アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち   作:外清内ダク

38 / 87
07 男の戦い

 

 

 

[所属不明機確認]

 

 コンピューターがヨシュアに告げた。

 レーダーでは、赤い光点がゆっくりと移動していた。

 おそらく、奴に間違いない。

 

 ヨシュアはワームウッドの操縦桿を握った。

 真っ直ぐに、奴に向かうコースを取る。

 奇襲など仕掛ける気は毛頭なかった。

 どんな奇襲を仕掛けたところで、おそらく無駄だろう。

 正面から戦って倒すことができなければ、どんな戦法をとっても勝つのは不可能だ。

 そんな気がした。

 

 それにしても、奴がこのコースで来てくれてよかった。

 確かにここはヴォルカニクスからアイザック・シティに向かう最短コースなのだが、別の発見されにくいコースで来る可能性もあったのだ。

 もしすれ違いにでもなろうものなら、それこそ笑い話にもならない。

 

 やがて、モニターの端に赤い影が映り始めた。

 すぐに映像が拡大される。

 赤黒く、すこし太めのボディライン。

 肩に背負ったレールガン。

 間違いない。倒すべき相手、H―P『ホロコースト』である。

 

『やはり来たか』

 

 不意に、通信が入った。

 ホロコーストに乗っている男、テスラの声である。

 

『君は、ヨシュア=オースティンだな。

 タオ=リンファはいないのかね?』

 

「あんな小娘をアテにするほど落ちぶれちゃいねぇよ」

 

 ヨシュアはいくつかスイッチを操作した。

 ガトリングガン、レーザーキャノン、各部駆動系……

 全てが限界近い出力で稼働を始める。

 

「早速で悪いが……始めようか!」

 

 

  *

 

 

 リンファはうなだれたまま、床の一点を見つめていた。

 そして、今起こっていることを理解しようとしていた。

 

 テスラ。

 反物質。

 エリィの言葉。

 

 そして、ヨシュアの言葉。

 

 全身が熱くなった。

 あの時と同じだ。

 夜の通りで、ヨシュアの言葉を聞いたときと。

 

 なんなんだろう、この感覚は。

 苦しい。

 でも、なぜか気分が高揚している。

 舞い上がってしまって、じっとしていられない。

 

 気が付くと、リンファの口から溜息が漏れていた。

 

 瞬間、リンファの心の中に一人の男の顔が浮かんだ。

 金髪で、冷たい目をしていて、人を見下したような薄笑いを浮かべている。

 憎たらしいあの男。

 

 それは、ヨシュアの顔だった。

 

 リンファは頭を振った。

 一瞬顔の映像がが揺らいだ。

 しかし次の瞬間には、前よりはっきりとヨシュアの顔が像を結んだ。

 

 否定したかった。

 でも、心を満たしているある一つの言葉を、リンファはどうしても忘れ去ることができなかった。

 

 逢いたい。

 

 ヨシュアに――逢いたい。

 

 どうして?

 どうしてこんなことを考えるの?

 この熱さも、この高揚感も……みんな、ヨシュアのせいなの?

 

 痛い。

 苦しい。

 助けて。

 誰か、助けて!

 

 ――ヨシュア。

 

 まただ。

 またあの顔が浮かぶ。

 忘れろと、自分自身に言い聞かせる。

 しかし、彼の顔は決して消えることはなかった。

 

 ヨシュアは、今何を考えているんだろう。

 ヨシュアは、あの時何を考えていたんだろう。

 

 その時リンファは気付いた。

 

 分からないのは、ヨシュアの気持ちではなかった。

 

 そう。分からないのは自分の気持ちだ。

 

 あたしは今、何を考えているんだろう。

 

 そうだ。

 一体今まで何を考えていたんだ!

 

 死んでしまう。

 このままでは、一人で行かせてはいけない!

 

「エリィ!」

 

 リンファは力の限り叫んだ。

 次の瞬間、一体いつの間に入ってきていたのか、ペンユウの影からエリィが顔を出した。

 

「じゅんびできてま~す!

