カオスな4人衆!?最強のSランク武偵を目指せ‼   作:サバ缶みそ味

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 ゴールデンウイークは9連休だったり、5連休だったり…温泉行ったり、温泉行ったり、温泉行ったり‥‥5日連続で日帰り温泉旅行だった!?

温泉はヨイゾ(コナミ感


79話

「よいな?もう一度言うぞ?余のことは『おうじ』と呼ぶのだぞ?」

「はーい、おかあさん‼」

「いやだからお母さんじゃなくて王子!」

「???」

 

 時計塔の中庭でハワード王子は必死こいてジャックに自分をお母さんと呼ばないように教えているようだが、暖簾に腕押しの状況のようだ。その傍らではメヌエットは死んだ魚の様な目で遠くを見つめていた。

 

「ほんとあんた達なんてことをしてくれたのよ…」

 

「どう?凄いでしょ!」

「俺達の実力ならあんな風にチョチョイノチョイだぜ」

「いやそういう意味じゃなくて…ああもう、胃が痛くなってきたわ」

 

 カズキとタクトは全く反省しておらず、やり切った感が満載の笑顔を見せる。そんな二人にメヌエットはガクリと頭を抱えた。騒がしいバカ4人がどや顔でハワード王子と共に切り裂きジャックを家につれて来た時は卒倒しかけた。人の話は聞いていないわ、とんでもないことをしでかすわで予想の遥か斜め下を突き抜ける彼らの行動には困りかけていた。

 

「固く考えすぎだぞ?事件も一つ解決したし、もっとこうマイペースで言った方が気苦労が減るぜ?」

「紅茶が美味しい」

「貴方達のペースに合わせると余計に気苦労が溜まるのだけど」

 

 このバカ達をうまく抑えるにはどうすればいいのかと考えるが、セーラもカツェも既に匙を思い切り投げ捨てているようで諦めているようだ。どうしたらいいものかと悩んでいると凛がこちらへやって来るのが見えた。彼女も彼らの様子を見て半ば呆れているようだ。

 

「ロリコ…げふんげふん。ハワード殿下のおかげでうまく丸く収まったようね」

「あのバカ4人のせいで殿下が心配です‥‥それで、あの切り裂きジャックについて何かわかりましたか?」

 

 メヌエットは時計塔に来た際、切り裂きジャックと名乗っているあの少女が一体何者なのか凛に調べてもらっていた。そのことについて、凛は少し訝しそうにして頷く。

 

「そうね…ぶっちゃけて言えば、とても奇妙なものだったわ」

「奇妙、ですか?」

「ええ。あの子は魔力で構成された人形なのか、またはたブラックウッド卿が洗脳させたものなのか、肉体と魔力を調べたのだけど‥‥あの子の肉体は一度死んでいたのよ」

 

 一度死んでいるという事を聞いたメヌエットは目を丸くした。

 

「死んでいた…という事はあの子は死人ですの?」

「いいえ、あの子は別の人格を持って造られた。簡潔に言うと少女の死体に別の魂を埋め込ませ蘇らせたというべきかしら」

 

 凛の話を聞いてメヌエットは深く考え込む。一方でカズキ達はキョトンと首を傾げていた。

 

「つまり…ドラゴンボール‼」

「んなわけねえだろ。人が蘇るなんて不可能じゃねえの?」

「という事はジャックちゃんは死の淵から蘇ったスーパーサイヤ人!?」

「その時不思議な事が起こった」

 

「うん、どれも違うから」

 

 セーラがまとめてツッコミを入れる。凛は一先ず彼らの事はスルーして話を続けた。

 

「中国で言えば『跳魂(チャオゴン)』、日本で言えば『御霊降ろし』…瀕死の人間若しくは死んだ人間の体を器にし、魂を埋め込む呪術ね。魂なら他の生きている人間や過去に死んだ者でも可能よ」

