「ッチ、ついてねー…」
倒壊したビルから一つの気怠げな声が這い出る。
倒壊したビルから出てきた青年は豪蟲退治のエキスパート。駆除師のパトロール隊員である。
「はぁーあ、面倒くせ…なんで俺の日に限ってDクラスの…しかも手配書の豪蟲が出てくんのかねぇ…手配書ついてるからダブルクラスか?嫌んなるわ…」
青年は武器である棍棒を両手で二本とも振り回し背負う。
姿勢を低くし目の前の豪蟲を睨む。
「DD(ダブルディー)クラス…手配名『ビル喰い』原種名はカミキリムシってとこだな。」
手配書を配布されている豪蟲…それらは総称としてダブルクラスと呼ばれている。ダブルクラスの特徴としては腕利きの駆除師を一人以上殺害した経歴を持ち、気性が荒く、戦闘面で特化している点である。
「腕利き一人…っつー事は豪蟲相手に三年以上生き延びてる猛者がやられた相手だな。しかもこいつの手配書では三人殺ってるわけだ…」
手配書のついたダブルクラスでも全てが一緒というわけではない。
情報とは随時更新されるものだ。
青年の目の前に現れた豪蟲『ビル喰い』は腕利き駆除師三人の殺害と小村の消滅が挙がっている。
「さて、どうする…近接一人じゃ部が悪いよな…逃げたいけどあいつこっち見てるし…」
枯れた笑いが青年から溢れる。
彼は駆除師になり三年目、本部からは小隊の隊長を務める認可まで降りている腕利きの駆除師だ。
だが、同じ境遇である同胞を三人も殺害し、なおも人類に侵攻する豪蟲相手に青年は絶望していた。
「ここで死ぬか…」
諦めかけたその時、目前の豪蟲がよろめき出した。と同時に救いの声が響く。
「警報受け取りました。学校を挙げて援護します。」
振り返ると二人の学生が立っていた。
直線上には学校がみえ、屋上からはキラリと光るものも見えた。
救援が来たのだ。豪蟲がよろめいたのは後方支援班による遠距離型、超遠距離型の攻撃が命中したものだと悟る。
「…また死ねなかったな」
パトロール隊員の青年は小声で呟くと棍棒を構えた。
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俺と稲垣はほぼ同時に豪蟲が暴れている場所に到着した。
ビルの倒壊が激しい…最初の倒壊位置までの一直線の道が出来ていた。
豪蟲はまっすぐ進んできている。
「おーおー、ナイスなタイミングなこって。救援感謝するよ、学生さん。」
パトロール隊員は見た目俺と稲垣とあまり変わらない印象を受けた。
棍棒を両手に持ち、戦闘服は傷だらけ、致命傷は受けてない様子だった。
「さて、先輩も見つけたことだし、ちゃっちゃとやるぜ、悟!」
稲垣の気合の入った声が聞こえてくる。
学校の方面からは遅れて出てきた近接担当がこちらまで走ってくる姿が見えた。
「君達に情報を提供する。」
突然、パトロール隊員が気迫のある声で告げる。目付きは変わり、まるで獰猛な獣の目をしていた。
「奴は手配されている。ダブルクラス、明記されているランクはD、見ての通りコンクリートや鉄筋で出来てるビルを豆腐かのようにしゃくしゃく食べる顎の力を保有。今までに奴に殺られたのがベテラン三人と小村一つ。原種カミキリムシのタイプだ。触覚は半径50m以内のものを全て察知している。」
成る程、超遠距離攻撃の一撃で終わらない理由がよくわかった。
遠距離、超遠距離攻撃は言うなれば敵に悟られず、一瞬にして命を奪うスナイパーだ。彼らは豪蟲の頭を狙い、大抵一撃で葬ってしまう。
