Deathberry and Deathgame Re:turns   作:目の熊

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お読みいただきありがとうございます。

「Deathberry and Deathgame Re:turns」最終章、第三章開始です。


Chapter 3. 『しっかり生きろよ』
Episode 30. Today is a calm day


 ――目覚ましのアラームの音で、俺は目を覚ました。

 

 今まで朝は誰かに起こされてきたんだが、アインクラッド内で起こしに来るヤツがいなかったせいで、自力で起きる習慣がついた。だからってSAO内に閉じ込められて良かった、とは微塵も思わねーけど。

 

 まだ半覚醒の頭をガリガリと掻きつつ布団を押しのけベッドから降りる。パジャマ代わりのスウェットを脱ぎ捨て、クローゼットからラフなチノパンと発熱素材を編み込んだロンT、それから厚手のカーディガンを引っ張り出して着込む。室内っつっても今は真冬だ。仮想世界みたいに耐寒効果付きなら薄手のコート一枚で万事解決ってワケにもいかねえし。

 

 …………仮想世界、か。

 

「……そうか。そういや、もう一年経つんだよな。アッチから帰ってきて」

 

 世間一般じゃSAO事件と呼ばれているアインクラッドでの二年間……と、その後のアルヴヘイムでのイザコザ。

 

 SAO事件が解決した十一月上旬の頃は、事件の全貌を書いた記録が出版されてベストセラーになったとか、事件の完全解決から一年の節目を迎えたっつーことで当時の被害者・通称SAO生還者へのインタビューとか、メディアがこぞって取り上げていた。

 当事者だった俺からしたら、もう放っておいてくれという気持ちが半分と、二度とあんなことを起こさねえように誰もあの事件を忘れてくれるなよという思いが半分だ。

 

 色々得たものがあるって言っても、あの事件で失われちまったモンは余りにも多すぎる。取り返しのつかない三千人の命と、七千人の二年間。ふとした拍子にあの鋼鉄の城を思い出す度に、消えていったものが脳裏に蘇る。リーナと慰霊に行ったあの石碑に刻まれた名前の多さが、そのまま重みになって感じられるくらいだ。

 

 ……けど、ウジウジしたってしょうがねえ。

 

 終わっちまったことなんだ。あの事件を生き残った分、キッチリ生きる義務ってモンがあるはずだ。新しい仲間も増えたことだしな。

 

 ガラにもない鬱屈した気分を頭を振って掻き消し、自室のドアノブに手をかけたところで部屋の外からドドドドドドという喧しい足音が響いてくる。

 

「……ったく、ンのヤローが……」

 

 階段を駆け上がっている音だと即判断し、俺はドアの前で待機。迫りくる足音が俺の部屋のちょうど目の前にきた瞬間を狙って……。

 

 

「ぐっもーにん! いっち――」

「やッかましい!!」

「ゴファッ!?」

 

 

 思いっきりドアを蹴り開けた。

 

 予想通り、俺の部屋にダイブしようとしてたらしい親父の顔面をドアが直撃した。ゴガンッ! と鈍い音が響き、直後にドサリと倒れる音が聞こえた。力任せにドアを押し開け廊下を見ると、鼻血をダラダラと垂らしつつ倒れている親父のアホ面があった。

 

「オメーのモーニングコールはノーサンキューだって何度言や分かンだよ。いい加減懲りろ、ヒゲダルマ」

 

 フツーの人間が相手なら「ヤベーやっちまった」ってなるとこだが、生憎コイツはフツーどころか人間じゃねえ。元十番隊隊長がドアアタック一発でどうにかなるワケもねーし。

 

 予想通り、惨状の割にはピンピンしてるらしい親父はむっくりと起き上がり、鼻を押さえつつ呻くような声を漏らした。

 

「……と、父さんのダイビングヘッドバットを、部屋の外で叩き返すとは……もう、お前に教えることは、何も、ない……」

「もうちょいマトモなこと教えろっつーの。無月とユーハバッハの時以外で、オメーから碌なコト教わった記憶がねえんだよ。つかとっとと下行ってメシ食えよ。学会なんじゃねーのか」

