「いや~、まさか秘書艦任命してくれるとは思わなかったよー」
「着任直後こそ不慣れから漣にお願いしましたが、今後は機を見て交代してもらおうと考えています」
呉鎮守府の敷地内を歩きながら、本日の秘書艦をお願いした北上さんに答える。
前々から考えてはいたことだ。常に傍で提督のサポートをしてくれる秘書艦。
唯一私の正体を知っている漣を外すことは危険とは言えども、そうする理由はいくつかある。
まず、漣に休暇を与える為。
私は基本的に忙しい。書類仕事や各種会議、遠征の手配等々。それを手伝う秘書艦も朝から夜中まで仕事浸けだ。人間より体力があり、睡眠をせずとも動ける艦娘ではあるが心の洗濯は必要だ。
そして、万が一漣が秘書艦を務められなくなった時。あまり考えたくないが出撃し長期の入渠、またはそれ以上の状態に陥った時。
そうでなくても、他に秘書艦が出来る娘がある程度いた方がいい。
呉の艦娘達は前任の下、秘書艦の経験があるそうだがあまり長期間していなければ忘れることも出てくるだろう。今後、交代する艦娘は気をつけてお願いすることになるだろうが……今回は北上さんにお願いした。
漣に次いで何かと話すことの多い娘だし、もう一つの理由がある。
その理由の為、朝食を済ました後アサヒの散歩をしながら北上さんと目的地を目指す。朝潮に拾われ私の私物となった柴犬、未だよちよち歩きの子犬はアサヒと名づけた。
拾い主である朝潮から一文字使わせてもらった。朝潮は大げさに喜んでくれたから、よかったのだと思う。そのアサヒは私に手綱を取られながら、妙に怯えている。誰か怖いのだろうか。
「ずーっと私にしてくれてもいいんだけどなー」
「他の娘にも回さないといけませんし、北上さんはうちのエースなので出撃もお願いしますから」
北上さんは軽い調子だが、その実色々な面で頼りになる。気が回るし、面倒臭がりながらも手際がいい。艦娘としての実力についてもトップクラスだ。
秘書艦をお願いすることに異議はないが、出撃もお願いしなければならない。魅力的なお誘いだが……あれ、北上さんが顔を背けている。何か気に障ったのだろうか。
「ほ、ほら、もう着いたよ」
「はい……?」
もう一つの理由。
その為に足を運んだのは、工廠だ。
◇
「おはようございます提督!」
「おはようございます、夕張さん」
工廠の主、夕張さんは朝から妙にテンションが高い。
その目の下には隈が見られる。徹夜明けだろうか。
「開発ですか?建造ですかっ!?」
「えーと、装備の改修をお願いします」
食い気味に尋ねる夕張さんに装備改修をお願いする。
装備改修。改修資材、通称ネジと呼ばれる特殊な資材を消費して行う艦娘装備の強化のことだ。
今回強化したいのは魚雷。
装備の改修には工廠を管理する艦娘、そして秘書艦の協力が必要となる。作業自体は妖精さんが行うのだが、その指示は艦娘達が仲介して行うのだ。
更に、秘書艦毎に強化が出来る装備が異なる。
それぞれが得意とし、運用する装備によって異なるようだが未だ不明なことも多い。しかし魚雷のことなら、北上さん以上の娘はいないだろう。因って今回秘書艦をお願いし、工廠に同行してもらっている。
「魚雷ですかー。光子魚雷とか侵食魚雷とか作ってみたいですね!」
「……四連装酸素魚雷でお願いします」
何それ。
初対面の時も思ったが、この軽巡洋艦は何かに毒されているようだ。徹夜明けで疲れているのだろう。
横須賀との演習での敗北。その教訓から、まずは最初にすべきこと。
錬度向上は勿論だが、最後の旗艦同士の水雷戦。改二の有無以上に、魚雷の性能差を感じたのだ。
前任は戦艦用の主砲や空母が扱う艦載機の強化を優先していたようだった。呉は駆逐艦を大量に擁してはいるが、その実戦主力は戦艦と空母だ。
