カオスな4人衆!?最強のSランク武偵を目指せ‼ 作:サバ缶みそ味
25話
「なぁケイスケ…」
キンジは右隣の席に座っているケイスケに尋ねた。9月1日、ほとんどの学校がその日から2学期が始まり始業式が行われている。武偵高校もその日から始業式が行われ、世界初の武偵校・ローマ武偵高の制服を模した『
校長が演説している中、キンジはあることが気になって仕方なかったのでケイスケに聞いてみた。左隣に座っているキンジの親友である不知火も武藤も気になっていた。尋ねられたケイスケは横目で返す。
「あ?どうかしたのか?」
「なんであのふたりはFXで有り金全部溶かしたような顔してんだ…?」
ケイスケとリサの隣に座っているカズキとタクトがFXで有り金を全部溶かしてしまったかのように、いろいろな感情を追い越した完全な無の表情、または魂が抜けたかのように呆然としていた。そんな二人を全く哀れむことなくケイスケは即答する。
「ヒント、あいつらの夏休みの宿題が終わったのは1時間前な」
「あっ…」
キンジ達はその一言を聞いてすべてを察す。あの島で夏休みのほとんどを費やし、帰ってきても遊び尽くし、夏休みの宿題の存在に気づいた頃は夏休み最終日。既に済ましたケイスケにしごかれながら取り掛かった結果、あのような無残な姿になってしまったのである。不知火はそんな二人に苦笑いをする。
「災難だったね…」
「不知火、夏休みで遊びすぎた末路を辿ったバカどもに同情する必要はないぞ?」
「お、鬼だな…」
きっぱりと切り捨てるようにあしらうケイスケにキンジと武藤は苦笑いする。
「そう言えば、遠山君。君、また女性関係でスキャンダル起こした?」
哀れな二人の話を変えて不知火がニコニコとしながらキンジに聞いてきた。それを聞いてキンジは苦虫を食い潰したような表情をとる。
「何でそんな事知ってんだよ」
「強襲科の剣道の朝練で神崎さんが大荒れだったし…今朝、遠山君が狙撃科のレキさんと女子寮から登校したって話を聞いたからね」
不知火はキンジの足下にいる白いコーカサスハクギンオオカミのハイマキの背を撫でる。武藤は恨めしそうに、ケイスケは呆れてキンジを見る。
「マジかよ。今度はレキか!何となくわかる気がするけど…レキは隠れファンが多い見たいだしよく、背後から狙われるぜ?」
「理子の次はレキかよ‥‥お前ほんと爆発すればいいのにな」
ガックリと項垂れるキンジに不知火とケイスケが同情するようかのよに視線を向ける。
「神崎さん、レキさんとは仲良かったからね。友達と恋人を失って少し鬱気味だったよ?」
「キンジ、頼むからスクールデイズみたいな感じで刺されて死ぬんじゃねえぞ」
「俺を何だと思ってんだ」
うんざりするようにキンジは更に項垂れる。最近キンジの周りではアリア、白雪、理子と女の子とイチャコラしている噂が絶えない。いつか昼ドラのようにドロドロなことが起きるんじゃないかと予感はしていたが既に起きかけている事にケイスケはため息をつく。
「『
修学旅行。武偵高では、2年次に2回の修学旅行が行われる。その一回目が『
2年生になると、9月末までに2~8人のチームを組んで学校に登録しなければならない。チーム制度は重要視され、国際武偵連盟に登録される。武偵はチームで将来も活動し、仮に進路で分かれていてもチームの協力関係は最優先とされている。
「心なしかキンジのチームが何となくわかってきた」
「奇遇だなケイスケ。実は俺もだぜ」
ケイスケと武藤がジト目でキンジを見る。チームには強襲系、通信系、混成系と様々な種類があり、それぞれのチームが連携し合う。組み合わせもただ仲良しグループが集まるといった班を作るわけではなく、戦略的に優れたチームを作らなければならない。
「お前らな…俺はまだ決まってないからな」
「天露君のチームはもう決まってるのかい?」
不知火がニコニコとケイスケに聞いてきた。ケイスケは視線を向ける。ハテナと首をかしげているリサ、FXで有り金全部溶かしたような顔をしたカズキとタクト、そして鼻提灯を膨らませながら寝ているナオト。
「…リサ以外まともな面子じゃねえな」
