カオスな4人衆!?最強のSランク武偵を目指せ‼   作:サバ缶みそ味

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 今回は戦闘もなく、ぐだっています…ドイツ編も長くなりそう…(遠い目)

 


50話

 静刃は目を覚ました。視界は元に戻ったが、未だに鼻にあの臭いがわずかに残っており少し頭痛がする。辺りを見回すと寝室のようで自分はベッドの上で寝かされていたようだ。

 むくりと起き上がり状況を把握した。いつの間にか背中に背負っていた妖刀は取られている。黒套までは脱がされなくて済んだが、自分の周りにアリスベル達がいないことに気付く。

 

「あの…お気づきになられましたか?」

 

 声を変えられてバッと声の方へ視線を向けた。ドアの近くでリサが心配そうに静刃を見ていた。静刃は相手はメイドであるが警戒を解かず睨み付ける。

 

「他の方達はご無事です。今、階段を降りて下のリビングの方にいらっしゃいますよ。消臭、解毒の手当はしておりますが、もし何かありましたらそちらの呼び鈴でお呼びくださいませ」

 

 リサはぺこりとお辞儀をして部屋から出て行った。静刃は袖に鼻をつけて臭いを嗅いだ。確かに緑の煙からでていた鼻が曲がりそうな臭いは消えている。敵を生け捕りにして手錠も外し、しかも手当もするなんて、彼らが何を考えているのか分からない。リサの言っていることを信じていいものか考えていたが、ここにいても何も始まらない。静刃はドアを開けて辺りを警戒しながら慎重に廊下を通り、階段を静かに一階へと降りていく。

 

 リサが言う通り、リビングにはアリスベル達はいた。彼女達は無事のようだが、その近くにはあの4人組とリサ、セーラそしてジョージ神父がいた。静刃はどうするか潜んで様子を伺っていたが、気配に気づいたのかジョージ神父がこちらを見て愉悦な笑顔を見せた。

 

「どうやら、彼も起きてきたようだね。降りてきたまえ。安心してくれ、私達は何もしないよ」

 

 ジョージ神父がにこやかに静刃の方に視線を向けて語り掛ける。アリスベル達も静刃がいるのかと階段の方を見る。神父は何もしないというが、信用できない。だからと言って降りてこなかったらアリスベル達が危ない。静刃は仕方なしに降りてきた。

 

「静刃くん…よかった、大丈夫だったんですね」

「主役は遅れてやってくる…お前主人公だったのか!?」

 

 タクトが意味の分からない事を言ってくるのを静刃は無視してほっと一安心しているアリスベルと目が合う。彼女も怪我もなく無事の様で一安心した。目と目が合う二人を見てカズキは苦虫を噛み潰したよう顔をしていた。

 

「あいつらリア充かよ…爆発しろよ…」

 

「おい、これで全員が揃った。私達をどうするつもりなのかさっさと話せ」

 

 貘はジト目でジョージ神父を睨み付けた。アリスベルと静刃は現状に気付く。今は戦いに負けて捕虜にされている状態だ。自分も武器を取られているように、アリスベル達も武器は取られている。鵺は未だに手錠をされているようで、静刃は近接戦闘に持ち込めれるが彼女達を守りながらは難しい。それよりも目の前にいるにこやかにしている神父には何故か勝てる気がしないのだ。ジョージ神父はにこやかに口を開く。

 

「そうだね…率直に言うと君達と取引をしたい」

「取引だと…?」

 

 貘はピクリと反応しジョージ神父を睨み続ける。取引と言えど、今は捕らわれの身。こちらが断ると何をするかわからない、一方的な状況である。静刃達はじっとジョージ神父を見据えていた。

 

「…どういった取引か内容を聞きたい」

 

「簡単な事だ。君達はしばらく私と協力してほしいんだ」

 

 つまり手を組む、若しくは雇われるといったところなのか。にこやかにしているジョージ神父の考えと腹の内が全く分からなかった。

 

「つまり仲間になるってことか‼」

「やったねケイスケ、仲間が増えるぜ‼パーティーしなきゃ‼」

「いやパーティーはやらないだろ」

「…まずは親睦を深めなきゃ」

 

