NARUTO~行商人珍道中~
7 短き夢…伝説の一人
どてっぱらに首切り包丁を突き刺され、倒れ伏しそれでもアイテムストレージを無理やりに開いた俺はその中から≪シズネのお守り≫≪しのび札・どこんじょう≫を見つからぬように出せるだけ取り出し、心臓近くの胸部へと貼り付ける。
これらの効力は≪一度だけ、行動不能から復帰する≫つまりは、蘇生系統のアイテムと言えるわけだ。これの利点は、貼り付けたものを一度だけとはいえ生き長らえさせるという点であって、一度死ぬことにより、≪心臓を止めた死んだふり≫が擬似的にとは言え出来るのだ。
ただし、俺はこれの効力を試したことはない。それも当然である。これの発動条件である。≪行動不能≫は死か、それに近しい状況でなければ発動しないのだから今の今まで試す機会など有りはしないし、態々死にかける様な目に自分から遭いに行くほどのマゾヒストでもない。
そも、発動するのかどうかも怪しいモノに俺は頼りたくはない。のだが、今、この状況において出来ることはこれしか存在せず、やむを得ず精々の成功確率が半々と思われるこれをぶっつけ本番で試すことになったのだ。
既に目は見えず耳だけが周囲の音を辛うじて拾っている。どうやら、ハクは俺の為に戦ってくれているようだ。知らないうちにこれほどまでに懐かれているとは思いもしなかった。吊り橋効果や餌付け効果の結果なのだとは思うが素直に嬉しい。
出来ることならば今すぐにでもハクと共にこの場から逃げ出したいモノなのだが、そろそろ意識も朦朧として来た。次に目が覚めた時にはハクも再不斬の奴も居ないだろうと思いつつ、どこんじょう並びにシズネのお守りが発動する事を願い、意識を手放した。
――――嗚呼ちくしょう、ハクと一緒に旅をしたかった、なぁ……。
「おいっ、起きろ!天宮ッ!お前、いつまで寝てんだよッ」
ふと、懐かしい声が聞こえる気がする。どうやら、声の主は俺に対して何やら怒鳴っている様子だ。……はて、俺は今まで、何をしていたのだろうか?微かにしか思い出せないが、何か幸せな夢を見ていたような気がする。
「いい加減に、起きろッ!」
体を揺らしながら、俺にさっさと起きろと催促する主は次第に苛立ちを募らせたのか激しく暴力的になっていく。そろそろ、起きるとしようか。一息欠伸をして背筋を伸ばしながら起き上がる。
目が覚めると、そこはアニメ調の魔法少女の描かれたポスターが所狭しと飾られ、彼方此方に漫画やらゲームソフトの箱が詰まれており足の踏み場もない六畳間の小狭い部屋だった。そんな部屋の持ち主である、男友達の佐久間は横になって寝ていた俺に何やらぶつくさと文句を投げかけていた。
「嗚呼、どうした。佐久間?」
「どうしたじゃないッ!人がせっかく休日潰してまでNARUTOについて説明してやっているというのに居眠りこくとは一体どういった了見だッ!」
「んー?そんなこと言っていたか?悪い、仕事の疲れが溜まってんのかも知れねぇ、つうか、お前元気だね?何か良いことでもあったの?」
「ハァ……天宮は本当にマイペースだな。まぁいいや、それでだ、今週のNARUTO凄かったんだぜぇ、何が凄かったかっていうとだな……」
別段、聞いてもいないことをだらだらとまるでマシンガンの如く熱く語りだすコイツの名前は佐久間、所謂幼馴染というやつである。とは言え性別が女性ではなく男という点が現実と二次元の差を明瞭に思い知らせてくれる。何故、女に生まれてこなかったんだお前。
コイツの悪い点として、何かに熱中すると周りの人間を巻き込んで熱く語ってしまうというちょっと迷惑というか、アレな部分のおかげで俺と同じく三十手前にもなって彼女はおろか、男女交際をした事も無いという、今どきの草食系?男子となっているのだ。
顔が良いだけに、この欠点さえ無くせば彼女の一人や二人簡単に作れるだろうに……はぁ。というか、同じ職場で働くコイツと一緒にいると腐った方々が色々とアレな事になっているので正直困っていた。まぁ、とりあえずの愚痴はこれくらいにして、何かとても、忘れてはいけないことが有った気がするんだが、まるで思い出せない。
「嗚呼、イラつく、なんだってんだ一体何を忘れているっていうんだッ!」
