アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち 作:外清内ダク
アルバート=マックス、死亡。
その知らせは瞬く間に部下全員に広まっていった。
もちろん、ジョルジュも例外ではない。
通信機が鳴ったのは、クライドを車で送り届けるため地下のガレージにやってきた時だった。
ジョルジュは懐から四角い端末を取り出すと、そのスイッチを入れた。
「なんだ?」
『ジ……ジョルジュ! 大変だ、アルバート様が死んだ!』
通信を横で聞いていたクライドの顔が引きつった。
無理もない。
今、彼の安全を保証してくれるのはアルバートただ一人なのだから。
『殺ったのは二人組のレイヴンだ。ジョルジュ、どうする?
このままじゃ組織自体が危ないぜ!?』
「そんな!」
クライドはジョルジュにつかみかかった。
そうしたところで事態が好転するわけではないのだが、混乱したクライドにはただ叫ぶことしかできなかった。
「私はどうなるんだっ!?
これじゃあ私は……私は破滅じゃないかっ!」
「うるせぇっ!」
ジョルジュは自分の胸ぐらを揺するクライドを殴り飛ばした。
地面に叩き付けられ、クライドはうずくまった。
「くくく……ザマァねぇぜ……
何が男なら、だ!
死んじまったら終わりじゃねぇか!」
ジョルジュは通信機に向かって怒鳴りつけた。
無駄に大きい濁声がガレージに響き渡る。
「いいか、今から俺がボスだ!
今さらレイヴンなんざどうでもいいが、これもけじめだ。
絶対にそいつらをぶち殺せ!」
『な……何言ってんだ! お前がボスだと!?
ふざけんじゃ……』
ブチッ。
ジョルジュは相手の言うことに耳を貸さず、一方的に通信を切った。
彼は本当に、自分が組織を牛耳れると思っていた。
自分はアルバートの右腕だった。
そしてそのアルバートが死んだ。
ならば、自分がその跡を継ぐのが筋というものではないか。
おそらく、ジョルジュがただのボディーガードだったということに気付いていないのは本人だけだろう。
組織の人間は誰一人ジョルジュの命令に従いはしない。
ジョルジュはふと、あることに思い当たった。
「そうか……レイヴンだったな……」
ガレージの奥に、普段は整備員以外立ち入らない場所がある。
ジョルジュは思った。
自分の輝かしいデビューを飾るには、あれを使うのがふさわしい、と。
次の瞬間、彼はそこへ向かって走り出していた。
*
もうどの位走っただろうか。
リンファの持つ地図を頼りに出口を目指すこと十数分。
もう出口は目の前だが、ここまで何一つ障害に出会っていない。
いないのである。警備員も、追っ手も、誰も。
これはこの組織がアルバートのワンマン組織であったことの証明である。
おそらく、もう組織は再起不能だろう。
分裂し、自然消滅していく運命である。
「その扉を抜ければパーティの会場に出るわ」
リンファが指さす先には、一つの大きな扉があった。
ここに来てから何度もお目にかかっている。
間違いなく、あの忌々しい宴が開かれていた広間へ通じる扉である。
「なら協力はここまでだ」
「せいぜい死なないように気を付けることね」
ヨシュアは扉には入らずに廊下の向こうへ消えていった。
言いたいことは山ほどあるが、とりあえず今は自分が逃げることが先決である。
リンファの相棒であるAC『ペンユウ』は、パーティ会場の地下のガレージに隠してある。
比較的目立つものだが、滅多に人が寄りつかないような隅なら見つかることはない。
リンファは瓦礫がちらかり、誰もいなくなったパーティ会場に足を踏み入れた。
言うまでもなくリンファが仕掛けた爆弾のせいである。
広間の端にある階段を目指し、駆ける。
……その時。
「リンファさんっ!」
突然後ろから声がかかった。
リンファは反射的に背後に銃を突きつけた。
「……キャロル……?」
いつの間にか後ろに立っていたのはキャロルだった。
リンファの銃に怯え、両手を控えめに掲げている。
「あの……手、降ろしていい?」
「あ、ごめん……
まだ逃げてなかったの?」
リンファは銃を懐にしまい込んだ。
とりあえずキャロルには敵意はなさそうだったが、爆発が起きた場所に何故いつまでも留まっているのには何か理由がありそうだった。
「リンファさん、あの赤いAC、あなたのでしょ?」
「え!? ペンユウを見たの!?」
「大丈夫、見つかりにくい所に隠しておいたの。
こっちよ!」
呆然とするリンファの手を引き、キャロルは走り出した。