 ケイスケが言った通り、自分達はパーティーをやる気なんて満更ない。というかどうしてそんな発想を持っているのか静刃達は取りあえず騒いでいる4人組のことは無視した。

 

「それで…私達の見返りは?」

「君達の望むもの…たとえば、()()()()()()()()()()

 

 その言葉を聞いて静刃達はピクリと反応した。なぜ神父が自分達がこの時代の人間ではないと気づいているのか、それとも鎌をかけているのか貘は確かめようとした。

 

「…神父は面白い事を言うな。何のことかさっぱりわからないわ」

 

「隠す必要はない。これらを見れば私だって興味を持つさ」

 

 ジョージ神父はパチンと指を鳴らす。するとリサが小さな小箱を持ってきてジョージ神父に渡した。ジョージ神父は箱を開けると静刃達の所持していた携帯が入っていた。

 

「申し訳ないが、すこし弄らせてもらったよ。日本製だが見覚えのない機種、機能していないiモード…そして、最初に使われた日付が2010年。君達は何かしらの魔法を使って過去に来た、未来の人間。と、推理しているのだがどうかな?」

 

 ジョージ神父の推測に静刃達はこれ以上隠し切れなかった。どうするか、静刃と貘は考えを整理しようとしたのだが、カズキとタクトは目を輝かせているのに気づく。

 

「お前ら…トランクスだったのか!?」

「いやドラえもんでしょ‼」

「どちらかというと朝比奈さんじゃね?」

「…未来少年コナン」

 

 あの4人は何を言っているのか全く分からなかった。取りあえずツッコミはしないでジョージ神父の話の方に集中しようとした。

 

「…確かにお前の言う通り、私達はこれより先の時代に来た。だが、神父にはできるはずがない。過去と未来を跳躍する式は複雑だ。それに私達は2013年から2010年、さらに2009年へと2度時代を跳躍している…できたとしても地球の復元力で遮られるだろう」

 

 貘の言う通り、『刻の結晶』を使っての時間の跳躍を試みたが、それも遮られこの時代に来てしまったのだ。それにクエスという獣人に取引して未来へ戻る術式をやってもらうつもりだ。

 

「ふむ…神父じゃ信用ならない、か。私としては妖の方が信用できなくてね、特に狸は騙すから苦手なのだよ」

 

「えー、神父はドラえもんが嫌いなのか」

「たっくん、それ猫型ロボット」

 

 残念そうにしているタクトにカズキがツッコミを入れる。話に集中できないから少し黙ってほしいと静刃達は願う。静刃とアリスベルは悩んだ。ジョージ神父との取引は確かにこちらのリスクは低いのだが、不確定要素が多い。人間に時代を跳躍できる式はこの時代にはないはずだ。

 

「私の弟は過去へと繋ぐ術式『暦鏡』の研究をしていた。そして『緋緋色金』を使うことで研究はうまくいったのだが…『暦鏡』のきっかけとなった『雲外鏡』があるがどうかな?」

「雲外鏡だと…!?まだ残っていたのか」

「ほほう…おもしろいじょ」

 

 雲外鏡という言葉を聞いて貘は驚き、鵺はにやりとギザギザした歯を見せた。静刃とアリスベルはそれが何なのか分からなかった。

 

「貘、その『雲外鏡』っていうのはなんだ?」

「雲外鏡というのは暦鏡の術式を構成する際に使われる魔法具のことだ。暦鏡を展開する前に、雲外鏡へ術式を送ると術式の構成が反転を起こす。雲外鏡で反転されたことにより、過去へ跳躍するのを未来へ跳躍するシステムへと変わる」

 

「…カズキ、つまりどういうことだってばよ」

「あれだ。過去へしかいかないタイムマシンにひらりマントを使うことで未来へと行けるようんなったんじゃね?」

「ややこしいな。タイム風呂敷でいいだろ。つかそんなタイムマシン嫌だし」

 

 外野はドラえもんから離れてほしい。自分達はそこまで遥か未来へ来ていないのだから変に期待されると反応に困ると静刃は心の中でツッコミを入れた。アリスベルは雲外鏡の存在を聞いて納得しながら頷く。

 

