NARUTO~行商人珍道中~   作:fall

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遅れましたすみません。

今話以降、オリジナル展開並びに捏造が多々入ると思います。主に、マダラ関連の出来事と神無毘橋の戦い等の時系列が前倒ししています。

正直、この作品はナルトという世界を借りた全くの別物に成ります。原作崩壊は確実です。



12 彼の記憶……変貌し行く物語

NARUTO~行商人珍道中~

 

12 彼の記憶……変貌し行く物語

 

 

 

 

 

 狂笑が森に木霊し木々を震わせる。低く、くつくつとした小さな笑い声だったソレは次第に大きくなり聞く者全てを不快な気分にさせるものへと変貌する。

 

 その男を実に不快そうに睨みつける者が一人。その名を桃地再不斬と云う。彼と男とは別段友人等といった関係ではなく、むしろ殺し殺されの敵対関係に有る。

 

 彼らは現在、互いに殺し合いと呼ぶべき戦闘を続けていた。いや、この表現では語弊があるか。再不斬が一方的に男へと攻撃を仕掛け、ソレを躱し、時にいなすのが嗤っている男だ。彼らが如何にしてこの様な関係に成ったのか端的に説明すると、一人の少女を廻って争いを起こしていると云えばいいのだろうか。

 

 相対する男と再不斬。どちらも相応の恨みを持ち、眼前の敵をどの様に殺してくれようかと常に思考を巡らせている。

 

 男は、自身を一度殺し、尚且つ同行していた少女を攫って行った再不斬に同様以上の苦しみを味遭わせようと。再不斬は、男が保身のために少女を身代わりに殺した事に対して怒りの感情で。

 

 双方の言い分は決して交わる事のない平行線だ。再不斬が男を串刺しにした事は事実であるし、男が少女を盾にしたという事実はしかと再不斬の目に映っていた。

 

 男と対峙する再不斬は、不意に疑問に思う。何故、自身はあの少女にこれまでの激情を掻き立てられているのかと。たった一週間足らず、少女と過ごしただけにも拘らずどうしてマグマの様に沸々とした怒りが腹の底から込み上げてくるのかと自問自答を繰り返す。

 

 何故、どうして、しかし解らない。頭の奥に霞みがかった靄のような物が湧き出す。ソレは再不斬の思考を邪魔するように脳内を埋め尽くす。薄らと見えたソレは幼い頃の自分を映し出していた。

 

 アカデミー時代か?と若干の懐かしさを覚えながらも、何故そんな記憶があの少女と関係しているのかと再び疑問が再燃する。正眼に捉える男が何やら呟いたと思うと周囲がぐにゃりと捩れた。

 

 突如として、再不斬を取り囲む世界は急変した。対峙する憎き男を始めとして再不斬以外の全てがまるで始めから無かったかのように掻き消え、ぐるりと視界が反転する。次に目にしたものは、無邪気に走り回るあの少女に似た別の少女とそれに溜息を吐きながらに付き合う自分だった。

 

 

 

 

 何が、起きていやがる……?再不斬の気持ちを代弁するのならばこの一言に尽きるだろう。当然、幻術の類だと一瞬にして見破った再不斬は解術するべくチャクラを練ろうと腹へと力を込める。がしかし、チャクラを練ることが出来なかった。再不斬にしてはチャクラを練ることが出来ないなど今まで体験したことのない事であった。

 

 再び混乱する。訳が分からない。術を仕掛けたあの男は一体どうしてこんな事をしているのだろうか?オレを殺したいのならばさっさと殺せば良いものを悠長に気懸りな記憶を掘り起こしてくれやがった。……奴も、この記憶に何かを感じたとでも云うのか?まあ良い。見せてくれるのならば見せて貰おうじゃねェか。

 

 

 

 

 

 眼前を駆ける少女は見れば見るほどあの少女にそっくりだ。少女は幼い再不斬の手を引いて何処かへと連れて行こうとしている様だ。歩を進めながら取り留めのない話しを少女が少年へと投げかけ、それを適当な相槌で少女へと返す。少女は時に、本当に聞いているのかと怒り気味に問い詰めたり、端正な顔を可憐な笑みへと変化させ表情をコロコロと変える。少女の笑みに釣られて少年も薄く口の端を釣り上げる。そんな少年を見てオーバーなリアクションをとってまた、笑みを深くする少女。

