」

 

 身長も顔も体つきもタクトとそっくりだが声だけは燕青の声であり、姿形が全く同じであることにタクトは目を輝かせていた。

 

「すっげええ!いなれば双生児ドッペルゲンガーでしょ!」

 

「すげえだろ。燕青の変装は誰にも簡単には見破れねえんだぜ?」

「鉄牛、あんたが自慢することじゃないでしょうが」

「後は声を真似るだけなんだが、タクト何でもいいから何か言ってくれねえか?」

 

 唐突に振られてタクトは腕を組んで渋い顔をしながら考え込んだ。別に深く悩む事ではないのだがと虞美人は心の中でツッコミを入れながらジト目で睨む。考えること数分、しばらく考えたタクトは何か閃いたのか変顔をしてしゃべりだした。

 

「嗚呼……アンパンマぁン、おなかすいたよぉ」

 

 いつもの声ではなく声帯は低くどこかバカっぽい声でしゃべりだした。タクトがいきなり変な声を発してきたので虞美人達は一瞬固まる。

 

「いや…あんたなんなのそれ?」

「え?バカオくんの物まね!……あぁ、アンパンマン。暇つぶしにパチンコ行ったら15万無くなっちゃったよぉ」

「いやあの…ふ、普通に喋ってくれる方がありがたいのだけど…」

 

 燕青は困惑していたがバカオくんの物まねが楽しいのかタクトは止めることなくバカっぽく喋り続けた。

 

「あぁ…あぁ……あぁ…あーバカになるまで時間がかかるよぉ」

「だから普通に喋りなさいよ普通に‼」

 

 何も進展もしていないので我慢の限界に達した虞美人がタクトにげんこつを入れた。タクトは何で怒られたのだろうかと疑問に思いながらも渋々真面目に喋ることにした。

 

「んんー、ん゛んっ…こんな感じでどうだい?」

 

「おおーっ‼俺の声にくりそつだー!」

 

 声もタクトと同じ声になり完全に彼に変装した燕青にタクトは目を輝かせる。二人が並ぶとタクトがふざけた行動しない限り誰もがどちらかが本物か見破るのは難しいだろう。ようやく次の行動へ移せると虞美人は背伸びをする。

 

「さてと…ここから正念場ね。燕青、鉄牛、私たちはどうすればいい?」

 

「姐さん達は裏からまわってくれ。裏口の通路を通ればエレベーターがある」

 

 燕青は懐から紙を虞美人に渡す。紙には内部の構造図やダクト、部屋の配置図などが書き記されていた。

 

「今夜は鬼一族らの要人が来ている。奴さん達はそっちに集中してるだろうし、あとは董卓の女好きっていう性悪のおかげか男の警備は少ない」

「残るは左慈ね…術を張られてなければいいのだけど」

 

「どうにかなるなるー!張り切っていこうぜ‼」

 

 一体どこからそんな自信が来るのだろうか、他人事みたいにこの状況にわくわくしているタクトに虞美人は肩を竦める。しかし彼女とは反対に鉄牛と燕青は気楽に笑った。

 

「おうその意気だぜ!俺と燕青で時間を稼ぐ、そっちは任せたぜ?」

「なるべく偽物だとバレねえようにやってやる。姐さんとうまく潜入してくれ」

 

「おっけー!この日本界のジェームズと呼ばれているかもしれない可能性もある菊池タクトに任せておけ‼」

 

 自信満々にサムズアップするタクトに本当に任せても大丈夫なのだろうかと虞美人の不安はさらに募っていく。そんな彼女の不安を察することなく燕青と鉄牛は董卓のいるビルへと入っていった。

 

「さあ行こうぜぐっさん‼俺たちのターンだぜ!」

「正面から入っていくな!?あと、気安くぐっさんと呼ぶな!」

 

 正面から入っていこうとするタクトの首根っこを掴み裏へとまわっていく。辺りを警戒しながら裏口から内部へと潜入すると中は静寂で閑散としており人の気配はない。燕青の言っていた通り今の警備は薄いようだ。

 

「手薄とはいっても監視カメラは設置されているようね…左慈の罠もあるかもしれないしここから先は慎重にry」

「ゴーゴーゴーゴーゴゥ‼」

 