急に頭を掻き毟り、叫ぶ俺に驚愕の目を向け、おろおろとど、どうした?オレの話詰まんなかったか?とどもり声をかけてくる佐久間。
「あぁ、いや、すまん。何か大切な事を忘れている気がしてな。それが気になってつい、叫んじまった。悪い」
「まぁ、それなら良いんだが。にしても何がそんなに気にかかるんだ?……まさか、オレを裏切って彼女とか作りやがったのかっ!?」
「おいおい、どうしてそうなるんだよ。ちげぇよ、そもそも俺にそんなもん出来る訳ねぇだろ顔も背も頭の出来も平均的な俺にそん…………ぁ?」
頭痛がする。次いでズキリと腹と背が痛む。まるでナイフか何か鋭利な物に刺されたかのように。
ふいに脳裏に誰かの姿が過る。路地裏でボロボロになって、倒れている薄汚れたガキ。簡素なベッドの上から涙を流す俺に手を差し伸べてくる子ども。黒く艶やかなそれでいて背中辺りまで伸びる長い髪と、それに反するように白く、まるで、雪の様に白い肌、笑えばそれはそれはとても可愛らしいだろうなと思わせる幼く整った顔の少女。それが血に濡れ、この世の終わりかと涙する少女――――瞬間、思い出した。
全てを、思い出した。俺は、何をしている?こんな所でくっちゃベっている暇はない。アイツを、ハクを助けなければ、勝てる、勝てないは関係ない。足掻くんだ。俺は……生きるッ!ヒーローの様になるんだ。大切な女の子一人護れないで何がヒーローだ。
決意、覚悟。腹を括る。言い方は違えど、再びいや、何度だって誓おう。例え、何度破れようとも、幾度死んだとしてもあの子だけはもうこれ以上傷つけさせたりはしない。
「……佐久間、悪い、俺。少し行く所ができた。ちょっとばかし長い旅に出てくるよ。多分、もう帰ってこないと思う」
俯き、そして頭を上げた時には真剣そのものの表情を浮かべた俺を同じく、いつに無く真面目な顔をした佐久間が此方を見つめてくる。
「そうか、思い出したのか……本当に行くのか?天宮。痛く、辛い思いをすることになるぞ。ここに残っていればいいじゃないか、オレもいる。お前が望めばどんなことだって出来るんだぞ?……ハクちゃんの事だって」
「佐久間、お前、どうして知って……いや、そうか、これは夢なんだな。俺が望んだからお前が此処に居て俺に都合の良いように存在しているんだな。でも、駄目だ。俺は生きていたいし、ハクに迎えに行くと約束したんだ。」
「気づかれちまったか、なら仕方ないな。まぁ、お前が此処に残る何てふざけた台詞を言い出したらぶん殴ってた所だったけどよ、変わって(ヘタれて)無くて良かったよ。……助けてやれよ、彼女。ハクは、いいやあそこに居る人たちはもう、キャラクターなんかじゃあ無い。皆、生きている人間だ。原作何てお前が存在する時点で有って無いようなもんだ、ぶち壊しちまえ」
「嗚呼、そんな事お前に言われずとも分かっているさ。必ず助け出す。例え、何年、何十年と掛ろうと、幾度殺されようとも。アイツは俺の特別(はじめて)だからな」
「うん、それでいい。頑張れよ天宮。いや、ヒーロー(ロリコン)と呼んだ方が良いか?」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながらに茶化してくる佐久間。
「おい、お前ルビに何振ってやがった?折角いい感じに分かれる事が出来ると思ったのに……くくっ俺たちらしいな」
「ははっそうだな、いつものオレたちだ。だが、それもこれで最後だ。…………賽は既に投げられた。後はお前が頑張るだけだ。じゃあな、親友」
「あぁ、じゃあな佐久間お前も頑張れよ……ありがとうな」
佐久間の輪郭が徐々にノイズが走ったかのようにザザッと掠れ次第に消えていく。同時にごちゃごちゃとした六畳間だった場所も掻き消え、俺の意識も段々と薄れていく。
「本当にお前に会えて良かったよ。佐久間。それじゃあ行ってくる」
――――ありがとうはこっちの台詞だ。忘れるなよ?お前の味方はすぐ傍に居る。頑張れ、天宮(ヒーロー)。
姿は見えず、聞こえるはずのない声が最後に聞こえたかと思うとそこで俺の意識は完全に途切れた。
太陽の日差しがまぶしい。背が、腹が、痛む。ズキズキと。うつぶせに倒れた俺からはドクドクと致死量を遥かに超えた量の血が垂れ流されている。意識が途絶える前に取り出した百を超える数のシズネのお守りは既に残り十を切っていた。