 

 

 現在のこの訳の解らない光景を見せられている再不斬からしてみれば驚きの連続であった。あの少女(ハク)そっくりの少女と幼い頃の自分がさも仲良さげに会話をし、互いに笑みを浮かべ楽しそうに笑っているのだから驚かない筈がない。

 

 

 

 オレはこんな記憶、知らない……お前は、誰だ。何故、そんなに楽しそうにオレと会話をしている?オレも、どうして笑みを浮かべているんだ。何故。何故だ。何故、オレは覚えていない。べったりと血塗られたオレから見ても眩しく……そして、嘗て望んで止まなかったソレを。

 

 

 

 都合の良い幻だと冷静な自分が脳に告げる。一方で、感情がこれは幻ではなく、事実だと否定する。冷静な己は「そうで有って欲しいだけだろう?」と挑発をし、対する感情は「あの少女を初めて見た時の確かな既視感と暖かな温もりを忘れたのか」と声を大にして非難する。

 

 

 今思えばあの時の自分はどうかしていたのだろう。子連れの平和ボケし腐った間抜け顔をした男に難癖を付け、気分のままに殺した。少女の方も同様だ。特に理由も無いにも関わらず漠然とした使命感とも付かない感情で連れ去った。氷遁等と云う珍しい力に魅せられたと云うのも一応はあるが、タダの道具だとしか思っていないにも関わらず、あの男の代わり身として斬ってしまった際には自身でも驚く程に取り乱しもした。

 

 いつもの自分らしくない行動であったことは事実だ。アレらの行動が無意識的な物なのだと仮定するとやはり、この記憶に何らかの形で関わってくるのだろう。見覚えのない、未だ血塗られていなかった頃のオレと笑い合う少女。しかし、その少女を見るたびに胸が激しく動悸するのは確実に少女に何らかの反応しているためであろう。

 

 正直な所、再不斬にしてみればこの幻術内に於いて起きる出来事が事実であろうとそうでなかろうとどうでも良かったのである。虚実であれば、やはりそうだったかと落胆し、ふざけた幻を見せた元凶(男)を殺す動機が増えるだけであった。事実であれば、如何して自身はこの記憶を忘れていたのかを思い出すことが出来る。どちらに転んでも、余り変わりはないのだからさっさと続きを見たかったのだ。

 

 

 

 どうやら少女は何かを少年に見せたいようでグイグイと手を引き大股に歩いていく。暫くして、様々な屋敷が立ち並ぶ内の最も立派と言える囲いのある巨大な武家屋敷の裏辺りにたどり着いた。

 

 少女はその屋敷の内側に生えている一本の木を「アレ」と指を指して少年へと振り返る。嗚呼、成程と理解した再不斬は少女らがこの後どうするのかを静観することにした。

 

 どうやって登ったのかは解らないが、丁度少女らの居る辺りから見える囲いより少し上の枝に白色をした仔猫が一匹降りれなくなったのか心細そうに小さくニャーニャーと鳴いていた。

 

「助けて上げて欲しい」と少女は少年再不斬へ願う。これに少年は「自分で助けてやれば良い」とぶっきら棒に返す。しかし少女は哀しげに目を伏せ「アレルギーを持っているから不可能」であることを告げて再度懇願する。そんな少女にバツの悪そうな表情を浮かべて軽く謝り、了解の旨を告げその場から飛び上がり囲いに移る。その後、少年を追うようにして少女自身も同様に囲いに飛び乗る。

 

 

 

 軽く前後に身体を揺らして勢いを付け仔猫が居る木へと飛び移る。軽い着地音と仔猫の驚きの鳴き声が少女の鼓膜に届く。仔猫の脇に手を入れ万歳をさせて少女へ無事だとアピールする。気だるげな少年の表情と仔猫の驚いた顔を見て、またもやくすくすと笑う少女。

 

 そこへ人影が二つほどやってきた。勝手に敷地内に入ったことを知られると拙いと思った少女らは急ぎ草木の影へと隠れた。どうやら、その二人は何やら込み入った話しをしているようで二人の存在には未だ気が付いていない様子である。

 

 