その理由は、駆逐艦達を温存する為。
燃費の良い駆逐艦は遠征に近海への出撃と、立ち上げたばかりの鎮守府にとっての主力だ。今この国は新たなる鎮守府設立を急いでおり、その鎮守府設立を支えるのは駆逐艦達だ。まだ見ぬ提督、そして新たな鎮守府で力を振るうため多くの駆逐艦達が訓練に励んでいる。
そうした駆逐艦達を今後の為温存する。その為、実戦に用いる装備は戦艦や空母の物を優先した。
間違ってはいないと思う。大局を思えばそうする。だが、私はあの人に勝ちたい。
……エースである北上さんの火力向上にも繋がるし、ね。
そう言い訳しながら魚雷の強化を依頼する。
「了解です。それじゃ北上さん、こちらへ」
「はいよー」
二人が工廠の奥へと姿を消す。
装備の改修、開発や建造は極秘事項だ。提督である私もその詳細を知ることは叶わない。
改修、成功するといいなぁ。失敗することもあるらしい。
私と共に残されたアサヒを撫でながら、二人の帰りを待った。
そして、数分後。
「出来ました!水雷兵装のファイナルウェポン!五連装酸素魚雷です!」
「いいねぇ、しびれるねぇ」
四連装酸素魚雷が五連装になった。
いやどうやったんだ。何故増えた。艦娘の装備についても不明なことが多い。
「重くはなりそうですが、火力は期待できそうですね」
「はい!元になる四連装魚雷、ネジもまだありますからもう何本かは造れますよ!」
出撃する水雷戦隊全員に持たせるなら後五本は欲しいかな。
流石にそれだけ造れば改修資材の在庫が心もとなくなるが、魚雷は大型目標への切り札になり得る。ここは惜しまずお願いするとしよう。
「それとも光子魚雷にしますか?フォボスも一撃ですよ」
「……何かは聞きませんが、消費資材は?」
改修資材三百個だそうだ。
とりあえず睡眠を取ってから作業を続けるようお願いする。夕張さんは疲れているんだ。フォボスって何のことだろう。
◇
「あぁ、こちらにおられましたか、提督」
「おはようございます、妙高さん」
工廠を後にし、北上さんとアサヒを連れ立って執務室へ向かう途中。
私を探していたらしい妙高さんが声をかけてくる。その手には分厚い書類。嫌な予感がする。
「本部からの命令書が届きました。執務室までお運びしますね」
「ありがとうございます……あの、その量は一体……」
妙高さんは本部との連絡係を務めている。作戦の命令書や支給資材の目録などの書類確認や通信による報告など。横須賀では大淀さんがしているらしい。
本部から書類が届くのは何時ものことだが、こんなにも厚い量は未だなかった。
「出撃命令のようですね。あ号、い号、ろ号に……沖ノ島海域の反復撃滅作戦も」
は?
あ号作戦を始めとした、特定の攻撃目標を一定数撃滅する作戦命令はこれまでにもあった。こういった作戦命令を達成することで通常支給される資材とは別に、報酬として資材や装備を回して貰えるようになっている。
作戦自体は各鎮守府の状況を理由に先延ばし、または見送ることは許可されてはいる。
ただ、現状呉鎮守府は余裕のある状況だ。作戦命令を拒否したり期限を破ることはできないだろう。
しかし、余裕があるといっても。
「……これ、全部出撃のですか」
「はい、期限は短いもので一週間、一番長いので一ヶ月以内ですね」
何回出撃しなくちゃならないんだ。
妙高さんの持つ分厚い出撃命令に眩暈を覚える。
お兄様、忙しくなりそうです。
装備改修と任務発生編。
うちの鎮守府ではあ号はデイリーです。
ぼつぼつお話が終盤に向けて走っています。更新にお時間を頂くことになるかと。申し訳ありませんが気長にお待ち頂ければ。
ご感想お待ちしております。