その遠距離、超遠距離攻撃が足に命中しただけで済んだ、となると、屋上からの支援攻撃は一発しか命中しなかったようだ。
「半径50m…?ならよ、遠距離に任せて俺達下がろうぜ、Dのダブルクラスだろ?本物の化物だ!」
確かに、稲垣は正しい。
【D:一つの村や街を数日で滅ぼす】
これは駆除師の豪蟲の危険度ランクである。明記されているのは以下のE~Sの六つのランク。
《E:訓練を受け武装した大人数百人》
《D:一つの村、街を数日で滅ぼす》
《C:一つの国を数日で滅ぼす》
《B:一つの国を24時間以内に滅ぼす》
《A:周辺国家を24時間以内に滅ぼす》
《S:一つの大陸の消滅》
駆除師はこのランクを基準に各自任務に当たっている。
ここら一帯のパトロールでさえ、D~Cを倒す能力のある駆除師でなければ業務することが出来ない。
「雑談はここまで、後は攻略あるのみだ!残念だが新兵よ、後ろ向いて逃げられると思うなよ!あいつはメスだ!」
「カミキリムシ特有…遠距離持ちってことっすね。」
逃げられない…この場にいる三人が一斉にそう考えたに違いない。
そこへ遅れて学校から走ってきた他の生徒やベテラン駆除師である教師が到着した。
「ほぅ、お前がパトロール隊員とは、時が経つのもはやいものだな。」
先生がパトロール隊員の青年を見る。
どうやら知り合いのようだ。
「まだ小隊長の地位ですよ。」
青年も先生の言葉を返すように話す。
視線は『ビル喰い』から離していない。
「指名手配されてる『ビル喰い』だな。ランクはDD、オスか?メスか?」
「メスです。」
「じゃあ逃げるのは得策じゃないな。」
先生はそう言ってニヤリと笑う。
先生の担いでいる武器は槍、それも六本の槍を両手に三本ずつ持っている。
「DDが相手なら手にあまるだろう。しばらく前線から遠のいたが…六槍(ろくそう)は劣っていない所を見せてやろう。」
青年が先生の言葉を聞き、棍棒を背負う。完全に戦う意思をなくしたのだ。
「先輩?危ないっすよ!豪蟲に背中向けるなんて!」
稲垣が叫ぶのと同時にパトロール隊員の青年目掛けて音速で何かが放たれた。
【カミキリムシ】…この虫は木に穴を開け、その木の中に卵を産む、カミキリムシの卵はやがて孵り、木の内部を食べ、成長する。生きた小さな木すら殺してしまい害虫の指定までされている。その幼虫は見た目から鉄砲虫と呼ばれている。
字は時に現実を体現させる。
豪蟲が放ったのは幼虫…鉄砲虫である。
大きさは約15cm程の蟲。
カミキリムシのタイプの豪蟲…特にメスのタイプによく見られる攻撃方法の一つだ。放たれた幼虫は生物の内部に食い込み、寄生。生物が就寝を始めた際に内部から一日を掛けて食い尽くし、早朝、逃げるように寄生対象から離れる。
成蟲になるまでにいくつもの木を食べ、脱皮を繰り返し三年でカミキリムシの姿へとなる。
つまり、音速で放たれたのは…
「遅いな、その程度の速度じゃ、俺の後ろの奴には届かんよ。」
先生の言葉が早いか、槍に阻まれ地に落ちる蟲が早いか、先生の槍は音速で飛来したカミキリムシの幼蟲…鉄砲蟲を両断していた。
「さて、次は俺から行かせてもらうぞ…ムシケラ!!」
先生はそう叫ぶと四本の槍を前方の豪蟲目掛け投げると同時に走り出した。
「まずい!先生は半径50mの奴の結界の事は知らない筈!」
稲垣が叫ぶ!そうだ、奴の触覚は半径50mの物の振動を的確にキャッチし反応、対応に回る!
