カオスな4人衆!?最強のSランク武偵を目指せ‼   作:サバ缶みそ味

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 冬の風邪は治ったと思ったらぶり返してくる…皆さんも寒さに気を付けつつ、手洗いうがいをして風邪にお気を付けて…


64話

「襲撃とか早すぎでしょ!?」

「兎に角、板挟みになるから蹴散らさなきゃな‼」

 

 今までやる気なさそうにしていた鵺がフンスと鼻息を立てて好戦的な態度を見せる。よほどここで待機しているのが退屈だったのだろう。前方からはメーヤ率いる武装シスター、後方からはテロリストこと五共和国派の残党。すでに後者は屋内に襲撃し攻撃しているとの事。

 

「キンジ、理子、ヒルダ、鵺はシスターを、俺達で五共和国派の方を叩くぞ!」

「よっしゃー待ってました‼」

「いや、ちょ、俺達でか!?」

 

 キンジはまさかシスターの相手をしろと言われると思っていなかったようで、メーヤを相手にするのは少し厳しいと言おうとしたがすでにケイスケとカズキは銃器をしょって駆け出していった。後に続いて出ようとしたナオトとカツェが面倒くさそうな顔をして振り向く。

 

「シスターの相手、面倒くさいもん」

「右に同じく、メーヤの相手とか二度としたくねえし」

 

「結局投げ槍かよ!?」

「ほらほら、キーくん、私達がやるしかないんだから頑張ろ」

 

 面倒くさいのを押し付けられたが、ここは何としてでも乗り越えなければならない事態。鵺はすでにヒャッハーと叫びながら外へ駆けだしていき、理子とヒルダに引っ張られたキンジは仕方なくやるしかないとため息をついた。

 

__

 

 1階はすでに銃声が激しく鳴り響く戦闘と化しており、侵入してきた五共和国派の武装集団との攻防が起きていた。ソファーやテーブル、箪笥をバリケードにして敵の銃撃を防ぎつつ迎え撃つ。ベレッタARX160やシグSG551、フランキ・スパス12を持った武装兵がとめどなく撃ってくる。

 

「ホントに容赦ねえな…」

「ヒャッハー!祭りの会場はここか‼」

「…カズキ、言葉と裏腹にビビり過ぎ」

 

 緊迫した空気に全く動じてないかのようにカズキ達は援護に入る。Minimiを持っているクラエスをはじめ応戦している職員達は武偵が、ましてやなんか空気が違う彼らがこの場に出て大丈夫だろうか不安げに見る。それにもかまわずカズキ達は進みだしていった。

 

「俺とナオトで突撃、カズキとワトソンは援護。カツェは連中にでかいのぶちまけてくれ!」

 

「おし、少しでもイタリアに借りを作ってやるか!」

 

 カツェは好戦的な笑みを見せて指をパチンと鳴らす。近くに飾られていた花瓶や給水器から水が勢い良く飛び出し、彼女の頭上で大きな水塊となってふわりと浮かぶ。

 

「そーら、ぶちまけろ‼」

 

 カツェの大声とともに水塊は物凄い勢いで飛び、武装集団へと直撃させる。前線に大打撃を与えたと同時にケイスケはM4を、ナオトはAK47を持って駆けていった。

 

 ケイスケは敵が密集している場所に向けてスタングレネードを投げ込み、転がり出てきた相手をナオトが肩や四肢に向けて狙い撃つ。相手の反撃にはソファーや壁に隠れ、その隙にナオトとケイスケを援護する様にTRG‐42を構えたカズキが狙撃していく。日本の武偵は武偵法により殺人はできないが、敵に対して冷静に対処していき容赦なく撃っていく姿にジャンやクラエスは納得して頷く。

 

「それなりにはできるのね…」

 

 しかしそれでも相手の数が多く、敵の火力の多さに前線に出ている二人は焦りだす。

 

「火力が足りない‼」

「カツェ、ワトソンも続いてくれ!」

 

「その声を待ってたぜ!」

「カツェ、いいとこ見せようと調子に乗って出過ぎないようにね!」

 

 カツェは金メッキのルガーP08を持ち、ワトソンはステア―AUGを持ってナオトとケイスケの支援へとまわる。

 

「ちょっと‼また俺をボッチにすんなよ!」

 

 ポツンとその場に残されたカズキはプンスカと喚きながら、前線にいるナオト達の援護をするように狙撃していき愚痴をこぼしながらこっそりと追いかけていった。

 

