アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち 作:外清内ダク
ヤマザキとかいう男の号令の元、一行は前進を始めた。
ゲートをくぐり、夜空の見える地上へと進み出る。
広々とした幹線道路。
それと並行に河が走り、闇の向こうへ消えている。
上を見上げれば、スモッグでくすんで星一つ見えない夜空。
地下都市で暮らす人間はあまり見る機会のない風景である。
とはいえ、レイヴンとして仕事をしているリンファ達は、外に出る機会も多いのだが。
ゲートをでて、ほんの十メートルほど進んだその時!
「う……うわぁぁ!?」
ゴガァアアアッ!!
派手な音と閃光をばらまき、逆間接タイプのAC……ティー・ブレイクが爆発を起こした。
水色の機体がバラバラに弾け飛ぶ。
その直後、隣で浮き足立っていたプロペラントも爆発した。
その一瞬前に見えた光の筋……おそらく、レーザーライフルの一撃を食らったのだろう。
――全く、口ほどにもない。
『なんだっ!? 何が起こったんだ!?』
「敵よ!」
分かり切ったことを聞くな。
内心毒づきながらリンファはレーダーを確認した。
しかし……そこには何の反応もない。
しかし、ちらちらと闇の中に見え隠れするブースターの炎。
これはもしかすると……
「ステルス機能!?」
『てっきかくに~ん!』
エリィの脳天気な声が届く。
おそらく、モニターで確認したのだろう。
『……!? これは!』
リンファは弾かれたように顔を上げた。
エリィの声が変わっている。
科学者としてのエリィの声である。
『MT「カットラス」!
気を付けて!
隠密行動用のステルス機能搭載二足歩行MTよ!
機数12!』
随分とたいそうな襲撃部隊である。
並のACならさっきのように一撃で破壊できるほどのMTが12機。
どう考えても多すぎる。
しかし――やるしかない!
『一人、ノルマ6機か』
伝わってきたヨシュアの声は、妙に楽しそうだった。
おそらく、後で報酬を上乗せさせることでも考えているのだろう。
丁度リンファも考えていたことである。
『賭けるか? 一機三千だ』
「五千で受けて立つ!」
そして、リンファは操縦桿を握った。
*
口火を切ったのはペンユウのマシンガンだった。
レーダーにも映らない、ロックオンもできない敵を、目視だけで正確に撃ち抜く。
一撃でカットラスは爆発、炎上した。
隠密機だけあって装甲は薄いらしい。
しかし、その分手に持っているレーザーライフルは強力。
他に武装はないものの、非常に厄介なステルス機能まで持っている。
おまけに数が多いときた。
これは、輸送車を気にして戦う余裕はないようである。
「ゲートの中に隠れて!」
『了解』
すぐさま輸送機は後退する。
そこを狙っていたカットラス一機を、ワームウッドのガトリングガンが撃ち抜く。
これで、残りはあと10機。
背後に迫る殺気!
リンファは有無を言わせず操縦桿を捻り倒した。
横に飛びすさるペンユウ。
そのすぐ横を光の矢が突き抜けていった。
方向転換しつつマシンガンを乱射。
弾丸はカットラスの足を捕らえた。
膝立ちになったカットラスに、止めの一撃が食い込んだ。
その時、敵の動きが変わった。
散発的な攻撃は無駄と悟ったか、あるいはこちらの実力に気付いたのか。
ともかく、残るカットラスのうち五機がワームウッドに、四機がペンユウに一斉に飛びかかる!
――甘いッ!
ワームウッドが地を蹴り、空中に飛び上がる。
そして、真下でうろうろしているカットラスたちに向かって、ガトリングガンを乱射する!
なまじまとまっているせいで、カットラス達は回避ができない!
弾丸は二機のカットラスを貫いた。これで残りはあと八機!
そのままの勢いで、ワームウッドは河の中に着地した。
そう深い河ではない。十分活動はできる。
一方、ペンユウは……回避すらしない。
その場に留まり、飛びかかってくる四体のカットラスをにらみ付ける。
「鈍い鈍い」
ヴンッ!
