Deathberry and Deathgame Re:turns   作:目の熊

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お読みいただきありがとうございます。

二十話です。

よろしくお願い致します。



Episode 20. On the Savage World -MELEE-

『一護! 右に二人抜けた!! ショットガンと短機関銃の前衛、注意!!』

 

 ダンジョン地下三階。

 

 コンクリート製の神殿を思わせる灰色遺跡の中で、インカム越しにシノンの声が響く。直後に横からガンガンとけたたましい足音が接近してきて、俺は一瞬そっちに視線を取られた。

 

「余所見してんじゃねーぞロン毛!!」

 

 その隙を見てチャンスと思ったか、目の前の迷彩服の男が引き金を引いた。アサルトライフルの斉射が来る。そう認識した瞬間、俺は思いっきり地面を蹴って跳躍した。背中を銃弾の群れが掠め、ひりつくような感覚を覚える。

 アッブねえ。だけど、これで全弾躱した。空中で半回転し近場の柱を蹴って上昇。そのまま天井まで駆けあがって、

 

「ドコ見て撃ってんだ! 余所見してンのは――テメエの方だろ!!」

 

 急速落下。マチェットを突き出し一本の稲妻になって、一直線に迷彩男の身体を縦に引き裂いた。

 

 断末魔なんて上げるヒマもなく消し飛ぶ男の身体から即座に飛びのき、半秒遅れで叩きつけられた散弾の雨を横っ飛びで回避する。

 

「くそ! なんて身のこなしだ。マチェット一本しかないくせに、弾が全然当たらない!!」

「落ち着け! まだ二対一だぞ、同時に一か所に叩き込めば奴でも躱しきれないはず――」

「……アホか、丸聞こえだっつの」

 

 柱の後ろに身を置く俺の背後で響いた声にツッコむ。

 

 奴らの一人が持ってるショットガンってのは、一発で細けえ玉を広範囲にバラまいてくるみたいだ。一発一発は大したことねーが、数の多さと出の速さが厄介だ。

 

 面での攻撃力が高いから接近戦するなら気を付けて、とシノンに釘刺されてはいたが、確かにプレイヤーに気づいてから躱してたんじゃ避けきれねえ数だ。マトモにやりあったら、先にこっちのHPが削られる。

 

 ……だったら。

 

「来たぞ!」

「落ち着いて狙え!!」

 

 撃たせなきゃいいだけだ。

 

 マチェットを逆手に構えて跳び、奴らのすぐ真横の柱に着地する。すぐにこっちに銃口を向けてきたが、引き金を退く前に高速落下。土煙を上げて地面に降り立ち、そっから前方猛ダッシュして短機関銃の男に跳び膝を叩き込んだ。

 

 銃も剣と一緒だ。遠すぎでも当たんねえが、至近距離過ぎてもダメだ。仲間に当っちまうから、一瞬躊躇する。その上、上下に大きく揺さぶったおかげで奴らが俺に照準を合わせるのに手間取った。この二つから生まれるスキは、相当デカい。

 

 逆手持ちのマチェットで短機関銃男の喉元を掻っ捌き、逆刺突で胸を突いてトドメを刺す。さらに、仲間が死んで近距離のディスアドバンテージが消えたショットガン男がこっちに向けた銃口を、

 

「――ォらあッ!!」

「ぐおっ!?」

 

 一歩踏み込んで蹴り上げた。衝撃で手に力が入ったか、明後日の方向目掛けて銃口が火を噴く。シノン曰く、このショットガン『アーマライトAR-17』通称黄金銃(ゴールデンガン)は装弾数がたったの二発。一発は出会いがしら、二発目は今撃った。

 

 ッてことは、

 

「弾切れだろ!!」

 

 もう完全に無用の長物だ。

 

 コンクリ敷いた地面を蹴り割る勢いの踏込と共に叩き込んだ袈裟斬りが、奴のHPを急減させつつ吹っ飛ばす。そのまま後ろの柱に激突すりゃ、衝撃で追加ダメージ入ってノックアウト……、

 

「……クソが!! タダで死んでたまっかよ!!」

 

 じゃなかった。相手の男が腰からソフトボール大の球を取り上げた。アレは確か、プラズマグレネード。爆発の範囲が広くて、食らえば大抵の奴は一撃死、俺を巻き添えにして死ぬ気か!

