アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち 作:外清内ダク
「つかまっちゃいましたぁ。
えへへ~」
この工場の一番奥に、小さな部屋がある。
他と同じく壁や床はコンクリートで固められているが、比較的掃除は行き届き、最新型のパソコンがデスクに載っている。
工場の全機能を司る制御室である。
その部屋の中で、後ろ手に手錠をかけられたまま、エリィはへらへらと笑みを浮かべた。
床に頬ずりをしてその冷たい感触を楽しむ。
いつのまにか、彼女はいつもの『へなへなえりぃ』に戻っていた。
エアハルトはその様子を見下ろしながら、半分呆れたような表情を浮かべていた。
本物の多重人格、というのはこいつのようなものを言うのだろうか。
エアハルトの指がパソコンのキーボードを叩く。
画面に表示されるいくつかの光点。
工場のいたるところに取り付けられた監視装置の情報は、全てこのコンピューターに集められている。
侵入者の位置など、手に取るようにわかる。
「あの連中はあんたの相棒だそうだな」
エアハルトはエリィに目を遣った。
背筋の力だけで上体を起こし、エリィは真っ直ぐな視線をエアハルトに向ける。
「そーでぇす。
りんふぁちゃんはえりぃのあいぼうでぇす」
とろとろとした口調で、エリィは応えた。
エアハルトが頭を掻く。
どうも、こういうタイプは苦手だ。
会話のペースに、逆の意味でついていけない。
「なら、人質としては十分だな」
「勘違いしないで」
突然、エリィの口調と目つきが変わった。
どうやら、また『真面目エリィ』になってしまったようである。
「リンファはともかく、ヨシュアはわたしを人質にとったくらいで怖じ気づくような奴じゃないわ」
「リンファと……ヨシュア、か」
エアハルトはデスクの上にある端末を手に取った。
レイヴンが使う、ACに乗るためのものである。
口振りからすると、どうやら二人の名前も知らなかったようだ。
端末を持つのと逆の手でエリィの腕をひっつかみ、強引に立ち上がらせた。
「来い。
人質になるかどうか、試してみようじゃないか」
*
「『アブソルート』!?」
リンファはコンピューターの報告をオウムのように繰り返した。
モニターには、ペンユウ、ワームウッドとにらみ合う一機のACが映っている。
全身が真っ白な、逆間接タイプのACである。
右手にはレーザーライフル、そして大きなミサイルを両肩に背負っている。
慌ててリンファはネストの登録情報に照合した。
『アブソルート』……確かに、エアハルトのACとして登録されている。
『へへ……見つけたぜぇ……』
通信……アブソルートからのものである。
「エリィはどこ!?」
『エリィ?
ああ、あの女か。
俺を殺したらその後でゆっくりと探しな……
先にてめぇらが死んでなければなッ!』
アブソルートが地を蹴った。
ブースターの補助を受けて空中に舞い上がる。
そのまま、地上へとレーザーライフルを乱射する。
ワームウッドとペンユウは正反対の方向へ地を滑った。
二機の中間を光の槍が貫く。
ばらばらになれば、少なくとも二人同時に攻撃される心配はない。
「手加減はしないわよっ!」
ペンユウのマシンガンが弾丸を撒き散らす。
アブソルートはブースターを止め、自由落下を始めた。
その頭上を空しく弾丸が通り過ぎる。
がぃんっ!
アブソルートが着地すると同時に、甲高い音がけたたましく鳴り響いた。
衝撃で、一瞬だけアブソルートの動きが止まった。
そこを狙って、すかさずワームウッドのレーザーキャノンが火を噴いた。
高エネルギーの光が束となってアブソルートに迫る。
タイミング、狙い、共に完璧。避けられるような状況ではない!
ドグォアアァァッ!
キャノンの弾はアブソルートに着弾し、爆発を起こした。
風に吹き飛ばされ、その白い巨体が空中に舞い上がる。
……真っ直ぐペンユウのいる方向へ!
まさか、吹き飛ばされる方向を計算に入れていたというのか。
確かに、二対一という不利な条件を打破するためにはとにかく一体を片づける必要があるのだが……自ら体当たりを仕掛けるとは。
『リンファ、避けろ!』
――言われるまでもないっ!