「じゃあジャックはモノホンの切り裂きジャックの魂を入れられたのか?」

 

 もしそうならばあんな純粋な子供の様な精神ではなく猟奇殺人をお構いなくやるサイコパスな人格になっている可能性があった。不思議そうにするナオトに凛は首を横に振る。

 

「彼女は猟奇殺人犯そのものではないわ。表現が難しいのだけど…恐らくブラックウッド卿が彼女の肉体に入れた魂は切り裂きジャックがいた時代で流産や病気といった理由で産まれる前に死んだ胎児の魂だと思われるわ」

「それはつまり‥‥どゆこと?」

 

「切り裂きジャックのいた19世紀のイーストエンドやホワイトチャペルは貧困の街で、売春婦や幼児の死亡が多かったの。切り裂きジャックの事件現場でもあることからブラックウッド卿は幼児の魂を利用して人々が恐れた猟奇殺人犯という人格を作り上げたという事になるわ」

 

 いわば刷り込みのようなもの。幼児であるが故に純粋であるが故に、かの少女は切り裂きジャックという霧の様にはっきりしない者にされてしまった。無垢な少女を猟奇殺人犯に仕立て上げたブラックウッドを許せないようで、カズキ達はプンスカと怒り出した。

 

「隠れ蓑にするためにそこまでするのかよ…ますます腹が立つな」

「許せねえ!たっくん、これは事案ですぜ‼」

「おおう!俺の怒りが有頂天だぜ!凛先輩、はやくM字ハゲを捕まえにいこうぜ!」

 

「そ、そうね…そのためにもあの子から幾つか聞き出さないといけない事があるし」

 

 凛は頷いてチラリと視線を向ける。今も尚、ハワード王子はジャックに王子と呼ぶように説得をしているようだ。一方のジャックは楽しそうにはしゃいでいた。

 

「あーもう、『おうじ』と呼ぶのだ‼それと淑女らしく下着の上にスカートか何か穿け‼」

「えー、こっちの方がはやく動けるもん」

「それじゃあいかんのだ‼なんかこう余のモラルとか色々…と、特にアリアに見られたら…‼」

 

「凛先輩‼今日もお願いしま…あ‼ハワード…おう…じ…?」

 

 噂をすればなんとやら、丁度そこへアリアが凛の下へやって来たのだ。案の定、アリアはハワード王子の傍にいるジャックを凝視してピタリと制止する。ハワード王子とメヌエットはやっちまったと叫んでしまいたいそうな顔をしていた。アリアの視線に移るは裾丈の短いノースリーブのジャケットに黒の紐パンときわどい恰好をした少女。アリアはわなわなと手を振るえながらジャックの方に視線が釘付けになる。

 

「は、は、ハワード王子…そ、そちらの子は…」

「あ、アリアよ、よーく聞くのだ。余はそういう趣味は一切なry」

「おかーさん?あの人だれ?」

「」

 

 ジャックの一言でハワード王子は終わったと真っ白になった。無論、それを聞いたアリアもビシリと彫刻の様に固まり、ギギギと首をタクト達の方へ向けた。ハワード王子もタクト達に助けを求めるかのように涙目で訴える。

 

「王子、大丈夫だぜ!アリアもそう身長とか見た目とか変わらないし。セーフセーフ」

「そ、そうなのか…?」

「そうそう、寧ろアリアの奴がキュンと来たに違いないぜ」

「そうなのか!よ、よかったー…」

「くぉらぁ‼あんた達、ハワード王子に何変な事を吹き込んでいるのよ!?」

 

 アリアもジャックと同様見た目はそうも変わらないという事で大丈夫だと言われ、身長とかサイズとか色々と気にしているアリアはカズキとタクトに怒りだす。

 

