女装提督が着任しました。   作:蒼樹物書

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【10】

 三人の提督と、二人の秘書艦の見送りを受けた後。私達、対潜哨戒部隊は大海原へと進みだした。今回の面子は私、北上と旗艦の神通、夕張、朝潮、夕立、祥鳳。

 比較的新顔である朝潮を除き、多かれ少なかれ大規模作戦は経験済みだ。特に貴重な重雷装巡洋艦たる私はこれまでに何度も参加している。それも夜戦での大火力を買われ、深海棲艦の支配海域深部がほとんどだ。

 正直言って、今回のような露払いは役不足だ。姫級が出るってなら兎も角。

 

 深海棲艦の研究は未だ進んでいない。だがその形態、性能毎に等級が定められている。駆逐艦、軽巡洋艦、重巡洋艦エトセトラエトセトラ。

 さらにエリート級、フラッグシップ級などにも分けられている。

 そんな中、特別に高性能な姫級と鬼級。現在確認されている深海棲艦の中でも最高級に高いその性能。奴らは大体その支配海域の最深部にいる。

 深海棲艦は陸地に遠い程、強力な艦が配置される傾向があるそうだ。一部例外として孤島に根を張る基地型と呼ばれる深海棲艦もいるにはいるが。

 佐世保に繋がるこの補給線、そんな前線である海域に出る可能性は低い。

 ならば、気楽な仕事になるだろう。

 

 「ねーねー、『鬼』」

 「なんですか『蛇』」

 

 全くこの旗艦殿は。

 この前演習用の魚雷を、たった四十発程度叩き込んだことを未だ根に持っているらしい。不機嫌そうな神通を無視して言葉を続ける。

 

 「ちょっと悩みがあってさー。聞いてくれる?」

 「あの……戦闘中ですが」

 

 潜水艦カ級、それもエリート級らしいそいつに爆雷を叩き込む。

 応える神通も、同じくエリート級の雷撃を流れるように回避して爆雷で撃沈する。

 お、朝潮も一隻を沈めたようだ。後で褒めてやろう。

 

 「なーんか提督から避けられてるんだよねー」

 

 抗議する真面目な旗艦殿の言葉を無視して続ける。

 戦闘終了、揚陸予定地点までの掃海を継続する。

 

 「どうせ何かやらかしたんでしょう?」

 

 今度は潜水艦ヨ級フラッグシップ、同じくヨ級エリート、カ級エリートが二隻。

 祥鳳の索敵は的確だ。私と神通、そして夕張と朝潮の爆雷で沈んでいく。夕立仕事しなよ。

 

 「いやー、心当たりがないんだよねー。そこでさー」

 「手助けしろ、ですか。知りません」

 

 お次は水上艦隊。

 軽巡と駆逐、そして輸送艦を中心とした編成から輸送艦隊とその護衛だろう。その姿に見えない尻尾を振り回しながら、夕立が全速で突っ込んでいきその砲を乱射する。

 全弾命中、当たった奴は全て沈んでいく。

 祥鳳の放った艦載機が慌てて追いかけるように残存する敵艦を攻撃、殲滅する。お前のような駆逐艦がいるか。

 私の得意とする遠距離からの先制雷撃は出番なし。

 はぁ。

 あの人の人選は的確だが、ちょっと全力過ぎる。新人の訓練の為、朝潮を除く五人は出撃を控えているというのに。まぁ、だからこそこうして適当に駄弁っていられるのだが。

 

 「そこでこいつですよ」

 「なッ……!」

 

 私が懐から出した一枚の写真。旗艦、『鬼』の異名を持つ歴戦の神通が驚愕する。

 

 「那珂ちゃんの、寝顔――ッ!」

 「いえーす」

 

 那珂ちゃん。

 旗艦殿の姉妹艦、その三番艦である軽巡洋艦那珂。艦隊のアイドルを自称し、手製のCD販売やライブに熱を上げるちょっと変わった娘。今は横須賀鎮守府に在籍しており、姉である川内、そして神通が溺愛していることは周知の事実だ。