 現れた二人はどちらも珍妙な姿を晒していた。一人は青白い肌をした鮫の様にギラついた厳つい顔付きの男。その背丈はかなりの大柄で背に負っている包帯でグルグル巻きにした得物はまるで生きているかのように時折脈動する。もう一人はお面だろうか?赤茶色を基調として渦を巻いた妙な面を身に着けている素性の分からない人型。

 

「まさか、貴方が本当の水影様だったとは……成程、やぐらの性格が急変した理由もそれでですか」

 

「嗚呼、そうだ。オレが奴を傀儡(かいらい)とし今の血霧の里へと変貌せしめた。が、それを知ったお前はどうする?オレを殺すか?……まぁ、出来るとは到底思えんがな」

 

「でしょうね。今の私では貴方に指一本触れることは出来ないでしょうね。……私は貴方が何を成すのかを見てみたい。貴方の作る世界を。貴方の望む結末を。貴方がその世界(理想)で何をするのか大変興味が湧きますねぇ」

 

「そうか。であればオレと共に来い。オレが創る世界をお前にも見せてやる」

 

「光栄です。……そう云えば、未だ貴方の名前を伺っていませんでしたね。教えて頂けますか?」

 

「……マダラだ。うちはマダラ。嘗て、千手に敗れた怨念。いや亡霊と呼んだ方が良いか。オレと共に来るのであればそれ相応の覚悟を決めて置け」

 

 仮面の男は自身の名を言う際に、少しの逡巡とも迷いともつかぬ間を開けその名を名乗った。

 

 

 息を潜める少女達と怪しげな話しをする彼らを除き、人の気配どころか蟻一匹すらいない屋敷が不穏な空気に包まれる。そんな中、傍観者たる再不斬は混乱の境地に居た。

 

 こいつ等は一体、何の話しをしている?本物の水影?ならば今の四代目は一体……?それに、≪うちは≫だとッ!?木の葉の忍びが何故此処に居る?クソッ、余計に訳が分からなくなって来やがった。

 

 

「ええ。それは勿論です。……ところでネズミが数匹紛れ込んでいるようですが?如何します?」

 

「ふっ気が付いていたか。そうだな、良い機会だ。オレの力の一端を見せてやろう」

 

 息を潜め、聞き耳を立てていた少女らはマダラの言葉から何かが来ると急ぎその場から脱兎のごとく離れる。

 

 瞬間。爆発。爆音と爆風が少女らを軽々と吹き飛ばす。アカデミーで習った通りに衝撃を減らすべく受け身を取る為にゴロゴロと転がり衝撃を外へと逃す。しかし、彼らからは逃れることはできなかった。

 

「おやおや、随分と小さなネズミですねぇ。……ん?そちらは再不斬の小僧じゃあないですか。一体こんな場所で何をしていたんですかねぇ?」

 

「知り合いか?であればそちらの処理は任せる。オレは此方に試してみたいことが出来た」

 

「解りましたよ。……小僧、久しぶりに遊んでやりますよ」

 

 

 

 

 

 

 ゴホゴホと咳き込みながら弱弱しい足取りで立ち上がる少年。少年は対峙する男≪干柿鬼鮫≫を睨みつける。少年と鬼鮫との間には並々ならぬ因縁が有る様でにらみ合う二人は互いの得物をしかと握り締め、ほぼ同時に距離を詰める。

 

 再不斬は少年と鬼鮫が繰り広げる戦闘を冷めた目で見つめていた。まるで戦いに成っていないのだ。少年が斬りかかると鬼鮫はソレを彼の得物である≪大刀・鮫肌≫を用い、いなして少年のチャクラを喰らう。しかし、少年は余程少女の事が気になるのか戦闘に身が入っていない。早く鬼鮫を倒して少女の救援に向かおうと躍起になり、単調な動きに成りがちになってしまう。それでも無策に斬りかかる少年にいい加減業を煮やしたのか鬼鮫は大きく鮫肌を薙いだ。

 

 

 一際(ひときわ)激しい金属音が響く。気が付くと少年の手に握られていた刀は真ん中辺りからぽっきりと折れていた。呆然とする少年。続いて、その身に大刀が迫り、その身に受ける。右肩から左腰辺りまでを斜めに深く斬りつけられた少年は苦悶の声を上げ、地へと倒れ伏す。

