アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち 作:外清内ダク
「邪魔するぜ」
ヨシュアはドアを開けるなり声を投げかけた。
薄暗い倉庫の中。
女の住処とは思えないほど汚れまくり、おまけに倉庫の半分近くは青いビニールシートを被せられた巨人――ペンユウの巨体で埋まっている。
ここは、地下都市アイザックシティのスラム街、通称『スクラップ地区』の一角。
リンファとエリィが三年前から住処として使っている、古い倉庫である。
パソコンとにらめっこしていたエリィが顔を上げた。
おそらく夜を徹してACの修理をしていたのだろう。
目の下にはクマができている。
ヨシュアは少し罪の意識にかられた。
それというのも、ヨシュアの愛機ワームウッドも彼女の世話になっているのである。
倉庫の中には入らないので、今は修理しかけのまま外に放置してある。
「リンファは?」
エリィは倉庫の奥の方をあごで指した。
そこには薄汚れた布をシーツ代わりに引いて、寝息を立てているリンファの姿があった。
溜息をつき、歩み寄る。
一瞬蹴り飛ばそうかとも思ったが、後でどんな反撃をされるかわかったものではない。
素直にヨシュアはリンファの肩を揺すった。
まだあどけなさの残る寝顔が歪み、大きなあくびがこぼれる。
細くリンファの目が開いた。
「あ……よしゅあ……」
「起きろよ。情報交換といこうぜ」
*
「んー、一応調べてみたわ。
オムニシャンス・インダストリーのこと」
まだ寝ぼけているのだろうか。
椅子代わりの木箱に腰掛けたまま、リンファは頭を揺らした。
机をはさんで向かい側に座ったヨシュアとエリィが心配そうに様子を見守る……
もちろん、情報の信頼性について心配しているのである。
オムニシャンス・インダストリー……
今回、リンファにレアメタル鉱山の制圧任務を依頼した企業である。
「えーと、企業として成立したのが三年前。
丁度あのころはクロームとムラクモ・ミレニアムが滅亡して混乱してたから、そのどさくさに紛れてシェアを掴んだみたい」
ムラクモ、の名を聞いてエリィの耳がぴくりと動いた。
リンファの話に出た企業は、どちらも数年前までアイザックシティを……いや、世界を牛耳っていた超巨大企業である。
世界を二分してほとんど戦争に近い抗争を繰り返していた。
一応クローム社が抗争には勝利したのだが、疲弊したクロームも結局は別の新興企業に滅ぼされてしまった。
「でも、特に怪しいところはないわ。
時々、妙に高性能な製品を発表して世間をさわがすぐらいで」
「しかし、今回の襲撃……誰かに仕組まれていたことは間違いない。
そして、その企業が一枚噛んでいるってことも」
そう。
偶然依頼を受け、偶然雨が降り、偶然あの工場に逃げ込んだわけではないのだ。
このご時世、天気予報の的中率は百%近いし、あの工場の近くを通るコースを設定しておけばまず間違いなく雨宿りをしようとするだろう。
仕組まれていたのだ。
全て。
「俺の方でも調べてみた。
とりあえずあの工場の再調査に行ったんだが……驚くなよ」
ヨシュアはコートの内ポケットから、一枚の写真を取りだした。
それをテーブルに投げる。
一体どこなのかはわからないが、荒野の真ん中に巨大なクレーターが空いている。
写真なので正確には大きさがわからないが、それでも半径が数㎞くらいはあるだろう。
「なに、これ?
隕石でも落ちたの?」
「あの工場だ」
リンファは言葉を失った。
「昨日再調査に行ってきた……
なくなっていたよ。なにもかも。
原因不明の爆発によって、周囲30㎞にわたってふきとんでいた」
今度こそ、全員が完全に沈黙した。
一体、どこをどうすればこんな爆発が起こるというのだろうか。
大破壊以前の戦略級兵器、核爆弾ならこういうことも可能だろうが……
エリィは険しい表情で立ち上がった。
そのまま、倉庫のドアをくぐって外に出ていく。
「どうしたんだ、あいつは?」
「さあ……あ、確かオムニシャンス社ができた三年前って、あたしとエリィが出会った頃よね。
その前はどこかの企業にいたらしいけど」
企業……ヨシュアはぴくりと眉を動かした。
しかし、何事もなかったかのように立ち上がった。
「ともかく……気を付けろ。
起こっているぞ、何かが」
リンファには、ヨシュアの言葉にただ頷くことしかできなかった。
*
エリィは倉庫の外で、地下都市の天井を見上げた。
今はまだ、話すべきときではない。
しかしいつか……そう遠くない未来に、あの二人の力を借りなければならない時がやってくるのだ。
その時、彼女の後ろで音がした。
ヨシュアがドアを開けて出てきたのである。
エリィは明るく装って言葉を投げかけた。
「おかえりですかぁ~」
「ああ。
だが、その前に聞きたいことがある」
ヨシュアは上からエリィを見下ろした。
エリィの額には冷や汗が浮かんでいる。
「H―1、H―2、三年前……」
ヨシュアの言葉は重く、鋭くエリィに突き刺さった。
「ムラクモ・ミレニアム」
気付いたのだ。
彼もまた。
背後の何かの存在に。
「何があった」
THE END
■次回予告
R「ねー、ヨシュア」
J「ん。なんだ?」
R「あたし、ときどき思うんだよね。
今生きてるこの人生は、みんな夢で。
目が覚めたら、この暮らしも、今のあたしも、エリィも、あんたも……いなくなっちゃうんじゃないかって」
J「俺はここにいるよ。
触れてみれば、分かるだろ」
R「……うん。分かる。
でもさ。
もし夢から覚めて、あの頃の……殺し合いしてたころのあたしたちに戻っちゃったら。
ね。あんたは、どうする?」
J「決まってるさ。
もう一回、口説いてみせる」
カジュ「《大爆風》。」
R&J「うおわあああ!?」
E「前のコマ間違いだー!
『真紅のジャム・セッション』!
いちゃらぶ死すべし!! それでは、また!!」
R「なんかもう好き放題ねあんたは!?」
J「予告か、これ?」