「そ、そうだった! 名古屋の地酒が俺を待っている!!」

「酒飲みに行く前提かよ、このヤブ医者」

 

 鼻血を垂れ流しながら猛ダッシュで階下に降りていく親父の背中を見て、思わずため息が漏れた。グランドフィッシャーと戦った後に見た親父の背中とは雲泥の差だ。あン時はすげーカッコよく感じたが、今じゃただのアホなおっさんだ。ほんと、お袋はよく結婚しようと思ったな。

 

 とりあえず脱ぎ散らかした洗濯物をベッドの上に放り投げ(床に放っておくと遊子の雷が落ちる)、俺も朝飯を食うべく部屋を出る――前に枕を掴み、振り向きざまにブン投げた。

 勢いよく飛んでいった枕は部屋に侵入していたヤツの顔面を直撃。へぶっ、というなんともマヌケな()()声が聞こえる。

 

 

 

「――よぉ。部屋に入る時はノックしろって言ってンだろ。()()()

 

 

 

 俺の言葉に、リーナは顔にブチ当たった枕を抱えつつ大層不満気な雰囲気をまき散らしていた。表情はいつもの無表情なんだが、ブレザーを着込んだ全身から発せられる空気的なモンが奴の不服を物語っていた。

 

「……一護。なにも部屋に無言で入っただけで枕を投げつけることはないと思う。なに、えっちぃ本でも隠してあるの?」

「そういう問題じゃねーよ。最初に忍び込んだときにオメーが何やりやがったか、忘れたとは言わせねーぞ」

「あれは、こっちを見向きもしなかった貴方が悪い」

「指向性スピーカーなんてモンを用意してた時点で、俺がどんな態度を取ろうがやる気満々だっただろーが。俺のせいにすんじゃねえよ」

 

 四日ぐらい前の朝に俺の部屋に無言で入ってきたとき、いきなりボリュームMAXでなんかのアニメの曲を携帯式の指向性スピーカーから流す凶行に及んだ。しばらく耳がキンキンしてたのを今でも覚えてる。

 

 リーナは俺の文句をスルーしてそのまま部屋の中を横ぎり、そのままベッドに腰掛ける。俺が勉強用の机に備え付けてある椅子に腰を下ろすと、リーナは肩にかけていたバッグから小型のポットとプラスチックのカップを二つ取り出し、ポットの中身をカップに注いで俺に寄越した。スッとする香りが鼻に届く。

 

「本日のモーニングハーブティー。眠気覚ましの効果がある」

「ありがたいけど、もう受験終わってンだから、別にこんな手間かかることしなくてもいーだろ」

「私がしたいからやってること。一護は気にしなくていい」

 

 リーナが寄越したこの紅茶は、コイツが自分でブレンドしたものだとか。受験期終盤、俺の家を突きとめたリーナは度々俺の家を訪れ、色んなハーブティーを差し入れてくれていた。

 

 以前、教えてもいないのになんで俺んちが分かったのかと訊いたら、

 

「ネットで検索したら、空座町に病院は四つしかないって分かった。総合病院が一つと、小さな町医者が三つ。その三つの町医者のうち、一つが『クロサキ医院』なんていう分かりやす過ぎる名前をしてれば誰だって気づく」

 

 と、何を当たり前のことを訊くの、とでも言わんばかりの呆れ無表情で返された。チクショウめ。

 

 日によって茶葉のセレクトは変えてたようで、リラックス効果とか、疲労回復促進効果があるとか、そういうヤツを淹れてきてたらしい。こういうのは人によって合う・合わないってのがあるはずなんだが、俺には効果テキメンで、飲むと明らかに身体が楽になるのを感じた。

 特に疲労回復の効き方は凄まじく、一日中勉強してようが、次の日の朝にコレを飲めば一瞬で倦怠感がフッ飛んだ……あれ、なんかヤバい薬とか入ってたんじゃねーだろうな。遊子や夏梨には頑なに飲ませようとしないみてーだし……。

 

「有害性はない。薬と毒は本質的には同じもの。だから、一護に妙薬になるものが妹には毒になるってこともあるために、安易に他の人にお勧めは出来ないってだけの話」

「なんも言ってねーっての」

「表情で分かる」

 