「というか寧ろジャックの方があぶねえぞ?キンジの奴はジャックも射程圏内だ」

「な、なんだと!?ケイスケよ、それは誠か!?」

「こんなの見たら間違いなくキンジはヒャッハーしてくる」

「そうかだからアリアも…許せん‼ジャックの無垢とアリアは余が守るぞ‼」

「ちょ、本当にキンジの事を勘違いされるから‼」

 

 ケイスケとナオトのせいで更にハワード王子はキンジの事を勘違いし拍車をかける。あながち間違っているとは言えないのでアリアも中々うまく否定できなかった。打倒遠山キンジに燃え上がるハワード王子にサイオンも少々困っているようで、どうやって抑えていくべきか悩んでいた。

 

「殿下、自分の立場を少しはお考えになった方がよろしいのでは…?」

「何を言うかサイオン。余がやらなければジャックは遠山キンジの毒牙にかかってしまう!タクト達よ、余の為にも力を貸せ!」

「おかーさん、がんばれー‼」

 

「メヌ、とんでもないババを引いたわね…一体何をやらかしたのよ」

「お姉様、ババというよりもバカといった方がいいですわ」

 

 アリアとメヌエットははしゃいでいるジャック、肩を竦めているサイオン、やる気満々のハワード王子とこれを楽しんでいるタクト達を遠い目で見つめていた。

 

___

 

「そういう事だったのね…」

 

 アリアは一部始終をメヌエットから聞いて納得した。このままでは王子が勘違いされるということでメヌエットは全てをアリアに話したのであった。

 

「それで、メヌはそのブラックウッドとかいう奴を捕まえる手掛りは手に入ったのかしら?」

「これからですわ。けれどもあの子からどれだけの情報が手に入るのか、少し不安ね」

 

 ジャックは純粋すぎるためブラックウッドについて情報がどこまで本当か眉唾物である。手掛りが手に入れるのか、メヌエットは多少不安気味であった。ましてやハワード王子にすっかり懐いているためこちらの話を聞いてくれるかどうかと不安要素はいくつかあった。

 

「あの子はこの事件の突破口。私にかかればすぐにでも解決への道筋が見つけることができますわ」

「メヌ、気になったのだけど…貴女、何故急いでいるの?あたしにこの事件を関わらせないようにしているように見えるのだけど」

 

 アリアは気になってしょうがなかった。これまで自分の妹がここまで事件解決に焦っている事は無かった。しかしメヌエットはそっぽ向いて精油パイプを咥える。

 

「また根拠のない直感ですの?お姉様には関係のない事ですわ」

 

 メヌエットはアリアに視線を向けることは無く考え込む。そんな妹をアリアは心配でたまらなかった。この子は何かを知っている。それは自分と関係していることに違いないとアリアは直感していた。

 

「よし、サイオンよ。余は決めたぞ!ジャックはお前と組ませて余のボディーガードにする!」

「殿下、それはさすがにまずいのでは?」

「余の決めた事だ、構わん!」

 

 一向に首を横に振らないハワード王子にサイオンはヤレヤレと肩を竦めた。彼らのせいでいい方向に進んでいるのか、悪い方向に進んでいるのか、分からない。

 

「おかーさん、あそぼー‼」

「む、余は少し疲れた。サイオン、遊んでやれ」

 

 サイオンは仕方ないとため息をついてジャックと玩具のナイフで組手をした。両者目にも止まらぬ高速のナイフ捌きにカズキ達は目を点にしていた。

 

「‥‥お前達には感謝しているぞ」

 

 ふとハワード王子の呟きを聞いて視線を向ける。

 

「あの夜、余は怯えるジャックを見て思い出したのだ。余が子供の頃は王子であるがために優雅に高貴に紳士として立ち振る舞わなければならんと、両親から厳しく躾けられた」

 

 ハワード王子は最初に出会った時のような傲慢さはなく、少し落ち着いた様子で自分を蔑むように苦笑いをして話を続けた。

 