 虞美人が注意する前にタクトは大声を出しながらドタドタと通路を駆け抜けていってしまった。監視カメラをも無視し人の気配がないからとはいえ無防備にしかも見つけてくれと言わんばかりの大声で走っていったあの有様に虞美人はさらに怒りを募らせていく。内心もうほっといていきたいが何かがあるかわからない、うんざりしながらもタクトを追いかけて行きエレベーターの前で立ち止まっている彼に追いつくと怒りを込めて睨みつけた。

 

「あんた…‼何してんのよ!?バカなの!?」

「どうもぉ!ゴウでぇす‼」

「本当に会話になんない‼」

 

 タクトは一体何を考えて行動しているのか、会話のドッジボールの状態が続いていることに虞美人はうんざりとする。きっと監視映像の中に鮮明に映されているだろう、来てしまったからにはもう後戻りはできない。虞美人はやけくそ気味にエレベーターのボタンを押す。

 

「ああもう…こうなったらやけくそでやってやろうじゃないの。そんでさっさとこのバカとおさらばするわ!」

「へーい、落ち着いて行こうぜぇ?」

「誰のせいだと思ってんのよ!?」

「うーん……生理?」

「はったおすぞ!?」

 

 そんなやり取りをしているうちにエレベーターの扉が開いた。こんなことに時間を費やしている場合でないとイライラしながらタクトと共に乗り込み董卓らのいる最上階へと目指した。エレベーターで登っている間にもじっとできないのかタクトが「ここでオナラしたら面白いよね」とか言い出すので黙ってほしいという意図を組んで拳骨を入れた。

 エレベーターの扉が開き目的地である階へとたどり着くと再び辺りを警戒して注意深く見まわしていく。敵がいないことを確認し、懐から内部が書かれている図を取り出してダクトの場所を探し始めた。ようやく中へ入れそうなダクトを見つけると改めてタクトに注意する。

 

「いい?ここからが用心しなさいよ?ダクトを通して董卓のいる場所へと向かうわ。左慈の他に上海藍幇の刺客もいるかもしれない。相手に気取られないように慎重に行くわよ?」

「おっけーい‼騒いだりしたら容赦しねえぞ‼」

「それはこっちのセリフだっての‼」

 

 本当に何様なのだろうか。これ以上相手してたらこちらの調子が崩れてしまう。気を取り直して大きいダクトへと入り込み、地図を見ながら董卓のいる場所へと進んでいった。タクトがちゃんとついてきているだろうか、勝手にどこかへ行こうとしてないか注意しながら進んでいくとふと鼻にツンとくるような酒の匂いが匂ってきた。匂いのもとを探って進み、網目の部位から様子をのぞいてみた。

 赤と金の龍の装飾が施された柱に派手に彩られた龍や鳳凰の像が置かれたなんとも絢爛豪華なホール。そして自分たちが覗いている場所の真下に大きな大理石の円卓に並べられた豪勢な料理に舌鼓を打ちながら上機嫌に酒を飲んでいる董卓の姿が見えた。

 

「…いたわ」

「でかした‼」

「声デカすぎよ⁉静かにしてなさいって!」

 

 大はしゃぎをするタクトを咄嗟に叱り気づかれていないか焦りながら辺りを除く。それもそのはずそこにいるのは董卓だけではなく左慈や董卓側に寝返った3人のココの姿もいた。下手に騒げばすぐに察され見つかりかねない。

 

「うん?他にも誰かいるみたい」

「あれは…」

 

 彼らのほかに円卓を囲ううに座っている人物の姿が見えた。どこか和風にみえるがアフリカチックな衣装を着た赤銅色の髪で筋骨隆々な女性と長い黒髪の女性、そして周りを気にせず料理を頬張っているクセのある赤銅色の髪をした少女だった。よく見るとその女性たちは頭から角のようなものが生えていることにタクトは気づいた。

 

「なんか角がついてる…」

「あれが鬼一族よ」

「あれが⁉」

 

 想像していたのと違っていたのだろうか、タクトは目を丸くして驚く。今更動揺したのかと虞美人は肩をすくめてため息をついた。

 

