アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち   作:外清内ダク

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07 緊急警報/レッド・アラート

 

 

 

 爆発の衝撃が、コックピットを襲う。

 機体が激しく揺れ、いくつものレッドランプが一度に点灯した。

 警告音はさっきから鳴りっぱなしである。

 

 頭が痛い。

 揺れのおかげで打ってしまったようだ。

 額に当てた手に赤黒い血がこびりついた。

 

 ヨシュアは舌打ちをした。

 損害を確認する。

 動かないことはないが、機動性能は30%以下にまで低下しているだろう。

 さすがはバズーカ砲。威力は半端なものではない。

 

 その時、不意に通信が入った。

 

『ヨシュア、大丈夫!?』

 

 リンファである。

 

 かなり大丈夫ではないが、無駄に心配させてもしょうがない。

 それに……リンファをかばったのはこっちなのだ。

 

 ペンユウにバズーカ砲が命中する直前、ワームウッドが飛び出したのである。

 砲弾はワームウッドの胴体に食い込み、床に散らばった追加弾倉には誘爆しなかった。

 

「喋っている暇があったら自分の心配でもするんだな」

 

 そう言いつつもその声には余裕がない。

 それもそのはず、操縦桿を倒しても、出力がほとんど上がらなかったのである。

 

 ヨシュアは外部モニターを見遣った。

 トラッカードッグがこちらに迫ってきている。

 止めを刺すつもりだろうか。

 

 その時、突然視界の外から赤いACが飛び込んできた。

 マシンガンの掃射でトラッカードッグを追い払う。

 言うまでもなくペンユウである。

 

『ヨシュア、どうせもうまともに動けないんでしょ?

 今のうちに撤退しなさいよ』

 

「冗談じゃない。

 それより……」

 

 ヨシュアはモニター越しに倉庫の中を見回した。

 立ち並ぶ何かのタンク。

 そこにうがたれた内容物を示す文字。

 

「時間、稼げるか?

 できるだけ奴を動き回らせて、だ」

 

『簡単に言ってくれるよね』

 

 文句を言いながらも、ペンユウはトラッカードッグを追い始めた。

 マシンガンで牽制し、わざとそれをかわさせている。

 さすがに巧い。

 

 ヨシュアはまだ生きている動力を全てレーザーキャノンに回した。

 慎重に標準を合わせる。

 あとはタイミングを計るだけ、である。

 

 彼の額から汗が流れた。

 汗は血と混ざり合い、髪をべっとりと顔に張り付けた。

 

 ヨシュアはトリガーに指をかけた。

 

 

  *

 

 

 ガガガガッ!

 

 マシンガンを放つ。

 

 ヨシュアは時間を稼げと言ったが、別にこのまま倒してしまっても良いわけである。

 もちろんリンファは手加減などせずに本気で狙っているのだが……当たらない。

 

 トラッカードッグの動きには予想以上にキレがある。

 下手に手加減などしようものならこっちが危ない。

 実際、さっきからいくつものバズーカ砲弾がペンユウの装甲をかすめている。

 

 リンファはさらにトリガーを引いた。

 トラッカードッグは、弾丸をかわしてこちらに突っ込んでくる!

 

「馬鹿の一つ覚えっ!」

 

 リンファは叫んだ。

 トラッカードッグのこの動きは予想済み。

 レーザーブレードの出力を最大まで上げ、突っ込んでくる敵に斬りつける!

 

 しかし、直前でトラッカードッグは方向を変えた。

 ブレードの届かないペンユウの右手に回り込み、そして……

 左の拳を、そのままペンユウに叩き付けた!

 

 ごっ!

 

 コックピットが揺れる。

 まさか、ブレードも装備していない素手で殴りかかってくるとは……

 ダメージは大したことはないが、一瞬機体が揺らいだ。

 

 その隙に、もちろんトラッカードッグはバズーカを構える!

 

「目には目をっ!」

 

 ペンユウは左腕を振り回し、トラッカードッグのバズーカの銃身を弾いた。

 

 ことわざの使い方は間違っているが、効果はある。

 弾丸はペンユウから大きくはずれ、床で爆風を撒き散らした。

 

 ブースターを噴かし、ペンユウは飛びすさる。

 バズーカをかわしにくい近距離での戦いは不利である。

 

 ――まだ!?

 

 リンファはワームウッドに目を遣った。

 レーザーキャノンを構えたまま、ぴくりとも動こうとはしない。

 

 そうこうしている間にもトラッカードッグは再び近付いてきた。

 バックジャンプしながらマシンガンを掃射し、距離をとる。

 

 その時、トラッカードッグが天井に向かってバズーカを発射した。

 瓦礫と砂埃で視界が封じられる!