 

 本来であれば、致命傷。放っておけば数分もしない内に死に至るだろう。しかし、それ程までの傷を受けてなお立ち上がろうとする少年の視線は鬼鮫ではなく少女とマダラへと向けられていた。じっとその先を見つめる少年の顔は次第に青ざめていった。

 

 

 

 ぐぅッ!頭痛が激しくなって来やがったッ…………っ嗚呼。思い出した。この後、オレは。彼女を、白雪を殺すのだ。

 

 

 

 

 

 

「さぁ、試作品……そうだな銘を≪ペイン≫とでも呼ぼうか?初めての仕事をして貰おう。彼に止めを刺すんだ」

 

 マダラの命令に少女は黙り頷くとゆっくりとした足取りで倒れ伏す少年の元へと歩き出す。一歩一歩踏みしめるように歩く少女の両手には一振りの大きな出刃包丁に似た刀が握られていた。ソレをずるずると地に引きずりながら少年の元へと歩き続ける少女の両の目からは雫が絶えず流れ続け、その顔は涙に濡れていた。

 

 鬼鮫は少女がどのように少年を殺すのか楽しみだと云わんばかりにその顔をニヤけさせ少年から距離を取る。マダラはと云えば腕を組み、どんな結末に成るのやらと仮面から覗く紅い右眼を凝らす。

 

 

 

 ピタリと少女の足が止まった。それは少女の持つ得物の攻撃範囲に少年が入ったことを知らせる。そうしてぎちぎちと震える両手をブリキ人形の様にゆっくりと真上に掲げ、重力に従って大刀を勢い良く振り下ろす。

 

 衝撃音と共に土煙が舞い上がる。それは少女と少年を瞬く間に覆い隠した。……土煙が晴れるとそこには倒れ伏した少女の姿とドクドクと夥しい血を流す真っ二つに両断された赤く染まった白色の仔猫の姿が有った。

 

 

 

 

 

 

「ごめん、白雪。ぼくでは君を助けられない。……だから、今から楽にさせて上げる。…………好きだったよ」

 

 小さく呟いた少年の言葉は少女には届かなかった。振り上げられた大きな刀を見つめ決意を決めた少年は行動に移す。振り下ろされるソレに合わせて変わり身の術を発動させる。対象は、先ほど助けた仔猫だ。叩きつけられる首切り包丁はもくもくと土煙を上げた。少女と少年を包み込んだその刹那、少年は鬼鮫によって折られた刀を少女の胸へと突き立てた。皮肉な話ではあるが少年はこの時≪無音殺人術(サイレントキリング)≫を初めて成功させたのだ。

 

 

「かふッ!……ぁ、ご、めんね。あり、がとう。わた、しも……再、不斬の事、す、きだった。……ねぇ、ざぶざ。わた、しのぶんまでしあわ、せになって……ね」

 

「……うん。約束するよ。白雪の分まで……白雪が羨ましがる位にぼくは、オレは、幸せになってやるっ約束だッ!」

 

「そっか、でも、くやしい、なぁ。わたしね、わたしのっゆめは……ざぶざのおよめ」

 

 さん。と続けられるべき言葉は少女の口からは紡がれなかった。少女の心臓の鼓動が完全に停止してしまったがためだ。もう二度と、少女の夢が叶えられることは、無い。

 

 

 

 慟哭(どうこく)。少年の口からは雄叫びと呼ぶべきであろう咆哮に近しいソレが放たれ続けていた。少女の亡骸をかき抱く様にして抱きしめる。段々と薄れていく体温が、少女の死を確実に証明している。それでも、認めたくないのか、少年は「まだ、お前の夢を最後まで聞いていないぞ」と少女に返答のない声を投げかける。

 

 

 

「ペインとなるにはまだ何かが足りないか……哀しいなぁ、世界はいつの世も、残酷な結末に溢れている。…………だからこそ、オレは世界を創り変える。死者と生者とが皆、平等に平和に暮す理想の世界を」

 

「ソレが、貴方の目指す世界、ですか。……益々、貴方という人に興味が湧いてきました。で、アレはどうされます?殺しておきますか?」

 

