閑散とした廊下に軽快な足音が響く。片手に黄色い缶を、もう片方の手にミルクティーと書かれた小さなペットボトルを持って小さなスキップをしている一人の少女のものだ。「生徒会室」と書かれた室名札がぶら下がっている教室の前に少女が差し掛かったところで足音は止む。
少女の缶を持ったままの手が扉の引手にかかるが、何を思ったのか手を離す。そしてキョロキョロと自分の制服を見て、細かいところを整え始める。終いにうっすらと窓に映る自分を見て髪も少しいじり、むふっと満足げに一息つき、にしっと笑う。それから再び扉の引手に手をかけ今度はちゃんと扉をあける。
「せんぱーい、差し入れって…あれ?」
少女は教室に入ると、机の上に腕を枕にして寝ている少年がいた。外側の窓から差し込む夕暮れの明かりが眩しいせいか、顔は下ではなく横を向いていて少女のほうを向いている。その少年の近くには今日中にやらないといけない書類が済んだ状態で積まれていた。
「あれー、先輩寝てるんですかー?」
少女は少年に近づくとそっと手に持っていた缶とペットボトルを机に置き、つんつん少年の頬をつつきながらのんびりした声でささやく。
「これは本格的に寝てますね。あといつもちょっとした雑務だけで、私の仕事はやらなくていいって言ってるのにやっちゃうんだから。これじゃ押し付けてるみたいじゃないですか」
少女は少年の頭からひょこっと飛び出たアホ毛を弄びながら色々とごちる。
「……人がどんな気持ちでって、聞いちゃいませんか。あ!」
いかにも閃いたというような顔をした少女は、ブレザーのポケットから携帯を取り出すと一つだけシャッター音を鳴らした。その後静かに近くの椅子を少年の隣に並べてそこに座る。
「にしてもこうやって目を閉じてるとやっぱり……」
そう呟くと、少女は急に顔を赤くする。それから何かを頭の中から追い払うかのように強く頭を左右に振り、机に突っ伏した。
しばらく教室内を沈黙が満たす。少女は突っ伏した状態のまま顔だけを少年の方に向ける。相変わらず目をつむり眠ったままの少年の顔を見て優しく微笑むと、そのまま目を閉じ呼吸が一定のリズムを刻み始める。その顔はさっきの赤面が尾を引いているのか、はたまた夕日のせいか、ほんのりと赤かった。
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「……ん、んー、ん? は?」
少年は目を覚ますと目の前の少女に驚いて体を起こした。日はだいぶ傾いていて教室は薄暗い。そんな教室をしばらく見渡し、状況を把握したのか落ち着きを取り戻す。それから携帯を開いて時間を確認する。
「最終下校まであと10分くらいか」
立ち上がり着ていたブレザーを脱ぎ、隣で眠りこけている少女に被せる。そして机に置いてある黄色い缶に気付き手に取る。
「これは…、買ってきてくれたのか? なら悪いことしちまったな。起きとくんだった」
静かに座り直し、それを飲みながら少女の顔と暗くなり始めた外を交互に眺める。空になった缶を机に置き、そっと少女の頭へ手を伸ばし優しく撫でる。
「いつもの騒がしいのや真面目に働いてんのはよく見るが、こうもおとなしいのは珍しいな。なんというか……、ま、いつもお疲れさん」
そう言って少し笑う。少女の頭から手を離し帰るために周辺を片付け始める。その音で少女も目を覚ます。
「ん、あれ」
「お、起きたか?」
「先輩? なんで先輩が? というかここは…」
「生徒会室だ。二人とも居眠りしてた。ほら、もうすぐ最終下校だから帰る準備するぞ」
「え、はいって、これ」
少女は自分にかけられていたブレザーを手に取る。
「んぁ? おう、そこ置いといてくれ」
「あの、あ、ありがとう、ございます…」
「おう、てかどうした。寝起きで調子悪いのか?」
「まだちょっと」
「そうか、お前寝起き悪いんだな。まだ座っとけ俺は片付けするから」
そう言って少年は片付けを続ける。そして数十秒たってから少女が立ち上がる。
「は! 片付けは私がやりますよ。先輩仕事してくれましたし、それくらい私がしないと」
「お、復活したか。でももう終った。帰るぞ」
「すいません、ありがとうございます。ってもうそんな時間なんですね」
そう言って時間を確認するため少女は携帯の画面をつけて固まる。顔はみるみる赤くなる。
「どうした、帰らないのか?」
「や、いや、全然なんでもないですよー。さ、帰りましょう。ちゃっちゃと帰っちゃえましょう!」
「お、おう」
少年は少女に押される形で教室を出る。
「じゃ、私は職員室まで鍵を返しに行くので。また明日です!」
「おう、またな」
二人はそう交わして別々の方へ歩き出す。しばらくしてから思い出したように少年は振り返り、小さくなった少女へ叫ぶ。
「あ、一色! マッ缶サンキューな!今度なんか奢るわ!」
「え、ほんとですか! なら今度の休みに一緒にお出掛けしてください!」
「は!? 俺から休みを…」
「じゃ!そういうことでよろしくでーす!」
少女はそう残して駆け足で去っていった。
「おい…、行っちゃったよ。はぁ」
そうため息を吐いた少年の顔は優しく、まんざらでもないようだ。
靴を履き替え外へ出る。そしておもむろに携帯を取り出し、少し操作をして駐輪場へ向かった。
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職員室で鍵を返し終え、靴箱へ歩む少女の携帯が震える。さっきまで一緒にいた先輩からだ。
「先輩? なんだろ…って、な、なな、なんですかこれー!」
人気のない廊下で真っ赤になって叫ぶ少女の携帯の画面には、だらしなくにへっと笑った顔で寝ている少女がいた。
そんな少女を知ってか、不敵な笑みを浮かべて少年は帰路につくのだった。
シリーズの方が少し行き詰まっちゃったのでちょっくら。ちゃんとシリーズの方書いてます。
ではまた今度。