虫の羽音のような音を立て、左手の甲からレーザーブレードが飛び出す。
それを掲げると、目の高さで振るった。
ギャウッ!
四筋の光条が、ブレードにはじき散らされた!
レーザーの束は散乱し、無害なただの光になってペンユウを照らし出した。
確かに、ブレードのレーザーによって発生する電界を利用すれば、ライフルのレーザーを弾くことは可能なのだが……
あくまで理論上の話であり、実際にそんなことをする奴はいない――リンファを除いて。
そのまま、驚きで動きを止めたカットラスに斬りかかる。
これであと七機。
さらに百八十度向きを変え、ペンユウはレーザーキャノンを構えた。
まとまっている三機を正面に捕らえ、トリガーを引く。
ギュゴアアァアアアアアッ!
着弾点で巨大な爆発が起こった。
カットラス達を紅蓮の炎が包み込む。
これでノルマは達成、である。
あとはワームウッドの方に向かった連中を片付けて、小遣い稼ぎといこう。
……と、その時。
ヴァシュッ!
光の矢が、ペンユウの右腕を貫いた。
撃ったのは、爆炎の中で蠢くカットラスの一機だった。
どうやら、他の二機が盾となって被害を免れたらしい。
「くたばれ、死に損ないッ!」
キャノンの第二射が、かろうじて生き残ったカットラスに止めをさした。
その頃、ワームウッドは河の中を水しぶきを上げながら走っていた。
時々飛んでくる光の矢は、ことごとく水によって散乱され、空中に散り飛んでいく。
そして、ついに待っていた時がやってきた。
残りの四機のカットラスが、ワームウッドを追って水に飛び込んでくる。
遠くで巻き起こる水しぶき。
これなら、たとえレーダーに映らなかろうと位置が手に取るようにわかる!
ヨシュアはトリガーの横のスイッチを押した。
ガトリングガンにありったけの弾丸が込められる。
本来、無駄撃ちを避けるために付いている機能である。
必要な分ずつ弾を込めることができるのだ。
FCSが全力稼働する。
画面の微かな水しぶきを頼りに、相手の位置を割り出し、ロックした。
ガガガガガッ!
カットラス一機が爆発を起こした。
残りが怯んでいる内に、次々と弾丸を撃ち込んでいく。
しかも、相手の反撃は全て水に弾かれ、消えていく。
敵が全滅するのにさしたる時間はかからなかった。
「引き分け、か。賭は無効だな」
*
敵部隊を全滅させたリンファに、エリィの脳天気な声がかけられた。
『おつかれさまですぅ』
「右手を撃ち抜かれたわ。
使えないことはないけど、反応速度が落ちてる。
あとで修理お願い」
『す……素晴らしい……』
乱入してきた通信は、アンテナ車からのものだった。
あの、ヤマザキとかいう男である。
『あの戦力をたったの二人で跳ね返すとは。
予想外の働きだった。
このことは後々、社長にも伝えておこう』
ヤマザキの言葉に、ヨシュアは眉をひそめた。
少し気になる言い回しがあったのである。
『伝えておく?
どういうことだ、お宅の社長はその輸送車に乗ってるんじゃないのか?』
『そ、それは……』
ヤマザキが口を濁らせた、その瞬間!
ガシュッ。
奇妙な音。
[所属不明機接近中。
未登録MT。機数一]
リンファは再び操縦桿を握った。
凄まじい圧力。
額から冷や汗が噴き出してくる。
彼女は、自分の脇の下がじっとりと濡れているのを感じた。
自分が畏怖にも近い感情に支配されていることが手に取るようにわかった。
ガシュッ。
ヨシュアもまた奇妙な緊張感に包まれていた。
自分の周りだけ重力が大きくなったかのように、体が何者かによって押さえつけられている。
彼は知っていた。これが、圧倒的な何かに対するとき人が抱く感情なのだと。
ガシュッ。
近い。
今度の音はすぐ近くで起こっている。
その時、不意に視界が暗くなった。
一瞬、モニターの故障かとも思ったが、これは違う。
何かによって遮られているのだ。月明かりやゲートから漏れる光が。
――ヨシュアの脳裏をかすめる悪寒。
『避けろッ!』
つづく。