「いや、少し試しておきたいことが増えた。その実験に付き合って貰おう」

 

 

 喚く(わめく)少年に向けてマダラは歩を進める。近づいてくるマダラに気が付いた少年は少女を壊れ物を扱うがごとくそっと優しく地へと寝かしその傍らにあった首切り包丁の柄を掴みマダラに向けて疾走する。スピードを乗せた重厚な刃を横薙ぎに振り払い回転斬りの要領でマダラの胴体へと勢いよく叩きつけた。……がしかし、その渾身の一撃はまるでマダラの身体をすり抜けたかのように透過し空振り、失敗に終わる。当然、マダラは隙だらけになった少年の身体を思い切り、大地へと叩きつけた。

 

 

 少女との戦闘をこなす事すら気力のみで行っていたに等しい少年は最後となる攻撃の失敗と叩きつけられたことでほぼ力尽きかけていた。それでもなおその眼だけは自身を踏みつけるマダラと呼ばれた男を睨みつける。

 

 

「良い眼だ。その眼は嘗ての……いや、これはどうでも良いことか。お前、オレと共に来る気は無いか?オレの創る世界は死者も生者も皆平等で平和な理想の世界だ。あの少女も生き返ることが出来る。そんな素晴らしい世界だぞ?どうだ。共に来い。そうすれば、あの娘と永遠に一緒に居られるぞ?」

 

「……ぃ。…………くだ。」

 

「ん?どうした。聞こえんぞ?返答は大きな声で頼む」

 

「ない。いらない。ッそんな世界ッッッ要らないッ!!!オレは、約束したんだ。白雪の分まで、いやそれ以上に幸せになると。アイツが羨ましがる位に幸せになってやるとッ!」

 

「は、ぁ?何を言っている?あの少女も蘇るのだぞ?お前が愛した、愛された。少女がだッ!」

 

「……それでも、死んだ人間は蘇ったりしない。しては、いけない。お前のやろうとしていることはッ死者に対する冒涜だッッッ!」

 

「ぉ、れが、リンを冒涜している……?ちがうッ違うッ違うッッッ!オレは間違ってなんていないッ……そうだ。計画さえ成功すれば、また、リンとカカシと先生と一緒に居られる。だからっ」

 

「死者は蘇らない。そんな事、オレみたいなガキでも知ってる事だ。お前は、既に壊れている。例え、お前が掲げる理想とやらを実現しようとした所で誰かがお前を止める。必ずだ」

 

「黙れッ!お前に何が解るっ!?戦争を経験した事も無いガキがッ!大切だった人が、物が壊れていく様を何もできずに指を咥えて見ていることしかできない悔しさをっ知らないガキがッッッ」

 

「ああ、知らなかった。でも、ついさっき知ったよ。大切なものって奴が壊れる瞬間を。自分の手で壊すしかなかった。お前のせいでッ!」

 

 マダラは地に伏し睨み上げる少年の眼光に≪何か≫を見たのかピクリと肩を上げ、長い溜息を吐いた。そうしてその≪何か≫を振り払うように首を横に振った。

 

「……もういい。お前と話すのは時間の無駄だ。お前には、特別に面白い術を掛けてやる。嗚呼、安心しろ。別に殺すわけじゃあない。ただ、殺人に対して大きな愉悦と快楽、悦楽を感じるようにしてやるだけだ。それと、オレと出会った記憶は消してやる。あの少女の事もな。…………くくっどうした?震えているぞ。覚えていても辛く、苦しい記憶なのだから消してやる事に感謝してもらいたいくらいだ……もし、記憶を取り戻しオレに会いに来るのであればまたこの場所、水影邸に来るが良い。それでは、オヤスミ」

 

「ぐッぁああ゛あ゛あ゛ア゛ア゛アアアアアアアアアアアアッ!!」

 

「くくくっくははははっ」

 

 苦しみもがく少年を見下ろし、楽しい愉しい余興だと嗤うマダラ。そんな彼らを一人、じっと無言に口の端を釣り上げ眺める鬼鮫。正史に於いて、≪暁≫と呼ばれる組織の構成員たる二人は互いに嗤いあっていた。 

 

 

 

 

 

 

 