「まさかそんな魔法具があったなんて…」

「だがデメリットもあるじょ。よっぽど実力のある術者じゃなきゃ途中で雲外鏡が維持できずに割れて暦鏡に入る前に消失、体が真っ二つになるじょ。それに…未来へ行った術者は誰も戻ってこなかったじょ」

「鵺の言う通り、危険な代物と見なされ雲外鏡は全て破壊された…のだがそれを持っていたとはな」

 

 貘はやや皮肉を込めてジョージ神父を見る。ジョージ神父は愉悦な笑顔でにっこりとする。

 

「なに、私と弟は収集家でもあるのでね…交渉の一つとして君達に雲外鏡を差し上げるのだが?」

「確かに神父の交渉はいいものだが…まだ信用できん」

 

 貘の言う通り、雲外鏡があればすぐに戻ることができる。しかし、ジョージ神父やクエスもどちらもなかなか信用できかねる。静刃達も暦鏡のことを知っている神父を警戒しているが、それを気にしていない神父はしばらく考え、ポンと手を叩き立ち上がった。

 

「それならばもう一つ、君達がすぐに食いつきそうなものがある。少し待ってくれ」

 

 そう言ってジョージ神父はどこかへと向かって行った。数十分後、ジョージ神父は何故か三角巾を被り、腰につけるタイプのエプロンをつけていた。一体何をするのか静刃達は目を見張っていたが神父はにこやかにしている。

 

「もし、取引を受けてくれるのなら…君達にこれを渡そう」

 

 どこから取り出したのかジョージは持っていた出前箱をテーブルに置き、開けて中身をカズキ達に渡した。静刃とアリスベルはそれを見て目を丸くしていた。

 

「「ラーメン…!?」」

 

 カズキ達とセーラとリサに渡したのは本物のラーメン。 出来立てで温かい湯気が立ち上る。カズキ達は大喜びして箸を持つ。

 

「やったー、ラーメンだぞ‼」

「いやーお腹空いてたんだよねー‼ジョージ神父の作るラーメンは美味しーからなー‼」

 

 カズキとタクトは静刃達にこれ見よがしに見せて、わざとこちらを見ながら美味しそうにラーメンを啜る。静刃とアリスベルは凝視し、獏はしまったとジト目で神父を睨み、鵺は何だコレと呆れてみていた。

 

「お前らがっつきすぎ。トッピングを忘れてんじゃねえよ」

「…神父、トッピングが欲しい」

「おお、私としたことが忘れていたよ。ナオトには味付け卵をつけよう」

 

「「味付け卵…!?」」

 

 静刃とアリスベルは声をそろえて驚愕し、ナオトのラーメンに追加される味付け卵をじっと見ていた。貘はしてやられたと唸る。二人はこれまでの戦いでそんな平穏な時に食べる物をずっと食べていない。更には日本ではないドイツの地で、食べ飽きたドイツ料理の中でラーメンなんて見たらすぐにがっついてしまう。

 

「静刃、アリスベル。耐えるんだ…ラーメンの誘惑に負けてはいかん」

「で、ですが…美味しそうです…」

「これに耐えろって…酷な事言うじゃねえか」

 

 タクトが調子に乗って二人の目の前でラーメンを美味しそうに食べ始め、ナオトも悪乗りし静刃達に向けて食べ始めた。

 

「あ、ジョージ神父‼俺チャーシューが欲しい‼」

「よし、カズキ君には厚切りチャーシューをつけよう」

 

「「厚切りチャーシュー!?」」

 

 目の前でカズキのラーメンに厚切りチャーシューが入れられるのを目の当たりにし、アリスベルは生唾を飲み身体を震わせてる。

 

「んっ…はぁっ…静刃くん…わたし、もうダメっ…」

「アリスベル、しっかりしろ…!あいつらが満腹になるまで耐えるんだ…‼」

 

 静刃は今にでも誘惑に負けそうになっているアリスベルを励ます。厚切りチャーシューと聞いて思わずぐらつきかけたが、自分が耐えなくてはアリスベルが負けてしまう。静刃は自分を奮い立たせ、耐えようとした。

 

「…あれ?いっけね、食べきっちゃったよ」

 

