アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち   作:外清内ダク

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05 開戦

 

 

 

 電波を介してヨシュアの言葉を聞き、赤い二足ACに乗っているエアハルトは笑みを浮かべた。

 

 彼の名はキール=エアハルト。

 四つ子のエアハルト兄弟の長兄である。

 

 その愛機の名はアブソルート・アインズ。

 機動性よりも装甲と攻撃力を重視したタイプの中量二足ACだ。

 

 戦車タイプのAC、アブソルート・フィールに乗っているのは、末弟のガイル。

 そして、四脚ACのアブソルート・ドゥライのパイロットは長女のシェリルである。

 

 キールは通信を開き、敵に向かって言葉を投げかけた。

 

「やってくれるじゃねぇか。

 まさか、アルベルトが殺されるとはな」

 

 口ではそう言っていても、キールは次男アルベルトに対して同情など全くしていなかった。

 兄弟として共に生きてきた。

 それは確かだった。

 しかし、弟のサイコさ加減にについていけなかったのもまた確かである。

 

 キールはモニターの端に映っているアルベルトの愛機、アブソルート・ツヴァイに目をやった。

 誰にも見せることはないが、その胸の内には黒々とした感情がわだかまっていた。

 彼の愛猫ミーアを殺したのは、彼の実の弟なのだ。

 

「だが、それもここまでだ。

 シェリル!」

 

 キールが名を呼ぶと、四足ACアブソルート・ドゥライが滑るように進み出た。

 武器腕のレーザーキャノン、肩に背負った散弾砲とロケット砲……

 なかなかの重武装である。

 

 その武器腕からワイヤーが垂れ下がっている。

 そしてワイヤーで縛られ、ぶら下がっているのは……

 

 

  *

 

 

「エリィ!」

 

 ペンユウのコックピットの中で、思わずリンファは叫び声をあげていた。

 

 へにゃへにゃした笑い、三つ編みにした赤毛。

 間違いなく、リンファ専属メカニックのエリィである。

 

 一体何を考えているのか、自分で体をゆすり、振り子のような動きを楽しんでいる。

 

「エリィ、大丈夫!?」

 

 ペンユウの外部スピーカーからリンファの声が響き渡る。

 

 エリィは楽しそうに弾んだ声で応えた。

 

「つかまっちゃったぁ。あはははは」

 

 リンファはこめかみを押さえた。

 一体どこをどうすれば、捕まってぶら下げられた状態のまま笑っていられるのだろうか。

 

『リンファとヨシュア、だったな』

 

 声は電波に乗って届いた。

 発信者は青い四足AC、アブソルート・ドゥライである。

 声は低く澄んでいる。しかし、これは明らかに、女が声を押し殺しているときの低さだ。

 

『私たちが受けた依頼は、お前ら二人を始末することだ。

 大人しく機体を棄てて投降すれば、この女は殺さずにおいてやろう』

 

 回りくどい言い方をしているが、要するにこういうことだ。

 

 ――逆らえば、人質を殺す。

 

 使い古されたやり方ではあるが、リンファの動きを止めるには十分だった。

 三年も相棒として世間を渡り歩いてきたエリィを見捨てられるほど、リンファは割り切れてはいなかった。

 

 しかし、ヨシュアは違った。

 

『笑わせるな』

 

 ヨシュアの声だ。公開周波数で会話しているので、実際の通信相手ではないリンファにも声は伝わってくる。

 

『そいつがどうなろうが、僕には何の関係もないな』

 

「ヨシュア! エリィを見捨てる気なの!?」

 

『自分の命を危険にさらしてまで助ける義理はない』

 

「……っ!」

 

 リンファは奥歯を噛みしめた。

 

 そう、今まで忘れていたが、本質的にヨシュアは敵なのである。

 ただ利害関係が一致するから協力しているだけだ。

 

 もしかしたら、忘れたかったのかもしれない。

 闇に覆われた世界の中で、人を疑うということを。

 

 見遣ると、エリィも動きを止めていた。

 遠くてよく見えないが、やはりリンファと同じように呆然としているのだろう。

 

『僕に――俺に喧嘩を売ったことを』

 

 ヨシュアの声が、再び響き渡った。

 

『後悔させてやるっ!』

 

 ばぎんっ!

 

 その瞬間、エリィを縛り付けていたワイヤーが、音を立てて千切れ飛んだ!

 エリィはアブソルート・ドゥライの足に飛び移り、そのまま床まで滑り降りる。

 

『リンファちゃんっ!』

 

 エリィの手には、通信用の端末とワイヤーを切るためのカッターが握られていた。

 敵に捕まっている状態でどうやって手に入れたのだろうか。

 何かと隠し技の多い人である。

 

 そして、彼女の瞳はいつものエリィのものではなかった。

 三年間一緒に暮らしてきたリンファでさえ片手で数えるほどしか見たことのない、科学者としての表情である。

 

『遠慮はいらないわ!

 大暴れしちゃいなさい!』

 

「……了解ッ!」

 

 ようやくリンファは理解した。

 

 ヨシュアはこれを待っていたのだ。

 エリィがワイヤーを切ろうとしていることに気付いて時間稼ぎをしていたのである。

 リンファは一瞬でもヨシュアに失望してしまったことを後悔した。

 

 エリィさえ解放されればもう遠慮はいらない。

 リンファは思いっきり操縦桿をなぎ倒した。

 ブースターから炎が吹き出し、ペンユウの巨体が地を滑る!

 

『チィッ!』

 

 回線を開きっぱなしのアブソルート・ドゥライから声が舞い込んでくる。

 

 それに呼応するように、アブソルート三機が動き出した。

 ドゥライはペンユウの正面に滑り込み、散弾砲を構えた。

 同時に車両型のフィールがペンユウの背後にライフルの狙いをさだめ、二足のアインズはジャンプでペンユウの側面に回り込む。

 

 その時、ワームウッドがペンユウの背後を守るように立ちはだかった。

 

『登録された機体名は……『アブソルート・アインズ』及び『アブソルート・フィール』だな』

 

 背後のワームウッドの中で不敵な笑みを浮かべているヨシュアの姿が、リンファの脳裏にありありと浮かんだ。

 

『二人まとめて相手になるぜ』

 

 

  *

 

 

 エリィは半分転がるようにしてドゥライの足下から逃げ出した。

 

 ドゥライが追ってくる様子はない。

 それよりは目の前のペンユウに備える方がよほど大事だ。

 

 走りながら、通信機と樹脂製のカッターを服のポケットにしまい込んだ。

 隙を見てエアハルトの長女シェリルからすり盗ったものである。

 

 肩越しにエリィはふり返った。

 

 リンファの駆るペンユウがドゥライと対峙している。

 さらに遠くではワームウッドがAC二機と同時に戦闘を繰り広げている。

 

 ――負けないで……絶対に。

 

 心の底で、エリィは祈っていた。

 今負けてはならない。

 

 奴に対抗できるのは、彼女の知る限りあの二人しかいないのだ。

 

 エリィはここに来て最初に入ったドアに向かった。

 ここにはあるはずだ。この場を切り抜けるための何かが。

 

 

 

 

つづく。

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