アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち   作:外清内ダク

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03 [ランカーACを確認しました]

 

 

 

 ヨシュアはその場に凍り付いた。

 

「どォした? 青ざめてンのか?

 どうやら、俺の名を知っていたようだな」

 

 コンテナ越しに男……エアハルトの声が聞こえる。

 奴はこっちの驚きや恐怖を楽しんでいるようだった。

 

 『多相のエアハルト』。

 知らないわけがない。

 

 エーアスト、ハスラーワン、ナポレオン……そして、ワームウッド。

 その強さ故に伝説と化したレイヴンは多くいる。

 しかし伝説であるが故に、またその寿命も短い。

 高名なレイヴンは名をあげようとするレイヴン達の標的となり、やがては戦いに疲れて去っていくか、命を落とすかするのである。

 

 そんな中で、今なお生きた伝説となっているレイヴンがいる。

 その名は……『多相のエアハルト』。

 未だかつて任務に失敗したことは一度たりともなく、過去のアリーナ戦でも無敗。

 マスターアリーナに昇格――つまりは事実上の殿堂入りを果たす日も近い、と噂されている。

 

 エアハルトの一番の特徴は、いくつものACを使い分けること。

 現れるごとに機体が異なり、それと同時に性格も全く変わってしまうらしい。

 まるで多重人格症か何かのように。

 

「エアハルト……一体僕たちに何の用だ」

 

「決まってンだろ。依頼だ。

 お前らを殺せ、ってな」

 

 ヨシュアは心の中で舌打ちした。

 

 さっきまで、彼の頭の中には三つの選択肢があった。

 一つは、なんとか逃げ出すこと。

 二つ目は交渉によって平和的に解決すること。

 

 しかし、今のエアハルトの言葉でこの二つは消えた。

 そう簡単に逃げさせてくれるわけがないし、交渉など問題外だ。

 

 残る選択肢はただ一つ。

 目の前にいるこの男をぶちのめすことである。

 

 とにかく、リンファやエリィと合流しなければ話にならない。

 

 ヨシュアは手近に転がっていた箱をひっつかんだ。

 それをコンテナの右側に放り投げ、自分は逆方向に飛び出す。

 どの程度役に立つかは疑問だが、とりあえずの目くらましである。

 

 ドアに向かって一直線に走りながら、エアハルトがいるとおぼしき方向に銃を乱射する。

 弾丸は鉄の柵に当たって弾かれ、エアハルトまでは届かず床に転がった。

 

 エアハルトが身を伏せている間に、ヨシュアはドアを開けた。

 半分転がるようにしてその向こうに駆け込む。

 

 やたらとだだっ広い部屋……最初に三人が入ってきた部屋である。

 

 

  *

 

 

「エアハルト?」

 

 リンファは首を傾げた。

 聞いたことがあるような、ないような。

 

 普通レイヴンなら知っていて当然の名前だが、あまり他人のことに興味がないリンファは、たとえ聞いたことがあっても忘れてしまっていた。

 

「知らないのか……結構俺も有名だと思ってたんだがな。

 まあ、いいさ。

 あんた達を殺せって依頼を受けた。

 悪いが死んでもらうぜ」

 

 げ。

 

 リンファは顔をしかめた。

 てっきり侵入者を排除しようとしているのだとばかり思っていたが……

 どうやら自分たちを最初から狙っていたようである。

 

 厄介なことになった。

 とりあえずヨシュアやエリィと合流しないと危険だ。

 

 ……と、その時、リンファの脳裏にある考えが浮かんだ。

 

「ってことは……まさか!」

 

 それを確かめる暇もなく、エアハルトが走る。

 

 間合いを詰められると不利だ。

 とりあえずリンファは後ろのドアを開け、その中に飛び込んだ。

 

 ここも重機の倉庫らしい。

 とにかく全力疾走し、近くのMTの影に身を隠す。

 奴が追って部屋に入ってきたところを狙撃するつもりだった。

 

 がちゃっ。

 

 金属音がする。

 そして微かな靴音。

 テンポは遅い。

 

 どうやら向こうも、警戒しながら探しているようである。

 リンファは気配のする方にゆっくりと忍び寄り、銃を構えた。

 

 おそらく、このMTの向こうに奴はいる。

 

 ――瞬間!

 

 気配は、背後にいきなり現れた!

 

 ふり返っている暇もない!

