アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち   作:外清内ダク

20 / 87
06 シェリー

 

 

 

「ねえ」

 

 その声はか細く、まるでそよ風のようだった。

 しかし甘えの色はない。

 風はヨシュアの体を優しく撫でていった。

 

「どうして?」

 

 暖かいものがヨシュアに触れた。

 また風が動いたのだ。

 風の視線は彼に向けられているようだった。

 

 気付いてはいたが、彼は目を合わせようとはしなかった。

 代わりに腕を曲げて風を抱き寄せた。

 

「さぁな」

 

 風はその答えに満足したようだった。

 

 一体何が聞きたかったのだろう。

 彼にはわからなかった。

 

 また風が動いた。

 彼は風と自分の境界線がわからなくなってしまった。

 

「どうしてだ」

 

 彼がはじめて風を見つめた。

 金色の糸の束が妖しく自分にからみついているのが見えた。

 

 風は青い瞳を輝かせていた。

 

「どうして、ここにいる」

 

 風は彼に酔った。

 そして唇を触れ合わせた。

 

「風は、流れなければ生きていけないのよ」

 

 

  *

 

 

 憤怒

 殺意

 悲哀

 絶望

 懐古

 同情

 

 風。

 

 ヨシュアの中に渦巻いていたのは、そのどれでもなかった。

 その全てをあわせた、その全てを越えたもの。

 それを形容する言葉を、彼は知らない。

 

「ボダァアアァァァアァァァァッ!!」

 

 ヨシュアは走った。

 銃を連射しながらボダに迫っていく。

 

 全ての銃弾を叩き落とし、ボダは突っ込んでくるヨシュアの頭をつかみ取った。

 腕一本でヨシュアの体を持ち上げ、地面に叩き付ける。

 

 く……はっ……

 

 ヨシュアの口から呻き声が漏れた。

 

「お……マ…え……」

 

 ヨシュアの眼前に顔を近づけ、ボダは喉からひねり出すように声を出した。

 アクセントも発音もおかしい。

 まるで質の悪い機械のような声だった。

 

「おま……エ……オもし……ろイ……ぞ」

 

 両目を見開くヨシュアに向かって、銀色の刃が振り下ろされる!

 

 ……と、その時!

 

 ゴバァッ!

 

 轟音を立て、工場の壁に大穴が空いた!

 砂煙を突き抜けて、一台のトラックが工場に突っ込んでくる。

 

 それを見たボダはすぐさま立ち上がり、闇の中へと消えていった。

 慌てて追いかけようとするリンファの背中に声がかかる。

 

「りんふぁちゃ~ん!」

 

 振り返るとそこには、トラックの運転席から上半身をのぞかせたエリィの姿があった。

 そういえば、トラックの荷台にのっている、ブルーシートを被せられたものは……

 

「おまたせ!」

 

 

  *

 

 

[戦闘モード起動]

 

 愛機『ペンユウ』のコックピットの中で、リンファはコンピューターの声を聞いていた。

 自ら機体を覆うシートを剥がし、トラックの荷台から立ち上がる。

 

「エリィ、聞こえる?」

 

『きっこえま~す。

 りんふぁちゃん、ここくさいね~』

 

「我慢して。

 それよりヨシュアは大丈夫?」

 

『うん、だいじょぶだよ。

 わーむうっどにのるって』

 

「わかった。エリィは早く逃げて」

 

『りょ~かい!』

 

 リンファはレーダーに目をやった。

 すぐ近くにある光点はエリィが乗ってきたトラック。

 遠くから近付いてくるのはヨシュアのACワームウッドだろう。

 

 そして、レーダーに新たな点が表示された。

 

[AC確認。

 アイザックシティ・ガード所有、『トラッカードッグ』]

 

「やっぱこの近くに隠してたのか……」

 

 レーダーによると、どうやらボダは隣の倉庫にいるようである。

 エリィから受け取った地図と照合する。

 

 第三番製品貯蔵庫……

 何が貯蔵されているのかまでは書いていないが、暴れ回るスペースは存分にありそうだった。

 

 エリィはもうトラックで外へ逃げ出している。

 結構逃げ足は速い。

 

 リンファもペンユウを操作し、その穴から工場の外へ出た。

 三番倉庫は少し北にある。

 レーダーの反応に注意しながらペンユウは倉庫に忍び寄った。

 

 おそらく製品の搬出にMTか何かを使っているのだろう。

 ACが余裕で通り抜けられるくらいの大きな扉がついている。

 鍵が閉まっているだろうが、今は緊急事態である。

 きっと、ヨシュアがコネがあるというガードのお偉いさんが弁償してくれるだろう。

 

 ガガガッ!