 二人の目の前で美味しそうに食べていたタクトは麺を全部食べてしまったことに気付いた。静刃はまずは1人片付いたと内心ほっとしていた。

 

「ジョージ神父、替え玉1つー」

「いいとも。すぐに用意しよう」

 

「「替え玉…!?」」

 

 すぐにタクトのラーメンに替え玉が追加され、タクトは再び静刃達の目の前でこれ見よがしに麺を啜る。油断させてからの攻撃に静刃は危うく誘惑に負けそうになった。アリスベルは涙目で静刃の手を握る。

 

「せ…静刃くん…んっ…お願い…耐えて…!」

「わかってる…‼俺は絶対に誘惑に負けねえ…‼」

 

 自分の体にムチ打たせるように奮い続ける。カズキ、タクト、ナオトの3人が静刃達の前で食べているのをよそにケイスケはすっと手をあげてジョージ神父の方を見た。

 

「神父…麻婆豆腐一つ。あと餃子も」

「お安い御用だ」

 

「‥‥まじかよ」

 

 まさかそんな伏兵があるなんて…静刃は遂にラーメンの誘惑に負けてしまった。一部始終を見ていた鵺はつまんなさそうに呆れていた。

 

「…なんだこれ」

 

_

 

「それで私達はどうすればいいのだ?」

 

 美味しそうにラーメンを食べる静刃とアリスベルをよそに貘はジト目でジョージ神父の方を睨む。食べてしまった以上、取引は成立しいう事を聞かなければならない。警戒心が強い貘を他所にジョージ神父はにっこりとして答える。

 

「支度が出来次第、ドレスデンへ向かう。行方不明になった司教のある教会へ行き『レリック』の手掛りを探していく」

 

 気づけばラーメンを食べ終えたカズキ達はすたこらと荷物をまとめて支度をしていた。静刃達が来たということはこれ以上長居をしてしまうと他の魔女連隊達が来てしまう可能性がある。

 

「おい、忘れ物はないか?」

「ああ、俺の心の中に忘れ物をしちまったぜ…」

「たっくん、その台詞すきだね。じゃ、記念撮影でもしよっか」

 

 カズキがデジカメを取り出しドヤ顔でポーズをするタクトをパシャリと写真を撮る。自分達はこんな呑気で考えが分からない連中に負けたのかと少し前までの自分をはたいてやりたいと静刃は少し悔やんだ。

 

「これだけの大所帯、どうやって移動するつもりだじょ?」

 

 鵺はいつの間に取ってきたのかワインを沢山抱えてナオトからもらった唐草模様の風呂敷にせっせと酒を入れて背負う。お前は何処の火事場泥棒かと静刃はツッコミを入れる。ジョージ神父は腕時計で時間を確認をした。

 

「ふむ…もうそろそろ、到着する頃かな?」

 

 一体何を待っているのか気になっていたのだが、しばらくすると上の方で風を切るような激しい音が近づいてきた。

 

「お、丁度来たようだね。それじゃ行くとしよう」

 

 神父を先頭に屋上へと向かうと、屋上の広いスペースに大型ヘリのNH90が着陸していた。パイロットはジョージ神父を見るとにこやかに手を振ってくる。

 

「おおー‼ヘリだぜ‼しかもでけー‼」

「これでそーらも自由に飛びたいなができる!」

 

 目を輝かせているカズキとタクト、見ても驚かないナオトとケイスケ達を他所に静刃達はあんぐりとしていた。この別荘といい、先程のラーメンといい、そしてNH90といい、この神父はいったい何者なのかますます気になっていく。にこやかにしている神父に続いて乗り込んでいき、NH90はドレスデンへと飛び立った。

 

_

 

 ドレスデンの街は少し古風な建築物が立ち並び、街並みは古典的な風景を醸し出していた。路地では演奏会の様なものが行われており、美術や音楽と落ち着いた雰囲気がある。そんな賑やかな朝の街中をカズキ達は観光気分であちこち写真を撮りながら歩いていた。

 

「いい画になるな。来ててよかった」

「ドレスデンは‥‥どえらスゲーでんってかー‼」

「…カズキ、それ面白いな」

 

