女装提督が着任しました。   作:蒼樹物書

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【6】

 フタハチマルマル。

 闇夜の海上に、演習開始のサイレンが鳴り響く。専用のペイント弾を用いた演習は、様々なパターンを実施することで実戦への備えとしている。

 今回のような鎮守府の内々で行われるものが主で、参加人数や状況設定を変更しては繰り返す。他の鎮守府との合同や、出向してきた艦娘達を加えた物もあるが今回の参加者は全て呉所属。

 そうなると、互いに手の内は見えてくる。

 

 攻め手側である水雷戦隊旗艦。私、神通は思考を巡らせながら艦隊に微速前進を命じる。

 今回の勝利条件、こちらは防衛艦隊の殲滅または敵旗艦長門の大破判定。もしくは防衛ラインを三隻以上が突破すること。

 後者の条件は事前の作戦準備を覆し、即興での対応をさせる為伏せられていた。相手が格上の戦艦と重巡洋艦を主に構成されている以上、後者の条件の方が容易だろう。

 闇夜に紛れ交戦を最低限にし、潜水艦をやり過ごす。

 しかし、私が預かる以上この水雷戦隊は『華の二水戦』だ。

 

 「……突破ですかぁ?」

 

 傍らの白いセーラーに身を包んだ小柄な少女……駆逐艦雪風が小声で、敢えて間抜けな声で問いかけてくる。

 聡い娘だ。彼女は幼い容姿に見合わず、頭が回る。この状況設定なら私達に突破以外の選択肢はない。

 だが、そんなこと私にも、彼女にも分かっていながら聞いてきた。後方で緊張を隠し切らない、新顔である陽炎型二人の姉に気遣っているのだろう。

 

 「いえ。潜水艦以外を『殲滅します』」

 

 陽炎と不知火が困惑する。

 朝潮が顔を強張らせる。

 雪風と、夕立が、嗤う。

 

 「夜の海は水雷屋の本分です。こそ泥のような勝利など必要ありません」

 「新しいてーとくさんに、水雷魂見せてやるっぽい!」

 

 夕立の戦意に満ちた言葉に、陽炎型二人と朝潮の表情が変わる。彼女達も私の訓練の元で充分な錬度を築き上げているのだ。

 さあ、恐怖など要らない。

 水雷屋の誇りを胸に、条理を踏みつけて勝ちに行こう。

 

 

 「長門、本当に来るのかしら」

 「来るさ。あれはそういう艦だ。水雷屋とはそういう連中だ」

 

 同時刻。

 演習開始のサイレンを聞きながら隣の姉妹艦、長門に尋ねる。どう考えたって交戦は悪手だ。彼我の砲門数が違いすぎる。こちらに来て日が浅い私には理解できない。

 魚雷の怖さを知らないわけではないが……夜偵も既に飛ばし、機を見て行われる各艦の照明弾と妙高による探照灯。そんな中行われる水上打撃部隊の高密度な砲撃に、装甲の薄い軽巡と駆逐が耐えられるとは思えない。

 勝ち筋があるならこちらの目を巧みに避けて三隻以上を防衛ラインの内側に捻じ込むこと、それだけのはずだ。

 

 「旗艦殿ー。準備終わったよー」

 「ん、ご苦労。必要ないとは思うのだがな」

 「いやいやあの『鬼』舐めちゃいけませんって。これで五分と思った方がいいよ」

 

 そんなシンプルな戦いのはずなのに。戦列から一時離れ、準備をしていた北上が合流する。この重雷装巡洋艦、北上は足りぬと言う。

 

 『はっちゃんも位置につきましたー』

 「よし。電探で敵艦隊を補足次第、照明弾を放つぞ。妙高、そちらのタイミングは任せる」

 「承知しました、お任せ下さい」

 「高雄、分かっていると思うが……」

 「はい、一歩も動きませんわ」

 

 旗艦、そして姉である長門の正面から叩き潰すという方針に異を唱えた北上。

 その策についても私は疑問を覚えてしまう。ここまでする必要があるのか。

 

 「おやおや、むっちゃんはあんまり楽しそうじゃないですねー」

 「……そんなこと、ない」

 

 彼女の言葉に思わず、突き放すように応える。必勝を目指すなら打てる手は全て打つ。それは理解している。しかし私の感情的な部分が、この『蛇』を受け入れ難くしてしまっている。

 

 「最高武勲(MVP)ならごほーび、ですよう。一番前のむっちゃんは一番取り易いじゃないですかー」

 

 配置は私と妙高を前衛として、旗艦の長門が最後衛。その直衛にこの北上が入る。

 高雄と伊8は……。各艦の配置と役割からすれば、一番数を落としやすいのは確かに私の位置だ。

 にやにやと、下手で私の機嫌を取るような彼女の声に苛立ちが募る。

 ご褒美とやらにはあまり興味がないが、比較的新顔である私にとって最高武勲(MVP)は喉から手が出る程欲しい。そんな自分の、大人の部分で苛立ちを塗り潰す。

 

