Deathberry and Deathgame Re:turns 作:目の熊
三十七話です。
前半は一護視点、後半はキリト視点です。
よろしくお願い致します。
「――わりーな、井上。こんな夜遅くまで付き合わせちまって」
「ううん、あたしは全然大丈夫。って言うより、なんかごめんね。遅くまで居座っちゃって」
「私の方こそ全然大丈夫よ。むしろ、織姫さんだったら、泊まっていってほしいくらい」
「ほんと? ありがと詩乃ちゃん! じゃあ今度お泊まりさせてもらっちゃおうかなぁ」
「言っとくけど一護、あなたはダメだからね。私が後で吊されちゃうから」
「なんも言ってねーし泊まるつもりもねえよ」
「あはは、ほんとに仲良しだね、黒崎くんと詩乃ちゃん。あ、それじゃあたしはもう帰るね。おやすみなさい!」
「おう、じゃーな」
「今日はありがとう。お休みなさい」
ユウキとバタバタやってた日から三日後。
知り合ってからちょくちょく不定期にやってる「詩乃宅料理教室」の第四回目が終わり、俺と詩乃は玄関先で井上を見送っていた。時間は午後の八時を回ったところってこともあり、外はすっかり夜の闇に追われている。
本当なら俺が自宅まで送ってくつもりだったんだが、
「ありがとう、黒崎くん。けどごめんね。帰りにちょっと駅前のショッピングモールに寄りたいから、今日は送ってもらわなくても平気なの」
「そうか? 買い物ぐらい手伝ってもいい――ッ痛! 詩乃! いきなり脇腹ド突くんじゃねーよ!!」
「バカ一護、わざわざあんたの付き添いを断ってるんだから、ちょっとは女性の日常生活事情を察しなさいよ」
「……生活事情? 俺がいるとマズい女の事情ってことは……」
「わ、わーっ!? 想像しなくていいよ黒崎くん!!」
って感じで、今日は井上を一人で帰すことになった。後で詩乃に「女性の、ってわざわざ言ったんだから、そこは考えないで素直に納得しときなさいよ。フリでもいいから」と言われたが、なにも肘で脇腹ド突く必要はねーだろ。夜一さんに体術の稽古つけてもらってるせいか、地味にいてーンだよ、それ。
つか、あんだけの情報量で察しろってのは中々ムチャ言ってねーか? 水色は「女性と一ヶ月くらい一緒に居れば、行動パターンの変化と機嫌の上下で『月のもの』の周期が分かるよ」とか言ってたが、アレは特殊な例だろうし。
井上を送り出した後、俺と詩乃は室内に戻った。さっきまで三人で食ってた夕飯の片づけはとっくに終わってるから、特にやることはねえ。適当に座り、ローテーブルに常設してある電気ポットのお湯で淹れたほうじ茶を二人並んで飲む。
勝手知ったる何とやら、って感じでリモコンに手を伸ばしテレビを付けようと思ったんだが、
「しょーもないバラエティ番組嫌い。見ててなにが面白いのかサッパリよ。報道番組が一番面白いわ」
と詩乃がこの前言ってたのを思いだして止めた。よくそれで学校の話題についていけてんな、と返してやったら、同じバラエティ嫌いの友人たちだけとツルんでるから問題ない、と言い返された。それを聞くと井上の社交性がすげーってのが改めて分かるな。
「……なによ」
「いや、別になんもねーよ。メシ食って眠ィからボーッとしてただけだ」
「ちょっと、寝ないでよ一護。ほんとに泊まっちゃダメだからね。リーナから怒られそうだし」
「なんでソコでリーナが……って、ああ。なんか『ズルい』とか何とか言いそうだな。手前ン家に人あげんの禁止にされたっつってたし」
「……まあ、それでいいわ。間違ってはいないし」
「なんだよ、含みある言い方しやがって」
「いいえ、別になにもないわ」
両手で持ったマグカップの茶を啜る詩乃は俺の言葉を流すと、そういえば、と逆に切り返してきた。
「あんた、明明後日のトーナメント準決勝で、キリトとデュエルするんだってね」
「まーな。わざわざ俺をハメてくれやがった奴だ。オトシマエはきっちりつけさせてもらうさ」
