アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち   作:外清内ダク

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05 大破壊

 

 

 

『やれやれ……とんでもない化け物だ』

 

『なんか、よくぞ生き残ったって感じ』

 

 リンファ達は口々に愚痴をこぼした。

 

 エリィもほっと胸をなで下ろした。

 一時はどうなることかと思ったが、さすがはあの二人である。

 

 自宅のコンピューターに向かってエリィは話しかけた。

 

「おつかれさまでしたぁ~」

 

『急にいつものエリィに戻んないでよ……なんか疲れる』

 

 しかし、エリィは一抹の不安を感じていた。

 今回襲ってきた二種類のMTは、どちらもオムニシャンス・インダストリーのもの。

 ならば奴がでてきてもおかしくないのだが……

 

 ……と、その時。

 

『デコイ部隊、聞こえるか!?』

 

 これは、アンテナ車に入った通信である。

 エリィがハッキングしているせいで、ヨシュアやリンファにも声が伝わっていく。

 

 それにしても、デコイ部隊とは……まさか?

 

 そんなリンファ達の心中など知る由もなく、あのヤマザキとかいう男が応える。

 

『聞こえている。どうした?』

 

『こちら本社! 大変だ、敵がこちらを襲撃している!』

 

『何!? 囮作戦がばれたのか?

 はやく、社長を避難させるんだ!』

 

 なるほど。

 ということは、この輸送車自体がダミーだったということである。

 

 おそらく、本社の社長宛に襲撃の予告状でも届いたのだろう。

 襲撃者から逃れるために社長が移動する、という情報をわざと相手に流す。

 そしてレイヴンをやとって囮に襲いかかった敵を撃破する、という算段である。

 もちろん本物の社長は本社で隠れている、というわけだ。

 

 これならたとえ迎撃に失敗してもレイヴンが死ぬだけで済む。

 

 しかし、それがばれていたということは……

 敵は、こちらの計画を知っていながらわざわざ引っかかった、ということになる。

 何故そんなことをしたのか、誰にも見当も付かなかった。

 

『それが、社長がおかしいんだ。

 さっきから、奴が来た、とか言って頭をかかえてるだけで動こうともしない……』

 

 ――奴!?

 

 エリィの脳裏を嫌な予感がかすめた。

 

『ともかく、敵の映像を送れ!

 いますぐこっちのレイヴンを連れて救援に向かう!』

 

『了解!』

 

 そして送られてきた映像に、三人は言葉を失った。

 

 

  *

 

 

「社長、ここは危険です! 社長!」

 

 カトー・ラテックス社長、テルミチ=カトーは、椅子に埋まったまま頭を抱えていた。

 部下達の声など全く聞こえては来ない。

 

 ただ、三年前のことが頭をよぎっていくだけだった。

 

「わたしは……わたしは悪くない……

 違う……違うんだぁ……」

 

 部下は訝しげに眉をひそめた。

 一体どうしたというのだ。

 普段は聡明で落ち着いたこの社長が、まるで怯えた羊のような目をしている。

 

「敵襲だ! ビル正面に赤いACが一機!」

 

 別の男が社長室に駆け込んできた。

 その報告を聞いて、社長が弾かれたように顔をあげる。

 後ろを振り返り、窓にへばり付いた。

 

 窓からは表の通りの様子がよく見える。

 街の中心部、大通りに面した一角。

 文句なしの一等地に、この本社ビルは建っている。

 

 道の向こう側に、赤いわだかまりが見えた。

 明らかに周囲の闇とは異質な空間。

 わだかまりはやがてはっきりとした形を得て、人の形をとった。

 

 AC。

 それも、普通のACとは違う。

 見たこともないタイプのAC。

 

 その肩には、見覚えのあるエンブレムが張り付いていた。

 

「ひっ……ひあぁぁぁああぁぁあぁあっ!!」

 

 

  *

 

 

「あのAC!」

 

『似てる……あの工場にいたACに』

 

 リンファとヨシュアはそれぞれ叫び声を上げた。

 

 そう。

 

 送られてきた映像に映っている赤いACは、かつて工場で遭遇した謎のACとうり二つだった。

 赤黒く塗装された、重量感のあるボディ。

 現行のどの規格にも当てはまらない特異な構造。

 

 しかし、違う点が一つある。

 肩に、大きな筒を一本背負っていることだ。

 ただの筒ではない。付け根の部分には円形のユニットが付属している。

 おそらく、円形加速器で加速した砲弾を高速射出する、レールガンと呼ばれる兵器だろう。

 

