アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち   作:外清内ダク

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08 純白の世界に、愛を残して

「……終わった?」

『いくら重装ACでも、これだけの攻撃を耐えるなんて……』

 

 ――無理だ。

 

 ヨシュアは最後まで言い切ることができなかった。

 

 もうもうと巻き上がる煙の中に、白い輝きが見えたのだ。

 輝きはゆっくりと立ち上がり、人の形を取った。

 

 ダルスロースの装甲はいたる所で剥がれ落ち、傷口から金属骨格が痛々しく顔を見せていた。

 相当ダメージはあったようだが、行動不能なほどではなさそうである。

 

『アブねぇところだったぜ……

 だが、どうやらこいつの装甲のおかげで救われたみてぇだな』

 

 ヨシュアはちいさく舌打ちをした。

 どうやらこれは、厄介なことになったようである。

 

 というのも、ワームウッドの弾薬はもう底を尽きかけていたのである。

 残っているのはガトリングガン50発分と、レーザーキャノンがたったの3発。かなり余裕がない。

 

 一方のリンファも、レーザーキャノンは残っているもののマシンガンは既に空っぽである。

 

『そんだけ撃ってりゃ弾切れだろう?

 覚悟しな、ゆっくりと料理してやるぜ!』

 

 ダルスロースのミサイルが天空へ打ち上げられた!

 最上点まで上ると、ペンユウとワームウッドめがけて降り注ぐ!

 

「ちっくしょぉぉぉぉっ!」

 

 リンファは操縦桿をなぎ倒した。

 無理な操縦にもペンユウは俊敏に反応し、なんとかミサイルをかわしきる。

 

 ワームウッドも後退しながら回避行動を取った。

 弾薬が尽きかけていても、そのスピードをもってすれば回避はたやすい。

 

 ……しかし、突然ワームウッドの動きが止まった!

 

 ガゴォオオンッ!

 空気を振るわせ、ワームウッドの装甲が弾け飛ぶ!

 ミサイルは直撃である。

 

「なにやってんの、ヨシュ……」

 

 文句を言いつつリンファはワームウッドの方に目を遣った。

 傷つき、四本の足のうち一本が取れかけているワームウッド……

 その足下に、人がいる!

 

 リンファは映像を拡大した。

 茶色いセミロングの髪で、リンファと同じ制服を着ている女性……

 

「キャロル!?」

 

 リンファと別れた後で何をしていたのかと思えば、よりにもよってこんな所にいたとは。

 どうやらヨシュアは、キャロルをかばってわざとミサイルを食らったようである。

 

 やがて、ヨシュアがスピーカーを通してがなり立てた。

 

『速く逃げろっ!』

 

 かなり余裕がないヨシュアの声に、キャロルは弾かれたように走り出した。

 やはり生身の人間の足だけあって遅い。

 それでもしばらくの後にキャロルの姿は建物の陰に消えた。

 

 それにしてもあのヨシュアが見ず知らずの人間をかばうとは。

 きっと精神的に成長したんだろう、とリンファは勝手に納得した。

 

『くそっ……悪い、リンファ! 僕は逃げるっ!』

「……は?」

 

 ――前言撤回ッ!!

 

 ワームウッドは意外と俊敏な動きで後ろへ下がり始めた。

 見た目にはダメージは大きそうなのだが……もしかして本当は大丈夫なのか?

 

 しかし、ジョルジュもそれを黙って見逃すほど甘くはない。

 すぐさまワームウッドめがけてミサイルを放つ。

 

『食らうかッ!』

 

 ワームウッドは、残りのレーザーキャノン三発を近くの建物に向けて連射した。

 ミサイルは崩れ落ちたコンクリートに着弾し、爆発する。

 

 そして煙がおさまった時には、すでにワームウッドは全く見えないところまで逃げおおせていた。

 リンファのレーダーにも映っていない。

 どうやら移動能力はこれっぽっちも低下してはいなかったようである。

 

『逃げられたか……まぁいい、てめぇだけでも殺してやるぜッ!』

 

 ……はた迷惑な執念である。

 

 しかし、リンファはさっきのヨシュアの行動で、既に活路を見いだしていた。

 

 ダルスロースが毎度おなじみのミサイルを放つ。

 打ち上げ型ではなく、異様に追尾性能がいい方である。

 

 ペンユウはそのミサイルに向かって突っ込んだ。

 

 そしてミサイルが命中する直前、微かに機体を横にずらし、ミサイルの隙間をすりぬける!

 

 ――ヨシュアにできてあたしにできないはずがないっ!

 

 しかし、さすがは追尾性能の高いミサイル、ペンユウの横を通り過ぎた後で、百八十度方向転換する!

 ミサイルを後ろにしたがえて、ペンユウはまっすぐダルスロースに近付いた!

 

 

  *

 

 

 ジョルジュはほくそ笑んだ。

 

 敵のACはダルスロースの放ったミサイルを引き連れてこっちに向かっている。

 どうやら映画とかでよく見る、相手のミサイルを誘導して相手自身にぶち当てる、という戦法のようである。

 

「見え見えなんだよッ!」

 

 《キンドル》のおかげで相手の動きはハエがとまりそうなくらいゆっくりとして見える。

 ジョルジュは慌てることなくブースターを噴かして上空へ飛び上がった。

 

 ペンユウは……上空のダルスロースにミサイルを誘導するのは無理と判断したのか、そのままダルスロースの足下を通り過ぎた。

 

 ……勝った。

 ジョルジュは確信した。

 理由など特にないが、あるいはドラッグの作用で気分が高揚しているせいかもしれない。

 

 しかし次の瞬間。

 

 ガッ!