「特に母はひと際厳しく、ひどい場合は手を出す時もあったのだ。期待に応えようと励んでいても、王家とあらば当たり前の事だと母は褒めてさえくれなかった。ジャックを見て幼き頃の余を思い出したのは…きっと余も母の愛が欲しかったのであろうな」

 

 母の顔すら見る事さえできずに死んだ幼児の魂を入れられ母を求むジャック、子供の頃からずっと母親の愛を受けることがなかったハワード王子。王子にとってどこか共感するものがあったのだろう。

 

「おかげで少し目を覚ますことができた。それを思い出させてくれたことに、感謝する」

 

「じゃあ俺の言ってたことはあながち間違ってなかったんだな!」

「たっくん、それ言うと台無しになるから」

 

 ドヤ顔をするタクトをケイスケは肘鉄を入れた。このまま王子の性格が少し良くなればいいだろう。多少、彼らに関わったことで間違った方向に進むのは過言でもない。

 

「さて、後はジャックの証言を伺いこの霧の根源である輩を突きとめるか」

 

 ふんすと鼻息を立てて王子は乗り出す。この事件を自らの手で解決すれば間違いなくアリアは自分に惚れると考えていた。

 

「ハワード殿下、それは少し待っていただけないでしょうか?」

 

 ふと声がかけられたので振り向くと、黒いオールバックで彫が深い顔をしたグレーのスーツを着た男が此方に向かって歩いて来ていた。その男の後ろには黒のスーツを着たサングラスをかけた男達が数名ついて来ている。ハワード王子はグレーのスーツの男を少し警戒して睨む。

 

「お前は何者だ?」

「これは申し遅れました。ハワード殿下、ご無礼を。私はアンドリュー・デンビー、『D』と呼ばれています」

「お前は‥‥MI5か、殿下に何の用だ」

 

 サイオンは王子を守る様にDの前に立ちはだかった。MI5はMI6と同様、イギリスの国内治安維持のために活動する情報機関である。Dは警戒するサイオンを全く恐れずに笑顔で答えた。

 

「切り裂きジャックを捕えたと他の者から聞きましてね。捜査の為、その切り裂きジャックをこちらに引き渡してもらえないでしょうか?」

「断る。これは我々MI6の管轄だ。お前達が出る幕ではない」

 

 ハワード王子が口を開く前にサイオンがDを睨み付けながらその要求を蹴った。Dは「それは困りましたなー」とわざと困り果てたかのようにオーバーに素振りをしていた。凛もDの方に警戒する様に睨み付ける。

 

「MI6の方々はちゃんとアポをとって時計塔にくるのだけど、あんた達はアポなしで来て対応に困るのだけど?」

「それは参りましたねー…其方の責任者となる方々がいらっしゃらないようで」

「一応副院長がいるのだけど、貴方達にかまっている暇はないのよ」

 

 今はMI6がいるのにMI5まで来られるとてんやわんやになるし、彼らに霧のことを知られると間違いなくまずい事になる。凛はD達がすぐに帰ってもらうように塩対応するが、Dはそんな事も気にせず絶えず笑顔を見せた。

 

「時計塔もこの霧を解消する方法に手を焼いているようで、時間を費やすのならば時計塔はこの件から手を引いて我々に任せて頂きたい」

「冗談じゃないわ。あんた達に任せても碌な事がなさそうだし、お断りよ」

 

 サイオンや凛が睨みをきかせていてもMI5のDは折れることは無かった。そこへメヌエットがDの下へやってきた。

 

「これはこれは、メヌエット女史。我々の要請には全く聞く耳を持たなかった貴女がこんな所にいらっしゃるとは」

「お生憎様、この事件は私の力で解決しようとしているのですわ。ところで、貴方達MI5は霧に乗じて現れる武装集団の追跡をしているようだけど、ああだこうだ言っているくせに捜査が難航しているようね」

 

 出会い様に毒を吐くメヌエットにDは笑顔のままピクリと眉を動かした。そんな彼の様子を伺う事無くメヌエットはさらに話を続けた。

 