 新曲のCDなどのグッズを真っ先に送って貰っていても、こいつは簡単に手が入らないだろう。持つべきものは私の為なら何でもしてくれる姉妹艦だ。私がお願いすれば何でもしてくれる彼女。横須賀の提督にもお熱なようだが、それでも同じ貴重な重雷装艦仲間。

 こうして私の取引材料を簡単に用意してくれる。

 

 「こいつは手付金としてあげる。もう一枚、着替え中のが……」

 「契約成立です」

 

 即答か。大井っちも大概だが、姉妹艦好き過ぎだろう。川内の奴も同様だろうと思いながら戦慄する。

 『鬼』が聞いて呆れる。

 

 「――索敵成功。こ、この反応は……姫級ですッ!!」

 

 声でかい。そんな祥鳳の悲鳴のような報告に耳を塞ぐ。

 うひー、出ちゃったか。『鬼』の表情が変わる。

 敵編成は潜水艦四、駆逐二。姫級は潜水艦だ。

 さあて、ギッタギタにしてあげましょうかね!

 

 

 佐世保鎮守府、作戦室。

 私の呉と同じく本館の地下に設置されたそこには、出撃する艦隊の見送りを終えた三人の提督と二人の秘書艦。提督が座る為の一番高級そうな椅子に置いたお尻がむず痒い。先任の鮫島少佐と伊東中佐は臨時に置かれた安っぽい椅子の上。

 漣は出撃している艦隊との連絡する為の通信機器、その操作席。叢雲に至っては中佐の傍に立ったままだ。

 本来指揮官と、その秘書艦または通信機器を担当する艦娘が利用する作戦室は五人もの人数により少し手狭な印象だ。

 今回の作戦を主導する伊東少佐によって押し付けられた指揮官用の椅子。その上、膝に置いたお弁当に箸をつける。

 お弁当のメインは薄切りの牛肉に醤油を基調としたソース、そして檸檬の爽やかな味と香り。雨の多く夏場は気温の高い佐世保にぴったりの名物だ。それが丼の如く白飯の上にびっしりと乗せられており、間には甘い玉葱が挟まれている。

 おいひい。佐世保ならばバーガーやちゃんぽんもいいな、と思っていた所に思わぬ隠し玉だ。鮫島中佐、ちまちま食べてて小動物っぽいなぁ。

 私の艦隊は確保すべき揚陸地点、その付近に現れた敵潜水艦隊との接触予定地点への到達までまだ少し時間がある。

 

 「そういえば横須賀も指揮官代理を置かれているんですよね」

 「えぇ、大淀に頼んだわ。艦隊指揮に一番慣れているもの」

 「うちは長門にお願いしました。大丈夫かなぁ……」

 

 今回のような大規模作戦等、提督が自身の鎮守府を離れる必要がある場合は艦娘にその代理を頼む。戦いが本分である艦娘は書類仕事などが苦手な場合が多い。艦娘の運用に当たって、指揮する人材の不足から一時は艦娘に艦娘を指揮させることも提案が出たそうだが結局は掻き消えた。

 人ならざる者、人を超越する者に指揮権を完全に預けることを忌避したらしい。そういった事情から長期となれば難しいが、短期ならば比較的指揮官向きの艦娘に鎮守府を預けることは許されている。

 

 「大淀は優秀よー。大抵の書類は片付けてくれるし、働き者だから」

 

 彼女は事務的な仕事が嫌いだ。優秀な彼女のことだ、やろうと思えばやれるはずなのに。訓練学校時代、同期のお兄様や山科中佐に報告書等の書類を押し付けていたことを私は知っている。

 そんな彼女の代理をさせられている大淀は今頃大変苦労しているだろう、同情する。うちは出来る限りの準備はしておいたので、大丈夫だろうと思うが心配だなぁ……。

 あ、鮫島中佐喉詰まらせてお茶飲んでる。静かながらも落ち着きのない仕草は、栗色の髪も相まって何となくハムスターっぽい。

 