「そうやって大言壮語しといてサクッと負けたら、後で笑ってあげるわ」
「性格悪ぃな」
「冗談よ。当日会場で見てるから、ちゃんと頑張ってよね」
「当たり前だっつの。決勝行って優勝すんだ、準決で負けるわけにいくかよ」
俺がそう言うと、横にいた詩乃が目を丸くした。まるで意外な台詞を聞いた、とでも言わんばかりの表情だ。
「なんだよ。優勝狙っちゃわりーかよ」
「ううん、別にそういうんじゃないんだけど……キリトに引っ張り込まれてなし崩し的に参加した割には気合い入ってるな、って思って……あ」
まさか、と詩乃は剣呑な目つきに代わり、マグカップをローテーブルに置いて上目遣いで俺を睨み上げてきた。
「あなた、西ブロックの準決勝に上がった女性プレイヤー二人のどっちかと、ヘンな約束でもしたんじゃないでしょうね? どっかの黒ずくめみたいに不用意に女の子たぶらかしてると、そのうちリーナに殺されるわよ?」
「キリトと一緒にすんじゃねーよ! 確かに約束はしたけど至ってマトモだ。ユウキと必ず決勝で戦う、そんだけだ」
「ユウキと?」
「ああ、そうだよ……そう何回も全力で戦える機会が、アイツに残されてると思えねーしな」
「……そうね」
詩乃は一転、目を伏せるようにして声のトーンを落とした。俺の言いたいことを察したらしい。
スリーピング・ナイツは勿論、詩乃を始めユウキと親交があるキリトパーティのメンツには、ユウキから、
「ボクに万が一があっていきなりいなくなっちゃうことがあるかもしれない。そうなって皆を驚かせたら悪いから、そうなる前に、アスナから皆に話しておいてほしい。
ホントならボクから直接話すのが筋ってものなのかもしれないけど……直に面と向かって話してたら、みっともなく泣いちゃうかもしれないしさ。だから……お願い。話す人の判断はアスナに任せるよ」
と頼まれたアスナにより、『絶対他言無用』の厳令の下、だいたいの事情が知らされてるみたいだった。俺にはなんで知らされてねーんだ、と訊いたら、「四六時中リーナとツルんでどっかをほっつき歩いてるから、伝えるタイミングが無かった」とか何とか。
改めてアスナから聞かされたところによると、ユウキの患っている病気は後天性免疫不全症候群、
ヒト免疫不全ウイルス・略称HIVが免疫細胞に感染し免疫不全、つまり体内の免疫力が極端に低下した状態になってしまう。性的・血液・母子感染の三つに感染経路が限られていて、HAART療法等適切な治療を受けていれば天寿を全うすることも十分可能。
だか、完全にウイルスを消滅させることができた事例は「例外」を除いて存在しない。ちょっと前に読んだ記事じゃその例外事例では、急性骨髄性白血病を併発した患者にHIV耐性遺伝子を持つ人の骨髄を移植したところ、両方の病が完治した……そんな内容だったはずだ。
骨随ってのは血液に比べて提供率が低く、HLA一致率も三割を下回る。そこにHIV耐性遺伝子持ち、なんて希少な因子の縛りかけたら、見つかる可能性はマジで天文学的な数字になる。だからこの一件は「奇跡的特例」「例外」って扱いになってるらしい。
一応数年前に海外で新しい抗HIV治療法が開発されて、現に一人、治療を受けた後HIVが血中から検出されていないって事例があるにはあるが、臨床試験段階のシロモノだ。残念だが、その実用化がユウキの身体を蝕む病魔の速度に追いつくことはねーだろう。エイズなんていう不治の病に対する完治法なんだ。審査もクソ厳正になるのが目に見えてるだろうしな。
それに、万が一エイズが完治できたとしても、今のユウキには遅すぎる。
俺の推測が悪い方向に的中し、すでにユウキの身体は相当な衰弱状態にあるという。併発した病で視力を失い、脳症を引き起こし、容態は「末期」まで進んじまっている。現段階でエイズを治しても、その身体で生きられる時間は……。
「……俺は必ず決勝まで進む。そんで全力を賭けて、ユウキを倒す。手加減なんて絶対にしねえ。それが……俺にできる精一杯だ」