絶命と復帰を幾度繰り返したのだろうか。……単純計算で九十回程、生と死の狭間を行き来したと考えると恐ろしいな。
しかしどうやら、外傷までは治してくれないようだ。全く、最悪の予想を立てて置いて良かったよ。
呻き声を上げながらもアイテムストレージを開き、その中から、≪ちょうぜつ印の万能丸≫を始めとする≪秘伝のきずぐすり≫≪秋道いちぞくの三色丸≫≪大蛇丸の秘薬≫等の薬関係に加えて≪いりょうパック≫≪忍び札・やくそうのちしき≫をそれぞれ取り出す。
その後貼り付けた、やくそうのちしきによって手に入れた治療方法を参考にして腹と背中をいりょうパックに入っていた、包帯でこれ以上血が流れださないようにグルグル巻きにする。同じく中に入っていた、増血剤それに取り出した薬系統を水で一気に流し込む。暫くして、効果が現れたのか体が段々と暖かくなっていく。否、熱く成って行った。
「ぐぅ……嗚呼ぁあ゛あ゛あ゛あああああああああッッッ!」
体中を火あぶりにされているような錯覚、時折、体中を駆け巡る激痛で頭が、身体がぐちゃぐちゃにかき乱される。これは、洒落にならない。己の身体が意志に反して激しく脈動し、暴れまわり地に爪を立てもがく。
いたい、痛い、イタイ。頭がどうにかなりそうだ。狂ってしまいそうになるくらいに、骨を溶かしてしまうような熱が猛烈に激しい痛みを伴って全身を奔って巡る。絶叫し、泣き叫ぶ様に声の限りにひきつれた叫びとも断末魔の叫びともつかない阿鼻叫喚の限りを尽くした獣のような声ともつかぬ雄叫びが口から飛び出す。
苦しい、痛い、助けてくれと声に出せずに、ただただ終わりが早く過ぎ去ってくれるように叫びを上げ続けた。
どれ程の間、泣き叫び続けていただろうか、次第に俺を包んでいた熱はいつの間にか、綺麗さっぱりと消えていた。流石に、死にそうな状況から脱する為とはいえ、無理をし過ぎたか。薬の副作用が恐ろしいな。
いや、そんなモノがあるのかどうかは分からないのだが。それでも、ほぼ死人同然だった状態から完全とは言えないもの、復帰することはできた。これほどの効力を持つ薬達に副作用が無い訳がない。ようやく、血が止まった。とは言え、包帯から滲む赤色や、地に広がった血溜まりは流石に誤魔化すことはできないだろう。
しかしこれで、アノ人を呼ぶことが出来る。感謝するぞ佐久間。お前が教えてくれたから、あれらを思い出すことが出来た。手のひらに意識を傾ける。取り出すべきものは既に決まっている。≪忍識札・綱手の忍しき札≫を取り出す。
これに、俺の血を一滴垂らす。俺が今、行おうとしていることを簡単に言えば、≪口寄せの術≫みたいなものだ。チャクラが使えなくても血がそれを補ってくれるはずだ。……頼むから、成功してくれよ。来てくれ、綱手姫。
ぽたりと忍識札の上に血が垂れるや否や、忍識札は白煙に変わり、煙が晴れたころには、近い未来に於いて、五代目火影に就任することになる伝説の三人の紅一点。綱手が此方を見下ろしていた。
「この様な無様極まりない姿でお呼びする無礼をお許しください。俺の名前はアマミヤと申します。貴女様は、かの高名な綱手様でいらっしゃいますでしょうか?」
「如何にも、私は綱手だが。しかし、綱手であって、綱手ではない。」
「と、言いますと?まさか、失敗……」
「いいや、失敗はしていないよ。私は謂わば、綱手の分身体とでも言えばいいのか。そう、ある程度の力と知識を持った別の存在と考えてくれ」
綱手の分身?別の存在?それでは、まるで……いや、アイテムの効力は三倍増しに成っている筈だ。それならば、忍識札も同じことだろう。それに、別個体だというのも頷ける。ゲーム内では忍識札によって仲間に入れられるキャラクター達と同じキャラが家に居たりだとかしていたのだし、そういう仕様であると本人から言われればそうなのだとしか理解しようがない。
それに今は、考察をしている場合じゃない。早く傷を診てもらって、奴を倒すための力を早急に手に入れなければならない。
「差し出がましいのですが、治療をお願いしてもよろしいでしょうか?背中と腹に掛けて大剣を刺され、血が大分出ているため少し、注意して欲しいのですが」
