内容として飛ばしても問題ないようにしていますのでそのままどうぞ。
お兄様、私、結婚しました。
いえケッコンカッコカリしました。
北上さんへの『僕』の性別露見、その翌日。
一体どこから聞いたのか、どうやって知ったのか。山科中佐は呉鎮守府へ早朝から襲撃、私との会合を求めた。
「責任を取ってもらう」
私と山科中佐だけの応接室。
第一声と共に差し出された箱。片手に乗るような小さな箱を恐る恐る受け取る。
掌に載せ、開く。
箱に収められていたのは、シンプルなシルバーリング。
艦娘の錬度と性能の限界を超越させる、指輪型特殊艤装だった。
◇
「妹さんのご結婚、おめでとうございます」
「……弟だよ」
命懸けの皮肉を彼に投げつける。
決まったように彼の左右に立つ二人、駆逐艦の雷と電は何のことか分かっていないようだった。この程度の皮肉なら問題なく、彼への『攻撃』とは認められないか。
寂れた漁港。近海の制海を取っているとはいえ、漁船は一隻もなく人の姿はない。
日中、それも開けているので秘密の会合場所としては不安ではあるが。
私と彼、そして駆逐艦二人は穏やかな海を眺めながら再会していた。
「……そうか、まだ、続けさせてやれるんだな」
「だが今回は偶々間に合っただけだ。次はないと思え」
盗聴器により確認した彼の弟、有馬望の性別露見。
知ってしまった重雷装巡洋艦北上は、先の連続出撃によって錬度限界に達していた。
危ない所だった。
もし、指輪型特殊艤装の装着に必要な錬度に達していない艦娘相手であれば。
今後もこの綱渡りは続く。
もうしばらくすれば教練を終えた士官候補生二人、もちろん女性がそれぞれ舞鶴と鹿屋に着任予定だ。そちらに呉の駆逐艦達を一部配置転換、鎮守府内の人数が減れば性別露見の可能性、そして危険は僅かながら減る。
だが、決してなくなることはない。
指揮下全ての艦娘とのケッコンカッコカリを成すまでは。
彼がハーレムを完成させるのが先か、もしくは。
どちらにせよ監視役である私の仕事は長引く予感がする。目指す提督の座は未だ遠そうだ。クソッタレ。
もう一つのクソはさっさと片付けよう。懐から二つの小箱を取り出し、彼の兄、有馬政一に投げて寄越す。
「これは?」
「お前の弟が使う分と一緒に持ち出した。使うかどうかは任せるよ」
使うだろうな、と心中で思いながら応える。
ようやく持ち出せた指輪型艤装。彼が抱える二つもの爆弾を、少しはその爆発から遠ざける魔法の指輪だ。
未だ研究段階のその効果だが、彼女らの情動を安定させることが出来るだろう。
次の事件が起こることを防ぐ。
それは今後の為に、私の為にも利するはずだ、と軍の備品を無断持ち出しした事実から目を背け自身を説得する。
罪を犯した彼女らに再発防止策を設けたとはいえ、彼自身の親殺しの罪は消えない。
だが、少しでも。
光る当たる所へ、彼が帰ってこれる一助にはなるはずだ。
「ありがとう、山科」
ふん。
政一が小箱を懐に仕舞う。振った女の前で、小さな伴侶達に指輪を送る愚は犯さなかったようだ。
この場で使っていればぶん殴った後に二人に殺されて、楽になるつもりだったのに。
次は神戸に向かい新たな提督となる訓練生達と面会だ。
全く以って遺憾だが、私はこういう星回りの下にあるのだろう。
礼を言う彼の顔も見ずに、手を軽く振りながらその場を立ち去った。
◇
『彼』と二人きりの執務室。
大きく開かれた窓から、夕暮れの橙色が室内に差し込む。
私を呼び出した彼は緊張からか椅子の上で固まっている。
全く。
昼前に面会した山科中佐から一通りの事情は聞いている。
第一の感想は、やっぱり。あまりにも、出来すぎていた。
前任である紗代ちゃんの少々早い引退、噂の元佐世保鎮守府提督と同姓の後任。
勘繰るなという方が無理がある。
彼と深い絆を刻んだ後、そして彼女が『彼』であったと知った今となれば、全てに合点がいく。自身の衝動が強いと自覚する私だから、かもしれないが。
「ね。提督」
「ひゃい!」
あはは。
私の呼びかけに彼は椅子から跳ねるように立ち上がる。
彼女が彼であることは未だ他の娘には守るべき秘密だ。
……漣が既に知っていることに複雑な嫉妬を覚えはしても、彼が私と結ぼうとしている絆は私が最初だ。そんな優越感に背筋を震わせながら、言葉を紡ぐ。
「まぁ、なんてーの?そうねぇ……いい感じじゃん?最近……まぁ、なんかそう思うんだよね、うん……まぁ、そんな感じ?」
腰抜けめ。彼の背を押すつもりが、口をついて出たのはそんな情けない言葉の数々。
意味を持たない、踏み切れない私の濁した言葉。『蛇』が聞いて呆れる。
「――『僕』と共にいてください」
……だが。
彼の決意を決めさせるには充分だったようだ。
真っ直ぐに私を見詰めながら差し出される、その蓋が開けられた小箱。
その中央には銀の指輪が鎮座している。
私の『旦那様』はこんなにも愛らしく、女性的な魅力をたっぷり、嫉妬する程に持っている癖に。
こんな時にだけ男前だ。
私の応えは、決まっていた。
◇
お兄様、やりました。
一生一度の大勝負、それを成して深夜の執務室、一人……否、膝の上の子犬、アサヒを撫でながら脱力し続けている。
プロポーズ、と言うべきだろうか。錬度限界に達した艦娘に対し、その限界を超えさせる為の指輪型艤装を授ける儀式。
それは、もっと淡白でも構わないことかもしれない。
だが、『僕』と彼女との間で行うそれは紛れもなくプロポーズだ。
山科中佐に責任を取れと命じられたことは大きな理由ではない。僕とて大和男だ、女性への責任を取ることは当然。
なのに。
北上さんは、『次』を薦めた。それが僕と北上さんの今を続けるのに必要だと言う。
僕との会合の後、山科中佐が北上さんに何を話したかは知らない。
――艦娘に僕の性別が露見した場合、即座に提督の任を解く。
それが反故にされ、北上さんとのケッコンカッコカリによって提督の任が継続されることから何らかの条件があったとは思うが。
今の所、北上さんの薦める『次』を考えてはいない。浮気はよくない。
だが、そんな僕の考えは周囲の激流に流されるのだろう、そんな予感がする。
お兄様の背を追いかけ、目指した提督という立場。それは根気が必要で、あちこちからの思惑が絡む複雑な立場だ。
僕に出来ることはあまりにも少なく、足りないことばかり。
けど、彼女が傍にいてくれるなら。
『僕』は『私』を続けられる。
さあ、今日はもう休み、明日を戦う準備をしよう。
お兄様、『私』頑張りますっ!
ご読了ありがとうございます。
これにて「女装提督が着任しました。」は終幕となります。
まだまだ書きたい、書くべくと思う所はありながらも一旦この物語は閉めさせていただきます。
活動報告で今作の裏話やご説明という名の言い訳をしています。ご感想、ご質問にはできる限りお応えしたいと思います。
多くのお気に入り、UAとご感想を頂き感謝。ありがとうございます。
明日か、もしくはもっと先に次作でお会いできる日を楽しみにしながらお別れとなります。
ありがとうございました!