さてどうしよう。
執務室で頭を悩ませる。横須賀の提督とその艦隊は本日昼頃到着予定、準備が完了次第の演習開始となる。時間はあまりない。編成と装備を早急に、慎重に決めなければ。
戦うのは百戦錬磨の横須賀、姫級を何隻も沈めてきた指輪持ち達だ。指輪持ち、ケッコンカッコカリと呼ばれる一種の改修によって性能限界を突破させる指輪型艤装を持つ艦娘。即ちその力は並の艦娘を凌駕する。そんな高錬度、高性能な艦娘が六人。
対してこちらの指輪持ちは漣一人。北上さんや神通さんも限界近い錬度を誇るが、戦力差は明白。少なくとも正面からは不利だ。
それに、横須賀にはあの艦娘達がいる。
大規模作戦ということなら必ず連れてきているはずだ。
大和型戦艦一番艦、大和とその二番艦、武蔵。最も有名な艦娘と言っていい。最強の戦艦を挙げるとするならば、真っ先に名前が挙がる。火力、装甲は他の戦艦と一線を画する性能。
そして最強の戦艦に加えて最強の空母。一航戦、赤城と加賀。
彼女達も横須賀所属。今回の大規模作戦、Z部隊撃破は空母機動部隊で成されたそうだ。ならば、彼女達もいるはず。
大和型二人に、一航戦二人。それも全員指輪持ち。
残り二人がどう来るか分からないが、少なくとも先の四人に見劣りしない艦娘が編成されるだろう。
頭を抱える。勝てる道筋が全く見えない。
「お悩みのようですねー、ご主人様」
「……漣は横須賀との演習、参加したことあるんだよね?」
情報が足りない。最古参である漣は他の鎮守府との演習を経験しているはずだ。
「はい。今まで呉は横須賀に全勝してますね」
は?
そんな莫迦な、戦力差は明白なはずだ。
「母は強し、ということですかね」
「ど、どどどどうやって勝ってきたの!?」
食いつく様に漣へ尋ねる。
横須賀の伊東道子大佐の母、呉鎮守府前任の伊東紗代中将。母子揃ってその指揮能力が秀でているとは知っているが、今と以前で呉の戦力はそう変わっていないはずだ。
僅かな光明と同時に、それが私にも成せるかという重圧に肩が重くなる。
「んー、秘密です。ご主人様のやり方でいきましょう」
ばっさり。だがその判断も間違ってはいないとは思う。
一つ、前任のやり方を真似し敗北した場合。
常に付きまとう前任との比較に晒される立場だ、その可能性が排除し切れない以上リスクを背負うことになる。
もう一つ、私の経験を積ませる意味合いもあるのだろう。未だ実戦は一度切り、他の鎮守府との演習は今回初めてとなる。
前任に習うのは次以降でもいいはずだ。まずは自身の力のみで戦い、その実力を自覚する。
戦う以上は勝ちにいく。だが勝つために大事な物を忘れることは愚かなことだ。
再び、頭を悩ませる。相手は大型艦主体の高錬度で連携も極めた艦隊。
まともに六対六をやれば勝ち目はない。ならば、と手元の紙にペンを走らせ編成を決める。
これしかないと思えるが、博打になるなぁ。
◇
兄弟って、やっぱり似るものねぇ。
呉鎮守府の編成を確認したとき、感想の第一はそれだった。
唯一の指輪持ち、漣を旗艦とし長門、陸奥、北上、瑞鶴、伊8。
こちらの編成、旗艦叢雲、大和、武蔵、赤城、加賀、五十鈴。
互いに相手の編成が見えない中で組まれた艦隊による演習。ならば、どんな艦隊を組んできても対応し得る編成を考える。
私が大規模作戦に連れてきた艦娘を想定し、手持ちで成しうる最大戦力。
こちらは五十鈴を編成したことで対策済みだが、潜水艦を編成してくる嫌らしさも。彼の兄、有馬君と演習している気にさせてくれる。
「よ、よろしくお願いしますっ」
「はーい、よろしくねー」
緊張からか、鯱ばった挨拶に適当に返答する。
演習開始直前。私達は演習場を一望する高台の上。
こんなに可愛げ気のある新人の癖に。有馬君、ほんとにいい妹を持ったわぁ。あ、弟だった。
そんな愛らしい姿の彼と共に、演習に参加する艦隊を望遠鏡越しに見守る。編成さえ済んでしまえば後は観戦するのみ。対深海棲艦の実戦と同じく、前線の細やかな指揮はそれぞれの旗艦に任される。
お母様の呉艦隊には負けっぱなしだった。後輩の、そして彼の弟に負ける訳にはいかない。百戦錬磨、横須賀を預かる以上更なる黒星は要らない。
さぁ、
◇
演習開始のサイレンが鳴り響く。
呉の艦隊が事前の作戦に沿って、海上を走り始める。私の執った作戦は各自が指定した相手を抑え、敵旗艦の大破判定を勝ち取る事。
