アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち 作:外清内ダク
ワームウッドのスピードを生かし、ヨシュアは輸送車を追った。
もう目と鼻の先にいるはずだ。
彼が引き受けた仕事は、この輸送車の破壊、もしくは奪取。
うまく奪取できた場合には、成功報酬が加算される契約だ。
テロリストを舌先三寸で焚きつけて、護衛のレイヴンを引き離すことにも成功した。
そしてヨシュアの予想通り、事前に護衛をするレイヴンの家から拝借したデータを有効利用してそいつを倒すこともできた。
全てヨシュアの計画通り。
まあ、機体修理に予想外の金がかかりそうだが、大したことではない。
やがて輸送車の姿が見え始めた。
テロリストを切り抜けたと思って安心しているに違いない。
一発撃って脅して、操縦している人間を追い出し、あとは三台の車をレッカーして帰れば終わりだ。
ヨシュアは引き金を軽く引いた。
ガガッ!
車の行く手を遮るように、弾丸が地面にめり込んだ。
慌てて停車する三台。
ヨシュアはその三台に対して通信を開いた。
「中にいる奴、車から降りろ。
十秒以内にしないと一台ずつ破壊するぞ」
すぐさま、車のドアを開いて男達が降りてきた。
そのままどこかへ走り去る。
随分と責任感のないことだが、ヨシュアにとってはその方が都合がいい。
徐に一台に近付き、牽引用のワイヤーを垂らす。
……と、その時!
突然、輸送車の一台、ワームウッドの間近にいた奴が爆発を起こした!
衝撃でワームウッドは吹き飛ばされ、地面に叩き付けられた。
「くっ……まさか、ダミー!?」
体勢を立て直そうと、操縦桿を起こす。
しかし、やたらと反応が鈍い。
おまけに脚部から煙を吹いているようだ。
どこか機関部が故障したに違いない。
舌打ち一つしたヨシュアの耳に、追い打ちでサイレンの音が聞こえてきた。
「
ヨシュアはワームウッドを動かすと、その場から素早く去っていった。
「やってくれるよ……あの女ッ!」
*
『いやはや、全く助かったよ。
見事な仕事ぶりだった』
「いやー、それほどでも」
所変わってここはリンファとエリィの自宅。
リンファは椅子に腰掛けて、パソコンの画面に映った依頼主と話していた。
横からは時々青い光や大きな音が飛んでくる。
エリィがペンユウの修理をしている最中なのである。
「それで、報酬の件なんですけど……」
『うむ、今回はこちらが通達した以上の戦力がいたらしいからな。
特別加算込みで、すでに口座に振り込んである。
後で確認してくれ』
「まいどど~も」
依頼主に対してはやたらと愛想がいいのがリンファの特徴だ。
いつものようにとびきりの営業スマイルを浮かべると、リンファは通信を切った。
途端に体中の力が抜けて背もたれに身を投げ出す。
「りんふぁちゃ~ん、お話、おわったんならてつだってよぉ~」
「はいはい、今行きますよ~だ」
仰向けに寝転がった状態のペンユウの上から呼ぶエリィに、リンファはしぶしぶ立ち上がった。
「で、何すればいいの?」
「動作確認、するのぉ。
そこにあるやつでぇ~、ソフト、うごかしてぇ~」
エリィが指さした先にあるのは、二人が共同で通信等に使っているパソコンではなく、エリィ専用のハンディコンピューターである。
整備やら何やらに使う難しいソフトが山のように入ったやつだ。
OSすらもリンファの知らないものを使っているようだが、適当にいじってみるとそれらしいのが見つかった。
「この、『AC動作点検ソフト』ってやつでいいの?」
「そう~。それそれ、は~やく~!」
「急かさないでよ……っと」
いくら慣れないコンピューターだと言っても、ソフトを動かす程度のことはわけない。すぐにACの点検が始まった。
……しかし、次の瞬間!
バヂィッ!
「うにゃ~!」
やたらよく響く音がして、ペンユウの上にいたエリィの体が痙攣を起こした!
そのまま下へ転がり落ちてくる!
慌ててリンファが走り転げ落ちてきたエリィの体を受け止めた。
エリィはすっかり目を回している。
「ち、ちょっと! エリィ、大丈夫!?」
「はにゃ~……びりびりするぅ。えへへ~」
「えへへって……」
どうやら感電したらしいが、相変わらずの軽い調子のまま……大丈夫なようである。
思わず緊張の糸がほぐれ、ほっとした表情を浮かべるリンファ。
「も~、心配させないでよ!」
「はにゃ~、しっぱいしっぱい。
りんふぁちゃん、た~す~け~て~くれたの~、ありがと!」
言っていきなりエリィはリンファに抱きついた!