「い、一応カズキがチームリーダーなんだよね!?」

「そうだっけ?」

「…覚えてない」

 

 チームのリーダーとしての威厳らしさがないせいか、ケイスケとナオトにそのことを忘れられているカズキにワトソンは思わず苦笑いをした。その時、ケイスケ達をトリエラが追い越して敵陣へと突撃していった。

 

「おい!?単身で突撃って!?」

 

 ケイスケは慌てて突撃していったトリエラを支援しようと身を乗り出す。しかし、その先に見えたのは敵の銃撃を身軽に躱し、ウィンチェスターM1897で撃ち、銃身で叩き、接近してナイフで斬りつけようとした相手にはいなして蹴り飛ばしていく。弾丸を掠めても顔色一つ変えずに戦うその姿はまるでここを死地にするかの様に見えた。

 

 自分の中にある虚無感を埋めるために戦い続け、この五共和国派の残党との戦いで死ぬつもりかもしれない。クラエスが言っていたように彼女は死を待っている、戦って死ぬ気でいる。ケイスケがそんな彼女を見ている間に敵兵がトリエラに向けてM67手榴弾を投げ込んできた。トリエラは周りにいる相手に気を取られていて気づいていない。

 

「カズキはアップル、ナオトはフォローを‼早くしろ!」

 

 ケイスケの怒声にカズキとナオトはすぐに動いた。駆けたナオトはAK47で撃ちトリエラの周りにいた敵を撃ち倒し彼女を引っ張り、カズキは弧を描いてトリエラに向けて落ちてきているM67手榴弾に向けて狙い撃ち、弾丸に当たった手榴弾は明後日の方向へ飛んで爆発を起こす。なんとか飛んでくる破片から逃れることができ、キョトンとしているトリエラにナオトは苦笑いし、ケイスケはムッとした表情をする。

 

「…俺達並みに無茶しすぎ」

「ったく、バカか!死んでもなんも解決しねえっての…‼」

 

「ありがとね…でも、死んでもやらなきゃいけないこともあるのよ」

 

 トリエラは二人に優しく微笑み、そして切なそうに呟いた。

 

「トリエラ、二人とも‼すぐ離れて‼」

 

 クラエスの叫びに3人はすぐに反応した。手榴弾を投げてきた方向から飛び出す様に黒いローブを着た男が駆け出し、両手に持っているマイクロUZIを構えて撃ってきた。ケイスケ達は慌てて壁の陰へと隠れる。身体に弾を掠めたがあと少し遅れていたらハチの巣になっていただろう。

 

 ローブを着た男は顔を隠していたフードを取る。赤をベースに黒の模様を混ぜたフェイスペイントをした禿頭の厳つい顔をしていた。男は不敵に笑い無言のまま両手に持ったマイクロUZIを連射しながら近づいてくる。その様子にケイスケはギョッとした。

 

「片手でUZIとかあいつの腕はゴリラ並みかよ!?」

「あの赤いフェイスペイント…!あいつはモール。シディアスに雇われた殺し屋よ!」

 

 トリエラがそうケイスケ達に伝えたと同時にまたしても単身でモールと呼ばれた殺し屋に向かって駆け出していった。モールは待っていたかのようにトリエラに向けてマイクロUZIを連射する。トリエラは素早く駆けてモールへと近づき、ウィンチェスターで叩き殴ろうと振り下ろす。モールはその攻撃を身軽に躱しウィンチェスターを蹴り上げる。宙に飛んでいったウィンチェスターの代わりにH&K M23とH&K P7を引き抜いて撃ちだす。

 

 その近接の激しい攻防の姿はまるでガン=カタ。そんな様子にカズキ達は呆然としていたが、彼女の援護をしなければとすぐに動いた。モールが大きく後ろに下がったと同時に武装集団がなだれ込み掃射してきた。

 

「くそっ‼敵の猛攻が激しい‼」

「愚痴ってる暇があるんなら気張って撃ちまくれや!」

「…ん?カズキ、猛攻が激しいって日本語的におかしくない?」

 

「お前等冷静過ぎるだろ!?」

「カツェ、ツッコミを入れてる暇はないよ‼」

 

 敵数の方が圧倒的に多く、流れが押されている中でもカズキ達はめげずに弱音を吐かずに前線を防衛し続けていた。武偵なのに戦場のような戦況にも恐れず戦う姿に職員達も奮い立ち、単身で突撃し続けるトリエラを、その彼女に続いて突撃していくカズキ達を守ろうと戦う。

 