 

 そう結論付けた瞬間に、身体が半分無意識で動き出していた。マチェットの柄に付いた紐の輪っかに人差し指をかけてスピン。勢いを付けて投擲(・・)した。

 

「ガッ…………」

 

 すっ飛んでった艶消しブラックの刃は滅却師の矢を思わせる速度で飛翔し、そのまま奴のグレネードを持った右手の肩口を貫通。ダメージを受けた時の痺れが襲ったのか、男が顔を歪め、取り落としたグレネードの爆発で吹き飛んだ。

 

 爆炎と轟音が閉鎖空間にまき散らされ、俺も顔をしかめつつ目の前に手をかざす。シノンに「マニアックなシュミしてるのね」と言われたグレーの硬質性(ハードタイプ)マスクのおかげで口元まで覆う必要は無い。翳した手を振り払い、砂埃を避けつつマチェットを回収しようと足を踏み出す――。

 

 ジャキッ、という硬質な音が、彼方から微かに聞こえた。

 

「――――チィッ!!」

 

 前に踏み出しかけた足を真後ろに強引にスイングし、地面を蹴ってその場から全力で退避した。後ろにのけぞった体勢で跳ぶ俺の眼前を二本の火線が横ぎっていった。地面を穿ち、新たな砂埃を立てる。

 

「シノン!!」

『了解』

 

 インカム越しに叫んだ俺に対し、シノンの声はあくまでも冷静だった。

 

 ほぼ同時に五メートル頭上、朽ち果てたデッキの奥から轟音が轟き、反対側にいたらしい狙撃手の内一人の頭が消し飛んだ。慌てて横にいる奴が撤退しようとしたが、シノンの続けざまの二撃目の狙撃が胴を貫通。あっけなく塵になり消えていった。

 

 最初見たとき「戦車でも相手にすンのか」って思ったくらいゴツい、シノンの愛銃、ヘカートⅡ。

 

 撃つのを見たのはこれで五回目だが、相変わらずすげえ威力だ。二人目の狙撃手が逃げるために盾にしたコンクリの塀を砕いても尚、人一人を撃ち殺す威力がある。

 

『……狙撃手(スナイパー)、ダブルキル。消滅を確認したわ。一護、何人仕留めた?』

「さっきの二人組を合わせて四人だ」

『了解。スコードロン『七人の賢者(セブンセイジ)』は七人組だったはず。最初の一人は偵察中に私が潰したから、これで撃滅完了(オールクリア)ね。打ち合わせ通り、中立地帯で落ち合いましょ。それじゃ』

 

 ブツッという音がして通信が切れる。通路のどん詰まりにある部屋の窓越しに、六百メートルの連続狙撃を決めてみせた相方の言葉通り、俺は中立地帯になってる広間へ向かって歩き出す。

 

「……つーかシノンの奴、GGO(コッチ)来てから口数増えてんな。口調は変わんねえけどテンションも若干たけーし、そんなにストレスが溜まってたのか、それとも根が好戦的なのか。リアルの見た目は文化部系っぽいのに、人は見た目によらねってか」

 

 独りごちつつ薄暗い通路を進む。潜ってからそこそこ時間が経ってる。俺はともかく、シノンのリアルの身体は霊力の修行で疲労してるはずだ。一回休んどかねえとな。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「――そういやさ。お前、なんで今朝はあんなにイライラしてたんだよ」

 

 遺跡内で鉢合わせた三組目のパーティー(スコードロンって言うらしい)を倒した後、地下三階の中立地帯(ニュートラルエリア)で休憩していた時、俺はふと気になっていたことをシノンに訊いてみた。

 