 しれっと心の声を読みやがったリーナは素知らぬ顔して紅茶を啜る。仮想世界から帰ってきて一年ちょい。だいぶ健康的な肉つきになったことが顔や首回り、指なんかで分かる。この辺に関してだけ言やあ、詩乃もコイツを見習った方がいいな。

 

「……ちょっと、一護。そんなに見つめられると、その……照れる」

 

 今度は心の声を読み損ねたか、それともおちょくってンのか。少し顔を赤らめたリーナがもじもじと身体を捩った。別にじろじろ見てたつもりはなかったんだが、それで「ナニ見てんの」とか言うならともかく、カップで口元隠して嬉しそうにしてる理由がよく分かんねえ。まあ、魂胆はどうあれ、機嫌悪いよりはいーだろ。

 

「……あ、そうだ。一護、ちょっとこっち来て、そこのクッションの上に本棚の方を向いて座って」

「却下。オメーまた俺の髪の毛弄って金髪探しとかする気だろ。アレ痛ぇんだっつのに」

「そんなことしないから、早く」

 

 一昨日くらいにやられて金髪を四、五本引っこ抜かれたのを思い出して顔をしかめながら、卓袱台型のローテーブルの前に置いてあるクッションの上に座る。と、リーナがベッドから降りて俺の背中側に回り込んだ。

 

 なにをやらかす気かと気配に注意してたが、リーナはもう一つクッションを引っ張ってきて俺の後ろに敷くとそこに座り、俺の背中に自分の背中をもたれさせてきた。

 何がやりたいのかサッパリだが、とりあえず後頭部を俺の背中で動かされるのは地味に痛い。背骨がゴリゴリいってる。

 

「ふぅ、中々良い背もたれ。一護は人間椅子の才能がある。やはりなんだかんだ言いつつ使用人向きの気質」

「言うに事欠いて人を椅子呼ばわりかよ。シバくぞ」

「暴力反対……それに、そんなに嫌がらなくてもいいと思う。不良執事とか、意外と世間的需要はあると見た」

「誰がンなもん供給するか。つか背中側で頭動かすんじゃねえ、いてーな」

「……それは、暗に『身体の後ろ側じゃなくて、前側に座れ』って言ってる? 美少女にくっつかれたことで欲情してしまい視姦するだけじゃ飽き足らずもっと密着して女性の身体の感触を存分に味わおうとして――」

「朝からナニ口走ってんだオメーは。午前七時半から欲情だの視姦だの聞きたくねーっつの」

「ちなみに、引用元はこの前読んだ官能小説」

「もう喋んな、口先十八禁女」

「私二十歳(はたち)だし」

 

 ……こうやって遊子が呼ぶまでの朝の十分ちょいを過ごすのも、もう慣れたモンだ。コイツがウチに来るようになってから三か月近く経つし、アインクラッドでも似たようなモンだった。

 

 何より、こうやってアホな話をしてられるのも、今が何もない平穏な日だってことの証明だった。仮想世界に閉じ込められたわけでもなく、仮想の銃撃で現実の人間を殺すヤツに頭を悩ませてるわけでもなく、現実世界の虚の跋扈を警戒してるわけでもない。そんで――膨大なテキストと格闘する必要も、つい最近なくなった。

 

 

 季節は真冬。二月半ば。

 

 

 俺に大学受験の合格通知が届いて、今日で五日目となっていた。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 二月の上旬に受けた試験の結果が出たのは、ちょうど十二時を過ぎた頃のことだった。

 

 一月半ばの統一試験の結果と今までの模試の結果から、落ちることはねーだろと思っちゃいたが、流石に発表当日は緊張した。事情があるっつっても、三浪以上はキツい。絶対に受かんなきゃと思っていた分、合格者一覧の中に自分の番号があった時の歓喜ったらなかった。白哉に勝った時に匹敵すンじゃねーかってぐらいだった。

 