 

 リンファはトリガーを引いた。

 ペンユウのマシンガンが火を噴き、扉を粉々にうち砕いた。

 

 工場の中を覗き込む。

 レーダーの光点と同じ位置に、銀色の巨人が仁王立ちしていた。

 

 ガード所有の威圧用AC『トラッカードッグ』……塗装は変わっているが、間違いない。

 バズーカと追加弾倉のみ、などといいう意味不明な武装をしたACは他に聞いたことがない。

 

 ペンユウのマシンガンが再び火を噴いた。

 高速の銃弾が雨あられとトラッカードッグに迫る!

 

 しかしトラッカードッグはバズーカを地面に向かって放ち、その爆風で弾丸を吹き飛ばした。

 どうやらボダは、兵器の巧い使い方を知っているようである。

 

 砂煙を煙幕代わりにして、ペンユウは工場の中に飛び込んだ。

 レーダーの光点はこちらとの距離を一定に保って移動している。

 中距離……バズーカが最も効果を発揮する間合いである。

 

 しかし、今は砂煙のおかげで視界が悪い。

 こういう状況ではマシンガンの方が有利!

 

 レーダーから相手の位置を算出し、火器制御機関にデータを入力する。

 あまり正確ではないが、だいたいの位置にロックオンすることはできる。

 

 ガガガガガッ!

 

 マシンガンの銃弾が煙を貫く!

 しかし……手応えはない。

 そのかわりに、レーダーの光点が大きく右に動いた。

 回避行動をとった証拠である。

 

 その軌道を頼りに敵位置をより正確に算出する。

 これを繰り返せば、いずれは相手に当たる!

 

 エリィ特製FCS補助ソフト、『ビンゴくん三号』である。

 なかなか便利な代物だが、名前がいまいちなところが難点だ。

 

 リンファが再度トリガーを引こうとした、その時!

 

 レーダーの警告音が鳴った。

 トラッカードッグが猛スピードで近付いてくる!

 

 収まりかけた砂煙を切り裂き、銀色の巨人が姿を現す。

 そのままトラッカードッグは、ペンユウに体当たりを仕掛けた!

 

 かわしきれずにはじき飛ばされるペンユウ。

 ブースターで体勢を立て直すも、その目の前にはバズーカの弾丸が迫っていた。

 

 ――直撃!?

 

 リンファは覚悟して目を閉じた。

 

 ドグォアァァッ!

 

 ペンユウの眼前の空中で、突然バズーカ弾が爆発を起こした。

 衝撃がペンユウを震わせるが、直撃ほどではない。

 

『気を付けろ、手強いぞ』

 

「ヨシュア!」

 

 青い蜘蛛……ヨシュアの四足AC『ワームウッド』が、壊れた扉から滑り込んできた。

 どうやらさっきは、ヨシュアが敵弾を撃ち落としてくれたようである。

 

 ペンユウが体勢を立て直している間に、ワームウッドはトラッカードッグに攻撃を仕掛けた。

 肩に装備しているレーザーキャノンを乱射しながら相手を追いつめていく。

 

 しかしトラッカードッグは、避けるどころか真っ正面から弾幕に突っ込んでくる!

 身を低くしてキャノンの弾丸をかわし、そのままワームウッドに迫る!

 

 バズーカの銃口は真っ直ぐにワームウッドのコアに向けられている!

 

 バズーカの弾丸はワームウッドの足下に着弾した。

 慌てて回避するも、爆風からは逃れられない。

 安定性のないワームウッドは大きく吹き飛ばされた。

 

 そこを狙ってさらにトラッカードッグのバズーカが火を噴く!

 

 ――させるかっ!

 

 ペンユウはすでに体勢を立て直している。

 マシンガンを構え、右から左へと掃射する!

 

 ガガガガガッ!

 

 マシンガンは狙い違わずバズーカ弾を撃ち落とした。

 同時に後ろのトラッカードッグにも弾丸が迫る。

 

 トラッカードッグは空中に飛び上がりそれをかわすと、自分の肩に手を遣った。

 左手でつかんだものは……バズーカの追加弾倉。

 

 規格品通りなら、あの中には十発分のバズーカ砲弾が入っているはずだ。

 必要に応じて弾丸を補給できるわけだが……

 

 ……ということは、まさか!?

 

 リンファの予感通り、トラッカードッグは追加弾倉をもぎ取り、ペンユウに向かって投げつけた!

 

 足下に転がる幾つものバズーカ弾……

 そして、トラッカードッグはそれを狙ってバズーカ砲を撃つ!

 

「やばっ……!?」

 

 慌ててリンファは操縦桿をなぎ倒した。

 しかし……間に合わない!

 

 ゴガァァアアアァァンッ!

 

 

 

つづく。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。