 どっかのヒビからでも漏れてきてるのか、天井の端々から降り注ぐ細い光のスポット。敵に見つかるとマズイって理由でそれを避け、薄暗闇の中でエネルギードリンクを飲む水色髪の少女は、俺の質問に少し顔をしかめて見せた。

 

「……昨日、このゲームの中ですっごくムカつく男に会ったの。図々しくて、セクハラやろーで、カッコつけてて……しかもあんたと同じように、剣で戦ってたの。あんたといいアイツといい、なんで銃ゲーに来てまで剣で戦うのよ。郷に入りては郷に従えって言葉、知らないの?」

「知らねーな。別に禁止されてるワケでもねーし」

「空気を読みなさい空気を。硝煙とオイルの臭いが充満してるこの世界で、剣に命を乗っけるバカが二人もいるなんて信じられない。しかもそれで強いとか、ほんと何なのよもう!」

 

 苛立ちがぶり返したのか、語尾を荒げたシノンはぐいっとドリンクを飲み干し、空き缶を地面に叩きつけた。ガシャンと音を立てて破砕しポリゴン片になったそれに目もくれず、シノンの愚痴は止まらない。

 

「おまけにアイツ、女の子のフリして私に近寄ってきて、道案内させた上に装備選ばせたりしたの! 私うっかりお金まで貸しちゃうところだったわよ。パーソナルカードも渡しちゃったし……あーもうっ! 今日の大会でエンカウントしたら、今度こそ絶対に脳天に風穴開けてやるんだから!!」

「その言い方じゃ、オメーその剣士に負けたのかよ」

「……うっ」

「対物ライフルなんてレアな銃持ってるくせに、それで剣しか持ってねえセクハラ男に負けりゃ、そりゃ荒れるか」

「う、うっさいわね! 次こそ、今日の決勝で当たったら絶対に勝ってみせる!!」

「へーへー、そーかよ」

 

 何よその態度! とシノンが投げつけてきたエネルギーバーのパックをキャッチし、開封して口に咥える。そのセクハラ剣士には心当たりがありすぎるが、いちいち言ってやる必要もねえ。黙って小腹を満たす。

 

 しかし、ついに女装して女を騙すなんてマネまでするようになったかキリト。いい加減にしねーと、アスナにシバかれんぞ。

 

「……とにかく、そのストレスを散らすために私はここに来た。今が午後三時過ぎ。潜ってから二時間以上が経ってる。私たち二人でこのペースの狩りを続けられるのは、残弾から見積もってせいぜい三時間がいいところ。そろそろ地上に向かわないと」

「っし、んじゃ行くか。後ろは任すぞ」

「そっちこそ、前衛なんだからあっさり食い破られたりしないでよね」

 

 腰かけていた瓦礫から立ち上がりつつ、オレは首からぶら下げていた硬質性マスクを装着し留め具をはめた。中立地帯から階段までの道のりは、狭い通路が入り組む迷路みたいな構造になっている。

 

 後方を警戒しながらナビゲートするシノンの前に立って、《識別(アウェアネス)》で強化された目と耳で気配を探りながら進んでいくと、

 

「……ん? なんか今音がしたな」

「どっち?」

「右っ側。一番手前にある小部屋っぽいトコの中からだ」

「了解。狭い場所ならヘカートを使うのは下策ね。MP7で支援するから、先に突っ込んで陽動して」

 

 シノンはライフルを担ぎ直し、ホルスターから短機関銃を取り出してセーフティを解除した。俺はマチェットを片手に部屋の入口手前に陣取り、シノンと目線を合わせる。

 

 と、シノンは腰のポーチから円柱状の物体を取り出し、レバーを握った状態でピンを引っこ抜いた。確か、閃光手榴弾(フラッシュグレネード)とかいう強烈な閃光を発する目くらまし道具だ。

 