「ましてや証拠となるものも上がらず、手がかりを一切つかめていない…まるで捜査する気のないようにも伺えますわ。そんな人の為に私は自分の頭脳を使うつもりはありませんの」

「それは痛い所をつかれましたなー…こちらとしては切り裂きジャックを匿っているように見えますが…」

 

 Dは舐めるような視線をジャックに向ける。ジャックは咄嗟にハワード王子の後ろに隠れひょっこりとDを伺っていた。ハワード王子はジロリとDを睨み付けた。

 

「Dよ。貴様は余の機嫌を損ねたいのか?上に伝えればお前を解任させることができるのだぞ?」

「あはは…殿下、これは失敬。折角就任された身ですし、解任は困りますね。では、日を改めてお伺いいたしましょう」

 

 Dは軽く会釈をしてくるりと踵を返し、黒スーツの男達と共にこの場を去っていった。去っていく連中に向けてタクトはあっかんべーをしていた。

 

「さっすが王子だぜ!職権乱用で追い払うなんてそこに痺れる憧れるー‼」

「痺れもしねえし憧れもしねえよ。一応塩でも撒いておくか?」

 

 ケイスケとカズキは何処から持ってきたのか、伯方の塩をパラパラと振り撒く。ナオトはサイオンとDのやりとりを見て気になっていたことがあった。

 

「MI6とMI5は仲が悪い?」

「ああ、ジェームズ・ボンド、父が引退する前の一件が原因だがな…」

 

 サイオンはため息ついて頷いた。嫌そうな顔をしているサイオンから余程のことがあったのだろう。メヌエットは厄介者が去ってほっと一息入れる。

 

「ここでMI5も動き出した‥‥少し急がねばなりませんわね」

 

 メヌエットは考え込む。どうして今になってDと名乗るMI5のエージェントが現れたのか、何故ジャックを引き渡せと言って来たのか彼女にとって気がかりな事が多かった。

 

「おかーさん、かっこよかったよー‼」

「こ、こらいきなり抱き着くな!」

__

 

 今日もワトソンはナオト達が頑張っているのかどうか気になって朝早くからメヌエットの下へと向かっていた。アリアは『バカ4人共は色々とやらかした』と遠い眼差しをしながらワトソンに語っていたのでかなり心配である。

 

「ナオト達…うまくやってくれてたらいいのだけど…」

 

 これまでの経験上、うまくやってくれていないの気がするので余計に心配になってきた。そんな心配する気分を伸し掛かる様に心なしか、霧が昨日よりも濃くなっているように見えた。

 

 ようやくメヌエットとカズキ達がいるアパートが見えてきたところでドアが開き、そこから白のスーツを着た人物が階段を降りていくのが見えた。アリアの情報からハワード王子がメヌエットの所にいると聞いているが何故か帽子を深くかぶっており顔が見えない。

 

 MI6のサイオンやメヌエットの隙を狙ってお忍びでアリアの所へ向かうのかと気になって様子を見ていると、突然濃霧の中から黒のベンツが数台、彼の下へと猛スピードで飛び出して来た。急ブレーキをかけて囲うように止まるや否や、ドアが開いて彼を無理矢理車へと連れ込むと颯爽と去っていった。

 

「‼しまった…‼」

 

 明らかに穏やかなものじゃないと気づいて動こうとしても時はすでに遅し、黒のベンツ達は濃霧の中へと消えていった。間違いなくハワード王子の拉致を目的としていた。

 

「大変だ…皆に知らせないと‼」

 

 ワトソンは急いでメヌエット達の下へと駆けだした。ドアをノックもせずの開けてドタドタと大急ぎでメヌエットの部屋へと入る。突然の来客にメヌエットはギョッとして驚いていた。

 