 クラエスもその一人で、無茶苦茶に戦う彼らを援護しようとMinimiを撃ち続けた。そんな時、彼女に視界に隅でひょっこりと彼らの戦いを見守っているリサの姿が映った時、あることを思い出す。クラエスはリサに近づき尋ねた。

 

「貴女…確かリサと言ったわね。少し聞いていいかしら?」

「わ、私ですか?」

 

 あわわと焦るリサを落ち着かせ、気になっていたことを尋ねる。

 

「貴女、ケイスケ達から聞いたけど臭いで襲撃に気付いたのよね?」

「え、ええ…」

「貴女が嗅いだその臭いは硝煙の臭い?」

 

 クラエスの問いにリサは首を振り、訝しい表情で答えた。

 

「いえ…甘くふわりとした香水の様な匂いでした」

 

 五共和国派の残党が撃つ銃器の硝煙の臭いではなく、シスターが使っているかもしれない香水の匂いと断言せず、香水の様な匂いだという答えにクラエスも訝しく考え込む。ではリサは誰の匂いで敵の侵入に気付いたのか、もしや別の敵なるものがすでに侵入していたのか、考えれば考える程疑問は深まるばかりだった。

 

 その時、ここから反対側の方向つまりはエントランスへと繋がる通路からキンジと理子が急いで駆けてくる姿が見えた。もうシスターの方は片付いたのかと気になっていたが彼らの表情は凄く焦っているようで、よく見るとキンジは鵺を、理子はヒルダをおぶって走ってきていた。鵺とヒルダの様子はぐったりとしているようだ。

 

「みんな‼ここから逃げろぉぉっ‼」

 

 キンジの叫ぶ声が聞こえてきたと同時に二人を追い越すかのように赤褐色の蝶、クロケットマダラの大群が飛んできた。

 

__

 

 事態は時間を遡って、キンジ達が1階のエントランスへと向かった頃になる。エントランスでは既に侵入してきた武装したシスターとの攻防となっていた。白い法衣のシスター達は銀の片手剣に片手の盾、こちらは銃器と何分優勢なのだが、相手は聖職者。銃器を構えた職員達は何かと手を出しにくく何とかして致命傷を避けて撃っていた。

 

「おうおう、荒事なら鵺に任せとるじょ‼」

 

 鵺は好戦的な笑みをこぼし「げひひ」、とゲスな笑い声をして飛び込んでいった。シスターの1人が鵺に向けて銀の剣を振り下ろすが鵺はそれを掴んで焼き菓子のように砕き割り、そのシスターを投げ飛ばすわ、殴るわ蹴るわとまるで三國無双のゲームの様にシスター達をなぎ倒していっていた。

 

「へぇー…あれが鵺七宝浮図乃塔(ぬえしっぽうふずのと)の戦いね。はじめてお目にかかるわね」

 

 理子の影からヒルダが現れ、大暴れしている鵺を興味深く見つめていた。

 

「ヒルダ、あいつを知っているのか?」

「勿論、超有名な獣人よ。大昔から存在していて、あの姿からアニメの魔法少女のモデルにもなったともいうし、魔法少女の先駆者よ」

「マジで!?あの凶暴そうなのが魔法少女!?」

 

 ヒルダの言葉を聞いてキンジよりも理子が物凄く驚愕していた。別の意味で驚愕している理子を置いといてヒルダは話を続ける。

 

「見た目に反して時間跳躍の術も使えたり、目からビームも撃てたり私よりもかなり凶悪よ?」

 

 ヒルダよりもはるかに強く凶悪であると聞いてキンジは啞然とする。戦闘狂な鵺をどうやってカズキ達は勝って、しかも仲良くなれたのか。

 

「さて、長話はいいかしら?私も大暴れさせてもらうわよ?」

「あ、ああ。ヒルダが手を貸してくれて助かるぜ」

 

 ヒルダは褒められるとやる気が出る。キンジは何となく扱いに慣れてきたようで、ヒルダは意気揚々と敵陣に向けて雷球を飛ばしまくる。敵を容赦なく倒していく鵺、雷球を飛ばしたり放電したりとシスターを気絶させていくヒルダ、正直この二人が先陣を切って暴れてくれるだけで戦況は押していた。

 

「ほらほら、キーくん。ぼさっとしてないで私達もやるよ!」

 

 そんな中、理子がぐいぐいとキンジを引っ張っていく。キンジはもう全部あいつら二人だけでいいんじゃないかなという状況に自分がしゃしゃり出る場面なんてないのではないかと思っていた。

