女装提督が着任しました。   作:蒼樹物書

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【11】

 戦果報告。

 

 対潜哨戒部隊。

 

 旗艦神通、中破。

 北上、損傷無し。

 夕張、中破。

 朝潮、大破。

 夕立、大破。

 祥鳳、大破。

 

 深海東洋艦隊。

 

 潜水ヨ級フラッグシップ、撃沈。

 潜水ヨ級エリート、撃沈。

 潜水カ級エリート、撃沈。

 駆逐ロ級後型二隻、撃沈。

 ……旗艦潜水夏姫フラッグシップ、撃沈。

 

 結果、対潜哨戒部隊勝利。

 戦闘終了。CONGRATULATIONS!

 

 

 「では……乾杯っ!」

 

 私の号令直後、百近い艦娘達による乾杯の合唱が続く。

 戦勝祝賀会。呉鎮守府の食堂で行われるそれは熱気に満ちていた。

 今日の主役は大規模作戦に参加、そして見事完遂した艦娘達だ。そう、私の艦隊は姫級を撃沈して揚陸地点確保に成功した。大破艦多数の厳しい戦いだったが、南西海域に跋扈する敵潜水艦を排除。

 轟沈者、無し。

 私にとって初めての実戦は文句なしの大戦果だ。作戦完了後、補給と入渠が終わり次第佐世保を追い出されるように呉へ戻されたのは、少し気になるところだったが。

 揚陸作戦、そして本命たるZ部隊撃破を担う佐世保と横須賀の実力を疑う必要はない。必ず、佐世保と横須賀の提督たる二人は作戦を完遂してくれるだろう。今はこの騒乱の中、作戦に尽力してくれた艦娘達を労うとしよう。

 

 「お疲れ様でしたっ」

 

 労うは宴席の中央、出撃した六人の艦娘達。今回は私の就任祝いと違い、全員に酒が許されている。鎮守府防衛の為、不運にも見張りの任についてくれている艦娘達はちゃんと後で労わなければならないな、と思いながら。

 私も乾杯と共に干した麦酒が入っていたグラスを片手に、瓶を傾け本日の主役達に酌をしていく。

 

 「ご返杯~。結構イける口?」

 「えっと……はい。嫌いじゃないです」

 

 傍にあった麦酒の瓶を傾け、私のグラスを満たしてくれる北上さんに応える。実を言うと酒は大好きだ。味の良し悪しに詳しくはなくとも、酩酊の状態は楽しく思う。

 酒は何もかも忘れさせてくれる。

 ちなみに飲酒について、年齢に依る法的な規制はない。誰に言い訳をしているかは分からないが、今はこの騒乱と酒精の後押しに身を任せる。

 北上さんの傍ら、神通さんが料理を取り分けて私に皿を差し出してくれる。船盛りの刺身や手間のかかった惣菜、ご馳走を用意してくれた鳳翔さんを始め炊事担当の艦娘達に感謝。おいしいなぁ。

 新鮮な海鮮、味わい深い煮物や焼き物。お酒が進んでしまう。なぜか、距離を置くようになってしまった北上さんとも何一つ気にせず話せる。

 

 「呑みねぃ呑みねぃ。望ちゃんの初陣記念も兼ねてるんだからさー」

 「はぁい……んくっ、ん……ぷはぁ」

 「ご馳走様が、聞こえないー♪」

 

 干したグラスが、すぐに満たさせる。あぁ、気持ちいい。

 炭酸の爽快感、麦芽の深い味わい。私は、ゆっくりとその自制心を手放していった。

 

 

 戦勝会の騒乱が一段落した後。

 酩酊に身を任せた私は未だ騒がしい宴会を抜けて、大浴場に足を向けていた。

 あぁ、月が綺麗だな、と思いながら暖簾を潜る。この時間、入渠する艦はなく就寝時間は疾うに過ぎている。ならば、問題ないはず。

 以前より画策してきた大浴場への入浴。あまりにも魅力的で、完璧なお風呂への入浴は酒精の後押しを得てついに決行へと達した。

 入渠施設がある大浴場は二十四時間解放されている。普段は昼過ぎに清掃が行われるのだが、念のため清掃中の札を入り口にかけておく。

 靴を脱ぎ、脱衣所へ。衣服を籠に放り込み、タオル一枚だけを持って浴場へ。

 一応、パッドは隠すように衣服の中へ。ウィッグは被ったままだ。最後の理性で、今まで考えていた大浴場を利用する為の準備を行う。

 そうして。

 

 「嗚呼……」

 