 んで、ガラにもなく妹たちと騒ぎ、飛びかかってきた親父を撃墜し、その興奮が冷めきる前にインターホンが鳴った。いつになく機嫌が良かった俺がそのまま玄関へと向かい……リーナの無表情と「外まで声が漏れてた。合格おめでとう一護」という祝福の言葉に遭遇した。

 

 なんでココにいんのか分からず、とりあえず家に上げてやるとリーナは「粗品だけど」と高級和牛を遊子に手渡し、

 

 

「明日、ここから徒歩三十秒のところにあるアパートに引っ越してくることになりました、東伏見莉那です。不束者ですがよろしくお願い致します」

 

 

 と言って頭を下げてきた。

 

 事情を飲み込めず、詰め寄ってくる家族を押しのけ自室に連行。どういうことだと問い詰めた。

 

 それに答えること曰く、事の発端は空座町の駅前にある有名予備校に通うことになったことだとか。俺の予備校と系列は同じで、医学部専門コースと併設されてる薬学部専門コースに入塾する予定だと言う。

 今の実家からそこまで毎日通学するのは億劫なため、通っている統合学校にも予備校にも近い空座町で一人暮らしをすることに決定したものの、不慣れな土地のため近くに知り合いがいる環境が望ましい……っつーか、親父さんともめまくった末に妥協する条件としてそう言われたそうだ。

 そこで、空座町駅前のきれいなマンションじゃなく、俺んちの目と鼻の先にある小奇麗なアパートの一室を買い上げて即改築。予備校通いが始まる前に一人暮らしに慣れておくため、四日前に越して来て今に至るっつー流れだった。GGOと毒破面の事件以来、やけにコイツが大人しくしてんなと思っていたら、裏で引っ越しの準備なんざ進めてやがったのか。先に連絡の一つでも寄越せっつーのに。

 

 

 ……しっかし、よくもまあ親父さんたちが許したなと思ったんだが、リーナん家の両親はそんなに家柄に囚われないっつーか、重要だってことは分かってるけどそれに傾倒する必要はないって考え方の人たちらしい。

 

「実力主義の社会で家柄等という古臭い考えが罷り通る分野は少なくなっている以上、伝統に縛り付けられることは損以外の何物でもない。一企業を背負う身として、古きを重んじながらも、新しい世の中の流れにも柔軟に対応していくことが不可欠だ」

 

 リーナが引っ越す直前、わざわざ俺んちに挨拶に来た大手高級不動産会社代表取締役の親父さん、東伏見藤太郎さんはそう言ってたし、

 

「とは言え、分家の方々がそういった慣習に口うるさいことも、恥ずかしながらまた事実なので御座います。なので莉那には、最低限の規則だけを守ってもらえれば自由にして良いと常に言って聞かせております。

 黒崎一護さん。莉那が貴方に寄せる信頼の情がとても大きいことは、あの子から話を聞いて重々承知しております。また娘を助けて下さったこと、母としてとても感謝しております。今後とも莉那を宜しくお願い致しますね」

 

 お袋の(みやこ)さん(リーナ曰く「日舞の世界で実力・知名度共に一番のプロ」だとか。ネット検索したらマジでトップだった)も、そう言ってほほ笑んでいた。

 

 この人たちがロールスロイスでウチの前に乗りつけてきたときは、親父が何かやらかしたのかと俺と妹二人で戦々恐々としてた。一応、両親が会いに来るってのはリーナから聞かされてたんだが、あんな高級車の代名詞でやってくるなんて思わなかった、流石富豪。

 おっかなびっくりの遊子が提供した安い茶葉で淹れた緑茶と羊羹食いながら、あの二人は普通に雑談しただけで帰っていった。良かった、これで「娘に何かあったらドラム缶でコンクリ詰めにして東京湾行きだ」とか言われたら、マジでリーナと縁切ろうかと真剣に思ったしな。とりあえず、娘が一人暮らしするからっつって自分らも挨拶に来る親バカっぷりがあの一件で再確認できた。

 

 親父さんとは見舞いで何度か顔を合わせちゃいたんだが、ああしてキッチリ面と向かって話すのは初めてだった。正直見た目のウケがわりー俺と、いいトコの社長さんなんざ相性最悪じゃねーかと話す前からイヤだった……んだが、話して見たら意外と友好的で驚いた。