これにはさすがにリンファも驚き、まともに慌てて暴れ出した。
「エ……エリィ!?
うわっ、ちょっと止めてよっ!
あたしにはそーゆー趣味はないんだってば……うわわっ!?」
あんまり慌てたせいで、体勢を立て直すこともままならず、リンファはエリィに押し倒される形で地面に倒れ込んだ。
丁度その時だった。倉庫のドアが開いて、一人の男が入ってきたのは。
「失礼ですが、リンファさんとエリィさんのお宅はこちらで……?」
男は、床でもつれ合う二人を見て露骨に顔をしかめたのだった。
*
「い、いやぁ、お邪魔でしたかなぁ。ははは」
「あ……い、今のはこの
テーブル越しに向かい合って腰掛けたリンファと客は、お互いに乾いた笑いを交わした。
どちらも顔が引きつっている。
当のエリィはと言えば、すかさずペンユウの修理に戻ってしまった。
「え、え~と……それで、あなたは……?」
「ああ、失礼。
申し遅れましたが、私はアリーナ管理委員のシロウ=コバヤシという者です」
「アリーナ管理委員……?」
リンファは、自分の正面に座っているぴしっとした身なりの男を改めてまじまじと見つめた。
前にも述べたが、バトルアリーナ、略してアリーナは、企業をスポンサーとするレイヴン達の『闘技場』である。
そこでの戦闘は酔狂な資産家達の賭の対象となり、出場するレイヴンにも強さに見合った賞金が与えられる。
しかしスポーツのような正々堂々としたものとは程遠く、まさにレイヴン同士の戦闘そのもの、勝つためには手段を選ばない、常に死と隣り合わせの戦いなのだが。
そのアリーナの管理運営は、公正を期すため企業とは異なる第三者が行っているという。
それがアリーナ管理委員である。委員のメンバーは引退したレイヴンや企業での物好きから選ばれているというが、実際に会ったのはこれが初めてだった。
それというのも、リンファがアリーナに出場したがらなかったせいである。
「早速本題に入りますが、実は貴女にアリーナに出場していただけないかという話がありましてね。
私どもが運営しておりますアリーナには、ノーマルアリーナとその予選のサブアリーナ、四つの脚部限定アリーナがありまして、さらにその優勝者のみがノミネートされるマスターアリーナがあるのですが……
今回貴女に出場の話が持ち上がったのは、それとは異なるゲストアリーナなのです」
コバヤシはテーブルの上に何枚かの紙を並べた。
リンファにとっては全然興味の湧かないことがずらずらと書かれている。
リンファは耳の後ろを人差し指で掻いた。
「このゲストアリーナではランキングを付けず、その都度ゲストを招待してエキシビションマッチを行っているのですが……」
「残念だけど、あたしはパスね」
「……は?」
溜息混じりに言い捨てたリンファに、コバヤシは資料を指す手を止めて、顔を持ち上げた。
「それは、どういう意味でしょうか」
「そのまんまの意味よ。
見世物になるつもりは毛頭ない」
「え~っ? でよ~うよ~!」
どうやらこっそり話を聞いていたらしく、ペンユウの上からエリィが顔をのぞかせた。
一体どういう風にしているのか。逆さまにぶら下がっている。
鼻にかけた眼鏡がするりと落ちて、乾いた金属音をたてた。
それを追って、エリィも宙返りをしながら地上に降り立った。
「アリーナ会場のしょくどうにね、しんめにゅーができたんだってぇ。えりぃたべたいよぉ~」
「そんなの別に出場しなくても食べに行けばいいじゃない……
ま、それはともかく」
リンファは正面に向き直ると、難しい表情をしたままのコバヤシの目を見据えた。
コバヤシの額に汗が浮かぶ。
並の人間なら思わず怯んでしまうほどの、鋭い眼光をリンファの瞳は放っていた。
「こっちにもプライドとかポリシーってモノがあるわけ。
こんな腐った『時代』を玩具にしてるようなイカれた連中に、付き合ってる暇はないのよ」
「なるほど……しかし」
コバヤシは恐る恐る口を開き、言葉を紡いだ。
声が震えていなかったのはさすがである。
「相手が伝説のレイヴン『ワームウッド』だと聞いても、同じことが言えますかな?」
つづく。