アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち 作:外清内ダク
[所属不明機確認]
コンピューターがヨシュアに告げた。
レーダーでは、赤い光点がゆっくりと移動していた。
おそらく、奴に間違いない。
ヨシュアはワームウッドの操縦桿を握った。
真っ直ぐに、奴に向かうコースを取る。
奇襲など仕掛ける気は毛頭なかった。
どんな奇襲を仕掛けたところで、おそらく無駄だろう。
正面から戦って倒すことができなければ、どんな戦法をとっても勝つのは不可能だ。
そんな気がした。
それにしても、奴がこのコースで来てくれてよかった。
確かにここはヴォルカニクスからアイザック・シティに向かう最短コースなのだが、別の発見されにくいコースで来る可能性もあったのだ。
もしすれ違いにでもなろうものなら、それこそ笑い話にもならない。
やがて、モニターの端に赤い影が映り始めた。
すぐに映像が拡大される。
赤黒く、すこし太めのボディライン。
肩に背負ったレールガン。
間違いない。倒すべき相手、H―P『ホロコースト』である。
『やはり来たか』
不意に、通信が入った。
ホロコーストに乗っている男、テスラの声である。
『君は、ヨシュア=オースティンだな。
タオ=リンファはいないのかね?』
「あんな小娘をアテにするほど落ちぶれちゃいねぇよ」
ヨシュアはいくつかスイッチを操作した。
ガトリングガン、レーザーキャノン、各部駆動系……
全てが限界近い出力で稼働を始める。
「早速で悪いが……始めようか!」
*
リンファはうなだれたまま、床の一点を見つめていた。
そして、今起こっていることを理解しようとしていた。
テスラ。
反物質。
エリィの言葉。
そして、ヨシュアの言葉。
全身が熱くなった。
あの時と同じだ。
夜の通りで、ヨシュアの言葉を聞いたときと。
なんなんだろう、この感覚は。
苦しい。
でも、なぜか気分が高揚している。
舞い上がってしまって、じっとしていられない。
気が付くと、リンファの口から溜息が漏れていた。
瞬間、リンファの心の中に一人の男の顔が浮かんだ。
金髪で、冷たい目をしていて、人を見下したような薄笑いを浮かべている。
憎たらしいあの男。
それは、ヨシュアの顔だった。
リンファは頭を振った。
一瞬顔の映像がが揺らいだ。
しかし次の瞬間には、前よりはっきりとヨシュアの顔が像を結んだ。
否定したかった。
でも、心を満たしているある一つの言葉を、リンファはどうしても忘れ去ることができなかった。
逢いたい。
ヨシュアに――逢いたい。
どうして?
どうしてこんなことを考えるの?
この熱さも、この高揚感も……みんな、ヨシュアのせいなの?
痛い。
苦しい。
助けて。
誰か、助けて!
――ヨシュア。
まただ。
またあの顔が浮かぶ。
忘れろと、自分自身に言い聞かせる。
しかし、彼の顔は決して消えることはなかった。
ヨシュアは、今何を考えているんだろう。
ヨシュアは、あの時何を考えていたんだろう。
その時リンファは気付いた。
分からないのは、ヨシュアの気持ちではなかった。
そう。分からないのは自分の気持ちだ。
あたしは今、何を考えているんだろう。
そうだ。
一体今まで何を考えていたんだ!
死んでしまう。
このままでは、一人で行かせてはいけない!
「エリィ!」
リンファは力の限り叫んだ。
次の瞬間、一体いつの間に入ってきていたのか、ペンユウの影からエリィが顔を出した。
「じゅんびできてま~す!
えへへへへ~」
エリィは信じていたのだ。
きっと、リンファならいつもの自分を取り戻すことができる、と。
*
「オオオオオオッ!」
ヨシュアの咆吼が響き渡る。
それに呼応するように、彼の相棒ワームウッドが地を滑った。
ガトリングガンが、ホロコーストを狙って弾丸をばらまく。
『そんなもの!』
ホロコーストが左手を掲げた。
一瞬、その手のひらが輝いたように見えた。
そして次の瞬間、ガトリングガンの弾丸が全て軌道を反らされ、明後日の方向へねじ曲がる!
――デコイフィールド!
かつてホロコーストの試作型、H―2が持っていた機能である。
発生した強力な磁界によって、弾丸が反らされてしまうのだ。
しかもこれは、小型化して左手にその機能を付けたようである。
どうやら、実弾兵器は無駄のようである。
『絶対的な差というものを、見せてやろう!』
左手を下ろし、ホロコーストは今度は右手を掲げた。
左手に付いていたのがH―2の機能だということは……まさか、右手は!?
バガンッ!
右腕の装甲板がめくれ上がった!
その奥から、いくつものとがったものがのぞく……
ミサイルである。
その数は、おそらく30は下らない!
――H―1の持っていた機能だ!
これも右腕だけに簡略化されてはいるが、それでも恐ろしい数!
しかし、ヨシュアはほんの少しも慌ててはいなかった。
「差を見せる? それは……」
ヨシュアは操縦桿を握りしめた。
汗が額に滲んでいるのがわかる。
落ち着け。
ヨシュアは自分に言い聞かせた。
自信なんて少しもない。
しかし、かつてこのワームウッドに乗っていた親父なら、そしてリンファなら、この程度のことはやってのける!
「こういうことを言うんだッ!」
ミサイルが一斉に発射される!
そしてワームウッドは、糸を引いて飛来するミサイルの隙間を、縫うようにしてくぐり抜ける!
まさに神懸かり的な操縦!
これで、一気に間合いを詰めた!
ワームウッドの肩のキャノンが火を噴いた。
光の弾丸がホロコースト目がけて一直線に突き進む!
おそらく、これならデコイフィールドの影響も受けないはずだ!
ゴグガァアアアッ!
弾丸はホロコーストのコアに命中した。
もうもうと巻き起こる砂煙。
しかしそれが収まったとき映ったのは……
傷一つ付いていないホロコーストの姿だった。
とんでもない装甲!
いくら重装のACやMTでも、このキャノンを食らえば全くの無傷とはいかない。
何をとっても、信じられない性能である。
ホロコーストが左腕を振るう。
この体勢は、おそらくパンチを放つつもりだ。
これもH―2と同じ機能である。
慌ててワームウッドは後退するが、ホロコーストの拳は予想以上のスピードを持っていた。
かわしきれずに、重い一撃が頭部をかすめる。
バギンッ!
鈍い音を立てて、ワームウッドの頭部に付いている角が折れとんだ。
幸いにも、これはただの飾り。
実害はない。
しかし問題は別の所にある。
ホロコーストがこれほどの格闘能力を持っているということは、接近するのも危険だ。
『無駄だ!
私のホロコーストは最強なのだ!』
「確かにそうかもしれない。
……だがな、俺は退くわけにはいかない!」
ワームウッドのガトリングガンが火を噴いた。
連続で幾つもの弾丸が放出される。
ホロコーストは慌てることもなく左手を掲げた。
その手のひらが一瞬光る。
すぐさまデコイフィールドが発生し、金属製の銃弾をあらぬ方向に吹き飛ばす。
「俺はもう二度と、あんな後悔はしたくないんだッ!」
脳裏をかすめるシェリーの姿。
ヨシュアは奥歯を食いしばった。
愛する女を失う哀しみ。
女一人護りきれなかった自分の無力に憤るときの苦しみ。
もう何も、失いたくはなかった。
――そのためなら、命をなげうってもかまわない!
つづく。