 思わず感嘆が漏れる。広大な浴場、それを埋める湯気。

 性別を偽り始めてから、初めての大浴場。

 呉鎮守府に着任し、早一ヶ月。ついに、ついに、この理想的なお風呂へと足を浸ける。

 

 「んぅ……っ」

 

 思ったより熱い。鉄則の手順通り、掛け湯に濡れた足先でも感じる熱さ。

 酔いが急激に引いていく。

 両脚を湯に浸けた。じんわりと熱が両脚から昇っていく。

 

 「んっ……はぁぁあぁぁぁぁ……」

 

 熱が昇っていくのを迎えるように、その身を湯へ沈めていく。思わず声が漏れる。身を包み込んでくれる熱に全身の力が抜けていく。

 最高だ。心が洗われるようだ。

 

 ――ガラッ。

 

 背後から響く音に、緩んだ心と身体が凍りつく。

 えっ、鍵……かけてないぃぃいいいいッ!?

 反射的に両膝を胸元に押し付ける。ぎぎぎ、と油の差さっていない機械のように、乱入者へと首ごと視線を向ける。幸い、彼女はタオルで前を隠していてくれていた。

 

 「ありゃま。提督じゃーん、珍しい」

 

 

 助けてお兄様。

 お酒の勢いとはいえ欲望に負けた愚かな私をお助け下さい。

 

 「い~い湯だなぁ、っと」

 

 隣で湯を楽しむ乱入者、北上さんは上機嫌だ。とりあえず、一目見てバレてはいないらしい。両脚の間に隠した『僕』の相棒は見られていないようだ。

 しかし、胸の膨らみは明らかに不足してしまっている。湯気で輪郭は曖昧なはずだが……。

 

 「……やっぱ盛ってたか」

 「ひぅ!?」

 

 私の心臓を突き刺すような北上さんの、確信したような言葉。

 やばいやばいやばい。両腕に力が入り、前を隠すように背を丸める。

 

 「あはは、前触れた時もちょっと違和感あったからさー。大丈夫、秘密にしといてあげるよ」

 

 前? 叢雲以外に触れられたことはない筈……いや、私のパッドが乙女の見栄だと勘違いしてくれるなら。北上さんの方を見ないようにしながら、慌てて弁明する。

 

 「あ、ありがとうございますっ……その、小さいのが恥ずかしくて……」

 「私は小さいのも好きだよ?」

 

 は?

 え、えっ、ちょっと、距離が近くないか。

 私にしなだれかかるように、北上さんの両手が肩に触れる。ふにゅんって。ふにゅんって当たってる!あわわわわ!!

 

 「ぇ、あの、北上さん……っ」

 「……提督はさ、嫌い?」

 

 錯乱する私に、彼女は静かに問いかける。胸の大小の話ではない。

 正式着任初日。あの日以来、彼女を避けてしまっている。

 違う。彼女が嫌いなわけではない。拒絶してしまったのは、私の問題からだ。

 記憶の奥底に封印した物を彼女が知らず、掘り起こしてしまっただけだ。その存在を知らずに触れた北上さんに非はない。

 

 「あは。冗談……ごめんね」

 「あのっ」

 

 北上さんは、私から離れて立ち上がる。タオルを手に小さく、必死に。冗談っぽく謝罪しながら背を向ける。

 私はようやく顔を上げて呼び止める。見ちゃいけない、と分かっていながらも今は彼女の目を見て言いたかった。

 

 「……その、北上さんのこと、大好きですよ」

 「――ッ」

 

 しかし直後、彼女は勢いよく顔を背けてしまった。

 あれ、実は嫌われてる?

 

 「お、おやすみ!提督……あんまりそういうこと、軽く言っちゃダメだよ」

 「えっと、はい……?おやすみなさい」

 

 先に言ったのは北上さんじゃないか。私だって恥ずかしかったのに。

 湯を波立たせながら脱衣所へと急ぐ北上さんから、再び目を逸らす。

 一瞬だけ見えてしまった彼女の背中、その下も。綺麗だったなぁ……。

 ――まだ彼女が脱衣所にいるのとは別の理由で、お風呂から出られなくなる。

 のぼせないよう気をつけます、お兄様。

 後、愚かさから乙女の裸体を見てしまった私に天罰を与えて下さい、お願いします。




お酒の勢いって怖いね編。
ちなみに北上さん乱入の際、浴場の外では神通さんが見張りしてます。
基本今回は日常物な為戦闘描写はあまり書かない方向にしているのですが、次のくらいはちゃんと書こうかなぁと思ったり……イチャラブ特化のがいいのかなぁ。
そして作品世界中に飲酒の制限はありません。ないんだってば。

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