「今更怖気ついてどうすんのよ…」

「なんてこった……トラ柄のパンツしてるのかどうか聞きづらくなった」

「そっちか⁉」

 

 なんとも緊張感のないことか。この先本当に大丈夫なのかと虞美人の不安はさらに募っていく。

 

「でもあいつらが手を組んだらなんか厄介だなー」

「そうでもないわよ?ちっこいのを除いてさっきから鬼の連中は董卓を睨んでいるみたいだし」

 

 虞美人の言う通り小さい鬼の少女を除く残り二人の鬼は酒も料理も口にすることないまま殺気を込めて董卓を睨み続けていた。一手でも違えば即座に董卓に襲い掛かるような勢いを込めており、一触即発の雰囲気が漂っていた。そんな鬼たちに対して左慈は無言で見つめ、董卓は彼女たちを眺めながら上機嫌に酒を飲み、ココ3姉妹はその様子をビクビクしながらオドオドしており、そして隣には黒いミニチャイナドレスを着た少女の姿も見えた。その少女は炎の形をした槍を持ち、眠たそうに欠伸をしていた。

 

「お?見かけない顔もいる」

「あれは哪吒…!」

「知っているのか雷電!」

「誰が雷電よ!彼女は上海藍幇の戦闘員。かなり手強い相手よ……ったく、これじゃ下手に奇襲はできないわね」

 

 虞美人は苛立ちながら舌打ちをする。鬼一族に左慈と哪吒、両者共動きを伺っており長いこと膠着状態が続いていたようだ。その最中で出てしまったら袋叩きにされるかもしれない。

 どうするかじっと考えていると、そこへ鉄牛とタクトに変装している燕青がやってきたのが見えた。彼らの姿を見た董卓はグイっと酒を飲み干すとガハハハと喧しいくらいに大声で笑いだした。

 

「ガハハハ‼ようやく来たか‼そいつが例の小僧か‼」

 

「鉄牛、随分と時間がかかったようだな?」

 

「ああ…ちょこまかと逃げ回ってたもんでかなり手を焼いちまったぜ!」

 

 董卓ならともかく左慈には見破られないようにしなければならない。鉄牛は焦りながらも誤魔化していく。

 

「ところで燕青の姿が見えぬが如何した?」

「え、燕青ならこいつの仲間を捕まえに行ったぜ!戻るまで時間かかるかもしれねえなぁ」

「……」

 

 どうしてこうも誤魔化すのが下手なのだろうとタクトに変装している燕青はジト目で鉄牛を睨む。左慈はただ軽くうなずくとじっと変装している燕青を見つめ続けた。変装がバレたらどうなるか、燕青は緊張と焦りで汗を流す。

 

「よいよい‼左慈よ、そう疑う出ないでない!折角のうまい酒が不味くなる‼」

 

 不機嫌に睨む董卓に左慈は頷き一歩下がった。董卓が腑抜けで助かったと鉄牛と燕青、虞美人はホッとする。再び酒を飲み始めた董卓はニンマリと鬼達のほうへと視線を向ける。

 

「グフフ…かの鬼の一族、思った以上の美女たちでより酒が美味くなるわい」

 

 董卓の下種な笑いについに我慢の限界か、筋骨隆々の鬼の女性が円卓を強く叩き董卓を睨みつけた。

 

「そろそろ我々をここへ呼んだ訳を聞かせてもらおうか。我と津羽鬼ならまだしも覇美様の来訪を望むとは何のつもりだ?」

「鬼を顎で使う始末、内容によっては貴様らにはそれなりの代償を受けてもらうぞ?」

 

 筋骨隆々の鬼の女性に続いて津羽鬼と呼ばれた鬼の女性も殺気を込めて董卓を睨みつけた。津羽鬼はすでに手に太刀を携えておりいつでも斬りかかる用意をしていた。

 

「……鬼、野蛮。騒ぐなら、黙らせる」

 

 すると先ほどまで退屈そうに欠伸をしていた哪吒が彼女らの殺気に反応したのかゆっくりと炎の形をした槍の切っ先を鬼たちに向けて睨み返した。緊縛した空気がさらに濃くなっていく。両者にらみ合いいつ戦闘になるかわからない。びりびりとくる殺気に覗いていた虞美人まで冷や汗を流す。タクトがこの空気に押されていないか、ちらりと横を見ると肝心のタクトは退屈そうに鼻をほじっていた。