 リンファは横に飛んで、背中の方から迫る銃弾をなんとかかわしきった。

 

 慌てて別のMTの影に隠れ、神経を研ぎ澄ます。

 気配は今や、完全に消え去っていた。

 

 今さらながら、相手の腕前は凄まじい。

 気合いを入れてかからないと、冗談ではなく命が危ない。

 

 そういえばさっきの攻撃は銃だった。

 ナイフの他にもちゃんと銃も持っていたらしい。

 備えはいいが、逆に何故最初から使わなかったのか、という疑問も頭をかすめた。

 

 注意深くリンファは辺りを見回す。

 すぐ近くに、ここに入ってきたときのドアがある。

 あそこから道なりに戻ればペンユウを置いてある部屋まで戻れるはずである……

 道に迷いさえしなければ。

 

 そのドアにたどり着くにはMTの影から出なければならない。

 少々……いや、かなり危険だ。

 

 しかし、やるしかない!

 

 リンファはMTの横から目だけを覗かせ、死角の様子を窺った。

 とりあえず、動くものは何も見えない。

 

 ――やっぱ、怖いなぁ……

 

 さすがのリンファも一瞬怖じ気づくが、次の瞬間には表情を引き締めた。

 そう。死など、とうの昔に覚悟したことなのだ。

 

 覚悟を決め、リンファは駆けだした。

 ドアに向かって一直線に走る。

 

 ダンッ!

 

 銃声が響く。

 弾は僅かにリンファをかすめて飛び去った。

 冷や冷やしながら爆音の響いた方に腕を伸ばし、適当に銃を乱射する。

 

 遠目に、慌ててMTの影に隠れる男の姿が見えた。

 瞳の色まではわからないが、あの黒髪や服装は間違いなくエアハルトである。

 

 ともかく、相手が隠れているうちに逃げてしまうにかぎる。

 リンファはドアを開け、その中に飛び込んだ。

 

 

  *

 

 

[戦闘モード、起動]

 

 コンピューターの声がコックピットに響く。

 長年ともに戦ってきた愛機『ワームウッド』の操縦席に身を埋め、ヨシュアは淡々と起動作業をこなしていった。

 

 エアハルトもレイヴンだ。

 ならば、おそらくACで出撃してくる。

 本番はここから、である。

 

 その時、彼の耳に聞き慣れた声が飛び込んできた。

 

『ヨシュア、聞こえる?』

 

 リンファからの通信である。

 

 ヨシュアはモニター越しに、ペンユウの方を見遣った。

 赤い巨人の足下で、端末を手にして喋っている女が一人。

 

「早く起動しろ。非常事態だ」

 

『こっちもよ。

 エアハルトとかいう変な奴に襲われちゃって』

 

「……! お前もか?

 ……まあいい、とりあえずペンユウを動かせ。

 話はその後だ」

 

 リンファは手に持っている端末のボタンを押した。

 すぐさま、コックピットのドアが開き、ワイヤーでできた梯子が垂らされる。

 

 彼女が持っている端末は、ACに乗るときやACのコンピューターを外部から起動するときに使うものである。

 レイヴンの必需品の一つだ。

 

 やがて、リンファから改めて通信が入った。

 

『お前も、ってどういうこと?』

 

「僕も襲われた。

 追ってこないと思ったら、そっちに行ってたんだな」

 

『ふぅん……

 ところでさ、あいつ何者なわけ?

 確かエアハルトとか名乗ってたけど』

 

 一瞬、ヨシュアは絶句した。

 まさかエアハルトの名を知らないようなレイヴンがいたとは。

 もぐりにもほどがある。

 

「四つの人格を持つ一流レイヴンだ。

 気を付けろ、現れるたびに違う機体を使うらしいから対策の立てようもない」

 

 簡単に説明してからヨシュアはふと思い立った。

 そういえば、エリィがいない。

 見つけられなかったのだろうか。

 

「ところでエリィは?」

 

『……見つかんなかった。

 もしかしたら、エアハルトに……』

 

 どうやらこれは……一刻の猶予もないようである。

 

 ――と、その時。

 

 ゴバァアッ!

 

 部屋の天井が音を立てて崩れ去った!

 そこから真っ白なACがブースターを噴かせながら降りてくる。

 随分と、派手な登場である。

 

[敵機確認。

 ランカーAC『アブソルート』]

 

 その声が、戦いの引き金となった。

 

 

 

 

つづく。

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