 

 それを先読みしたように親父さんが笑いながら話してくれたんだが、どうもこの人、若い頃に家柄の古臭さがイヤで相当グレてたらしい。先代、つまりリーナの爺さんにけっこうマジで絞られたりしながらケンカに明け暮れ、見た目もかなりイカつかったとか。

 けど、そん中で学んだ人との繋がりや義理の大切さがあったり、おふくろさんとの出会いのきっかけもケンカ絡みだったりしたらしく、その過去があるからこそ見た目で判断せず、能力と心意気で人を見るようにしているのだと言っていた。見せてもらった若い頃の写真は、確かにイカつかった。あんなリーゼントが現実にあるんだな。

 

 

 ……で、そうやっていきなり引っ越してきたリーナだったが、予想に反して人間関係はほぼ良好だった。

 

 ウチの家族は最初から問題なし。

 

 特に遊子に関しては、ウチに来て真っ先に差し入れで籠絡しやがった。

 

 挨拶に持ってきた和牛の破壊力たるや、遊子だけじゃなく夏梨と親父までも轟沈するレベルだった。俺も食ったが、アレは反則だ。肉のナリした別次元の食い物だと思った。曳舟さんトコでメシ食った時レベルの衝撃だったな。

 

 以来、コイツは度々俺んちに差し入れ片手に現れては、メシ食ったり昼寝したり勉強したりするようになった。出されるメシを一つ残らず平らげる食欲は遊子にウケがよく、冗談みたいな山盛り白米を片手におかずを食べ尽くすリーナを笑顔で見守る遊子の構図は、もう姉妹のそれにしか見えねえ。勿論、遊子が姉の方だ。歳的には逆だけどな。

 

 事件の後処理でウチに泊まっていたルキアと会ったときは、最初は警戒心ムキ出しにしていた。

 

 ルキア自身は、

 

「……何故此奴は、私が親の仇であるかのような目で此方を見ておるのだ?」

 

 と首をかしげてたが、その疑問が解決する前にリーナの態度が急速に軟化。あっさりと普通にコミュニケーションを取り始めた。

 何だったのかは俺にもルキアにも分からねえ。本人に聞いても「気のせい」の一点張り。まあ、別にいいんだけどよ。なんでかウチの妹たちはちゃん付けで呼ぶのにルキアだけは呼び捨てだが、不要な揉め事は無いに限る。

 

 ウチに来た詩乃と会ってもリーナ側には問題は無かった。逆に、

 

「ちょっと一護。あんたまさかとは思うけど、影で女遊びとかしてるんじゃないでしょうね……」

 

 って感じで、詩乃の機嫌が悪化しやがった。人聞きのわりーこと言うんじゃねーよ。

 

 その他、遭遇する俺の友人にはいつも通りの無表情で普通に接していた。ただ井上にだけは相変わらず警戒心むき出しで、井上の方もなんかミョーな感じだった。なんであんなに仲悪いんだっつの。本人たちに聞いても、

 

「一護は気にしなくていい」

「黒崎くんが気にすることじゃないよ」

 

 と口を揃える。もうどうしろっつンだよ。

 

 

 ……けどまあ、そんなバタバタも落ち着いて、今は二月の十五日。

 

 新しい面子が増えたウチの日常にもそろそろ慣れつつある。大学の授業が始まるまで、あと二か月弱。それまでをどう過ごすかをそろそろ考えなきゃいけない時期だった。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 朝食後。

 

 遊子たちを見送った俺が居間に戻ると、リーナはまだウチの居間でくつろいでいた。何でも、今日は校舎の点検があるとかで学校が休校になったらしい。廃校を転用してるらしいし、そういうこともあんのか。

 

「……にしても、お前なんで制服着てんだよ。学校ねーなら私服でいいじゃねえか」

「なに一護。制服より私服派なの?」

「そういうアホなこと聞いてんじゃなくてだな。平日に制服着て街ん中フラフラしてると、運がわりーとお巡りに捕まったり、色々メンドくせーことになるだろ」

「それは一護みたいなヤンキー限定の懸念……は、置いといて。単純にこの制服のデザインが気に入ってるから、気が向いたら休みでも着たりしてるってだけ」

 