 

「で、まだ出ちゃダメ?」

「吞気か⁉というか鼻をほじるな‼」

 

 状況をちゃんと理解しているのか。他人事のように鼻をほじっているタクトに虞美人は頭を抱える。そんな中で殺伐としてにらみ合う両者に動きがあった。覇美と呼ばれた少女が肉を頬張りながら手を挙げた。

 

「閻、津羽鬼、無暗に手を出さない。料理、不味くなる」

 

 覇美はムスッとした表情で閻と津羽鬼をジト目で見つめた。そんな覇美に睨まれた二人はすぐさま殺気を沈めて覇美に詫びた。

 

「あのチビッ子、ボンボンなの?」

「あんた知らないの?あの少女こそが鬼一族の長である覇美よ。あの鬼の中でもかなり強いわ」

「マジか…うわようじょつよい」

 

 そう言いながらタクトは欠伸をする。絶対にまじめに人の話を聞いていないだろう、と虞美人は横目で睨んだ。覇美と同じように董卓も手で哪吒に動くなと合図した。

 

「ガハハハ、そう怒るでない。儂がお前達を呼んだ理由は二つ。まず一つは上海藍幇が香港藍幇を制しこの大陸の裏を支配するために同盟を組みたい」

 

 同盟と聞いて閻と津羽鬼は表情を険しくしだした。様子からして同盟は絶対に不可能のようだ。覇美もその言葉を聞いて不機嫌になったようで董卓を睨んでいた。

 

「香港藍幇、猴がいる。猴、覇美の友達。お前たちの同盟、大反対!」

 

 覇美はあっかんべーと董卓にいやそうに舌を出し、ガウガウと牙をむいた。

 

「董卓、貴様は正気か?そのようなくだらぬことのためだけに我らを呼び、更には覇美様を怒らせた」

「覚悟はできているかしら…?」

 

 閻と津羽鬼は立ち上がりいつでも戦闘に切り替われるよう構えた。交渉は完全に決裂、鬼と戦闘になりかねない最中に董卓は大笑いをして話を続けた。

 

「ガハハハ‼この同盟なぞ破棄されることはすでに知っておるわ!言ったであろう?お前達を呼んだ理由はもう一つある。お前達に会わせたい人がいるのだ」

 

 董卓が言い終えたと同時にコツコツと靴の鳴る音が響いた。暗がりから白いスーツを着た物柔らかそうな男性が現れた。閻は警戒してその男性に睨みつける。

 

「誰だ貴様」

「どうも初めまして。私、元猿楽製薬社長の木村雅貴と申します。今はNの構成員でありますがね」

 

 殺気むき出しの鬼達に木村は怯えることなくさわやかな笑顔で挨拶をした。飄々とした成に反してどこか底を知れない気配を察した閻は鋭くにらむ。

 

「Nか……うわさに聞いていたが。それよりも貴様、本当に人間か?」

 

「さあ?どうでしょう………もっとも鬼の貴女方ならわかるのではありませんか?」

 

 さわやかにほほ笑む木村に閻は警戒する。すると突然ガシャリと皿が割れる音が響いた。見れば覇美が立ち上がり木村を睨んでいた。その様子は怒りと驚き、そして怯えが見えていた。

 

「この嫌な臭い……貴様はもしや……!」

「これはこれはお久しぶりですな。覇美様……緋緋神様とお呼びしたらよろしいですかな?」

 

 木村に対して只ならぬ殺気と怒りと怯えを見せている覇美を閻と津羽鬼が彼女を守るように前に立つ。突然の状況に虞美人も焦っていたがふと何かを感じた。

 

「確かに…この嫌な臭い……どこかで」

「あ?ごめん、おならしちゃった」

「この馬鹿が‼」

 

 虞美人はすぱーんとタクトを叩いた。というかこんな状況でおならをするんじゃない。タクトのおならは置いといて、覇美の言う通り木村という男から臭った。間違いなくあの男はただの人間じゃない。人間に化けたナニかだ。

 

