アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち   作:外清内ダク

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02 リンファとヨシュアの腐れ縁

 

 

 奴が逃げた。

 

 その知らせは瞬く間に広まり、辺りは騒然となった。

 すぐさまガード幹部が中央制御室に招集され、第一種警戒態勢……

 つまり軍に攻撃を受けたのと同等の警戒配備がなされる。

 

 武装規制も完全解除され、無数の警官達が手に凶悪な兵器を持ち、あの男を追い回している。

 

 ガードの総司令官は頭をかかえていた。

 制御室に飛び込んでくる報告の全てが、こちら側の被害を伝えるものばかり。

 すでに数十人の警官がボダの手にかかり命を落としている。

 

「第三狙撃部隊……全滅です」

 

 またか。

 

 この総司令官が、ボダ逮捕の知らせに狂喜したのはつい一週間前のことである。

 それが今また、ガードの総力をあげてボダと相まみえることになろうとは。

 彼は遅ればせながらも後悔していた。

 自分の心の中に、油断があったに違いない、と。

 

「奴はどこに向かっている?」

「この進路だと……西門から脱出するつもりだと思われます」

 

 総司令官は考えを巡らせた。

 西門のあたりにあるのは……警官の宿舎と訓練施設、あとは重機のガレージくらいのものだが……

 

 彼はふと、あることに思い至った。

 

「おい、確か明日はデモ行進の監視任務があったな?」

「は? ええ、確かに……」

 

「ということは、『トラッカードッグ』はどうなっている!?」

 

 制御室の中にいる全員が凍り付いた。

 そしてオペレーターの言葉を待つ。

 

「じ……実弾が装填されていますッ!」

 

 誰もが言葉を失った。

 最悪の事態……考えようによってはガードの全滅よりもまずい。

 

 すぐさま対応できたのは総司令官だけだった。

 

「可能な限りの『ビショップ』と『スティンクバグ』を出動させろ!

 『トラッカードッグ』の警護を……

 いや、動き出す前に破壊しろ!」

 

 オペレーターはすぐさま命令を伝えた。

 しかし心の中には一抹の不安がよぎる。

 廉価だけが取り柄の『ビショップ』や『スティンクバグ』に、戦うために生まれてきたようなACを止めることなどできるのだろうか、と。

 

 

  *

 

 

『もったいねぇよなぁ……あれを壊しちまうなんて』

「仕方ないさ。ボダに奪われるよりはましだ」

 

 胴体に二本の足がついただけ、という単純な構造のMT『ビショップ』のコックピットの中でパイロット達がぼやいていた。

 

 ガレージの中で動いているのは、まだこの二機のビショップだけである。

 他の連中は準備が遅れているらしい。

 

 なんにせよ命令を実行しなければならない。

 二機は急いでガレージの奥へと向かった。

 

 そこに仁王立ちしているのは、白と黒で塗装された一機のACである。

 ガード所有、プログテック社製威圧用AC『トラッカードッグ』である。

 その周りには装備品のバズーカ砲と、その追加弾倉が整然と並べられている。

 

 どうやら、まだ異状はなさそうである。

 

『おい、本当にやるのか?』

「命令だろう。やるしかないさ……

 俺はそれより、こいつの機関砲でACを破壊できるかどうか、ってことの方が心配だね」

 

『全くだ……っ!?

 ぐああっ!』

 

 ――なんだ!?

 

 もう一人が異状を察知するが速いか……

 

 彼の乗るビショップもまた、突然動き出した『トラッカードッグ』のバズーカ砲によって、粉々に粉砕されていた。

 

 そう。

 すでに遅かったのだ。

 

 ボダはトラッカードッグのコックピットのシートに身を埋め、満足げに哄笑をあげていた。

 

 

  *

 

 

 酒の匂い。

 弾けるようなピアノの音。

 マスターがオーダー通りにジンを小さなグラスに注ぎ、カウンターに置く。

 

 黒いコートを羽織った長身の男はそれを少し口に含んだ。

 

 飲み下すと、喉に熱い感覚が広がる。

 男は思った。

 やはり酒はこのくらいきつくなくては。

 

 この店には初めて来るが、なかなか雰囲気のいい店だ。

 何より酒が旨い。

 彼はそう酒好きではないが、ここにならまた来てもいいと感じた。

 

 戸が軋み、ゆっくりと開いた。

 外の湿った風が薄暗い店に忍び込んでくる。

 誰か客が来たようだった。

 

 カウンター席に腰掛ける男の背中の方で、なにやらざわめきが起こる。

 それも男の声ばかり。

 彼がふと顔を見上げると、マスターもまた目を細めていた。

 

 靴音がざわめきを切り裂く。

 この音は、おそらくハイヒールだろう。

 女か。

 彼も周囲をざわめかせるような女に興味がないわけではないが、今日は女に用があってここに来たわけではない。

 

 女の靴音は彼の真後ろで止まった。

 彼の隣の席にその女が腰を下ろす。

 