ヨシュアの悲痛な叫びがリンファの耳に届いた。
彼も予想外だったのだろう。
完璧のはずの自分の攻撃が、逆にリンファを危険に追い込むことになるなど。
ペンユウのブースターが限界出力で炎を吹き出す。
しかし、いかに高出力ブースターといえども完全には避けきれず、ペンユウの左肩にアブソルートの背中がぶち当たった。
衝撃ではじき飛ばされ、床に転がるペンユウ。
一方のアブソルートは、あらかじめ準備していたらしく、ブースターを噴かして足から着地した。
ペンユウのコックピットの中でレッドランプが光った。
操縦桿を起こしてペンユウを立ち上がらせながら、被害状況を確認する。
当たったのが左肩で良かった。
もし右だったら、マシンガンを取り落としていたかもしれない。
ペンユウが上体を起こし、ついで膝立ちになった。
いまだ立ち上がっていないその隙に、アブソルートの肩からミサイルが飛び出した。
合計六発の同時発射!
ガガガガッ!
すかさずワームウッドのガトリングガンがその全てを撃ち落とした。
軽い爆風が埃を巻き上げる。
再び、ガトリングガンの弾丸が空を切り裂く。
埃を吹き飛ばしながらアブソルートに迫る!
アブソルートは慌ててブースターを噴かした。
しかし、避けきれない!
高速の弾丸がアブソルートの白い装甲板を削り、その衝撃で動きが一瞬とまる。
『終わりだっ!』
その隙を見逃すヨシュアではなかった。
肩のレーザーキャノンを構え、アブソルートに向かって連射する!
ゴガァァァッ!
今度こそ――光の弾は、アブソルートの胸板をを狙い違わず撃ち抜いていた。
*
「リンファ、無事か?」
ワームウッドをペンユウのそばに寄せ、ヨシュアは通信を開いた。
それに応えるように、ペンユウがゆっくりと立ち上がる。
どうやらそれほどダメージはないようである。
『なんとかね……
それより、エリィを探そう』
ペンユウがマシンガンを放ち、部屋の奥にあるシャッターを破壊した。
そのまま全身をきしませながら歩き始める。
……その時。
[敵機確認]
――!?
瞬間、ヨシュアとリンファは操縦桿をなぎ倒した。
二機が逃げた軌道を追って、数発の銃弾が飛来する。
二機は地を滑りながら180度方向転換し、適当に銃弾をばらまいた。
しかし、当然ながら手応えはない。
[ランカーAC『アブソルート』]
「……なんだとっ!?」
『どういうことよ!?
さっき確かに……』
ヨシュアはモニターを確認した。
まず目に付いたのは、床に転がる白い逆間接ACの残骸。
そして――その側で、一体のACが仁王立ちしていた。
赤い中量二足AC。
手にライフルを持ち、肩には二連装のレーザーキャノンを背負っている。
一見してペンユウと似たタイプである。
呆然とするヨシュアの耳に、再度コンピューターの声が届いた。
[敵機急速接近中。
機数二。
ランカーAC『アブソルート』、ランカーAC『アブソルート』]
あと二機!?
ヨシュアは後部のモニターに目を移した。
さっきペンユウが破壊した扉から入り込んでくる黒い戦車タイプのACが一機。
そして再び前に目を遣ると、そこでは外に通じる穴をくぐる青い四足ACの姿があった。
『アブソルートが……全部で四機……?』
「なるほどな……そういうことかよ」
ヨシュアの額には、冷や汗が玉となって輝いていた。
おかしいと思っていたのだ。
妙に同時性が強かったエアハルトの行動。
不可解にも二対一で戦いを挑んだ無謀さ。
「エアハルトは四つの人格を持つのではなく……元々四人だったんだ」
つづく。
今回登場したAC
■アブソルート・ツヴァイ
機体名 アブソルート・2
パイロット アルベルト=エアハルト
HEAD HD-HELM
CORE XXA-SO
ARMS AN-K1
LEGS LB-H230
BOOSTER B-VR-33
FCS FBMB-18X
GENERATOR GBG-XR
BACK UNIT R WX-S800-GF
BACK UNIT L (DUAL)
ARM UNIT R WG-XFwPPk
ARM UNIT L LS-1000W
OPTION SP-MAW, SP-M/AUTO, SP-CND-K, SP-AXL, SP-S/SCR, SP-E/SCR, SP-EH, SP-E+, SP-ABS/Re
●COLOR
GLEAM SASH/ICE CRYSTAL
●備考
ひょっとしたら私はこういう野望持ってる小物が大好きなのかもしれない。