「そう……ね」
詩乃は俺の言葉に短く賛同しただけで、口をつぐんだ。俺らの無力を噛みしめているような、そんな表情。この前の俺も、きっと似た面構えだったはずだ。
互いが無言のままうつむく中、俺は詩乃の言葉にほんの一瞬、淀みがあった理由を察していた。何かを言おうとして、けれど考え直して止めたような微妙な間。
きっと詩乃はほんの一瞬、こう言おうとしたハズだ。
『ユウキを霊術で治せないの?』
その疑問は、きっと外野から見たら当然のモンなんだろう。
現世の常識なんてまるっきし通用しねえ超常の力。それを持ってるんなら、重病患者の一人や二人、助けたらいいのに。そう考えるのはごく自然な流れだ。霊術があったから自身の命が救われた詩乃だからこそすぐ思いつき、けれど同時に死に直面したからこそ発言を取り止めることができた言葉だ。
結論から言って、霊術でユウキの命を永らえさせることは、可能なハズなんだ。
井上の「事象の拒絶」……は効果範囲がよく分かってねえからともかくとして、浦原さんの義骸技術なら、健康そのもののユウキの肉体を用意することくらいワケない。
年末の一件で「因果の鎖を分解浸食する毒」が使われたが、科学者ならその逆、つまり「因果の鎖を結合修復する薬」を研究してる可能性はかなり高い。義骸技術と併用したら、ボロボロになった人間の肉体から魂魄を切り離して新しい健康な肉体に移し因果の鎖を繋ぎ直す……言っちまえば「延命措置」さえ可能になりそうだ。
あるいは、ヒトに感染する病の特効薬くらいポンと作れちまうかもしれない。アスキンとかいう、あの致死量を下げる毒使いの滅却師に対して即座に応急薬を作ってみせたんだ。こっちの可能性も十分にある。
……だが、それは人間の「理」を壊すことと同じことだ。
霊王を殺し尸魂界の「理」を破壊しようとした藍染のように。
現世・尸魂界・虚圏を一つにして世界の「理」を越えようとしたユーハバッハのように。
霊なるものが関わってないなら人間を救うのに霊術を使うな。
……だなんて言うつもりはねえし、そんなえらそーなコトは言えねえ。もし俺の目の前で誰かがトラックに撥ねられそうになってたら、あるいは強盗に銃で撃たれそうになってたら、霊力を使わずにいられる自信はねえからな。
けど、考える余裕があるなら、きっと俺は霊力を使わない。
俺が『ソードアート・オンライン』に囚われて昏睡してても、現世にいる霊力持ちの知り合い連中が誰一人として霊術を使って事件を解決しようとしなかったのと同じだ。死神は全ての魂魄に「限りなく」平等でなきゃいけねえハズだから。
尸魂界が介入すれば、罪もないのに死んでった三千人の命は助かったかもしれない。けれどそれをやっちまったら、死ぬはずだった命を山ほど生かすことになり、現世の理は崩壊する。
……同じだ。藍染やユーハバッハがやろうとしたことと。
俺はアイツらがやろうとしたことを止めた。
小難しい理屈を蹴り飛ばし、ただ仲間を護りたいから俺はアイツらの野望を打ち砕いた。なら、理を壊そうとしたアイツらを止めた俺には、そうまでして護った仲間と、その仲間たちが人として生きるために必要な理を守る義務がある。
可哀想っつう感情で理屈を無視すんのはカンタンだ。特にカラダ張る時は四の五の考えずに動くから尚更だ。けど、理屈を考えられる状況のクセに無理を通して歪めちまった死の「責任」は、俺一人で果たしきれるモンじゃねえ。
やっちまったコトの責任を背負えねェクセに無理をやるほど、今の俺はガキじゃねーんだ。
「……ユウキのこと、最後までちゃんと見守ってあげなさいよ。死神代行。出来ることなら私たちも手伝うから」
「ああ……分かってる」
静かに告げた詩乃の言葉に、俺はただ短く答えた。
◆
<Kirito>
「いやー、斬った斬った……っと。ありがとな、チャドさん。こんな無味乾燥な殺伐
「…………ム。問題ない」
トーナメント準決勝を三日後に控えた日の夕方。