焦る俺と稲垣が走り出そうとしたが、青年が腕を掴み、止める。
「大丈夫…決着は早いよ。」
見ると、先生はとてつもない速さで豪蟲を切り刻んでいた。
前足、触覚、後ろ足、羽根、腹部…まるでジャグリングでもしているのかと思われるように空中を舞う四本の槍は落ちては上がり落ちては上がりを繰り返す。
「先生は全員尊敬できる偉大な先輩。約十年間豪蟲と戦い続け、生き残った精鋭中の精鋭だからな。滅多に過去を話そうとしてくれないが…【道化の六槍】(どうけのろくそう)あの先生の二つ名だよ。かつて、前衛時代たったの一人でBランクの豪蟲を仕留めた人だ。」
青年の言葉と同時に先生の六本の槍が一斉に豪蟲の頭を貫く。
「先生の相手がDDなんかじゃ務まらないよ。」
俺は、いや、多分生徒のみんなはこの日初めて、教師の戦闘を目にした。
俺たちの目指している駆除師の姿を再認識した…
戦闘が終わり、被害にあった建物から生存者や遺体を掘り起こす。
整備の為に瓦礫の撤去も行っている。
二次災害の根絶の為だ。
だが、何度遭遇しても慣れないものだ…
「お疲れ、新兵諸君!」
パトロール隊員の青年が気さくに声をかけてくれた。青年と握手を交わすと休憩に入った。
「改めて、お疲れ、それとありがとうな。おかげで助かったわ。」
「いえ、俺たちは何もしてないっすよ?」
稲垣の言葉に青年は苦笑して答える。
「いや、助かったとも。奴は一瞬だが攻撃を躊躇った。君達を観察し誰が脅威かを識別していたからね。」
つまり時間稼ぎにはなったと笑いながら俺たちに言う。
まだそのレベルなのだ、俺と稲垣は…
「俺は『葵生三日月(あおい みかづき)』駆除師第37班所属、その班長を勤めてる。駆除師のランク内ではDだ。」
三日月先輩はそう言ってバッヂを見せる。キラリと青く光るバッヂにはDの文字が刻まれていた。
駆除師ランクとは…単一での討伐可能ランクを表している。
つまり、三日月先輩は一人でDランクの豪蟲を討伐可能という事だ。
「まだDDを相手にするには早かったわけだ。君達と先生のおかげで命拾いしたよ。」
三日月先輩は、遠目に六本の槍を手入れする先生をみていう。
「凄かったよな…なんであんなに早く動けるんだ?わけ分からんな。」
稲垣は先の先生の戦闘を思い返しているのだろう。確かに凄まじいスピードだった。みるみるうちに豪蟲の体は刻まれ、動けなくなった所へトドメを刺す動作まで一連の流れのように綺麗におさまっていた。
「ふふ、僕たち駆除師の運動能力だってわけがわからない…だろ?」
三日月先輩が稲垣の言葉に返すように笑いながら言った。
【リグルース】
この薬は豪蟲の体で常に変化してきている。パワー、スピード、ガード、バランス、スタミナあらゆるジャンルに特化したものや超常的な力を付与するものまで様々、身体能力の限界突破の点では全部一緒だ。
俺が適用された能力はパワー。
稲垣がバランスだった。
「俺が適用されたのはパワーだ。強い一撃、戦闘は楽だよ当たれば勝ち。」
三日月先輩は片手で棍棒をブンブンと振り回し、地面へ立たせる…というより地面へ突き刺す。
「一つ700kg、カニ型の豪蟲からもぎ取った。硬度も高い。威力もある。」
つまり、先輩は総重量1.5tで走り回っているらしい…本当にすごいな…リグルースの効果があるとしても…
「君達二人は結構経験積んでるね…学校からいち早く出てきて到着したところを見ると、何度か参加してるんじゃないか?【侵攻】に。」
「ええ、俺と稲垣はこれで七回目の【侵攻】を経験してます。」
「六回ともEランクで、今回初めてのDランクのダブルクラスだったけど…先生の登場であまり強さの実感湧かなかったけどな。」
六回のEランクもほとんど遠距離がやったからあんまり戦闘の実感湧かなかったけど…
「豪蟲と対峙してる時の緊張感があるだけマシだ。【侵攻】に参加せず、いきなり実戦配備される奴だって中にはいる。」
生徒全員が出れば相当の数にはなる…だが、いつも戦闘に参加しているのは40~50がいいところ。
ウチのクラスは出席率いい方だし問題は他クラスって事か。
「よぉ、三日月。後輩にアドバイスか?」
色々と考えていると、槍の手入れが終わった先生が、三日月先輩に絡んでいた。
「お久しぶりです、たいt…先生。」
「呼びづらいなら昔のままでいい。」
「では、隊長と呼ばせていただきます。」
隊長?って事は、三日月先輩の所属してた班の隊長だったって事か?
「懐かしいな第37班…今じゃお前と如月だけか。」
「如月は死にました。先月の作戦でAランク討伐の英雄に…」
あまり長居は良くないな…二人の話になってるだろうし…
俺と稲垣はそそくさとその場を離れ、倒壊した建物の除去作業へと移った。
戦闘描写乏しいなぁ…
はい、私です。
バトルモノ…課題点多いっすなぁ…
謎を作るのも、シリアス展開作るのも苦手なくせによく書こうと思ったな私も…
次回は装備の説明をさせていただきますね。