 何だ。このクソッタレな記憶はッ!クソッ、嘗め腐りやがってッッッ!そうか、つまりは奴、マダラとか云う輩のせいでオレはあの少女の記憶を喪い、かつ、四代目を操り、傀儡政治を行ってクソッタレな国へと変えた。加えて、奴はあのふざけた野郎(アマミヤ)以上に厄介な術を持っていやがる。とそう言う訳か。

 

 理想の世界。ハッ、鼻水が出るぜ。死者と生者が皆平等で平和だァ?そんな世界クソ喰らえッ!そんな世界に何の価値がある?人間は争って、競い合って初めて進化をする生き物だ。ソレを停滞させようなんざ、生きとし生けるもの全てに対する侮辱でしかない。

 

 それに、思い出したら気に食わねェ事ばかりだ。白雪……の墓参りもしてねェし、そもそも遺体が有るのかすらも解らねェ。白雪との約束は、護れねェかもしれねェが、今は記憶を取り戻せただけで十分だ。……もう、ふざけた野郎に構っている暇はねェ。クーデターを起こすのはもう少し、後にする予定だったが、気が変わった。あの嘗め腐った仮面をぶち壊して、その面(つら)に首切り包丁をブチ込んでやらァ。

 

 

「と、いう訳でだ。さっさと此処から出せッ!見てたんだろ?テメェもッ!なら、さっさと此処から出しやがれッッッ!!」

 

 

「あーはいはい。解ったよ。出せばいいんだろ出せば。ちょっと待ってろ」

 

 

 

 

 

 

 

 幻術を解除された再不斬の目に飛び込んできたのは青く澄んだ空とピーヒョロと鳴くトンビだった。どうやら、仰向けにして寝かせられているらしい。と直感した再不斬は起き上がろうとして、身体に違和感を感じた。その違和感の正体とは、胴体を強固に数重に巻かれた鎖鎌で有った。手は勿論の事ながら、足も使えない様に見た事も無い不気味な色をした脚絆(きゃはん)が嵌められていた。

 

 「オイオイ、これは一体どういうつもりだァ?まさかとは思うが、この程度でオレ様を拘束したなんて云うんじゃあねェだろうなァ?」

 

 そう零しながら、両腕に力を込める再不斬。しかし、筋力のみでは流石に引き千切れなかったのか、今度はチャクラを併用して引き千切ろうと力を込める。が、先ほどと全く変わらない。それもそのはず大前提のチャクラが練れない今の再不斬では先ほどの焼き増しで、純粋な筋力で引き千切ろうとしているだけに過ぎない。

 

 それでもと再不斬がチャクラを使用するべくチャクラを込めた際、彼の両足に取り付けられた脚絆が怪しく、そして不気味に紫色に淡い光を放つ。

 

 「無駄だ。今のお前はチャクラを使えない。如何に身体を鍛えていようが、俺の所持する最高硬度の鎖鎌だ。そう簡単に引き千切れはしないし、引き千切ったところでチャクラが使えないお前なんて怖くもなんともない。……だから、少し話しをしないか?」

 

「ハッ、話しだァ?テメェオレ様の過去を覗いておいて今更一体何の話しをしようってんだ?」

 

「……記憶を覗いたことは謝る。が、それでも確かめたいことがあった。それが解った今、お前と無意味に剣を交えるつもりはない」

 

「そうかよ。なら先ずはこの鎖鎌を外せ、話しはそれからだ」

 

「いいや駄目だ。鎖を外せばお前は一目散に霧隠れの里へと向かうだろう?そうして仲間と共にクーデターを引き起こし、その最中に水影、ひいてはうちはマダラと名乗った男を殺そうとするはずだ」

 

 違うか?と再不斬の顔に自身の顔を近づけるアマミヤ。自身の行動が見透かされているかのように感じる再不斬は更にアマミヤに薄気味悪さと共に嫌悪の念を抱く。

 

「そうだ。気に食わねェがテメェの言う通りだ。記憶を覗き見たテメェなら解るだろうがオレは奴らを完膚なきまでにぶちのめしテェんだ。今までオレを生かしてきたことをそして、白雪を傀儡にし穢したことを後悔させてやるッ!」

 

「気持ちは解るがどう考えてもお前だけでは奴には勝てないだろうさ。……そう睨むな、俺は事実を述べただけだろう?それに、お前も心の中では分かって居るはずだ」

 