結局此奴らと組むんだろうなと頭を抱えた。
___
「いぇええい‼俺復活なんですけどー‼」
始業式が終わり、貸衣装である防弾制服・黒を返却した後、カズキは魂を取り戻したかのようにハイテンションで更衣室を出て行った。そんなカズキにナオトはうるさそうに耳を塞いでいた。
「宿題さえ終わっていればこっちのもんだぜえええっ‼」
同じく無事に始業式が終わったことでタクトも調子を取り戻していた。二人仲良く騒ぎ出してナオトはやや疲れ気味に項垂れる。
「なんで俺に任せるんだよ…」
肝心のケイスケとリサは始業式終了後に行われる『水投げ』で出てくるであろう怪我人に備えて先に救護科棟に行っていた。
『水投げ』とは、校長の母校で行なわれていた「始業式の日には、誰が誰に水をかけて良い」という変わった喧嘩祭が武偵高校では「徒手なら誰が誰にでも喧嘩をふっかけてもいい」というストリートファイト的なルールになって伝播しているのである。
「よし、そうと来れば救護科棟に逃げ込むぜ!」
「あぁーい!逃げるが勝ちぃー」
カズキとタクトは救護科棟に急いで移動する。去年もカズキとタクトは「水投げ」からひたすら逃げ続けていた。タクトに至っては「スーパー弱いね!」と言われて誰も吹っ掛けてこなかった。
「もうセーラに言われたことを忘れたの?」
「はっはっはー。ナオトは心配しすぎだぜ」
「そうだぞナオト、急がば回れだぞ?」
ナオトの心配をよそに二人は笑って流す。日本に戻ってきた時、ジョージ神父は少しの間、セーラを連れてヨーロッパへ出かけてくると言っていた。別れる際にセーラがカズキ達に「これから起こる戦いに備えろ。もしくは腕をあげておけ」と言い残したのだった。
「そもそもどうやって鍛えろって話だよなー」
「頑張る!」
「…たっくん、それ答えになってない」
どうすればいいかここで考えても答えはない。というよりも水投げの標的になり兼ねないので3人は路地裏へ歩いて行った。
「あれ?あそこで絞められてるのってキンジじゃね?」
路地裏を歩いていくとキンジの姿が見えてきた。よく見ると清朝中国衣装を着た黒髪のツインテールの少女に裸絞めされている。まさか路地裏なら被害に会わないと思っていたのにまさかここまでつけられているとは、3人はこっそりと近づく。
「キンジ、何してんだ?」
カズキが声を変えると、少女はハッとした顔で、キンジは藁にも縋るかのように苦しみながらもカズキの方を見た。
「きひっ‼キンチの助っ人ネ?」
少女はにやりと笑い、妙な訛りで声を掛けてキンジから離れて好戦的な目でカズキ達を睨む。拘束から外されたキンジは咄嗟にカズキ達の方へ転がり込む。
「助かった…気をつけろ、こいつは本気で殺しにかかってくるぞ!」
キンジの焦り様を見てカズキとタクトはぎょっとする。少女は「きひっ」と甲高い笑い声をあげて挑発していた。
「武偵の男共は情けないヨ。名前、ココというネ。お前も名乗るネ」
「えっと…と、遠山キンチだ」
「同じく、シティーハンター・遠山きんちだ!」
「‥‥キンジ」
この流れからすると明らかにキンジ絡みの厄介事。巻き込まれるのは面倒なので会えて他の人の名で名乗る。それを聞いたココは目を丸くする。
「ファッ!?ま、まさかお前ら
「嘘をつくなよ!?ココ、こいつらは吹雪カズキに菊池タクト、江尾ナオトだ」
「キンジてめこのやろー‼ごまかそうと思ったのに!」
「空気読めよ‼これからジェットストリームアタックをかけるところだったんだぞ‼」
そんな三連星を見たくねえよとキンジはツッコミを入れる。驚いていたココはほっと胸をなでおろして拳を構えた。
「変わった奴等ネ。面白そうだからお前達も試してやるヨ」
「まあまあ、そう気を立てないでさ。ここはピースフルにいこうぜ?」
タクトがココを宥めさせようと近づくとタクトの腕を掴み投げ倒し、腕と足を絡めて裸絞めをしてきた。
「ピースフルゥゥゥッ!?」
「きひっ‼お前弱すぎネ!」
「当たり前だろ!たっくんは格闘に至って『スーパー弱いネ』なんだぞ‼」
「カズキ、それフォローになってねえぞ」
