女装提督が着任しました。   作:蒼樹物書

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【15】

 「汚い。流石叢雲汚い」

 「人聞きが悪いわよ漣、これが実力差って奴よ」

 「あー!くーやーしーいー!改二まだー!?」

 

 演習終了後、参加した艦娘達は港へ上がり二人の提督の出迎えを受ける。

 漣が負け惜しみを喚き散らしている。

 改二。

 指輪型艤装により限界を超えた性能を持つ漣と叢雲、超上の二人の勝敗を決したのはその有無だった。どの艦娘も得ることが出来る改造、その更に上。

 改二への改造は研究段階だ。全ての艦娘に与えられているものではない。

 ほんの僅かな、差だったと思いたい。漣が改二にあり、同等の性能で対峙。小破であった叢雲に大破判定を勝ち取っていたなら。

 遼艦の損傷状態が不利であっても勝ちを得ていたはず。

 だが現状、性能差のある旗艦同士の一騎討ちに持ち込まれていた時点で私の負けだ。航空戦、超長距離からの先制攻撃を捨ててまで稼いだ手数によりこちらが有利な数で行う各個撃破。それは叢雲の性能を甘く見積もってしまった時点で叶わなかった。

 私の、負けだ。

 改二が欲しいと喚く漣の頭を慰めるように撫でる。それがあったなら、というのは負け惜しみと言うべきだろう。

 

 「ひゃっほーい!勝った勝ったー!ねぇ今どんな気持ち!?ねぇ今どんな気持ち!?」

 「……はい、悔しいです」

 

 踊るように私の周囲を回りながら煽る伊東中佐。子供か。敗軍の将たる私はその暴虐に耐えるしかない。

 次は、勝とう。演習ならば次がある。

 少なくとも、叢雲の改二たる性能に頼らざるを得ない状況を引き出しはしたのだ。

 私は煽り続ける中佐の言葉に耐えながら、次こそはと誓った。

 

 

 全くもう、出来た妹だわよ、有馬君。

 あ、弟か。

 何度目になるか、お気に入りの冗談を心の中で呟く。

 横須賀への帰路を目指す軍用鉄道。夜闇でまるで見えない車窓からの景色を眺めながら、行方不明である同期の彼へ悪態をつく。

 正直、危なかった。

 お母様の後任、新人と侮り少しでも手の抜いた編成であれば負けていたのはこちらだ。まだまだねぇ、私も。そう思いながら傍らで眠る叢雲の髪を撫でる。

 他の艦娘達は海路で横須賀を目指している。本部も慎重なことだ。

 佐世保のあの事件があって以降、本部は呉以外の艦娘と男性の接触を出来る限り避けさせている。

 唯一の例外を除いて。

 ケッコンカッコカリ。指輪型艤装の装着によって成される限界突破の為の改装。

 それは、艦娘の強化ともう一つの効果をもたらす。

 私の指揮下にある艦娘は全てそれを成しているが、それでも彼を始めとする男性と接触する数は限定したいらしい。まぁ、あんな事件があった後では慎重にもなるだろう。

 効果を検証するサンプル数は出来る限り少なくし、経過を観察しながら増やしていく心算ということか。

 現状、ケッコンカッコカリ艦と彼の接触は問題ないようだ。少なくとも隣で眠る叢雲は何時も通りだ。女装した彼に興味は持ってもそれ以上の感情は持っていなかった。

 呉鎮守府の艦娘達がどういう状態かは分からないが……実験が継続していることから、未だ大きな問題はないらしい。

 

 「ねーねー、礼子。今回の、手当て出るのよねぇ?」

 「知らん。本部に聞け」

 

 私と叢雲の前、その席で背中を向けたまま応える私の同期、本部付きである山科中佐。

 礼子ってば相変わらず冷たいんだから。佐世保まで足を伸ばした大規模作戦の直後、そのまま呉の演習相手を務めすぐに横須賀へ帰らなければならない私をもう少し甘やかして欲しい。私だって帰ったら大和達を目一杯労ってあげないといけないのに。

 密かに私に同行し、そして本部で報告を行うため同乗する彼女も疲れてはいるのだろう。ただ、佐世保に行って以降少しその生来の堅さを強くしている気がする。何かあったのだろうか。

 

 「私もあんたも、ついでに望ちゃんもまだまだ苦労が続きそうねぇ……」

 「今回の結果から本部は呉の艦娘錬度向上を加速させるだろうしな」

 

 錬度向上。つまり演習や実戦を増やす。そして、その果てを目指させる。

 鎮守府の新たなる設立は急務だ。特に舞鶴は新たな提督の着任を今か今かと待ちわびている。それを阻む問題解決の為の方法……気長な話とは思うけれど。

 あくまで数多に計画された内の一つではあっても、こうして私や礼子が走り回されていることから本命に近いのだろう。どれもこれもあいつのせいだ。あの事件を起こしたあいつが悪い。そう理不尽に断じてさっさと寝よう。疲れた。