 その時、バチンと何かが割れて弾けた音がした。するとその音が響いたと同時に覇美ら鬼達がガクリと膝をついた。力を奪われたのか苦しそうにしており、閻が木村を苦しみながらも睨みつけた。

 

「力が…貴様、何をした……‼」

 

「おやおや、()()()()()()()。ですが私の仕業ではありません。彼女が待ちきれなかったようです」

 

 木村はちらりと暗がりのほうへと視線を向けた。そこには朱と金色の絢爛な民族衣装を着た長い金髪の女性の姿があった。その女性の後ろには九つのモフモフとした金色の狐のしっぽがゆらゆらとしていた。その女性を見た董卓はでへへと笑う。

 

「おぉ~玉麗!お主がわざわざ手を下さなくても!忌々しい鬼共にお主の美しき姿が汚されてしまう!」

 

 玉麗と呼ばれた女性は持っていた朱色の扇子を広げて口を隠しながら軽く笑った。

 

「申し訳ありませんわ董卓様。ですが私、待ちきれませんでしたの。せっかくの()()()ですもの」

 

玉麗はオホホと笑いながら力を失っている覇美達へと視線を向ける。

 

「さて、分け前は2と1。話はそれで宜しくて?」

「ええ、緋緋神がいなくても彼女は緋緋神の依代。それらを喰らうことが私の目的ですから」

「オホホホ、相変わらず随分と欲張りですのね、木村社長………いえ、影鰐と呼べばいいかしら?」

 

 影鰐、その言葉を聞いた鬼達、そして虞美人や燕青達はぞくりと言葉を疑った。

 

「嘘でしょ⁉あいつが影鰐…⁉でも影鰐は…千年前に封印されたはず…」

「え?そんなにやばいの?」

「ヤバすぎるわよ⁉影鰐という化け物にあの玉麗まで…‼」

「あのモフモフ狐尻尾ちゃんも知ってるの?」

「知ってるわよ!そいつらが手を組んでたなんて迂闊だったわ…‼たっくん、すぐに逃げるわよ。この戦い、明らかに相手が悪すぎる」

 

 Nという組織は知らないが影鰐がいることで鬼も香港藍幇はもう助からない。燕青達には悪いがこちらには打つ手がないので逃げさせてもらうと虞美人は引こうとした。そんな中、タクトはガシャンガシャンと金網を叩き出した。

 

「ちょ、あんた何してんのよ⁉見つかるわよ⁉」

「諦めたらここで試合終了だって安西先生が言ってた!」

「誰よ⁉というかこんなことしてないで早く逃げるのよ!」

 

 この戦いは人間が勝てる相手ではない。虞美人はタクトを止めようとするがタクトはやめようとしなかった。

 

「状況わかってんの⁉無理なのよ⁉」

「最初っから無理だと決めつけるのは早いよ!やってみる価値ありまっせ‼」

 

 タクトはそう言いながらガシャンと強く叩いた。すると金網は外れ、金網と鉄板とともに二人は落ちた。

 

「いやっふぅぅぅぅっ‼」

「ぐへえええっ⁉」

 

 タクトの楽しそうな叫びと同時に誰かの野太い悲鳴が響いた。そういえば自分たちの真下には董卓が上機嫌に酒を飲んでいたはず。虞美人は恐る恐る鉄板の下を見ると、案の定董卓が鼻血を出してのびていた。

 

「ぬっ⁉何奴じゃ⁉」

「これは…燕青、うまく謀りましたな」

「おやおや、ネズミがいたと思えば思ったより大きなネズミですね」

 

 玉麗が驚き、左慈が唸り、木村がにこやかにほほ笑み、ココ3姉妹と燕青らがぎょっとしている最中、タクトはキョトンと辺りを見回して気絶した董卓を見る。

 

「敵将討ち取ったりぃぃぃっ‼これで俺たちの大勝利‼」

「大ピンチよ、この大馬鹿がああああっ‼」

 

 敵の目の前で大喜びして叫ぶタクトに虞美人が涙目でツッコミを入れた。




 4人のホラーゲーム実況を見てたらホラーなんて吹っ飛んだ。
 この4人にかかればホラーもカオスになるんやなぁ(白目

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