 無表情でカズキのダジャレを評価しているナオトにカズキはうるせえと顔真っ赤でポカポカと叩く。移動中で仮眠を取り、日の出の時間に到着をした。よく呑気に寝ていられるなと静刃はやや呆れていた。そんな静刃の様子に気付いたのか、セーラは静刃に小声で伝えた。

 

「その程度で呆れていたら、いずれ胃に穴が開くぞ…」

 

 セーラのアドバイスを聞いて、彼女も同じ目に遭っていたのだなと遠い眼差しで見つめる。ジョージ神父は先導して歩いているが、いつになったら目的地に着くのか、隙を伺って逃げるかどうするか聞こうと後ろを振り向く。

 

「ナオトから聞いたんだけど、鵺ってビーム撃てるんだ‼すげーカッコイイ‼」

「お?お前、鵺の緋箍來(ひこり)に興味あるのかじょ?面白い奴だじょ」

 

 後ろではいつの間にかタクトと鵺が仲良く話しをしていた。何仲良くなってんだよと静刃は危うくずっこけそうになる。

 

「SSRの超偵だし俺もビーム撃てるようになりたいなー。こう手からはーっ‼って感じでさ」

「緋箍來はできないが、似たような術式はあるじょ。その前に素質はあるかどうか少し見てやるじょ…」

 

 鵺はじーっとタクトを見ながら何やらタクトの能力値を測ろうとしてた。タクトの方はドヤ顔でポーズをとる。武偵には超能力者、所謂異能者の武偵ことは超偵と聞く。まさかタクトがその異能者だったなんて静刃もアリスベルも気づかなかった。どんな能力なのか二人は少し気になり、鵺の結果を待つ。

 

「どれどれ…ステータス…式力1!?」

 

 全くの能力もないまさかの式力1の結果に鵺は驚き、静刃とアリスベルはずっこける。それじゃビームは撃てない。というかよく超偵になれたなとツッコミを入れた。

 

「えー、俺じゃビーム撃てないのー?」

「いやそれ以前の問題だじょ」

 

「たっくんスーパー弱いねだからね」

「いやよく分かんねえよ」

 

 カズキのフォローでもそうでもない言葉に静刃はツッコミを入れる。この先こんなことが何回も怒るのかと思うと静刃はなんだか胃が痛くなってきた。

 

 道中で昼食を取り、しばらく歩き続け真上にあった太陽が日の入りへと傾きだした頃にやっと行方不明になった司教がいた教会へと到着した。ドレスデンの街並みからかなり離れた場所にあり、中世のような小さな教会だった。ジョージ神父は入り口の扉のロックを解除し堂々と入っていく。それを見てアリスベルは焦りだした。

 

「ふ、不法侵入にはならないのですか!?」

「なに心配はいらないよ。ドイツ教会から依頼されているからね。もしもの時は武偵もいることだし捜査と言えば問題は無い」

 

 カズキとタクトはドヤ顔で、ケイスケとナオトはいたって普通に武偵の手帳を取り出して見せる。

 

「いやお前ら日本の武偵だろ」

 

 静刃と貘はやたらと絡んでくる騒がしい4人組に肩を竦める。教会の中は静寂でこじんまりとしていた。別に争った形跡もなく、何一つおかしい所はない。そんな時白いゴム手袋を付けたケイスケが静刃達に透明な液体の入った霧吹きを渡していく。

 

「とりあえず机や床、隅から隅まで吹き付けてくれ」

 

 カズキとナオトも白いゴム手袋をつけて部屋という部屋に霧吹きを吹きかけていた。タクトが素手であちこち物色しているのは見なかったことにした。ある程度進んだらケイスケはリサに指示を出した。

 

「リサ、カーテンを閉めてくれ」

 

 カーテンを全て閉めて、明りを消し暗くした。書斎室のような部屋の床から入口へと青白く光るラインがべったりとついていた。カズキはその青白い光を見て頷く。

 

「ルノワール反応、有りだな」

「いやルミノールな」

 

 ケイスケは即、カズキの間違いを修正する。血液やヘミン・ヘモグロビンがルミノールの溶液に発光反応を起こし暗所で青白い蛍光色で発光する。この反応が出たという事にアリスベルは息を呑む。