 続けて立てた三本の指は「三秒後に投げ込むから突入して」って意味。無言のまま首肯でそれに応える。「目くらましからの不意打ちなんざヒキョーだ! 正面突破してやる!」と息巻く心の中のガキの俺を「相手が何だか分かんねえ時は先に一回牽制する、SAOで散々言われたコトじゃねーか」という経験で抑え込む。

 

「…………フッ!」

 

 きっかり三秒後、短い呼気と共にシノンがグレネードを投擲。部屋から視線を背けた俺の背後で鉄板をブッ叩いたみたいな爆発音が鳴り響き、視界の端でまばゆい光が瞬間的に瞬く。

 

 それが収まったと見えた直後、俺は踵を返して部屋ん中に飛び込んだ。いたのは二足歩行の巨大なカマキリみたいなモンスターが三体。ソイツらの親玉らしい、さらに一回りデカい黒カマキリが一体。閃光で目がくらんだか、こっちを向いてる奴はいねえ。

 

 一番近い正面のカマキリにマチェットを叩きつけ、闇雲に振り回される鎌付きの腕を斬り払い、返しの刃で細い首を刎ねた。続けて身体をぐるんっと回転させ、二匹目の胴を抉り裂く。耳障りな悲鳴を上げるカマキリの鎌の振りおろしを半身で避け、カウンターの一撃で仕留めた。

 

「一護、左に跳んで!」

 

 シノンの声。隙が出来ることにも躊躇わず跳躍した俺の横、視覚が回復したらしい三匹目のカマキリが攻撃してこようとしたところに、MP7の4.6x30mm弾の雨が殺到し、蜂の巣に仕立て上げた。

 

「っしゃあ! ラスト一匹――っ!?」

 

 そのまま黒カマキリに斬りかかろうとして、踏みとどまる。部屋の外、通路の奥からこっち目掛けて駆けてくる複数の足音が、スキルでブーストされた聴覚に飛び込んできた。

 

「シノン!! 外から足音だ、十二時方向! モンスターじゃねえ、多分人間だ!!」

「もぅ! タイミングの悪い……!」

「ゴネても仕方ねえ! 俺はコイツを速攻で始末する、シノンは廊下の連中を抑えてろ!!」

「軽く言ってくれるじゃない……早く来てよ!」

 

 ポーチから今度は発煙手榴弾(スモークグレネード)を取り出しながらシノンが背を向ける。それを隙と見たのか、黒カマキリが俺を無視してシノンに斬りかかろうと肉厚の鎌を振りかざして跳躍しようとした。

 

「ドコ見てんだカマキリ野郎!!」

 

 足が地面から離れる前に突貫、四本ある腕のうち一本を斬り飛ばして、注意をこっちに向けた。上位種らしく、腕の一本が消えた程度じゃHPは二割も減ってねえ。時間もかけてらんねーってのに、頑丈なヤツだ。

 

 反撃とばかりに繰り出された一撃を弾き、肉薄。斬り上げで顎を狙ったが鎌に弾かれた。攻撃後の隙を見計らった二本の腕の挟撃をバックステップで躱してダッシュ。黒カマキリのすぐ脇を通り抜ける。

 

 疾駆する俺の背目掛けて噛みついてきた三角頭を裏拳で殴りつけ、その隙に一気に壁まで到達。ジャンプし壁に足を掛け、そのまま大きく宙返りして、黒カマキリの背中に飛び乗った。

 

「――トロいんだよ」

 

 大上段に振りかぶった刃を一閃、首に叩きつけた。一撃で刎ねるまでは行かず、半分くらい食い込んだところで止まっちまった。残り一割を切ったHPのまま、カマキリは激しく暴れ、俺の身体が宙に飛ばされる。そこ目掛けて三本の腕をめい一杯広げ、一気に畳みかけようと迫ってくる。

 

 が、やっぱり遅ぇ。三連撃の最初の一発をマチェットの強振で弾き、残り二本の腕が動く前に体勢修復。足を空中で振り被りつつ空いてる左手ですぐ目の前に頭をわし掴み、

 

「らァッ!!」

 

 渾身の膝蹴り一発。残ったHPを全て削り取った。

 

