アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち 作:外清内ダク
ペンユウが奔る!
アブソルート・ドゥライの真っ正面に突っ込みながら、マシンガンを掃射する。
狙いもいい加減で、当たるとは思っていなかったが、やっぱり当たらない。
逆に機動力を生かして左側に回り込まれた。
このままでは、恰好の的になるのがオチだ。
「なめるなッ!」
ペンユウのブースターがこれでもかと炎を噴き出す。
ドゥライの散弾は、かろうじてペンユウの背後を通り抜けていった。
すぐさま方向転換し、マシンガンを掃射する。
しかしこれも、ドゥライの装甲をかすめるだけに終わった。
そして、互いに銃口を向け合って対峙する。
『いい腕をしているな』
「お陰様で」
ドゥライのパイロット、シェリルの声は高くうわずっている。
戦闘に興奮して、殺していた地声が出ているのだろう。
ついこの間まではリンファも女の声を殺していたが、最近では普通に話すようにしている。
わざわざ自分が女であることを隠して侮られないようにするのも、なんだか馬鹿馬鹿しくなってしまったのだ。
「あんた、名前は?」
『……シェリル=エアハルト』
「一つ、聞いていい?」
シェリルの声は返ってこなかった。
しかし、有無を言わせず攻撃をしたりはしないところを見ると、興味はあるようである。
意を決して、リンファはかねてからの疑問を口にした。
「あたし達を殺すように依頼を受けたって言ったよね。
でも、あたし達は別の依頼でたまたまここを通りがかって、たまたまこの工場に雨宿りしに来たのよ。
一体どうして待ち伏せなんかができたわけ?」
答えは……ない。
答える義理はない、ということか。
或いはこいつも知らないのかもしれない。
『教える必要は……ない』
しばらくの沈黙の後に、声が返ってきた。
やはり、口調からすると後者……つまり自分でもわかっていない、ということのようである。
リンファは舌打ち一つして、操縦桿を横に倒した。
ペンユウが地を蹴り、敵のキャノン砲弾を避ける。
ドゥライは武器碗のレーザーキャノン、散弾砲、ロケット砲と重火器を力の限り組み込んだ重武装である。
正面からの撃ち合いでは圧倒的に不利。
となれば、機動力で圧倒するしかない!
リンファは右手で、コックピットの壁から突き出たレバーをねじ倒した。
以前にエリィが付けてくれたオリジナル機能、ダイレクトレスポンスモードである。
火器制御機能の操縦補助をなくし、リンファの指先の動きが無修正でペンユウの動作に反映される。
並のレイヴンでは満足に歩くことすらできなくなるが、巧く扱えれば本来では不可能な動作も可能になる。
しかし、この状況では少々のリスクなど気にしていられない。
本気を出してかからなければ、死ぬのはこっちである。
ペンユウが肩のレーザーキャノンを構えた。
本来、ペンユウのような二足タイプのACがキャノン砲を撃つには、安定性の問題上、片膝をついて構えなければならない。
しかしダイレクトレスポンスモードなら、立ったまま……あるいは空中でも撃てないことはない!
『馬鹿な!? 立ったままキャノンだと!?』
「なめるなって言ったでしょーが!」
エリィが改造したこのレーザーキャノンは、無理な改造が祟って五発も撃つとオーバーヒートしてしまう。
その五発の内にカタを付ける!
ペンユウが地を蹴った。
空中に飛び上がり、とりあえずキャノンを一発放つ!
ゴゥアァァアッッ!!
光の砲弾は床に着弾し、辺りに無差別に爆風を撒き散らした。
間一髪ドゥライは床を滑って難を逃れる。
さすがに四足AC、スピードにかけては他の及ぶところではない。
しかし、逆に安定性は乏しい。
ドゥライを爆風が襲い、一瞬そのバランスが崩れる!