キンジは横目でカズキを見ながらツッコミを入れる。吞気にしている場合ではないがココの変則的な動きに中々近づけずにいた。もし助けようと近づけばすぐに標的を変えて襲い掛かってくるに違いない。
「な、ナオトー!た、助けて―‼」
タクトの必死な叫びにナオトはすぐに動いた。ナオトは一歩踏み込みを入れて、すぐに二歩目を踏まず、一気にココの目の前まで飛んだ。目の前まで近づかれたことにココは驚きを隠せずにいた。ナオトは肩、体を使い体当たりをした。ココはとっさにタクトの拘束を外し、防御して吹っ飛ばされる。しかし空中でくるりと回転し着地をする。
「靠撃…面白いヨ。お前、八極拳を使うネ」
いいのか悪いのか、ココは更に好戦的に笑う。ナオトは無言で拳を構える。その時、キンジの後ろにいたハイマキが背中の毛と尻尾を逆立たせて唸り声をあげナオトの横に並ぶ。
「…姫の飼い犬の方がキンチより役に立ちそうネ」
ココは身軽にゆっくり後ろに下がり路地裏の方へ引いいき、キンジ達に向けてアカンベーとベロを出した。
「私は『
「万武って…お前、まさかお前こそ真の三国無双だったのか!?」
なんとか体が自由になったタクトが目を輝かせてココのほうを見た。それを聞いたココは少し驚いたような顔をしたがニッ笑う。
「三国無双‥‥タクト、お前は及第点やるネ。ナオトは85点ネ。キンチは追試ネ。また採点してやるヨ、
ココは手を振って角の向こうに姿を消していった。ナオトは腕を降ろして一息つき、キンジは呆然とし、タクトはバイバイと手を振っていた。ぼーっと見ていたカズキはあることに気づく。
「おおい!?俺は無視かよ!?俺は一体何点だよ!?」
___
「しっかし、お前も派手にやられるんだな」
救護科棟にてケイスケはアリアの手当てをしていた。傷はかすり傷程度で軽い。リサに消毒してもらったり、絆創膏を張ってもらっているアリアは相当苛立っていた。
「あのあたしそっくりの奴に
ツインテールをフリフリと振り回すアリアを見て不知火が言っていたことを思いだす。かなり荒れているとは言っていたが相当お冠のようだ。
「その2Pカラーは置いといて…他の理由でかなり機嫌が悪そうに見えるな」
ケイスケに言われて図星なのか視線を逸らすがムスッとして愚痴を言いだす。
「当たり前じゃないの‼レキが…あたしに断りもなく、勝手にキンジと2人チームの申請をしてたのよ‼」
ケイスケの予想通り、すでにドロドロしだしていたことに内心ぎょっとする。チームの登録の際、すでに組んでいた戦っていた生徒を横取りするのは禁止事項とされている。
「あの寡黙なレキがな…」
ケイスケはコーヒーを飲みながら考えた。かの誰にでも対して無表情でいるレキが積極的にキンジに寄りかかるなんて、よっぽどのことがあったのだろうか、いやあの女たらしにはよっぽどのことがあるに違いない。そう考え込んでいるケイスケにアリアはプンスカと怒る。
「飲んでいる場合じゃないわよ‼これは私にとって大問題なのよ!?ったく、レキに文句言わないと‼」
「そう言えばレキ様でしたら…」
今朝女子寮からキンジと学校に登校したと言おうとしたリサにケイスケは黙って首を横に振る。言ってはならない。言ってしまえば余計面倒な事になると静かに伝える。
「もう‼プンスカが止まらないわ‼ももまんでも食べに行く!」
アリアは苛立ちながら医務室を出て行った。やっと静かになったことにケイスケは一息つく。
「よろしいのですか?アリア様に伝えなくて」
「いいんだよ。あいつらの問題だ。振り回されているキンジが悪い」
こっちにはこっちで問題がいくつかあるのだ。それを勝手にキンジ達のいざこざまで乗せられたらたまったもんじゃない。というよりもキンジの奴はいつか刺されるのではないかとケイスケは心配する。
「えっと…それにアリア様は治療費を払わずに出て行きましたけども…」
「‥‥よし、次治療するときは倍にして請求してやる」
李書文の八極拳、葉門の詠春拳、spiritのジェット・リーが演じる霍元甲の秘宗拳、ジャッキー・チェンが演じた酔拳。
皆さんはどんな中国武術が好きですか?