 黒いストッキングに包まれた脚を行儀悪くパタパタやるリーナを横目に、俺は台所に立ち洗い物を片付けていく。食器類の放置は遊子法典で禁止されてるから、ほっとくわけにもいかない。

 

「一護、今日の予定は?」

「あ? まあ、別になんもねーよ。大学から入学までにやっとけって言われた課題とかも、もう終わらせちまったしな」

「じゃあ、ALO行こ。私もキャラあるし」

「断る。聞いてるぜ、ナニをトチ狂ったのか知んねーが、ALOの上空にアインクラッドのコピー作ったんだってな。ンなとこ誰が好き好んで行くかっつの」

「キリトとかアスナとかクラインとか、あの辺は年末年始関係なくログインしてるみたい。ユーザー数も指数関数的に増加中」

「他のヤツなんざ知るか。とにかく、俺は行かねえ」

 

 GGOとか、全く別のVRMMOなら考えたかもしんねーが、SAOが再現されたALOなんていうヤな思い出満載の世界に行きたいワケがねえ。さくさくと食器を洗い、拭いて乾燥台に立てかけていると、リーナは「けど、一回は行かないとダメ」と言う。

 

 理由を聞くと、

 

「エギルから伝言。預けっぱなしにしてる大量のアイテム、放置しとくと売っ払っちまうぞって」

「げ。それがあったか。流石に天鎖斬月とかを売る気はねえしな……仕方ねえ」

 

 ALOの世界樹で勃発した決戦の時にメモリー・リアライジング・プログラムで生成した天鎖斬月と装備一式は、ログアウトしてもそのままになっていた。

 ステータスも卍解並だったら問題になってただろうが、外っ面が変わっただけで中の数値とかは世界樹に突撃する直前の装備と同じだ。天鎖斬月のパラメータも、消滅しちまったシュテンのものを引き継いでいる。アレを手放すのは惜しい。

 

「それじゃ、私は一回帰るから、この後イグドラシル・シティ集合で……」

「ちょっと待てリーナ。行くなら昼過ぎにしようぜ」

 

 リーナの言葉の途中で、俺はあることを思いついた。せっかく向こうに行くんだ、アイツら連れて行ってもいいだろ。今はまだコッチにいるって話だしな。

 

「いいけど……何か用事思い出したの?」

「ちょっと向こうに連れて行ってみたい奴がいる」

「特盛女以外だったら構わない」

「井上は普通に大学があんだよ。呼べるワケねーだろ」

 

 どんだけ毛嫌いしてんだか、と呆れつつスマホを操作し、目当ての奴のアドレスを選択、手短にメールを作成する。キャラなんて持ってるはずがねえけど、そこは浦原さんに頼んで何とかするか。まだ借りを返してもらい終わってねえからな。ちっと安くねえ出費にはなるだろーが。

 

 ……まあ、それに一応、久しく会ってねえ連中もいることだし、用事を済ませがてら顔出すくらいはやっとくか。

 

 

 

 

 




感想やご指摘等頂けますと、筆者が欣喜雀躍狂喜乱舞致します。
非ログインユーザー様も大歓迎です。

……というわけで、なんと二月開始です。
原作でいうところの二六八ページ十四行目スタートです。二十七層攻略戦とか、その辺一切合切総スルーです。時期的に一護のセンター試験期間が(筆者の記憶が正しければ)モロかぶりだったんで。
一護の受験がありながらALOにログインさせる方法が散々悩んだ結果思いつかず、じゃあいっそ受験終わらせちまえばいいじゃねーか、という暴挙に及びました。代わりに一護は何の制約もなく四月まで遊んでられます。やったねたえちゃ(ry

今章は、原作ではたったの三ページでまとめられてしまった二月・三月のALO内イベントを中心に書いていきます。ユウキのキャラを果たしてどれだけ忠実に描写できるか不安ですが、最後の章でもありますし、頑張って執筆していきたいと思います。





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