 

 リンファはすぐさまレーダーを確認した。

 しかし、レーダーに映るのは妙なノイズばかり。

 

「!?」

 

 リンファは天井の、バズーカで撃ち抜かれた辺りを見上げた。

 へし折れた鉄骨が巨大な怪物のような影を作り出す。

 電気配線のコードは絶縁体がとけて、そこから青白いスパークを飛び散らせていた。

 

 ……スパーク?

 

 まさか!?

 

 気付いたときにはもう遅い。

 ボダは、電磁波によってレーダーを攪乱し、同時に視界を煙で遮って、そこに襲いかかるつもりなのである。

 条件は向こうも同じのはずだが、あの妖怪野郎ならこちらの駆動音で位置を特定する、なんていう技が可能かもしれない。

 

 リンファの予感は的中した。

 砂煙を突き抜けて、銀色のトラッカードッグが突如姿を現した。

 

 位置は……ペンユウの真後ろ!

 

 どうやらペンユウの後ろにあったタンクに上り、そこから飛び降りてきたようである。

 とても回避が間に合う状況ではない!

 

 ……と、その時。

 

『伏せろっ!』

 

 ヨシュアの声が、コックピットの中に響き渡った。

 

 

  *

 

 

 がっ!

 

 ワームウッドのレーザーキャノンは、狙い違わずそれをぶち抜いた。

 

 即ち……トラッカードッグが乗っていたタンクである。

 

 タンクは大きく裂け、そこから内容物が吹き出してきた。

 無色透明な液体。

 見ただけでは水と区別がつかないかもしれない。

 その液体は、トラッカードッグを押し流した。

 

 ペンユウは、タンクの真下にいたせいで液体はほとんどかからなかった。

 しかし、背筋に悪寒を感じたリンファは慌ててその場を離れた。

 

 タンクの外壁には、大きくこう記されていた。

 

 《Nitric Acid》――《硝酸》、と。

 

 

  *

 

 

 ギアの駆動音が響く。

 ペンユウは片膝をついた。

 コアにあるコックピットの扉が開き、そこからワイヤーが垂らされる。

 

 リンファはワイヤーについた足場をつたってペンユウから降りた。

 先にワームウッドを降りて溶解していくトラッカードッグを見つめていたヨシュアの隣に並ぶ。

 

 ヨシュアは珍しく煙草を吸っていた。

 紫煙が立ち上り、リンファはむせた。

 それに気付いたのか、ヨシュアは煙草を吐き捨てた。

 

「終わったわね」

 

 ヨシュアは何も答えなかった。

 ただじっと、硝酸の海に飲み込まれていく銀色の機体を見据えていた。

 瞳は研ぎ澄まされた刃のように輝いていた。

 

 リンファも彼と一緒にその光景を眺めていた。

 もし死体が残らなかったら、ガードは賞金を支払わないかもしれない。

 そんなのは嫌だな、と漠然と考えていた。

 

 その時、酸の海の中で何かが煌めいたような気がした。

 最初は銀色の装甲板かとも思ったが、それとも多少違って見えた。

 

 ずぶりっ。

 

 鈍い音がここまで届いた。

 間違いない。

 溶け去っていくACの外装を突き破って、誰かの左腕が姿を見せた。

 リンファはあんな腕を持つ男は一人しか知らない。

 

 刃が付いた義手。

 

 ばじゅっ!

 

 跳ね飛ばされた装甲板が、酸に触れて音を立てた。

 ACの残骸から這い出てきた男、ボダはその装甲板を足場にして酸の海を飛び越えた。

 

「生きてる……」

 

 ふとヨシュアを見ると、彼の額には脂汗が浮かんでいた。

 

 ひゅー、ひゅー。

 

 ボダの荒い息づかいが聞こえてきた。

 肩を上下させ、生きているのすら辛そうだった。

 

 リンファは息を飲んだ。

 ボダの顔面は、酸のせいであちこちが焼けただれていた。

 全身の皮膚が黄色く変色し、いくつもの水ぶくれが生まれては弾け、また生まれてを繰り返している。

 

「野郎」

 

 ヨシュアが唸った。

 血に濡れた手をコートの中に入れる。

 拳銃を取り出すと、すぐさまボダに向けた。

 

 ボダはきびすを返すと走り出した。

 向かう先は倉庫の入口。

 逃げるつもりだろうか。

 

 リンファがそう思ったときには、ヨシュアはすでに走り出していた。

 

 

 

つづく。

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