 「もぐもぐ……貴女の艦隊、良く練られていたわね」

 「んぐっ……はい、私なりに最適な編成をさせていただきました」

 

 今回の条件に見合う艦娘の選抜。対潜能力、索敵能力、そして広大な海域を掃海する為の速力。それらを全て適える者を選び艦隊へ編成する。

 そしてその装備選択、想定される状況設定で行われる訓練。更には新顔に実戦経験を積ませることも考慮に入れる。

 戦いとは始まるまでに積んだことの帰結だと言う。そこに至るまで何をするか。誰の言葉だったかは思い出せないが、こうして作戦室で遠く離れた艦娘を指揮する以上準備の重要さはその重みを増す。

 

 艦娘登場、そしてその運用黎明期は指揮官の乗艦する艦艇から、艦娘が出撃するという空母とその艦載機のような運用方法が採られたらしい。しかし、艦娘が護衛しながらも脆弱な人の艦艇は深海棲艦の攻撃に耐えられない。

 そんな戦訓から現在のように鎮守府の作戦室から通信によって艦娘を指揮する形が採られている。貴重な指揮官の損耗を防げることが最大の利点ではあるが、一秒毎に激変してしまう戦況に対応出来るかは疑問だ。

 

 とはいえ、旗艦を任せた神通さんは水雷戦隊の指揮をさせれば並ぶ者はいない。その脇を固める熟練の北上さん、夕張さん、祥鳳さん。

 夕立は直情的な所があるし、朝潮は実戦経験が少ないが二人は呉の駆逐艦として優秀な成績を誇っている。大丈夫、大丈夫だ。こうして大先輩である伊東中佐も私の編成を認めてくれている。

 

 「有馬君も優秀な妹を持てて幸せねー」

 「……弟です」

 

 有馬君とは私のお兄様を指しているのだろう。うちに妹はいません。

 そして鮫島中佐、密かに笑ったのを私は見逃してませんよ。

 

 「男だとは思えないのは確かね。どうなってんのこの胸」

 

 今、この場には私の事情を知っている者しかいない。話の種にされることは予想していたが……あぁ、やめて叢雲、突かないで。

 

 「えーと、その、かさ増ししてます。髪はウィッグで……自前のが伸びれば外せるんですけどね」

 

 もう慣れたが、常に装着しなければならないパッドとウィッグ。どちらも私の給金数ヶ月分が吹っ飛ぶお値段の特注品らしい。叢雲ー、揉むのやめて下さい。

 

 「艦隊が敵潜水艦と接触、殲滅しました……おいエロ狐、うちのご主人様にセクハラするのをやめてもらおうか」

 「何よ、減るもんじゃなし」

 「損傷は?」

 

 即座に頭を切り替える。損傷は皆無。では進撃を、と指示する。続く接敵、そして殲滅の報告。進撃を続けさせる。揚陸予定地点はもうすぐだ。こちらの損傷は未だなし。

 順調だ。哨戒部隊がこじ開けた補給線は佐世保の艦隊が保持してくれる。これなら。

 完全勝利での作戦完了も見えてくる。

 

 「――っ、敵潜水艦隊に姫級の存在を確認したそうです!」

 

 しかし、実戦はそう甘くはなかった。連勝に緩んだ作戦室の空気が一気に引き締まる。

 姫級……鬼級と共に他の深海棲艦と桁違いの性能を持つ高性能艦をそう呼ぶ。危険な相手だ。しかし、私達の任務が敵潜水艦の排除である以上避けては通れない。

 

 「……艦隊は総力を以って姫及び敵潜水艦を撃滅。そして、必ず帰ってきて下さい」

 

 お兄様……彼女達の勝利と、その帰還を一緒に祈ってください。




フラグは即座に回収されるE-1戦。
鮫島中佐は地味です。驚異の台詞なし。
ただお肉の貴重な中、お弁当は奮発してくれた模様。
戦闘周りはさくっと流していきます。
次話で大規模作戦編終了予定。

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