*
薄暗いガレージの中で、赤い巨人が立ち上がった。
リンファの相棒であるAC、『ペンユウ』である。
武装は肩のレーザーキャノンと右手のマシンガン。
それに左の手の甲にはレーザーブレードが搭載されており、必要に応じて光の刃が敵を切り裂く。
そのコックピットのシートに腰掛け、リンファは操縦桿の調子を確認する。
右手の微かな動きに反応してペンユウはゆっくりと歩き出した。
この快適なレスポンスは、メカニックであるエリィの腕のたまものである。
リンファはモニター越しにペンユウの足下に目を遣った。
そこではキャロルが心配そうにこちらを伺っていた。
リンファが最初ペンユウを隠していた場所には、一台も車が残っていなかった。
つまり、頻繁に使用されていた場所だったわけである。
それに対してここはゴミ捨て場だか駐車場だかわからないような場所で、まさに隠すにはうってつけだった。
それにしても、本当によく気の回る人である。
リンファはスピーカーのスイッチを入れて、外に呼びかけた。
「ありがと、助かったわ。
あなたも早く逃げて」
キャロルは軽く手を振ると、ガレージの奥に消えていった。
あとは脱出するだけ、である。
微かな外の灯りを頼りに歩みを進める。
出口はそう遠くない。
……と、その時。
[AC確認]
「!?」
コンピューターの声に、慌ててリンファはレーダーを確認した。
赤い点がレーダーに一つ。
距離は五百メートルほど、ここより十数メートル高い位置にいる。
ここが地下のガレージだから、相手は地上……というか、地下都市の地面の上にいるらしい。
一瞬、ヨシュアかとも思ったが、コンピューターの第二声がそれを否定した。
[識別信号確認。イリーガル社製局地防衛用AC『ダルスロース』]
――イリーガル社製!?
ということは、リンファが盗んだデータを回収するためにイリーガル社が送り込んできたのだろうか?
いや、それにしては対応が早すぎる。
ともかく、リンファは右側にある赤いボタンを押した。
[戦闘モードに移行します]
これで、戦闘に必要な操作系が全て動き出す。
リンファはマシンガンが問題なく動作するのを、二、三発撃って確かめた。
慎重に出口のスロープに近付き、レーダーをもう一度確認する。
相手の『ダルスロース』とかいうACはさっきから全く動いていない。
ここの真上に近い場所でじっとしている。
リンファは訝しがりながらも、ブースターを噴かして一気に上へ飛び出した。
そこで待ちかまえていたのは、一機の人間型重量ACだった。
全身が太く、まるで太った男のようである。
肩にはミサイルが装備され、その攻撃力を誇示している。
そして白に統一された塗装が目を惹く。
ペンユウがマシンガンをダルスロースに向けた瞬間、相手から通信が入ってきた。
『くくく……てめぇがレイヴンだな?』
「……話をしている暇はない。
見逃してくれると嬉しいが、どうしてもというなら手加減はしない」
リンファは意識して声を押し殺し、迫力を持たせて言い放った。
想像はしていたが、やはり相手の笑い声が漏れ聞こえる。
『女か……フン、女に殺されたんじゃアルバートもザマァねェな。
まァいいさ、もう終わっちまったことだ。
とりあえず名乗っとくぜ。
俺はジョルジュ。
この組織のボスだ』
リンファは自分の耳を疑った。
一体どこの組織のボスが自らACで出陣するというのか。
おそらくこいつはアルバート亡き後に勝手にボスを名乗っているだけだろう。
リンファはそう納得した。
『正直言ってレイヴンなんざどうでもいいんだがな……
けじめはつけてやる。死になッ!!』
つづく。
今回登場したAC
■ダルスロース
機体名 ダルスロース
パイロット ジョルジュ
HEAD HD-ZERO
CORE XCH-01
ARMS AN-891-S
LEGS LNKS-1B46J
BOOSTER B-VR-33
FCS FBMB-18X
GENERATOR GBG-XR
BACK UNIT R WM-MVG812
BACK UNIT L WM-SMSS24
ARM UNIT R WG-HG770
ARM UNIT L LS-2001
OPTION SP-MAW, SP-CND-K, SP-AXL, SP-S/SCR, SP-E/SCR, SP-ABS/Re
●COLOR
NIGHT SHIFT/GRAY MAP
●備考
この機体はやられ役第一号の名を欲しいままにした。