アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち 作:外清内ダク
次の瞬間、ダルスロースが動いた。
肩のミサイルポッドが火を噴き、六発のミサイルが発射される!
しかし、弾速が遅い。
これならば回避は難しくない。
リンファはペンユウを操り、真横に飛びすさった。
そしてさっきまでペンユウが立っていた場所をミサイルが通り過ぎる……はずだった。
突然、ミサイルが90度向きを変え、ペンユウに迫った!
「うっそぉぉぉぉぉっ!?」
どんなに叫ぼうが、この状況ではもはや直撃は免れない。
リンファは直後に来るであろう衝撃に身をこわばらせた。
……その時!
ガガガガガッ!
視界の外から降り注いだガトリングガンの弾丸が、全てのミサイルを撃ち落とした。
間髪入れず、通信が入ってくる。
『苦労してるようだな。手伝おうか?』
「ヨシュア!」
リンファは、この時ばかりは喜びを隠せなかった。
嫌な奴ではあるが、ヨシュアの腕は一流。
彼が加勢すれば、まず負けることはないだろう。
しかし、次のヨシュアの言葉にリンファは沈黙した。
『報酬、半々でどうだ?』
「……………」
『冗談だ。3割にまけといてやるよ!』
その言葉と同時に、ペンユウの隣に青い蜘蛛のようなACが降り立った。
四足タイプ特有の高機動力を誇り、肩のレーザーキャノンと武器一体腕のガトリングガンの火力は凄まじい。
[AC確認。ランカーAC『ワームウッド』]
――知れたことを!
リンファは心の中で自分のACのコンピューターを罵った。
並んでダルスロースと対峙する二機に、ジョルジュは再び通信を送った。
『そうか……そういやァ二人組ってことだったな。
いいぜ、二人まとめてかかってこい!』
『正気か、おい?』
ヨシュアが眉をひそめるのも無理はない。
レイヴン二人を相手に一人で戦おうなど、身の程知らずな奴である。
ダルスロースはゆっくりと、本当にゆっくりと歩き出した。
あまりに緩慢な動きで、生身の人間が走った方がまだ速いのではないかと思えるほどである。
重量AC最大の欠点、根本的な機動力の不足、である。
その代わりに積載能力や装甲の面で優れているのだが……
その姿は、まさに『のろまなナマケモノ』の名にふさわしい。
『遅いッ!』
ワームウッドのガトリングガンが弾丸を放った。
あの動きでかわせるはずがない。
……しかし、弾が突き刺さる直前、突然ダルスロースはブースターを噴かし、それをかわしきった!
『何!?』
「気を付けて! あいつ、反応がやたらいいわ!」
ダルスロースがミサイルを放つ。
さっきとは異なり、真上に数発のミサイルを打ち上げた。
ある程度まで上ると、そのミサイルはペンユウとワームウッドに降り注ぐ!
ワームウッドは持ち前のスピードでなんとかこれを避ける。
そしてペンユウは……まっすぐ前に、つまりダルスロースの懐に飛び込んだ!
ヴンッ!
左の手の甲からレーザーブレードが飛び出し、ダルスロースを襲った!
――しかし!
ダンッ!
レーザーブレードが届く一瞬前に、ダルスロースのハンドガンが火を噴いた!
回避などできるはずもなく、三発の弾丸がペンユウのコアに食い込んだ。
「ッ!?」
ダメージそのものは大したことはないが、衝撃ではじき飛ばされ、ペンユウは片膝を付く。
そこを狙ってダルスロースのミサイルが発射された。
『リンファ、動くなよッ!』
ヨシュアの声に驚き、反射的に操縦桿を握る手を止める。
次の瞬間、ガトリングガンの弾がミサイルの全てを撃ち落とした。
言うのは簡単だが、高速で飛行しているミサイルを撃ち落とすなど容易くできることではない。
ヨシュアの腕の証明である。
しかし今問題なのは、目の前のダルスロースだ。
「助かったわ……それにしても何なのよ、あの反応は?
はっきり言って人間技じゃないわよ!?」
『……《キンドル》だ』
ヨシュアの言葉に、リンファは凍り付いた。
《キンドル》……化学工業系企業の大手であるヴェスタル・ファナス社が開発した能力強化薬物、アダードラッグの一種である。
皮下注射すると、まず精神が高揚し、次に反射神経が異様に強化される。
人間の限界を超えた超反応が可能になるが、慣習性や中毒性も非常に強く、あまりの危険性を恐れた大企業によってヴェスタル・ファナス社ごと駆逐されてしまった。
要するに、まともに太刀打ちできる相手ではない、ということである。
「ちょっと、どーすんの? やばいんじゃないの?」
『まァ見てな』
ワームウッドが地を滑り、一気にダルスロースとの間合いを詰める。
そこを狙って六発のミサイルが同時に飛来する!
『生っちょろいんだよッ!』
リンファは目を見張った。
一体どういう風に操縦桿を動かしているのか……ワームウッドはミサイルとミサイルの隙間、AC一体が通り抜けるのがやっと、位の部分を縫うように駆け抜けた!
しかし、ここからが問題だ。
あの超反応をもってすればいかにワームウッドのガトリングガンが素早いとはいえ回避されかねない。
リンファが見守る中、ワームウッドは……そのままダルスロースに体当たりを仕掛けた!
流石にこんな原始的な攻撃がくるとは思っていなかったらしく、ダルスロースはまともに体当たりを食らい、吹き飛んだ!
*
――逃げなければ――
とにかくクライドは今、それだけを考えていた。
どこへ、どうやって逃げるか……そんなことは全く思いつかない。
それでも逃げなければ、遠くへ行かなければ、あるのはただ死のみ。
逃げられるはずはないのだ。
イリーガル社を裏切り、おそらくプログテック社にも見捨てられるだろうし、頼みの綱のアルバートは死んでしまった。
もはやどこにも……表の世界にも裏の世界にもクライドの居場所はない。
クライドは走った。
無我夢中に、ただ灯りが見える方向へ。
息が切れる。
心臓は今にも弾けそうだ。
埃を吸い込みすぎて、肺までが痛み出していた。
クライドはふと前を見た。
そう、今までは前すらも見ていなかったのだが……とにかく、前に小さな灯りが見えた。
地下駐車場から外へ出るための、スロープである。
そこから外の灯りが漏れだしていた。
クライドはスピードを上げようとした。
しかし彼にできたのは、震える膝をなんとか前に出すことだけだった。
疲労はもう限界だ。
それでもクライドは走った。
……いや、喘ぎながら前へ進んだ。
スロープにたどり着いたときにはもう一歩も歩けないような気がしていたが、それでもなんとかスロープを登り切った。
クライドは辺りを見回した。
白い物が見えた。
白い、大きな人のような形をした物。
それは空を飛びながら、だんだんと大きくなっていった。
近付いてきているのだ。
吹き飛ばされたダルスロースだった。
*
ズ……ン……
重い音と砂煙を巻き起こし、ダルスロースは地面に倒れ込んだ。
丁度そこは地下へ降りるスロープがある場所だ。
もし人がいれば潰されていただろうが……この際それはどうでもいい。
『リンファ、今だ!』
「OK!」
リンファは操縦桿に付いているボタンを思いっきり押した。
マシンガンの弾丸が勢いよく飛び出し、ダルスロースの白い装甲をえぐり取っていく。
そこにワームウッドのレーザーキャノンも加わり、爆風を巻き上げた。
息もつかせぬ連射……二人がボタンから指を放したのは、ダルスロースの周りが完全に荒野と化した後だった。
つづく。