『見ているな、エリィ。

 ……そしてその相棒、道嶺華(タオ・リンファ)とヨシュア=オースティン』

 

 聞いたことのない声が聞こえてくる。

 通信機を通じて、おそらくは、あのACから送られてきた声が。

 男の声である。

 

『やっぱり……やっぱりあなたなのね』

 

 エリィは半分呆然としながら呟いた。

 

 リンファの眉が歪む。

 この男と知り合いなのだろうか。

 

『止めて……今なら戻れる。

 戻ろう、あの頃に。

 二人で……二人で一緒に暮らそう』

 

 しばし、相手の男は沈黙した。

 しかし雰囲気は、考え込んでいるという風ではない。

 エリィの言葉に苦悩しているのではないのだ。

 

『ショーの始まりだ』

 

『止めて……お願いだから……』

 

『よく見ておくがいい。

 タオ=リンファ、そしてヨシュア=オースティン。

 私が今、人の力というものを示してやろう!』

 

『テスラ!!』

 

 通信は一方的に閉じられた。

 男の声はもう聞こえてこない。

 沈黙が、辺りを支配した。

 

 それをうち破ったのはヨシュアの声だった。

 

『あのAC……動いている!』

 

 送られてくる映像の中のACが、地面に片膝を付いた。

 肩のレールガンを左手で支えて……発射の準備をしている!

 

 その時、エリィの脳裏をどす黒い予感が駆け抜けた。

 

『リンファちゃん、逃げて! はやく!!』

 

 そして次の瞬間――

 

 ギュゴグガアアッ!

 

 閃光と爆音が、全てを飲み込んだ――

 

 

  *

 

 

 倉庫の中には、ただただ沈黙だけが満ち溢れていた。

 普段からこの、リンファの住処はうるさい場所ではない。

 しかし、今日の静寂はいつもとはわけが違った。

 

 何処までも深く。

 何処までも暗く。

 耳に入ってくるのなら、地獄の呪詛でもまだましだ。

 普通ならそう思う。

 

 だが、ここにいる誰も、そんなことは考えなかった。

 静寂が破られる時。

 それは、おそらく最悪の事態を耳にする時なのだ。

 

 それでもヨシュアは、勇気を振り絞って言葉を捻りだした。

 

「説明してくれ」

 

 それだけで、彼の意志を伝えるには十分だった。

 エリィはじっとうなだれていたが、やがて重たそうに頭を持ち上げた。

 

 そしてへらへらとした笑いを浮かべる。

 

「エリィ、わかんな~い……

 なんてわけには、いかないか」

 

 エリィは自嘲気味に目を細めた。

 

「何から――説明すればいいかな」

 

「あの爆発のことからだ」

 

 無難なところだ。

 誰もがそう思った。

 

「反粒子、って知ってる?

 普通の粒子と全く同じ性質をもちながら、逆の電荷を持っている粒子……

 それを反粒子と呼ぶの。

 たとえば、電子に対する陽電子、陽子に対する反陽子とかね。

 そして、反粒子によって構築された物質は、反物質と呼ばれる」

 

 学のないヨシュアには、彼女の言っていることがよくわからなかった。

 しかし、とりあえずそういうものなんだと納得するふりをした。

 

「反物質は、物質と出会うと互いに消滅する。

 その瞬間、γ線とともに、莫大なエネルギーを放出するの。

 そのエネルギー量たるや、1㎏の反物質が消滅しただけで、周囲30㎞を焼き尽くし、その中心部の温度が10の39乗度を超えるほどのものよ」

 

 弾かれたようにヨシュアの顔が上がった。

 原理はよくわからなかったが、エリィの言いたいことはなんとなくわかる。

 

「まさか、それが……」

 

「そう。あの爆発は、反物質が物質と出会うことによって生じたものよ。

 つまり、反物質爆弾とでも呼ぶべき兵器ね。

 おそらく、この間の工場施設もこれで破壊されたに違いないわ」

 

 ヨシュアは言葉を失った。

 

 しかし、ここで呆然とするわけにはいかない。

 まだまだ、聞きたいことは山ほどある。

 

「それじゃあ、あのAC……いや、あれに乗っていた男は?」

 

「……テスラ=ダッドリー。

 わたしの、昔の彼」

 

 エリィは懐かしそうな瞳で遠くを見つめた。

 

 

 

つづく。

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