 

 ダルスロースの機体が揺れた。

 何かが頭上から降ってきて、ダルスロースに当たったのである。

 

 このとき、もしジョルジュがペンユウの姿を見ていれば、何が起きたのかを理解できたのかもしれない。

 

 ペンユウはレーザーキャノンを発射して、ダルスロースの側の建物を崩したのである。

 その破片が、空中へ飛び上がったダルスロースを墜落させることを見越して。

 

 そして……ジョルジュが最後に見たのは、自分が放った無数のミサイルの姿だった。

 

 

  *

 

 

 派手な爆発音を立てて、ミサイルは墜落したダルスロースに命中した。

 しかしこれだけではまだ不安だ。

 

 リンファは引き金を引いた。連射力では劣るが、単発の威力は高いペンユウのレーザーキャノンが、こんどこそダルスロースのコアを狙い違わず貫いていた。

 

 

  *

 

 

 太陽のまぶしさも、白い帽子が防いでくれる。

 

 彼女は花畑の向こうを見遣った。

 大きな青い蜘蛛から、降りてくる人影があった。

 

 彼女は大きく息を吸い込んだ。

 深呼吸をしても差し支えないほど、ここの空気は澄んでいる。

 地上でこんなことができる場所など、ここ以外にはないかもしれない。

 

 そよ風が彼女の茶色い髪をたなびかせた。

 彼女は風を頬に感じながら、蜘蛛から出てきた男が来るのを待った。

 

 男は、やがて彼女のすぐそばまでやってきた。

 彼女が真っ白な服で身を包んでいるのに対して、男は全身が真っ黒だった。

 コートまで着込んでいて、この陽射しの中では少し暑そうだった。

 

「ひさしぶり、ヨシュア」

「ああ」

 

 ヨシュア、と呼ばれた男は短く答えた。

 表情は微笑んでいたが、心の中は曇っているのだろう。

 彼女には、それが手に取るようにわかった。

 

「さっきはありがとう、助けてくれて」

「気にするな、キャロル」

 

 キャロルはセミロングの、茶色い髪を掻き上げた。

 

「姉さんの敵、討ってくれたんだね」

「シュイジンもだ」

 

 かつて、シュイジンという名のレイヴンがいた。

 仕事でヨシュアと出会い、意気投合した二人は数々の依頼を協力してこなしていった。

 そう、相棒と呼ぶのがふさわしい関係だっただろう。

 

 そのシュイジンには将来を誓い合った女がいた。

 名はマーサ。

 ヨシュアも何度かあったことがある。

 落ち着いているが、どこかとぼけた感じのする、かなりの美人だった。

 よくシュイジンを面食いだとからかったものだ。

 

 しかし……一週間ほど前。

 マーサの妹であるキャロルから、不意にヨシュア宛のメールが届いた。

 

 マーサが自殺した、というのだ。

 

 自殺の数日前、マーサが働いていたバーに一人の男が現れた。

 アルバート=マックスである。

 そして、よりにもよってマーサはアルバートに目を付けられてしまったのである。

 マーサは当然、なんとかして逃げだそうとした。

 しかし、抵抗も空しく――

 

 マーサは自殺した。

 事実を知ったシュイジンは、ヨシュアの制止も聞かず単身アルバートの牙城に乗り込み、そして返り討ちに遭って死んだ。

 

「でも……約束、違うじゃない」

 

 キャロルは顔を伏せた。

 輝くものが頬を伝い、落ちる。

 

「わたしにやらせてくれるって……言ったじゃない」

 

 何も、ヨシュアは言わなかった。

 キャロルはうつむいたまま、ヨシュアの胸に顔をうずめた。

 小さな嗚咽の声がヨシュアの耳に届いた。

 

 風が吹き抜けていく。

 キャロルの帽子が、風に乗って飛んだ。

 側の赤い花の上に、純白の帽子が横たわった。

 

 ヨシュアはそっと、手をキャロルの肩に置いた。

 まだ涙の収まらぬキャロルを優しく引き離す。

 

 帽子を拾い上げて、砂埃を払う。

 それをキャロルにかぶせた。

 

「人の命を背負うには、あんたの腕は細すぎる」

 

 ヨシュアの声は、深く澄み切って、果てしなく優しかった。

 

「ここで、静かに暮らすんだ。

 何もかも、忘れて」

 

 キャロルは何も答えなかった。

 その姿は悲しみに耐えているようにも、怒りに震えているようにも見えた。

 

 やがてヨシュアは背を向けて歩き出した。

 風がコートをはためかせる。花の向こうに消えていく背中を見つめながら、キャロルはその場に崩れ落ちた。

 大地に座り込んだまま、溢れ出してきた涙で頬を濡らす。

 

 涙は花の上に落ち、露のように輝いた。

 太陽の光を浴びて、風が微笑んでいた。

 

 純白の世界が、そこにあった。

 

 

  *

 

 

 青い蜘蛛にヨシュアが帰り着いたとき、彼が最初にしなければならなかったのは、リンファから届いた苦情のメールを処理することだった。

 

 

 

 

THE END




■次回予告

J「さて、次回はちょっと切ないラブ・ストーリー。
 主役はもちろんこの俺、ヨシュア・オースティンだ」

R「そうだっけ?」

J「再会したかつての恋人。
 蘇る追憶。
 そして再び燃え上がるあの頃の情熱……」

R「なんか盛ってない?」

E「とくもりいっちょー」

J「お子様には分かるまい。
 大人の恋は、苦味さえも愛おしいのさ」

R「そうだそうだ。
 こいつ、こーいうムカつくヤツだった」

E「エリィのほうが大人なのにぃ~」

J「

次回、アーマードコアEX 第3話
『ヘヴィ・メタル・シルバー』


 いい話だな。これは主役がいいんだ、うん」

R「はいはい。もう好きなだけ自分に酔ってて」

E「それでは、また~!」
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