 ギギィッ……とか細い鳴き声を残して消えていく黒カマキリを一瞥した後、廊下の連中を足止めしに行ったシノンの元に走る。肩と脇腹に銃弾を受けたらしく、HPが三割弱くらい減っている。

 

「待たせたな。状況はどうだ?」

「あと五人! 一人ヘカートで始末して、残りは奥の曲がり角に全員押し込めてある! 目視で確認した限りじゃ、アサルトが三人、ショットガンとスナイパーが一人ずつって感じ。ここは一旦下がりながら、グレネードで牽制して広いところに……」

「そうかよ。んじゃ、ちょっと行ってくるか。シノン! 裏から来たら、そっちは任せるわ」

「い、一護!?」

 

 相手の素性が分かってンなら退く理由はねえ。試したいコト(・・・・・・)もあるし、真っ正面から押し切ってやる。

 

 シノンが続けて何か言うのに構わず、俺は通路に飛び出した。足音を聞きつけたのか、通路の角っこから覗いた銃口から幾筋もの予測線が照射された。

 

 足を止めたら蜂の巣決定。通路のド真ん中を突っ切る俺めがけ即座に弾丸の嵐が殺到する。だが銃口だけ通路に出して頭を引っ込めてるせいか、命中率は高くねえ。当たりそうな弾だけ身体を捻って避け、

 

「コソコソしてんじゃねーよ!」

 

 通路の角を直角左折。同時に今までの戦闘で満タンになってた《狂戦士》のパークを発動。ダメージアップの支援効果を纏った状態で敵の前に躍り出た。

 

 ご丁寧に五人一塊になっていた連中の目が、揃って驚愕で見開かれる。撃たせる時間はやらねえ。銃口がこっちに向き直る前に大きく踏込。眼前の覆面男の胸を深々と十字に裂いて、HPを丸々消し飛ばした。

 

 続けて二人目の両足を斬って体勢を崩し、隣にいた三人目の鳩尾をヤクザキックで蹴りつける。意外と冷静にナイフで対抗しようときた特殊部隊っぽい恰好の男は俺の蹴りをモロに食らい、エビみたいな体勢でふっ飛でその後ろに下がっていた二人を巻き込みまとめて転倒。その隙に、痺れた足で何とか体勢を立て直した二人目にトドメを刺した。

 

「ぐ、おおぉ……っ、腹が、痺れてっ……」

「……お、重い……っ」

「テメエ早く退けよ! あのマスクのナイファーがこっち来ちまうじゃねえか!!」

 

 デカいダメージを受けると痛みの代わりにキツい痺れに襲われるこの世界、深い傷を負っちまった時に出来る隙は致命的だ。胴が痺れたせいでまともに起き上がれず、特殊部隊風の男は仲間の重石になっちまってる。

 

「くそぉ……こっち来るんじゃ、ねえよっ!!」

 

 と、下敷きになってた男の一人が腰からハンドガンを抜いた。寝転がったままの不安定な体勢のまま、俺目掛けて引き金を引く。セレクターがフルオートになってたのか、マシンガンみたいな連射速度で銃弾がバラ撒かれた。

 

 ――けど、関係ねえ。

 

「……見えてるぜ、その弾丸(たま)全部!!」

 

 マチェットを握りしめ、退くことなく前に出た。

 

 銃弾は弾道予測線の一瞬後に、その赤い軌跡に沿って飛んでくる。ってことは、予測線の順番と、俺の身体に当たりそうかどうか。これを把握すりゃ、避けなくても弾を斬って防御できるハズだ。

 

 下段からコンパクトに振り上げ、首に当たる一発を両断。頭上までは振り切らず、そのままななめ右下薙ぎ払って、脇腹と右腿に食い込む二本の予測線と交差した。

 

 二発ともキッチリ斬りきった手ごたえを感じながら切っ先を跳ね上げ、胸を抉りに来た弾を斬り捨てる。最後の顔面直撃弾を垂直に立てた刀身で受け止めて防ぎ、直後に攻撃に転換。下敷き状態から抜け出しリロードしていた男の首を、一歩の踏み込みと共に跳ね飛ばした。