「ワトソン卿、ノックもせずにいきなり押しかけてくるのは少し焦り過ぎなのでは?いくら賭けているとはいえそこまでするのは無粋ですわよ?」

「今はそれどころじゃない‼大変なんだよ!ハワード王子が攫われた!」

「‥‥‥はあぁっ!?」

 

 いきなりの事でメヌエットはキョトンとしていたが、すぐさま驚愕した。

 

「どうりで朝から車の騒がしい音がしたと思っていたら…そんなことが…‼」

「もしかしたら霧に乗じて現れる武装集団の仕業かもしれない、何とかしないと‼」

 

 英国王子が攫われたとなると一大事である。ましてやMI6に知られてしまうと更にまずい事になってしまう。

 

「というよりもあのバカ達は何をしてるのよ‼」

 

 メヌエットは憤然として自ら車椅子を動かしてカズキ達が入る所へ向かった。簡易エレベーターで1階に降りると食堂から喧しい声が聞こえてくる。食堂に向かうと、カズキ達は呑気に朝食の準備をしている最中だった。カズキはメヌエットに気付くと呑気に手を振る。

 

「おっ、メヌエットちゃんおっはー」

「リサに起こされることなく自ら降りてくるなんて珍しいな」

 

「貴方達何を呑気にしているのよ‥‥‼」

 

 王子が攫われたというのに全く無関心な様子を見せる彼らにメヌエットは怒りを隠せなかった。状況を理解していないのかカズキとケイスケとナオトは首を傾げる。

 

「何って…朝ご飯の準備をしているんだけど?」

「今日は思考を変えて和食だぜ。メヌエットちゃんにとっては和食なだけにワーショックかもしれないけど!」

「というかワトソンも来てたのか?お前も食うか?」

 

「3人とも、それどころじゃないよ!?」

 

 言わないと分からないのか、いまだに分かっていない彼らにメヌエットは激怒した。

 

「貴方達がそうやって呑気にしている間にハワード王子が攫われたのよ!?どうしてこうも事の重大さを分からないの‼貴方達に悩まされている身にもなっry」

「騒がしい‥‥余がどうしたというのだ?」

 

 キッチンからゆっくりと出て来たハワード王子にメヌエットとワトソンは目が点になった。普段、白のスーツで決めているハワード王子が今はカズキ達と同じ武偵校の制服を着ていた。

 

「は、ハワード王子?そ、それは一体…」

「うむ、タクトが言うには遠山キンジに勝つためには庶民の味を理解しなければならないというわけでな。庶民の格好をして、『ナットウ』とかいう食べ物を食えば強くなるという事で挑戦するところだ」

「すまないな。私も止めようと説得をしたのだが…」

 

 サイオンが申し訳なさそうにしてメヌエットに頭を下げた。一体どういうことなのかメヌエットとワトソンは理解に追いつかない。つまりはハワード王子は攫われていないという事になるのだが、ワトソンが見た攫われた白のスーツを着た人物とは一体誰だったのか。ふとメヌエットは気づいた。

 

「‥‥ところで、タクトの姿が見当たらないのだけど?」

 

「たっくんなら王子の服を着て納豆を買いに行ったぜ」

「近くにコンビニもあったし、すぐに戻って来るだろ」

「それにしてもたっくん帰って来るの遅いな」

 

「「‥‥」」

 

 彼らの話を聞いてメヌエットとワトソンは全てを理解した。ワトソンが見た白のスーツを着た人物はタクトで、ハワード王子と間違えられて攫われてしまったのだ。

 

「何だそういう事ね‥‥って、彼、ハワード王子と間違えられて攫われたのだけど!?」

 

「「「え゛ええええっ!?」」」

 

 メヌエットのノリツッコミでカズキ達はタクトが攫われたという事にやっと理解して驚愕した。




 ジャックちゃんはカワイイ

 MI5のDさんことアンドリュー・デンビーさんのモデルは007/スペクターに登場したMI5のCさんを演じたアンドリュー・スコットさん


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