 

「ここで司教は殺されたのでしょうか…?」

 

「可能性は高いね…レリックを奪われ殺されたことになる」

 

 この場所で何が起きたのかは大体わかってきた。しかし一体誰が、何故レリックを奪い、司教を殺し、その遺体を何処へやったのか疑問がいくつか出てきた。セーラは深く考えつつ口を開く。

 

「戦役では無関係の人間の殺害は禁じられている。師団はまずありえないし、魔女連隊も眷属もバチカンに火に油を注ぐようなことはしない」

 

 もしこれが魔女連隊の仕業だったら戦役どころかガチの戦争になり兼ねないし大問題になる。こんな余計な事をしない。師団でも眷属でもなかったら残るは無所属の仕業となるがそれもありえない。

 

「…第三者の仕業?」

「誰かが師団と眷属の抗争の邪魔をしようとしているのだな…」

 

 ナオトや貘の考えのように他の誰かの仕業となる。その答えはもしかしたら書斎室にあるかもしれない、カズキ達は書斎室を調べることにした。

 

「なにこれ、かっこよさそうな装飾した本なのに全く読めねー!」

 

 カズキ達よりも早くタクトが書斎室を物色していた。本棚に並ばれている本はどれも分厚く、黒い装飾がされていた。鵺はタクトが持っている本をとりあげて読む。

 

「ドイツ語を勉強しろだじょ。この本は…すごーい昔の術式の歴史書だじょ」

 

 鵺が面白くなさそうに本を放り投げて本棚の本を物色しだす。どんな昔の術式が書かれているのか静刃達は気になるがドイツ語は読めないので分からない。分からない静刃とアリスベルに鵺はニヤニヤしながら説明をする。

 

「魔女裁判より古い時代、まだ魔術というものが未発達の時代だじょ。この時代の式術はどれも生贄を使って行われるじょ。人身御供だから中には強力な術式があるが、術者が未熟なためどれも失敗ばかりだったじょ」

 

 鵺は物騒な事を言っているが、もし魔術もある程度発達している時代にそんなことをしたらとんでもないことが起きそうだと静刃とアリスベルはぞっとする。鵺に続いてカズキ達も本棚からぽいぽいと本を取り出していく。

 

 そして本棚が空になりかけた時、奥に古めかしい本が数冊並んでいるのが見えた。その並べられている真ん中は大きな円柱形の空洞になっていた。

 

「ふむ、ここにレリックを隠していたようだね…」

「ねえねえ。これ、何の本か読める?」

 

 タクトは鵺に奥にある本を一冊取り出して渡した。鵺はそれを広げて読むがやや難しい顔をした。

 

「これは…フラクトゥールだじょ」

「その、フラクトゥールってなに?もうちょっと激しく言って?」

「激しく!?」

「それを言うなら詳しくだろ!?」

 

 何をどうしたらそう間違えるのかアリスベルと静刃はカズキにツッコミを入れる。騒がしい4人組はどっと笑いあい、鵺は苦笑いしながら答えた。

 

「ドイツが第二次世界大戦頃まで印刷に使ってた書体のことだじょ。内容は…うん?レリックにスカルキー?術の構成?…儀式のようだが何の術式か分らんじょ」

 

 どれもそう言った内容で一体何の儀式なのか分からなかった。一先ず分かったことはレリックを使って何かの儀式をやるようだ。

 

「残るは場所だが…何処かわかるのか?」

 

「後は…もうひとつ、ここの司教が管理していた古い聖堂がある。次はそこへ向かおうか」

 

 また移動するのかと静刃達はうんざりする一方でカズキ達は切り替えて動いていた。静刃達は心なしかカズキ達がなんだか旅行気分のように見えてきた。本当に緊張感がない奴等だとため息をついた。セーラとリサはこの戦役の中で何やら異変が起こりそうで緊張していた。レリックを使って何が起こるのか、誰が何を企んでいるのか、分からないことはまだ多い。




 
 ラーメンは美味しいよね!豚骨、しょうゆ、味噌、塩…色々あるけれどどれも好きです

 今回は嵐の前の静けさ…かも

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