「嗚呼、なんだ、私が血液恐怖症を克服していないと思っているのか。気遣いは有りがたいが、それには及ばんよ。私はオリジナルとは違って苦手なものは無いからな。どれ、傷口を見せてみろ」
「な……何故その事を?」
「ん?どうして、分かったのか不思議そうな顔をしているな。当然であろう?私はお前の≪式≫なのだから。説明は後にしよう。治療をしながらでも話してやるから、さっさと傷口を見せろ」
困惑する俺に早く包帯を解けと催促する偽・綱手。式とやらの説明を受けるため渋々きつく締め上げた包帯をするすると解いていく。
「これは、酷いな。背後から一刺し、か。よくもまあこれほどの傷を受けて生きていられるものだ。」
何やら、その後も腹と背を交互に見ながら頷いたり、耳に届かぬくらいの小さな声で呟いたかと思うと慣れた手つきで印を結ぶ、結んだ後に両の手に纏わり付くように淡い緑光がユラユラと漂いだす。それを腹部へと持っていき、傷ついた患部へ直接当てる。
当然、細胞が無理やりに修復されるわけだからとても痛い。先ほどの薬と同等、若しくはそれ以上の痛みがズキズキと奔る。口元に手の甲を当てがい、肉を噛むようにして激痛から出る絶叫を押し殺す。
それでも、耐えられずに零れる声を不快と思わず、眉一つ動かすことなく淡々と機械のようにテキパキと治療を施していく綱手に感謝をした。
どれ程の時間激痛から耐え続けただろうか。十や二十分では足りない程の間、堪え続けた俺の体は脂汗でぐっしょりと湿っていた。綱手の方も額に薄らと汗を浮かべ苦悶とは言わないものの、少し疲れた表情を浮かべていた。
「これで、終わりだ。式についての説明は後日改めて説明させてもらおう。今は、安静にしてゆっくり休め」
そうは行かないと見っとも無く、そして情けなく這い蹲っていた体をゆっくりと起こす。涙や自身の血やら吐瀉物やらで汚れた口元と服を拭い去り、傍らに転がるパックリと穴が開いた≪九尾のかたびら≫をストレージに戻し、新しく≪火影のかたびら≫と≪いだてんのきゃはん≫を取り出し、身に着け、その上に紺色の甚平を羽織る。
「おい、人の話を聞け。お前はしばらく絶対安静にしておかなければ……」
「これ少し、特殊な薬なんです。これを飲めば体力はあっという間に快復します」
取り出したのは≪秘伝のきずぐすり≫日向にて伝わる超一級品の薬である。スタミナとチャクラを全快復するというとんでもアイテムである。
何の役にも立たなかった≪あまのはばおり≫をストレージ内に苛立たしげに戻し、≪ガマのドス≫を取り出し、背に背負おうとした所で身体がふらりと傾き、再度地面とキスをすることになった。それ見たことかと綱手は俺を見て鼻で一笑すると、ガマのドスを握って持ち上げた。どうだ、と真上に掲げて自慢げにする様は、幼子が親に向かって褒めて貰いたいが為にする時の様であった。
苦笑しながら、褒めるとぶんぶんと素振りをするかのようにドスを振り回し力自慢をアピールしていた。
ガマのドスは≪ガマブン太≫が使用するあのバカでかいドスに似せて作られたものだ。俺たち人間からすれば両の手でも持つことが出来るか、不安になる程の巨大な大剣である。綱手はともかくとして俺が、そんなモノを扱うことが出来るのかと思うことだろうが、この世界で行った。カンポウ丸による基礎能力の向上のおかげで持って振り回すことは出来る。
……剣術なんて技術を小中学校の剣道の授業や漫画くらいでしか知らない俺程度が、日本刀何て洒落た物を扱おうなんて思ったことがいけなかったんだ。
大人しく、棍棒やハンマーみたいな面で攻撃できる武器を持つべきだった。その結果が不意打ちとは言え、背後からによる刺殺で一度殺されるのだなんて。なんて失態、なんて愚か。なんて、無様な。
慢心、していた。現役時代程度の鍛錬が軽くできて、フルマラソンをしても汗を額に滲ませる程度にしか疲れない。なんて浮かれて対人・動物、それも一番警戒しなければならない気配の感知能力を鍛えることを怠った。
加えて、心のどこかで、再不斬は≪良いヤツ≫だと思い込んでいたのかも知れない。ゲームや原作で白に対して優しかった様な描写が有ったがために、油断していた。いいや、これも言い訳か。とことん言い訳がましい男だな、俺は。覚悟だ。決意だなんだと意気込んでいたのは結局のところ唯の格好つけの様なものだった。情けない……本当に、情けない。