 

「なんとかしてメーヤを説得させないと!」

 

 鵺がシスターをなぎ倒していく中、彼女めがけて大剣の刃が振り下ろされた。ひらりと躱して間合いを取る鵺とこちらに気付いたヒルダに対し、地面に突き刺さった大剣を引き抜いたメーヤが苦虫を噛み潰したような顔をして睨み付けた。

 

「竜悴公姫、『紫電の魔女』であるヒルダ、貴女とも戦うことになるとは…そこの妖諸共その首を切り落としてあげるわ」

 

「あぁん?やんのかじょ?」

「メーヤ…貴女、能力故、人を疑わないから別に構わなかったけども、まさかここまで大馬鹿だとは思わなかったわ」

 

 鵺は好戦的にシャドーボクシングの動きをし、ヒルダは物凄く呆れた様にメーヤを見つめる。メーヤと一触即発になる寸前に二人の間にキンジが大慌てに割り込んで止める。

 

「待て待て‼メーヤ、落ち着けって‼」

 

「遠山さん…‼よかった、ご無事でしたのですね!」

 

 先程の敵意剝き出しの表情が一変し、キンジが無事であることにメーヤはうれし涙をこぼしてほっとしていた。

 

「フランスで裏切り者の容疑が掛かり逃亡したとお聞きしたのですが…お怪我も無くてよかった‼待っていてくださいね、眷属のゴミ虫共を一掃して、遠山さんの容疑を晴らしてあげます!」

「ちょ、タンマタンマ‼キーくんの話を聞いてってば!?」

 

 フンスと鼻息を立てて今すぐにでもヒルダに向けて大剣を振り下ろそうとするメーヤを理子が慌てて止める。

 

「メーヤ、話を聞いてくれ。俺やカズキ達はバチカンにいるシディアスという男に嵌められたんだ。あいつは師団や眷属を共倒れしようと企んでいる。今は両陣営でいがみ合っている場合じゃない。一刻も早くシディアスを止めなきゃならないんだ‼」

 

 それだけでなくシディアスは五共和国派の生き残りであること、ジャンヌを攫ったのは眷属でない事、カズキ達から聞いたこと、今までの話を聞いて分かった状況など全て話した。メーヤはキンジの話を聞いて目を丸くしていたが、悲しそうに首を横に振った。

 

「遠山さん…私を思って説得してくれたことは嬉しいです。ですが、私の幸運の能力は人を疑うことで能力は低下し、今まで受けた恩恵の反動で悪運が降りかかります…死も免れないでしょう」

「メーヤ!能力云々じゃなくて…!」

「それに、私は聖職者。私は信じる者。感づいていても、疑わないのです。それが信じる事ですから」

 

 メーヤも薄々感づいていたのかもしれない。しかし、彼女は疑うことができなかった。上からどんな指令を受けようとも、決して疑わずただ信じ続けてきた。誰も疑わず、悪意のない彼女はただ最前線で戦い、バチカンに情報を伝え、そのバチカンが眷属に情報を流したということになる。

 

「遠山さん…この窮地を抜けるには私を止めるしかありませんよ?」

「キーくん…!メーヤを止めるにはもうやるしかないかも…!」

「くそっ!やるしかないのか…!」

 

 止めるにはメーヤを倒さなければならない。しかし逆に倒してしまうと余計に容疑が掛かりバチカンの、シディアスの思う壺になる。武装したシスターに囲まれ、メーヤと対峙する状況になり、キンジはここは無理をしてでも理子に協力してヒステリアモードになって止めるしかないと動こうとした。

 

 その時、キンジはふわりと甘い匂いがしてきたことに気付く。ふと周りを見るとひらひらと赤褐色の蝶が飛んでいるのがかすかに見えた。あれは西ヨーロッパ渡り蝶、クロケットマダラかと気を逸らした。

 

「そろそろ頃合いかしらぁ…?」

 

 ふとキンジの耳にそんな甘ったるい声が聞こえた。その瞬間にバチンと何かがはじける音がした。音がしたかと思えば囲っていたシスター達、メーヤ、そして鵺とヒルダまでもが苦しそうに呻き倒れていった。

 

「な、なんだ!?」

「ヒルダ、しっかりして!」

 

 理子がヒルダを支えて起こす。先ほどまで雷球を飛ばし、放電していたヒルダが力が抜けたようにぐったりとしている。一体何が起こったのか、キンジは戸惑っていると鵺が苦しそうにしつつも起き上がり空を睨む。