 

 「あー、やだやだ。帰って大淀にセクハラしたい」

 「寝言は寝て言え阿呆」

 

 

 「うー……」

 

 次こそは、と思いつつも悔しいものは悔しい。格上の戦力、それも指揮するのは艦娘運用の大先輩。勝てると思っていたわけじゃない。だが、負けるつもりもなかった。

 ぐい呑みの中身を一気に乾す。

 即座に右から杯が満たされる。

 

 「いい呑みっぷりだねぇ」

 「おい北上、もうこれくらいで」

 「よってません~。んくっ……ぷはぁ」

 

 右、北上さんの煽りを制止する左、長門さん。それを不要とばかりに杯を傾ける。

 ここは食堂の一角、夕食の時間を過ぎて居るのは私と、その両脇に座る二人。

 

 「これで看板です。お水も置いておきますので、飲んでくださいね」

 

 そして非情な宣言と共に徳利と冷えた水の入ったコップを置く鳳翔さん。

 通常、居酒屋鳳翔。艦娘達の福利厚生の一環として、お酒と肴の提供を夕食後の時間限定で行っている。

 お酒を好む艦娘は多い。横須賀などでも似たようなことをしているらしい。それに加え、あっちは間宮さんが甘味屋のようなこともしているそうだ。羨ましい。

 とは言え、鳳翔さんの肴は絶品だ。

 小鉢に入った烏賊の塩辛、少なくなった残りを口に運んでその濃厚な肝の味と塩気をお酒で流し込む。

 

 「うぅぅぅ……二人とも、ごめんなさいぃ……」

 「またそれー?」

 「誰も提督の指揮のせいとは言わないさ。今の全力では届かなかった、それだけだ」

 

 もう何度目になるかもわからない、演習に参加した艦娘への謝罪。

 今まで勝ち続けてきた相手、その相手に敗北した原因は明白だ。だというのに慰めてくれる長門さんの言葉に泣きそうになる。

 

 「……っ、提督!?」

 「泣ーかしたー泣ーかしたー。なーがもんが、泣ーかしたー」

 

 というか泣いた。

 感情のタガは既にお酒で彼方まで吹っ飛んでいたらしい。それを隠すように、卓へ置いた両腕の上へ顔を乗せる。濡れる袖が温かい。その熱の中、私は一気に意識を手放した。

 

 

 「はぁ……」

 

 泣かせてしまった。

 暗い廊下を歩きながら、溜息が零れる。不向きなことだと自覚して、言葉は精一杯選んだつもりだったが。

 その言葉に嘘は何一つない。

 確かに前任の指揮の下、私達は勝ち続けてきた。彼女の指揮はある種異次元のものだ。その娘たる横須賀の提督、そして現提督である彼女のものとは次元が違う。

 それと同等の指揮を求めるのは酷なことだろう。少なくとも、有馬提督の編成と指揮に疑問の余地はない。

 全力だった。私達も、彼女も。

 もし、前任であれば。

 もし、彼女の指揮でなければ。

 

 口にした奴はぶん殴る。

 

 「んぅ……ッ」

 

 いけない、思わず彼女を抱く手に力が入ってしまった。起こしてはいないようだ。

 あの後、酔い潰れてしまった提督をどうするかで北上とひと悶着あったが。

 泣かせてしまった負い目から、ほぼ力押しで提督を奪って彼女の寝室へとお送りしている。ちなみに右腕は彼女の両膝の裏、左手は彼女の肩。所謂お姫様抱っこ。

 背負って背中で膨らみを堪能するより寝顔を眺めて愉しむことを優先したわけではない。提督に出来る限り楽な姿勢を取ってもらうためだ。邪な気持ちは何一つない。

 気づけば執務室の隣、提督の寝室。

 もう着いてしまったか。名残惜しさを感じながら部屋へと入る。

 

 出迎えは例の子犬だ。何故唸る。何故私に牙を剥き出しにしている。困惑しながらも、提督をベッドへと下ろす。

 すぐに子犬が主へ寄り添う。後は任せるか。

 

 「……わたし、がんばり、ます……か、ら……」

 「――っ……寝言、か」

 

 部屋を後にしようとする私へとかけられたような、提督の言葉。

 あぁ、頑張ろう。胸を熱くする彼女の言葉に、心の中で応える。貴女が私達に尽くしてくれる以上、私達もそれに応える。

 次こそは。

 この長門、必ずや貴女に勝利を捧げてみせよう。




演習その後編。
一体何やらかしたんでしょうね、あいつ。
そして北上さんは酔わせてどうするつもりだったんでしょうか。
長門さんぐっじょぶ。これくらいの役得は許されるはず。
これ以上はお役立ちの忠犬が許しませんが。
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