 

「っし、弾斬り成功だ。小さくて弾なんか見えねえかって思ってたが、予測線があるならいけそうだな。流石にシノンの弾は強度的にアヤシイ…………っ!?」

 

 響いた銃声。それに反応して咄嗟に横に跳んだ。だが躱しきれず、左の脇腹を抉られHPを二割強食われる。

 

 歯噛みしつつ、なんで反応できなかったと自問した。銃弾を斬ろうが考え事しようが、意識はずっと敵から外してねえ。銃口が動けば速攻で察知できたハズだ、俺の警戒意識を躱されたってのか。

 

 ……いや、違う。

 

「ガッ……て、てめえ……」

「……悪いな相棒。どうせ死ぬ命だ、なら俺に寄越してくれよ」

 

 さっきまで下敷きになっていたスナイパーの男。そいつが、上に乗っかっていた奴を盾みたいに自分の前に掲げ、その男の腹を貫通させる形で俺に銃撃を当てやがったんだ。

 

 ほぼゼロ距離で狙撃銃の銃弾を受け、俺の蹴りが当たった部位に間を置くことなく貫通するほどの傷を負ったせいで、障害物扱いされた特殊部隊風の男はまだ動きが回復しきらないみたいだ。それをいいことに、スナイパーの山岳兵っぽい装備の男プレイヤーは冷め切った目の上にゴーグルを被せつつ、特殊部隊風男の後ろから出ようとしないでいる。

 

「……あんたが強いのは分かった。銃弾を弾き、躱して斬りかかる。運動神経ゼロの俺からしたら、おっかなくて仕方ないよ。

 けどな、知ってるかい? 貫通力の高い銃なら、プレイヤーの体一つ挟んでも十分な殺傷力を発揮するのさ。その上、標的を一つ間に噛ませれば弾道予測線も消える。この状態なら、あんたでも躱せやしねえ」

「……けどそのせいで、手前の仲間は目の前で死にかけてる。相方を盾にしてまで俺に弾丸当てるとか、そんなゲスい真似がよく出来るな」

「よく言われるさ。けど、生憎俺は仲間意識とか助け合いの精神とか、そういうのにどうもなじめない性格の人間なんだ。勝つために有効と判断すれば、組んでるヤツをダシにしたって何の罪悪感も湧いて来ないし、逆に見捨てられても痛痒にも感じない。

 このまま普通にあんたを相手取っても、このまま二人まとめて斬殺されるのがオチだ。なら、ほっといても死ぬ相方を障害物にした方が生存確率は上がる。ただそんだけだ」

「気に入らねえ考え方しやがって」

「結構。あんたに気に入られるために狙撃手やってるんじゃないからな。このゲームは生き残るためならあらゆる手段を用いていい、生存競争、殺し合いの世界だ。主張を押し付けたいなら、余所でやっておくれよ。場違いな剣豪さんや」

「別にテメエに理屈を押し付けようだなんて、これっぽちも思ってねーよ。初対面の他人の主張にケチつけられるほど、ご大層な主義を持ち合わせてるわけでもねえしな。ただ……」

 

 マチェットを逆手に持ち変え、全開の殺気を込めた眼差しで山岳男を睨みつけて、

 

「……殺し合いの世界だとかデケえコト言ってるくせに、悠長にご高説垂れてくるテメーの態度が、俺には我慢ならねンだよ」

 

 踏み込んだ。

 

 山岳男が再び相方越しに銃を放つ。が、俺は全速力からの跳躍でそれを飛び越え、頭上を越えて通路のどん詰まり、天井の角に着地する。男がこっちを振り向く前に跳びかかり、銃を持った腕を肩口からバッサリ斬り落とした。

 

 砂塵を巻き上げ着地する俺の横で、斬撃の衝撃にフラつく男から苦悶の声が聞こえた。

 

