女装提督が着任しました。   作:蒼樹物書

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【7】

 「……っ、ゃッ……」

 「――あはっ」

 

 『蛇』が、嗤う。

 私の微かな抵抗は絡め取られ、締め上げは徐々に強くなっていく。

 蛇に睨まれた、醜い蛙である私は。

 

 

 演習が終わり。

 港に演習の参加者達が居並ぶ。

 

 「ご苦労様でした。精強たる呉の力、見せていただきました」

 

 何一つ偽らざる言葉を十二の艦娘達にかける。その表情は様々だったが両艦隊共に見事な錬度、見事な作戦だった。

 新任の指揮官たる私は、実戦に裏付けられた両艦隊の作戦方針を否定する気はない。両艦隊の方針を、結果だけを見て間違いだったと断ずることは出来ない。

 結果的に勝利を得た防衛艦隊にしても、その奇策は相手の動きや可能性に賭けた博打に過ぎない。今回はその賭けに防衛艦隊が勝利しただけで、いくつかの要因が変わっていた場合勝てたかは微妙だ。

 

 「見事でした。ですが勝敗が傾いた可能性があったと思います」

 

 例えば、水雷戦隊。

 もう一手があれば、敵旗艦長門を落とし得る可能性があった。もしくは、防衛線突破を選んでいれば。

 

 例えば、防衛戦隊。

 潜水艦の位置を欺瞞する甲標的の雷撃が外れていれば。そしてそもそもその雷撃に水雷戦隊が気づかなければ。

 どちらに勝ちが転んでも可おかしくない勝負だった。

 

 「各員はその可能性を協議し、対策を立案。両旗艦は明日の夕方までにその報告を提出して下さい」

 

 敗北した水雷戦隊、特に旗艦神通は私の言葉に悲痛な表情を浮かばせる。

 それでも、勝者に飴を、敗者に鞭を与えるは私の義務だ。

 

 「最高武勲(MVP)は北上さんです。おめでとうございますっ」

 「ふふん……これが重雷装艦の実力ってやつよ」

 

 お祝いの言葉に胸を張る北上さん。その撃破数、作戦立案の面から最高武勲(MVP)は文句なしだ。となれば約束を守らないと。

 

 「ご褒美、何をお望みですか?」

 「あっ、んー……間宮券がいいかなー」

 

 間宮券。そう俗称される、一種の食券だ。

 艦娘達の食事は食堂で無償に供されるもの以外にこの食券によって供されるものがある。高級な食材を用いた料理であったり、甘味であったり、酒であったり。

 それらの特別な食事と交換できるのが間宮券だ。

 横須賀鎮守府で給糧艦間宮謹製のお菓子が艦娘達への特別なご褒美として出されていたことから、他の鎮守府でもその慣例が倣われている。

 ここ、呉鎮守府に間宮はいないが甘味も酒も未だこの国では希少だ。そんな希少な物と交換できる間宮券は提督が管理している。戦意高揚の為であったり、今回のように艦娘達へのご褒美として与えるためだ。

 

 「はい、わかりました……どこに置いてましたっけ」

 「執務室ですねー」

 

 傍らの秘書艦、漣が応えてくれる。

 流石だな漣。

 

 「それじゃあ、取りに」

 「提督様に二度手間させるわけにいかないっしょー。付いていくよー」

 

 いい娘だなぁ。

 確かに時間も遅いし、ここで待たせることもないか。

 

 「漣も間宮券のある場所だけ教えてよ。駆逐艦はもうおねんねの時間でしょ?」

 「……ご主人様?」

 「そうですね、今日は北上さんに券を渡したら私も休みますので……」

 「執務机の右側、一番上の引き出しです。お休みなさい、ご主人様」

 「お休みなさい。今日は案内から何まで、ご苦労様でした」

 

 北上さんの子供扱いする言葉に少しむっとしているが、実際眠そうな漣を労う。他の艦娘達にもよく休むように告げてから解散させる。

 後には、私と北上さんが残った。

 

 「さ、早く執務室にいきましょー♪」

 

 

 ちょろいなぁ。

 私の企みは全て筋書き通りの結末を得た。就寝時間を迎え静まり返る鎮守府、私と提督しかいない執務室。

 彼女の後に入り、後ろ手にこっそり扉に鍵をかけたことにすら気づかなかったようだ。

 今、その彼女は私の腕の中にある。

 口実でしかないご褒美の間宮券を探そうとした刹那、力ずくで彼女の両肩に手をかけ壁へと押しやった。あはは、混乱してる。

 壁と私に挟まれ何が起きているのか理解していない。

 