 「そうね。いいわ、やってあげる」

 

 

 「全艦ッ、最大戦速!」

 

 闇夜を爆発的に照らす、数発の照明弾。それの発射を確認すると同時に短く号令する。

 瞬間、昼間以上に海上を白で埋めると同時に駆逐艦娘達が一斉に海上を駆け出す。散開し必殺必中の距離まで接近、魚雷で仕留める。

 よく訓練出来ている。

 自身も最大戦速で駆逐艦達を追い抜く程に突撃しながら思う。

 位置が晒された以上、待っているのは高火力艦による大火力か、潜水艦による闇討ちか。

 

 結局、探信儀によって潜水艦の位置を捉えることは適わなかった。そうなれば時間の勝負だ。水雷戦隊旗艦たる私も防衛艦隊の懐を目指す。

 私の位置を探るように探照灯を走らせる妙高を、雪風が大破させる。

 あまりにも早い展開で突撃するこちらに、その砲を乱射する陸奥を夕立が中破させる。

 

 いける。

 私の直衛につく朝潮を従えながら確信する。やはりうちの駆逐艦は錬度が高い。

 防衛艦隊前衛の後ろで冷静に狙い撃つ高雄と長門に、陽炎が落とされながらも。

 このタイミングを自身の身を以って得てみせた陽炎は後で褒めなければならないな、と敵旗艦である長門を目前に捉えながら思う。

 

 「うっ……!」

 

 別方向から長門を狙っていた不知火が大破する。状況と位置から考えて潜水艦による魚雷だろう。これで、後顧の憂いはなくなった。

 遼艦である朝潮には何があっても私を守るように命じてある。最後の一艦、夜戦最大火力である北上の一撃すら凌げば。

 

 次の瞬間、朝潮が悲鳴と共に脱落したことを知覚する。

 よく凌いだ。演習用とはいえあの『蛇』による四十門からなる魚雷は痛かったろうに。後で沢山労ってやらねば。これで敵旗艦、長門は丸裸だ。

 

 ――必ず、落とす。

 

 「甘いね、『鬼』。やっちゃいましょ~♪」

 

 凌ぎ切ったはず。

 朝潮の献身で凌ぎ切ったはずの、『蛇』による魚雷四十門は、全て私に直撃した。

 

 

 戦果報告。

 

 防衛艦隊。

 妙高、雪風により大破。

 陸奥、夕立により中破。

 高雄、伊8、北上、そして旗艦長門、損傷判定無し。

 ――大破一、中破一。旗艦損傷なし、防衛ライン突破数、零。

 

 水雷戦隊。

 雪風、夕立、損傷無し。

 陽炎、高雄及び長門により大破。

 不知火、『北上』により大破。

 朝潮、『伊8』により大破。

 旗艦神通、『北上』により大破。

 ――大破四、旗艦を含む。

 

 結果、防衛艦隊の勝利。

 最高武勲(MVP)は防衛艦隊重雷装巡洋艦、北上。

 

 

 これが精強、呉の力か。

 作戦室で演習の状況推移を見守っていた私は、興奮を抑え切れていなかった。

 その速力により、大火力の防衛艦隊を翻弄し必殺である魚雷の一撃で以って叩かんとする熟練の水雷戦隊を防衛艦隊は見事に欺いた。

 立ち位置を保持した高雄さんの直下、その水面下に忍ぶ潜水艦、伊8。

 その配置により水雷戦隊の探信儀から伊8を隠し通し、潜水艦は別の位置にいると誤認させた上での甲標的遠隔操作による魚雷攻撃。

 

 水雷戦隊はその攻撃を、完全に潜水艦からの魚雷攻撃だと思っただろう。そうして『次』には間に合わないはずのタイミングでの潜水艦による奇襲。

 神通の直衛たる朝潮を襲ったそれは、長門さんの直衛である北上さんからの物であると欺瞞される。これで最後の一撃を得たのは神通さんであったはず。

 

 しかし最後の最後まで、北上さんの四十門は温存されていた。過剰なまでのその火力は、確実に旗艦たる神通さんを大破判定にまで持ち込んだ。

 

 正直、この結果を私は予想できていなかった。教本通りの展開を考えていた私からすれば水雷戦隊による防衛線突破、そして勝利が一番可能性が高いと思っていた。

 そんな私の予想を覆して見せた、作戦立案者であり最大武勲を得た北上さんを始め演習に参加した各艦を迎える為、私は港へと急いだ。

 お兄様、うちの娘達すごいです。




駆逐艦はすぐ死ぬ。演習編です。
次回はごほーび編、やったね北上様!
夜戦なのに先制雷撃かます北上様はスーパーだからなのです。
他にも突っ込みどころ多々ありますが、話回す方優先。ごめんなさい。

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