最終調整のためにALOにログインしていた俺は、茶渡さん改めチャドさんと共にアインクラッドの迷宮区に潜っていた。本当ならアスナとその友人ルキアを加えた四人で行くつもりだったんだが、サクヤ・アリシャの女性領主からお茶会の誘いがかかったらしく、二人はそっちに合流した。他の面子も都合がつかず、今日は男二人、しかも超脳筋コンビで三十層の迷宮区攻略に挑んでいたというわけだ。
迷宮区から主住区への帰り道、見渡す限りの大草原の中を、俺たちはのんびりと歩いていく。遥か遠くに見える主住区の街並みが、赤々と燃えるような夕日に照らされて真っ黒いシルエットになっている。普段ならちょっとアンニュイになりそうだが、今日はそんな気分じゃなかった。
「……いよいよ三日後かあ。一護とのデュエル」
「緊張しているのか?」
「まさか。むしろ逆に楽しみなくらいだ。一護とサシで戦ったことなんて、知りあってからの三年で一度もなかったしな」
「強いぞ、あいつは」
「分かってるさ。イヤになる程に」
「……そうか」
そう、分かっている。
一護が強いなんていうのは、何度となく見てきた戦いの中で嫌というくらいに思い知らされた事実だ。特にSAO時代の縮地習得後の一護の手の付けられなさ加減、それから世界樹の頂上で須郷と戦った時の雄姿。どっちも強さの権化のようで、だからこそ俺の目標となった。
デスゲームも死銃事件も解決した今、あの強さがなければどうこうなるということはない。だが俺も一人の男として、自分が大事だと思うものを護れるだけの力が欲しい。そう願い、VR技術の勉強をしながらも今日まで自分を高めてきた。その集大成を叩きつけるのが、三日後の午前十二時。そう思うと、平素なら「なるようになるさ」と受け流す俺の心中も凪いだまま、ってわけにはいかなかった。
無論緊張はしていない。自分からけしかけたケンカだ。むしろ本望ですらある。
……けれど、少しだけ、罪悪感があった。
一護の力、その強さは殲滅のためではなく守護のために存在する。
二年間同じ世界で戦ってきたんだ、それくらい分かっている。短気で粗暴な人格に不似合な平穏を望むアイツの思考も。他人との優劣を付ける戦いにさして興味を示さない存外冷めた性分も。それを分かっていて尚、俺は一護にコロシアムでのデュエルを挑むことにした。
この決心に際して俺なりにあれこれ理屈を考えてはみたんだが、どうも外野から見ていると俺の挑戦の動機なんていうのはバレバレだったらしい。特に、開幕式の中継を見ていたというシノンとリズ、シリカの三人には完全にバレていた。
みっともない動機なのは承知の上だ。
子供の駄々にも似た理由で一護を引きずり込んだ。そのことに対し本人がどう思ってるのかは今でも分からない。
トーナメントが始まってから、一護と二人だけになる時間は一度もなかった。それは一護の傍らに常にリーナたちがいたから、ということもあるが、俺が意識的に一護とサシで話せるような状況を避けていた、という面もあった。別に糾弾されるのが怖かったわけじゃなく、なんとなくバツが悪かったから。
……なんともまあ、恰好悪いったらないな。
あれだけの大仕掛けで引っ張り込んでおきながら、今更な罪悪感で精神的にモタついている。これじゃ勝機なんてあったもんじゃない。元々低い勝率がゼロも同然。それを振り払うために、調整という名の憂さ晴らしに出て来たのに。
「……ほんと、カッコ悪いなあ――おッフ!?」
バシーンッ、と辺り一帯に響き渡る音。漏れるマヌケな声。
チャドさんがその太い剛腕で、いきなり俺の背中をブッ叩いたのだ。七十四層で対峙したボスに勝るとも劣らない衝撃にたたらを踏む。無防備な背中をシバかれたせいか、HP損傷は一割弱。けっこうシャレにならない。
痛みの代わりにビリビリとした痺れを感じながら見上げると、俺より頭二つくらい上にあるチャドさんの目が、俺をジッと見つめていた。現実世界同様、ゆるいパーマのかかった長めの黒髪の間から、静かな眼差しが覗いている。