 女は澄んだ声でマスターに言った。

 

白乾児(パイカル)、ある?」

 

 マスターは渋い顔をした。

 

「ないならいいわよ。

 彼と同じの」

 

「ジンのストレートだぞ。

 大丈夫なのか?」

 

 女は彼の言葉を鼻で笑った。

 

 声を聞いただけでわかる。

 この女に会うのは……これで三度目だ。

 

 黒い瞳と黒いショート・ヘア。

 目尻はやや吊り上がっていて、挑発的な雰囲気を漂わせる。

 アジア人に許された小さく引き締まった鼻。

 淡い色の口紅で一層映える唇。

 

 彼と同じ、レイヴンと呼ばれる傭兵の中の一人。

 それが彼女、リンファである。

 

 リンファ、という名は、今や闇の世界の傭兵達の間に知れ渡っている。

 彼が気に入らないのは、なぜか噂の中でリンファの相棒にやたら腕の立つ黒いコートの男がいる、と囁かれていることである。

 

 今日は、リンファはやけにめかし込んでいる。

 普段ならハイヒールなど絶対に履きそうもないのだが。

 

 リンファはカウンターに置かれたジンを、グラスの半分くらい一気に飲み下した。

 横で彼が目を見張る。

 彼も結構酒には強い方だが、どうやらこの女には敵わないようである。

 

「最近よく遇うわね、ヨシュア」

 

「遇いたくはないけどな。

 ……お前もか?」

 

 ヨシュアと呼ばれた黒いコートの男はぶっきらぼうに問いかけた。

 

 リンファもヨシュアも、繁栄する社会の闇を駆け抜ける傭兵、レイヴンである。

 同じ所で出くわすということは、同じ仕事である可能性が高い。

 

「殺人鬼ボダ……こんないいネタ、独り占めにはさせないわ」

 

 リンファの声は、隣にいるヨシュア以外には聞こえないくらい小さなものだった。

 

 殺人鬼ボダ。

 

 大破壊以後最大級の凶悪殺人犯。

 二年ほど前に突然犯行を始め、犠牲者はざっと千人以上。

 そのうち、追っ手のガードが半分を占める。

 一日に一人か二人は殺していた計算になる。

 

 その手口は残虐……ある者は首の骨を折られ、またある者は胸板を手刀で貫かれ、ボダに出会って生き延びているものは両手で数えるほどしかいない。

 

 十日ほど前に、ついにそのボダがガードによって逮捕された。

 その当初はかなりのニュースになり、誇らしげに逮捕時の状況を語るガードの面々がテレビで連日放送されていたのは記憶に新しい。

 その話題性たるや、ガードのスポンサーであるプログテック社の株が急騰したほどだ。

 

 しかしつい三日前のことである。

 ボダは拘置所を脱走。

 立ちはだかるガード百二十六人を殺害し、ガード所有のACを強奪した。

 

 慌てたガードは急遽ボダに賞金を懸けた。

 賞金額は七万コーム、賞金首の生死も問わない、という異例の好条件に、普段は企業からの依頼を主にこなすレイヴンたちが飛びついた。

 

 そんな中で、リンファとヨシュアはこのバーにボダが現れる、という噂を聞きつけたのである。

 

「僕と同じ情報を探り当てたか。流石だな。

 ……どうだ?

 奴は手強い。

 ここは一つ、手を組まないか?」

 

「冗談。あんたと組んだりしたら賞金半分になっちゃうじゃない」

 

「実は、ガードのお偉いさんにコネがあってね。

 僕に限り賞金が十万コームでるのさ。

 二人でする楽な仕事で報酬は五万コーム。

 悪い話じゃないだろう?」

 

 いくら二人組だろうが、凶悪な殺人鬼を相手にするのが楽な仕事かどうか……

 リンファは迷った。

 

 ジンの残り半分を一気に飲み干す。

 熱い感覚が喉を通り抜けていった。

 

 グラスをカウンターに置くと、リンファは隣でちびちび飲んでいる男に視線を送った。

 

「いいわ、協力しましょ。

 でも、後でそのお偉いさん紹介しなさいよ」

 

「憶えてたらな」

 

 ヨシュアのグラスも空になった。

 

 

 

 

つづく。




今回登場したAC

■トラッカードッグ
機体名 トラッカードッグ
パイロット ボダ
HEAD HD-HELM
CORE XXL-DO
ARMS AN-3001
LEGS LN-D-8000R
BOOSTER B-VR-33
FCS FBMB-18X
GENERATOR GBG-XR
BACK UNIT R M118-TD
BACK UNIT L -
ARM UNIT R WG-B2180
ARM UNIT L -
OPTION SP-ABS, SP-SAP, SP-S/SCR, SP-E/SCR
●COLOR
(ボダ機)
DUCK HUNTER/METAL SILVER
(警察所有機)
GENERAL BASE(39,39,39) OPTION(12,12,12) DETAIL(15,15,15) JOINT(10,10,10)
●備考
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