「ぐうっ……激しても尚、完全には冷静さを失わないか。思ったよりは馬鹿じゃないようだな……!」

「余裕のつもりか? フザけんじゃねえ。テメエがどんだけゲスい作戦で生き延びようが関係ねえよ。俺はテメエを……」

 

 サブの武器を抜かれる前に一気に接近、山岳男の腕が動くより早くマチェットを引き絞るように構え、

 

「――(たお)しに来たんだ」

 

 顔面ド真ん中に突き刺した。

 

 今度は苦悶の声すら上げねえ男。構わず逆手に持っていたマチェットの柄を両手で掴み直し、突き刺したままの状態で力に任せて捻じりあげる。崩壊した顔面の中、驚きもせず怒りもせず、消滅を受け入れたかのように静かな表情が一瞬見え、そのまま男の体が砕け散った。

 

 同時に、盾になって男も至近距離から撃たれた二発にHPを食い尽くされ、ポリゴン片になって消え去った。後に残ったのは、連中のドロップ品らしい装備だけ。

 

「……ちっ、ムカつくヤローだったな。えらそーに語りやがって……」

「そうかしら。正誤はともかく、一理ある主張だったと思うけどね。弾丸を斬りながら突っ込むとかいう誰かサンの非常識に比べれば」

「オメーはどっちの味方なんだよ、シノン」

「連中の敵。それ以上でも以下でもないわ」

 

 傍らに立っていた狙撃手は、ホントに相方なのか疑わしくなるような台詞を言い放った。

 

「戦闘中に油断してたら、あなたであっても脳天にきっつい一撃をお見舞いするから、覚悟しておくことね」

「ほー、上等じゃねえか。そのデカブツの弾も叩っ斬ってやらー」

「ムリね。少なくとも、その折れかけのマチェットじゃ」

 

 そう言って、シノンは俺のマチェットの切っ先を指差す。見ると、刀身が僅かに刃こぼれしていて、青いエフェクトライトを撒き散らしている。

 

「金属武器は例外なく、銃弾を連続で受けると損傷するの。斬ったとしてもそれは変わらないはず。装備メニューに『メンテナンス』のアイコンがあるでしょ。一旦装備状態を解除してからそれをクリックして、三分くらい放置しときなさい。完全にじゃないけど、耐久値が回復するから」

 

 癪だが、折れちまったら流石にヤバい。言われた通り、装備から外してメンテにかける。視界の端に百八十秒の小さいタイマーが出現したのを確認して、これで今敵が来たらやべーな……とか何の気なしに考えちまった。

 

 それがマズかった……わけじゃねーんだろうが、俺らの背中側、つまり中立地帯に通じる側の通路から、複数の足音が聞こえていた。

 

「……なによ、いつもの四割増しでイヤそうな顔して」

「いつもの四割増し、は余計だろ。まだちょっと遠いけど、六時方向からこっちに来る足音だ。しかも複数。俺らの戦闘音に気づきやがったんじゃねーの」

「流石に集団相手に徒手格闘は勝率ゼロよ。私が出るから、一護は下がってて」

「仕方ねーな……ムリすんなよ、回復したらすぐに俺も出る」

「三分後かあ。その前に、私が倒しきっちゃうかもね。復帰が間に合わなかったら、リアルでご飯奢りなさい」

 

 ヘカートを構えたシノンは、気負うことなく言い放ち、迫り来る新手に銃口を向ける。

 

「……さて、と。どこのスコードロンか知らないけど、出来ることなら一列に並んで来てちょうだい。一発で始末できるように」

 

 

 

 




感想やご指摘等頂けますと、筆者が欣喜雀躍狂喜乱舞致します。
非ログインユーザー様も大歓迎です。

今話の要約……一護無双。以上です。
次話はシノンさん視点。荒れます、色々な意味で。


たくさんの番外編リクエスト、ありがとうございます。
引き続き受け付けておりますが、ダブったテーマも増えてきたので、そろそろ試しに一話書いてみましょうかね。

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