 「ぁっ、あの……北上さん……?」

 

 その呼び名はあの、同じ重雷装艦かつ姉妹艦のことを思い起こさせる。

 性格も容姿も違うけれど、これはこれで私の疼きを、衝動を加速させてくれる。

 

 「……」

 

 困惑する提督の言葉を無視し、檻で囲ってしまうように左手を壁につける。右脚を彼女の内腿に擦り付けて、強張る脚を開かせる。

 柔らかいなぁ。それに。

 

 「その、ゃ……」

 

 やめて。

 身動ぎしながらの拒絶も無視。首筋に鼻を近づけ、肺一杯に吸い込む。この匂いだ。

 あぁ、くらくらする。この感触が、この匂いが。

 人間の全てが私達艦娘を魅了する。狂わせる。大井っちのそれも甘美だったが、人間のそれは別格だ。

 艦娘は刷り込みのように、人類に対して友好的だって? 莫迦な、艦娘は人間を生まれつき愛してしまうのだ。

 だから無条件に従い、命を賭けて戦える。狂おしい程に求め、求められることを求めてしまう。艦娘毎にその衝動に差はあるようだが、私は随分『強い』方らしい。この衝動は、性の区別なく発するが男性相手への場合がより強くなる。

 

 以前、偶々鎮守府の外を歩いていた小さな男の子。玄関近くの掃除当番だった私は、檻のように背の高い門越しに。その姿を見ただけでも、危なかった。

 今、この手にある彼女もそれに近いくらい私を昂ぶらせる。これまで一番長く、近く接してきた紗代ちゃんと比べ物にならないくらいだ。

 何故かはわからない。でも。

 

 彼女の両脚の間に捻じ込んだ脚がゆっくりと、上を目指す。右手を彼女の腰に添えて、舐めるように上を目指す。

 

 「――やッ!!」

 

 衝撃。私の両肩が拒絶の叫びと共に突き飛ばされる。

 艦娘である私にとって、人間である彼女の抵抗を捻じ伏せるのは簡単だったが。ここいらが潮時だろう。

 

 「あは。ごめんね、提督」

 「ぇ……えっ……?」

 

 親しげな笑みを作りながら、軽い口調で言い放ちながら距離を離す。空気の急激な変調に困惑する彼女。可愛いなぁ。

 

 「ちょーっと冗談が過ぎたかな。これ、貰ってくよー」

 「……は、はい……?」

 

 自身の両手で身を守るように縮こまる彼女を他所に、間宮券を手に取って執務室を後にする。つまみ食いはここまでだ。

 まだ初日。ちょっと詰めすぎた気もするが、充分愉しませて貰った。

 じっくりと。追い詰め、絡めて締め上げ、最後は丸呑みだ。『蛇』という渾名は的を得ている。

 これからの日々に胸躍らせながら、おまけである間宮券の使い道を考えるとしよう。

 

 

 「はッ……はぁッ……ぅ、ぇ……」

 

 胸を跳ね上げ口から飛び出す程、心臓がその存在を誇張する。吐き気が込み上げる。思考は飛び散り、何一つ纏まらない。

 執務室にただ一人、壁を背に座り込む私は今、何も見えず、何も考えられず。ただこの荒ぶる時が終わるのを待つしかなかった。

 

 落ち着け。かのじょは違う。

 ちがう。

 

 ――やめて。おとうさま、やめてください。

 

 深く私に刻まれたあの痛みが、身を切り裂くあの痛みが蘇る。

 痛い、いたい、やめて。おねがいします、ごめんなさい。

 やめてやめてやめて。

 ちがうちがうちがう。

 

「はッ、はっ……ぅ、おにい、さま……」

 

 あさく、みじかく区切られる呼吸の中、何とか敬愛するその名を口にする。少しずつ、肺に送られる空気が多くなる。

 大丈夫。大丈夫だ。

 もう、大丈夫……フラッシュバックが途切れ途切れに、その輪郭を曖昧にしていく。

 『僕』の両腕を押さえ込む大きな、手。酒臭い、荒い吐息。ぎらついた、目。

 呼吸が戻るのに合わせて、再度記憶の奥底へと必死に埋める。自分の物だと思えない程に力の入らない身体。ぐっしょりと服を濡らし身体を冷やす不快な汗をようやく知覚する。

 

 ――あぁ。

 おふろ、はいりたいです、おにいさま。




ようやくR-15タグらしい内容になってきたごほーび編。
風呂敷ちょっと広げようとしたらつい広げすぎた感。
次回ももう少し広げます。
有馬君は逃げられなかったよ……大好きなお風呂はいろうねぇ、うんうん。

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