「詳しい事情は知らない。お前たちがあの鉄の城で過ごした二年のことも、少ししか訊いてない……だから、お前がどうして一護と戦いたがっているのか、俺には見当が付かない」
低く、静かな声が響く。傾いだ上体を元に戻しながら、俺は傍らの巨漢と目を合わせる。
「……知っているかもしれないが、一護は良くも悪くも前しか見れない男だ。売られたケンカは買う、戦うことになったら勝つことしか考えない、戦力差なんて考慮の外。普段は理屈で考えるくせに、信念に悖ることは許せないから道理も感情で叩き壊す。そういう単純な奴だ」
「……頭は良いのに賢くない、そんな奴でもあるよな」
ディスってるんだかホメてるんだかよくわからない評価を交わし、互いに苦笑する。
「けど、だからこそ一護は戦う時、互いの細かい事情の一切を捨て置く。相手になるのが仲間で、友人で、自分と大会の中で勝負することになれば、ただ目の前の戦いに全力でぶつかることだけを考える。
……だから、迷うな。決闘を三日後に控えた今、お前がその事を悩んで何になる。男と男が戦う以上、お互いのやる事は決まっているんじゃないのか」
「チャドさん…………」
これ以上は言わない、とでもいうように口をつぐみ、チャドさんは前方に向き直った。事情を知らずとも心情を見透かされたような感じに、やっぱりこの人は一護の古馴染みなんだな、と改めて実感した。
……そうだ、今更なにを考えてるんだ。
俺は自分の欲望を果たすために一護と戦うことを選んだ。ならばその願いが叶う以上、全力を賭してあいつと戦う。ただそれだけだ。
別に勝機がない戦いなわけじゃない。
一護というSAO最強のプレイヤーが相手であっても、今のALOが舞台であれば、勝ち目はある。なにせ「遊びではなくても、これは
あの鋼鉄の城や世界樹の頂上のように、ゲームがゲームじゃなくなった空間とは違う。破ってはいけない制約があり、意志の力を以ってしても破れない、いや破ってはいけない「縛り」が存在するのだ。将棋で駒の動きが決まっているように、王手から逃れられなければ負けるように、平等なルールの下でいかにうまく戦うかが勝負の行方を左右する。
であれば、やりようはいくらでもある。
一対一の戦いで、単純な戦闘力の強弱は確かに重要だ。しかし、それは勝利の十分条件であって絶対条件じゃない。戦闘力で劣っていても戦いを制する方法はいくらでもある。飛車角金銀落ちでも、妙手があれば王手はかけられるのだ。
「……ム、敵だな」
チャドさんがつぶやく。前を見ると、鉈を持った亜人型モンスターの群れがこっちに向かってきていた。数は六。秩序はなく、プレイヤーのHPを削りきるAIに従って武器を振りかざす、プログラムの塊。
「チャドさん、下がっててくれ。ここは俺一人でいい」
「……おいキリト」
「大丈夫。無謀なことはしないから。それと、今からやることは他の人にはバラさないでくれよな。特に、一護には」
「……そうか。分かった」
「さんきゅ」
チャドさんは構えていた両の拳を下ろし、俺に先を譲る。それに礼を言いつつ、俺は背中の剣を抜いて敵集団と対峙する。
一護と戦うためにこの仮想の身体で戦うために、俺はいくつかのスキルを磨いてきた。その肝となるのがこの片手用直剣《ユナイティウォークス》の武器解放だ。
他の剣の能力と比べてトリッキーすぎるために使いこなすのには二刀流以上に苦労したのだが、その分非常に強力だ。なにせ、この剣の武器解放は……、
「覆せ……
――システム的に回避不可能な能力だから。
感想やご指摘等頂けますと、筆者が欣喜雀躍狂喜乱舞致します。
非ログインユーザー様も大歓迎です。
いつのまにか織姫相手に敬語が外れた詩乃と、さらっとチャドと親交を深めるキリトでした。
次回はトーナメント準決勝、第一試合開始です。
……その前に、二話続けて放置を食らったリーナさんが一護の元に襲来します。