 そうだろう?と再不斬の心に語りかける。すると苦虫を噛み潰したように渋い表情を浮かべる。しかし、それでもと声を上げる再不斬。

 

「そうだ、確かに勝てねェかもしれねェ。いいや、十中八九無様に負けるだろうさ。だがな、それでもオレの中の怒りはもう止められねェんだ。こんな記憶が無けりゃあ今まで通りに面白おかしく己の快楽の為だけに行動してたんだろうけどなァ……全く、厄介なもんだぜ女ってのはよォ」

 

 再不斬は自分自身に語りかけるかのようにとつとつと事の葉を紡ぐ。五年もの時間封じ込まれていた白雪への想い。マダラへの激しい怒りの感情が冷めきった心に燃料をドクドクと流し込み、爆発寸前の状態へと至っていた。

 

「だから、邪魔をするのならどんな手を使ってでもテメェを殺して先に進むぜ?」

 

「……誰が、邪魔をするなんて言ったよ?むしろ俺はお前の手伝いをしてやろうと言おうとしていたんだがな?」

 

「ハァ?テメェ、自分が何を言っているのか解ってんのか?そもそもテメェ程度の実力じゃあ戦力にすらなりゃしねェよ。尻尾巻いて逃げ出した方が身のためってもんだぜ」

 

「くくっ、俺を甘く見るなよ?以前はお前に不覚を取ったが、今の俺とお前ならまず間違いなく俺の方が強い」

 

「ハッ負け犬が良く吠えるぜ。……良いだろう、オレにそこまで啖呵切ったんだ使ってやるよ。で、テメェの目的は何だ?まさかとは思うが、オレ様に同情して協力しようなんて考えじゃあねェだろうな?もしそうだとすれば、今この場でテメェの胴体を綺麗に真っ二つにしてやるよォ」

 

「血気盛んなのは良いが、俺はそこまでお人よしじゃあ無いんでね。……そうだな、理由は大きく分けて二つ。一つは、あのマダラと名乗った男を殺害、若しくは拘束する必要があるという点。もう一つは、クーデター成功後の≪打算≫の為だよ」

 

 クーデターの成功そして≪打算≫という言葉に反応して再不斬の動きがピタリと止まる。どういうことだと目線を送り、先を促す。

 

「なに、簡単な事だ。お前が企てたクーデターが成功すれば、当然邪魔者は消える。現在の傀儡となった水影しかりマダラしかりだ。そこで必要になる人間は当然新しい水影となる。クーデターとは言え操り人形同然の里長を下し、里の危機を退けた英雄だ。直にお前が五代目となる筈だ。……お前とて水影に憧れがない訳ではない筈だろう?それにだ。≪彼女≫の行方もマダラを下し水影となれば解るやもしれんぞ」

 

 彼女、つまりは白雪の事だろうと当たりをつけた再不斬の心は騒めき出す。見せられた記憶では確実に死しているであろう彼女。もう生きて会う事は叶わないであろう彼女。せめて、その遺体を供養してやりたいと願うことは再不斬にとって贖罪と彼女のことを忘れないためにも最重要な事であった。再不斬の両の瞳に憎悪の光とは別の確固たる決意の炎が灯る。

 

「テメェが何を企んでいるのかはこの際どうでも良い。オレ様の邪魔さえしなければ何をしようが関係ェねェ。奴をぶちのめし、白雪を取り戻す。それさえできればテメェのその≪打算≫とやらにも協力してやるよ……だから、テメェを利用させてもらうぜ」

 

「嗚呼、望むところだ。それとその台詞忘れるなよ?たっぷり協力してもらうからな、死ぬんじゃねぇぞ」

 

「ハッ、テメェこそオレ様に大口叩いたんだ。そこらの雑魚に殺られて無様に死体を晒すんじゃねェぞ」

 

 くっくっくとくぐもった二人分の笑い声が不気味に森に木霊する。存外この二人の相性は良いようで双方イタズラを思いついた悪ガキの様に笑い声を上げ続けていた。

 

 

 

 

 




実は、この作品の真の主人公は再不斬さんだったんだよッ!!!

ΩΩΩ<ナ、ナンダッテー!?

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