俺は反則(チート)を持っているのだから、死ぬことは無い。有る筈がない。と奥底で未だに温い考えを抱えて、どれ程この世界が自分にとって厳しいのかを理解し切れていなかった。
……そうだよな、死ぬときは死ぬ。終わりは、必ずやってくる。それは、どれ程強力無比な力を持っていたとしても誰しもに平等に訪れるんだよな。
万象全てを自在に操れようと、究極の生命体と呼ばれて恐れられたモノだとしても、必ず、平等に終わりは訪れる。そんな事、さんざ、分かっていたつもりだったって言うのに。本当に俺って野郎は度し難い。思わず、苦笑と溜息とが織り交ざった吐息が口からこぼれる。
くくっ、あぁ、そうだ、俺の思い通りにならない。否、思い通りにすることが出来ない、これが現実。いつもの通りだ。どうしようもないほどに、世界は厳しい。それは≪NARUTO≫の世界に来ようと変わらない。いや、この際だ。佐久間の言う通り、NARUTO何て物の事はもう考え無いようにしよう。あくまでも知識として利用できるところに使うのみ。
思い通りに成らないからこそ、俺達は躍起になって、足掻くんだ。誰も見ることが出来ないその先に待ち受けるモノが幸せであるように願って。
…………今の俺じゃあ、ハクを助けることはできない。これは俺が逆立ちしたって覆すことのできないれっきとした事実だ。では、どうすればいいのか。簡単なことだ、力を付ける。否、更なる力を手に入れる。幸いにして、俺は忍術というものの存在を知っている。
これを完全に習得することが出来れば奴を打ち倒すことも出来るだろう。それに、俺は一人じゃあない。認識札。護衛として、戦力として、最高クラスの人材を呼び出すことが出来るんだ。原作前の再不斬なぞ敵にすらならない。……筈だ。
波の国。そこが奴の正史における墓場だ。俺には奴がここ十数年以内に死ぬ事を知っている。だが、所詮それは原作という流れに沿って再不斬達が行動すればという注釈が付く。佐久間が言った通り、ここは既に俺にとっても現実である。人を殺せば人殺しになるのは当然、ハクがソレを行ってもまた然りだ。
優しいあの娘のことだ。人を害することに強い拒否感を抱くだろう。……しかし、再不斬はそれを良しとしない。結果、ハクは否が応でも人を害して、殺してしまうだろう。身勝手な願いかも知れないが、俺はあの娘にこれ以上人を殺して欲しくない。あの娘には陽だまりの中で笑っていてほしい。
別に、俺があの娘に、ハクに恩を着せて如何こうしようなんて言う下種た事は考えていない。ただ、彼女の為ならばどんなことでも出来そうな気がするんだ。
――――そのためならば、俺はどこまでも汚くなってやる。例えそれが、人を殺すことになろうとも。
奴の弱点は、既に知っている。気配や姿は消せても、匂いまでは消せない。であれば、カカシと同じ対策を施すまで。そして、必殺の一撃を入れてやれば……。汚い、と罵られても良い。卑怯だと思いたければ糾弾してくれていい。だが、そんな事では俺は止まらない、いいや、止まってやれない。
原作がどうなろうと知った事か。俺は俺自身の身の回りの事で精一杯なんだ。手の届く範囲で出る死傷者には手助けをしてやれるが、見知らぬそいつらの面倒をまとめて見るような余裕は今の俺には無い。
俺は、無力だ。三十路に近かろうが五十を過ぎようが、所詮それは子どもが歳月を経て図体ばかりがデカくなっただけ。大人になったからと言って出来ることが増える訳じゃあない。どうしたって、出来ない事がいくつもあるんだ。大衆を救う英雄(ヒーロー)になんて成れない。どれ程焦がれようとも、俺には無理なのだと解ったから。……それでも、俺は助けられるのならば助けたいし、敵意を向けられるのならば弱いながらに立ち向かおう。
――――だから、もう少しだけ、待っていてくれ。
すっかり、自分の世界に入り込み、素振りを終えて声を掛け続けていた綱手が無視を決め込んでいると判断し、デコピンを炸裂させたのはそれから、数分もしないうちであった。……痛い、本当にデコピン一発で数十メートル吹き飛ぶってどんな怪力してるんだよ。と恨みがましく一度綱手を睨むと疲れが出たのか近づいてくる綱手の足音を子守唄に深い眠りに付いた。