 

「この…クエス、なんのつもりだ?」

 

 そんな奴がどこにいるのかキンジは見回していると、暗い所からカツンカツンとハイヒールの音を立てて妖艶な赤いドレスを着たクエスがクスクスと笑いながら現れた。

 

「思った以上に大漁ね。予想外の獲物からも魔力を奪えることができたし」

 

「あれは…『胡蝶の魔女』!?お前はこの戦役に興味がなかったはず…‼」

 

 苦しそうにヒルダがクエスを睨み付ける。

 

「胡蝶の魔女…あいつはいったい何者なんだ?」

「遠山…クエスは獗(ケツ)と呼ばれる狸の様な妖だ。人間や異能者、私達のような獣人の生気や魔力を奪い取る…‼」

 

 クエスはメーヤやヒルダなど興味が無いように無視し、呻いている鵺を見下す様に妖艶に笑っていた。

 

「ようやくわかったじょ…クエス、貴様は最初から静刃達だけでなく眷属も騙してたんだな…‼」

「あら?貴女達が未来に帰るために魔女連隊を騙していたくせに。まあいいわ…この戦役を滅茶苦茶にした方が面白そうだったからシディアスに協力しているだけ。ただそれだけよ?」

 

 ただ面白いから、その理由だけで相手を騙し、眷属の情報をバチカンを経由して師団に流し、メーヤを通して師団の情報を眷属に流し、ヨーロッパの戦役を泥沼状態にした。キンジは怒りを込めてクエスを睨み付けた。そんなキンジにクエスはクスクスと笑う。

 

「あら怖い怖い。そう睨んでくるけども…私に勝てると思って?」

 

「キーくん、ちょっとこれはまずい状況かも…」

 

 理子もごくりと生唾を飲む。気づけば戦っていた職員達も力が抜けたように倒れ気を失っている。今立っているのは自分と理子だけ。辛うじてヒルダと鵺が起き上がるがこれ以上は戦えない。そしてクエスの周りには沢山のクロケットマダラがヒラヒラと飛んでいる。今はヒステリアモードにもなれず、理子と二人だけであの妖には勝てない。と、言うよりもここにいたら危険すぎる。敵味方関係なく力を奪うクエスの力に今は対抗できる手段がない。

 

「あ、言い忘れたけど、そこで倒れているシスターの連中は使い物にならないから捨てていいってシディアスが言ってたから遠慮なく魔力を頂いたわ…それじゃ、貴方達の力も頂くわね」

 

「理子、ここから逃げるぞ‼」

 

 前言撤回である。メーヤ達をここにいる自分達諸共ここで消すつもりであった。キンジは鵺を、理子はヒルダをおぶり、カズキ達に知らせるために急いでクエスから、飛んできたクロケットマダラから撤退した。

 

___

 

 キンジの叫びも虚しく、クロケットマダラの大群は一気にカズキ達のいる場所へと飛来していった。バチンと音がするや否や次々に職員達が倒れていく。飛んでくる蝶の大群とその様子を見てたカズキはぎょっとする。

 

「蝶々が‼やばいぞ、蝶々が超超やべーぞ‼」

「吞気にクソギャグを言ってる場合かよ!?クソ…あれは間違いねえ。クエスの野郎、裏切ってたか‼」

 

 カツェはカズキにツッコミを入れつつカズキ達を守る様に水の壁を張る。蝶にぶつかるたびにバチンと音が鳴り水の壁が次第に薄くなっていく。水の壁が消え、蝶の襲撃が収まった頃には立っているのはキンジと理子、隅に伏せて隠れていたクラエスとリサ、そしてカズキ達だけになっていた。カツェは肩で呼吸するほど疲弊しガクリと膝をつく。

 

「流石は魔女連隊の連隊長ね。おかげで沢山の魔力を頂けたわ」

「はぁ…はぁ…やっぱりてめえが絡んでやがったか…‼」

 

 武装集団の前にふわりと現れたクエスをカツェは苦しそうに悔しそうに睨み付けた。しかしそんな事はどうでもいいようにクエスはクスクスと笑う。

 

「ふふふ、だって眷属なんかよりもバチカンと、いやシディアスと手を組んだ方が面白いもの。知っているでしょ?【十四の銀河】の秘宝の一つ、【究極魔法・グランドクロス】のこと」

 

「分かんないからぜひ教えてください!」

「知るわけねえからここにいるんだろうが‼」

 