「終わりだっ!」
その隙を狙って、空中に浮いたまま再度キャノンを発射する。
しかし次の瞬間、ドゥライのロケット砲も火を噴いた。砲弾は光の弾丸と衝突し、ドゥライに届く前に誘爆する。
さすがにいい腕をしている。
伝説は伊達ではないようである。
だが、それでもリンファの方が一歩上手だった。
*
「な……!?」
シェリルは我が目を疑った。
アブソルート・ドゥライのモニターを凝視する。
右の端から左の端までもう一度、ゆっくりと目を皿のようにして確認した。
やはり……いない。
どこにも、さっきまで正面にいたはずのペンユウの姿がないのである。
慌ててレーダーを確認する。
しかし、それもレーザーキャノンの爆発によって生じた電磁波の影響で、一時的に使用不可能になっている。
「どこだ!? どこにいる!?」
半分錯乱しながらシェリルは叫んだ。
ふと思いついて機体を回転させて見たが、自分の真後ろにもペンユウの赤いボディはない。
その時。
シェリルの耳に、女の声が届いた。
『ここよ!』
そして次の瞬間――
ドゥライの青いコアは、真上から飛来したペンユウのレーザーブレードによって貫かれていた。
*
『リンファ、無事か?』
ヨシュアは本日二度目の言葉をリンファに投げかけた。
ペンユウもワームウッドも、機体にはほとんど傷はない。
圧勝とは言えないが、それでも比較的余裕のある勝利である。
――それにしても。
リンファは背筋が凍るような思いだった。
間違いなくエアハルトの腕前は一流である。
それを二対一であしらってしまうとは……味方であるヨシュアに対して、リンファは漠然と恐怖を感じずにはいられなかった。
「なんとかね……疲れたけど」
『お前にしては上出来だ……
そういえば、エリィはどこだ?』
少し気になる言い草だが、とりあえずリンファは見逃すことにした。
それよりはエリィの無事を確認するのが先決である。
まさかさっきの戦闘に巻き込まれてはいないだろうが、なにせエリィのことである。
一抹の不安が残る。
…… ……
リンファは眉をひそめた。
「ねえ、何か聞こえなかった?」
『……?』
…… ……
「やっぱり!」
リンファの表情が曇った。
まるで地の底で野獣が唸っているかのようなこの音……
まさかこれは、リフトが上昇する音!?
『まだ何かあるってのか』
次第に音は大きくなっていく。
もうここまでくれば疑う余地はない。
何かが、この工場の地下からリフトで搬出されてきているのである。
おそらくはACかMTのような兵器が――
ヴンッ。
低い駆動音が響き、丁度ペンユウとワームウッドが立っている辺りの床が真っ二つに割れ、その奥に闇が姿を見せた。
慌てて二機はその場を離れた。
二機はそれぞれ、武器を構えた。
リフト音はますます大きくなってくる。
もう敵は近い。
そして、そいつは姿を現した。
地下から上ってきたリフトの床が、穴をぴったりと塞ぐ。
その上に仁王立ちになる、一体の巨大なロボット。
[敵機確認。機体情報無登録。詳細不明]
コンピューターは無機的な声を繰り返し発した。
当たり前だ。リンファもヨシュアも、あんなものは見たことがなかった。
赤黒い塗装で統一された、人間型二足のロボット。
サイズはACよりやや大きく、だいたい全長が10メートルといったところか。
コアパーツを中心として腕部や脚部などのパーツが接続されているところを見ると、おそらくACなのだろう。
しかし、レイヴンズ・ネストの規格からは大きく外れている。
かといって、大企業の自社規格品でもない。
見たこともないタイプである。
外見はやや太く、肥った男のようにも見える。
装甲を重視した重装タイプといったところか。
しかし、その割には両手にも肩にも、何一つ兵器を搭載していないようだが。
そして、肩には「H―1」と番号が刻まれている。
『ふ……ふへへへへ……』
突如、電波を介した声が二人の耳に届いた。
聞き覚えがある。
最初に戦ったエアハルトの次男、アルベルトである。
まさかあのぼろぼろになったACの中で、生きていたとは……
『どォだ……こいつが新世代のAC……「H―1」だ』
やはりACらしい。
しかし、武装もしていないACで一体何をする気なのだろうか?
リンファは眉をひそめた。
『そンじゃ早速で悪ィが……死ね』
ばがんっ!
音を立てて、H―1の装甲がめくれ上がった!
全身に無数の穴が空き、その奥にとがったものがのぞく……
百近い数のミサイルである!
「なっ!?」
『冗談じゃねぇ!』
ヴァシュッ!
その全てが一気に発射される!
あんなものをまともに食らっては、それこそ燃えかす一つ残らない!
二機は慌てて後退しながら、構えていた武器を発射した。
リンファのレーザーキャノンの爆風がミサイルを吹き散らし、ヨシュアのガトリングガンがそれを撃ち落とす。
……が、次の瞬間には後続のミサイルが爆炎を切り裂いて飛来する!
キュゴガガガガガガガッ!
無数のミサイルが二機の装甲に食い込んでいく。
かなりの量を打ち落とせたが、それでも数十発は間違いなく食らっている。
爆炎が吹き荒れ、視界を遮る。
それが収まったとき姿を現したのは……全身ボロボロで、ぴくりとも動かないペンユウとワームウッドの姿だった。
つづく。
今回登場したAC
■アブソルート・ドゥライ
機体名 アブソルート・3
パイロット シェリル=エアハルト
HEAD HD-ZERO
CORE XCL-01
ARMS AW-XC5500
LEGS LFH-X5X
BOOSTER B-T001
FCS FBMB-18X
GENERATOR GBG-XR
BACK UNIT R WR-S50
BACK UNIT L WC-SPGUN
ARM UNIT R -
ARM UNIT L -
OPTION SP-ABS, SP-SAP, SP-CND-K, SP-S/SCR, SP-E/SCR, SP-EH, SP-E+, SP-DEtq
●COLOR
WOODLAND/BRIGHT LAZULI
●備考
ひょっとしたら私は四脚に武器腕つけるのが大好きなのかもしれない。