演習の勝敗は旗艦の状態、損傷の多い艦艇数の順に判定される。こちらに大破多数であっても敵旗艦への大破判定を取れば勝つ見込みはある。
戦力で劣る以上、それしか選び得る道はない。
とはいえ、それは向こうも理解し対処してくるはずだ。相手は旗艦に最強を据え、何が何でも守りに入る。その旗艦が駆逐艦である叢雲であったことは意外だが、やることに変わりはない。
こちらも未知数でありながら唯一の指輪持ちである駆逐艦の漣を旗艦に据えているから、人のことは言えないが。
戦闘開始、敵空母である一航戦との空の支配を巡る航空戦が始まる。
「艦首風上ッ!一航戦にだけは負けられない!発艦、始め!!」
「五航戦……片割れのみとは、舐められたものね」
「第一次攻撃隊、発艦して下さい!」
唯一編成した航空戦力。瑞鶴さんからの艦載機が放たれる。それに呼応し、最強たる一航戦の二人から放たれる膨大な艦載機。空を押さえられては火力に勝る敵艦隊に対抗する術はない。
だから。
「第二次攻撃隊、発艦準備中止!」
「そんな……鎧袖一触のはずなのに……!」
一航戦の表情が変わる。
二人の一航戦による第一次攻撃隊は、たった一人の放った航空隊により蹂躙される。
超長距離からの航空隊による先制攻撃。
それを捨て、瑞鶴さんには保有する最高性能の艦戦のみを持たせてある。
相手は姫級を初めとした高耐久の深海棲艦に対抗する為、艦攻、艦爆を出来得る限り装備しているはず。
その読み通りだ。高い火力を保持する為に重い爆弾や魚雷を腹に抱えた艦攻や艦爆は、対航空機に特化した快速の艦戦にとっては的でしかない。
だが、流石に航空戦は優勢止まり。
限界までに数を減らしているとは言え、二人の放った護衛の艦戦により制空確保までは至らない。それに、第二次攻撃隊は編成を変え艦戦を増して艦攻と艦爆を守りに入るはずだ。
慢心を突いた不意打ちは一度しか通用しない。
「ほいや!」
「四十門の酸素魚雷は、伊達じゃないからねっ、と!」
「五十鈴には丸見えよ!」
続いて長距離からの潜水艦と重雷装艦による先制雷撃。
それに対し対潜能力に秀でた敵軽巡洋艦による対潜爆雷攻撃。
ほぼ同時に放たれた双方の攻撃。
爆雷攻撃はこちらの潜水艦、伊8を確実に捕らえ大破判定を勝ち取る。
しかしその直前に放った二人による魚雷は敵旗艦、叢雲へと狙い撃たれている。
「きゃあっ……!」
浅い。せいぜいが小破判定。
大量の魚雷相手にこの回避、防御性能か。最高錬度のケッコンカッコカリ艦、その性能に内心舌打ちする。
本来なら艦戦満載の瑞鶴さんにより制空確保、一航戦二人相手に稼いだ手数。そうして得た五対四の状況、一航戦が立て直すまでの間に敵旗艦を二人掛かりで落とす。
そのはずだったのに。
これで、数の優位によって戦力差を埋める私の作戦はご破算だ。
格上、大和型二人相手に長門さんと陸奥さんは砲撃戦でよく押さえてくれてはいる。
北上さんも五十鈴を抑えるのに手一杯。
これでは残る旗艦、漣が叢雲に勝利してくれることを祈るしかなくなる。
「今度こそ、勝たせてもらうわ!このクソ狸!」
「姑相手に口が悪いですよファッキンフォックス!」
うわぁ。
何あれ。
駆逐艦のやる機動じゃない。
それぞれの最古参、そして錬度極限に達した二人の戦闘は超上のそれだった。
だが先制爆雷に身を晒しながらも伊8が放った魚雷、そして四十門もの北上さんの魚雷が与えた、叢雲の僅かな損傷。こちらの漣は無傷での対峙だ。
これなら。
「……はい、お疲れー」
「えっ?」
隣の伊東中佐の声。それに困惑の声を上げ注意を取られそうになりながらも、結末を見守る。
二人の駆逐艦があっという間にその砲を撃ち切る。
そして互いに水雷戦。
鋭い軌道で放たれた魚雷は、それぞれ同時に突き刺さる。
損傷判定、叢雲、中破。
損傷判定、漣、大波。
お兄様、私、負けちゃいました……。
VS横須賀鎮守府編。
設定当初カッコカリ艦は初期艦組のみの予定で、ギャグ補正がかかった強さの予定でしたがお話の都合でかなり抑えています。ネタ帖のスーパーサザナミキック、使いたかったなぁ。
カッコカリ六隻に対し潜水艦交じり、艦戦増し増し正規空母に戦艦二隻という本気編成。
これでも勝てない横須賀にどうやって勝ってきた前任。
ご感想お待ちしております。