 即答して教えを乞うカズキと怒声を飛ばすケイスケにクエスはずっこけそうになる。キンジも今はそんな状況じゃないだろと心の中でツッコミを入れる。

 

「呆れた…いいわ、ついでだから教えてあげる。【究極魔法・グランドクロス】は所有者に万物の理を覆す魔法を授ける究極の魔法具。でも魔法だけを授け、魔力は授けないわ」

 

「つまり…レベル1の魔法使いがイオナズンを覚えてもMPが足りないから使えないということか」

 

 カズキはそう納得して頷く。何故かその例えを聞いて同じく納得してしまっている自分がいるとキンジと理子は苦笑いをする。

 

「魔力が多ければ多い程、その究極の魔法を多く扱える。私は奪い溜まった魔力を【究極魔法・グランドクロス】を持っているシディアスにあげる…これから彼が何をするか分かる?」

 

 シディアスはバチカンに潜んでいた五共和国派の人間。テロ行為さえ辞さない組織の人間である。その言葉を聞いたトリエラははっとする。

 

「まさか…‼」

 

「彼が言うにはバチカンを含めローマ内で魔法を使った大規模な同時多発の爆破テロをするんですって」

 

 その言葉を聞いて絶句するトリエラに対し、クエスはクスクスと笑いながら話を続けた。

 

「ローマ内を吹っ飛ばすくらいのね。何百、何千、何万以上もの人間を犠牲にし、師団と眷属の仕業として、シディアスが台頭になり、バチカンは宣戦布告。宗教戦争に持ち込んでヨーロッパ内の師団、眷属を駆逐していきイタリアのみならずヨーロッパを掌握するつもりよ?」

 

 その計画だけでどれだけの人間が血を流し、犠牲となるのか。キンジは考えるだけでぞっとした。

 

「ふふふ、特に嫌われ者の魔女連隊はいい餌になりそうね」

 

 まず最初に叩かれるとすればナチの残党、そしてテロリスト集団の魔女連隊だろう。カツェは歯を食いしばってクエスを怒りを込めて睨み付けた。

 

「てめえ…それだけ言うなら覚悟はできてるんだろうなぁ…‼」

 

「そうだぞ、モジャモジャ女‼二うさぎ追うもの一個も得ずだぞ‼」

「二兎追う者一兎も得ずだし、使う所違うけども‥‥やる事は許せない…‼」

「珍しくナオトがオコだ!俺も聞いてて腹立った‼」

 

 今の状況にも恐れずカズキ達はクエスに戦う意思を見せる。その姿にカツェもワトソンもそしてトリエラも奮い立つ。そんな様子をみてクエスはクスクスと笑い、ギロリと睨む。

 

「面白い事を言うわね…ここで死んでみる?」

 

 クエスの後ろには殺し屋モールを筆頭とした武装集団。それに対し動けるのは自分達だけ。数は明らかに圧倒的不利の状況だ。

 

「お前等…この状況、どうするんだ?」

「決まってんだろ、気合」

「勢いで頑張る」

「ガッツだぜ‼」

 

 ドヤ顔するケイスケ、ナオト、カズキに思わずずっこける。このままではまずい。キンジは額に冷や汗を流した。その時、何処か遠くから車のエンジン音が響いたのが聞こえてきた。一体何の音かと全員はたりと動きを止めて耳を傾ける。

 

 その音は次第に近づいてきて、しかもディーゼルの、重厚なエンジンの音が轟いてきた。この音には聞き覚えがある。キンジはヒステリアモードになっていないにも拘らず直感で感じた。

 

 そして彼の予感通り、轟音を立てて、フレッチャ歩兵戦闘車が壁をぶち壊してクエスと武装集団に向かって突撃してきた。突然の事でクエスもモール含め武装集団もぎょっとして慌てて退避する。

 

「あの無茶苦茶な突撃と運転はもしかして…‼」

 

 キンジは肩を竦める。装甲車で敵陣に向かってダイレクトアタックするバカはたった一人しかいない。

 

『スポ―――ン‼皆の者!待たせたなぁ‼』

 

 タクトのドヤ顔をしたような声がマイク音声で響く。その声を聴いたカズキ、ケイスケ、ナオトは嬉しそうに叫んだ。

 

「「「た、たっくーーん‼」」」

 




 短いようで長い。やっとカオスなメンバーが集結しました。(吐血
 モールはあれですね…ダー〇・モールです、はい…
 クエスはアリスベルにしか登場していないようですが、緋弾のアリアの方には静刃と鵺が出たし、彼女もいつか出てくるのでしょうか…

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