 えへへへへ~」

 

 エリィは信じていたのだ。

 きっと、リンファならいつもの自分を取り戻すことができる、と。

 

 

  *

 

 

「オオオオオオッ!」

 

 ヨシュアの咆吼が響き渡る。

 

 それに呼応するように、彼の相棒ワームウッドが地を滑った。

 ガトリングガンが、ホロコーストを狙って弾丸をばらまく。

 

『そんなもの!』

 

 ホロコーストが左手を掲げた。

 一瞬、その手のひらが輝いたように見えた。

 

 そして次の瞬間、ガトリングガンの弾丸が全て軌道を反らされ、明後日の方向へねじ曲がる!

 

 ――デコイフィールド!

 

 かつてホロコーストの試作型、H―2が持っていた機能である。

 発生した強力な磁界によって、弾丸が反らされてしまうのだ。

 しかもこれは、小型化して左手にその機能を付けたようである。

 

 どうやら、実弾兵器は無駄のようである。

 

『絶対的な差というものを、見せてやろう!』

 

 左手を下ろし、ホロコーストは今度は右手を掲げた。

 左手に付いていたのがH―2の機能だということは……まさか、右手は!?

 

 バガンッ!

 

 右腕の装甲板がめくれ上がった!

 その奥から、いくつものとがったものがのぞく……

 ミサイルである。

 その数は、おそらく30は下らない!

 

 ――H―1の持っていた機能だ!

 これも右腕だけに簡略化されてはいるが、それでも恐ろしい数!

 

 しかし、ヨシュアはほんの少しも慌ててはいなかった。

 

「差を見せる? それは……」

 

 ヨシュアは操縦桿を握りしめた。

 汗が額に滲んでいるのがわかる。

 

 落ち着け。

 ヨシュアは自分に言い聞かせた。

 自信なんて少しもない。

 しかし、かつてこのワームウッドに乗っていた親父なら、そしてリンファなら、この程度のことはやってのける!

 

「こういうことを言うんだッ!」

 

 ミサイルが一斉に発射される!

 そしてワームウッドは、糸を引いて飛来するミサイルの隙間を、縫うようにしてくぐり抜ける!

 

 まさに神懸かり的な操縦!

 これで、一気に間合いを詰めた!

 

 ワームウッドの肩のキャノンが火を噴いた。

 光の弾丸がホロコースト目がけて一直線に突き進む!

 おそらく、これならデコイフィールドの影響も受けないはずだ!

 

 ゴグガァアアアッ!

 

 弾丸はホロコーストのコアに命中した。

 もうもうと巻き起こる砂煙。

 

 しかしそれが収まったとき映ったのは……

 傷一つ付いていないホロコーストの姿だった。

 

 とんでもない装甲!

 いくら重装のACやMTでも、このキャノンを食らえば全くの無傷とはいかない。

 何をとっても、信じられない性能である。

 

 ホロコーストが左腕を振るう。

 この体勢は、おそらくパンチを放つつもりだ。

 これもH―2と同じ機能である。

 

 慌ててワームウッドは後退するが、ホロコーストの拳は予想以上のスピードを持っていた。

 かわしきれずに、重い一撃が頭部をかすめる。

 

 バギンッ!

 

 鈍い音を立てて、ワームウッドの頭部に付いている角が折れとんだ。

 幸いにも、これはただの飾り。

 実害はない。

 

 しかし問題は別の所にある。

 ホロコーストがこれほどの格闘能力を持っているということは、接近するのも危険だ。

 

『無駄だ!

 私のホロコーストは最強なのだ!』

 

「確かにそうかもしれない。

 ……だがな、俺は退くわけにはいかない!」

 

 ワームウッドのガトリングガンが火を噴いた。

 連続で幾つもの弾丸が放出される。

 ホロコーストは慌てることもなく左手を掲げた。

 

 その手のひらが一瞬光る。

 すぐさまデコイフィールドが発生し、金属製の銃弾をあらぬ方向に吹き飛ばす。

 

「俺はもう二度と、あんな後悔はしたくないんだッ!」

 

 脳裏をかすめるシェリーの姿。

 ヨシュアは奥歯を食いしばった。

 

 愛する女を失う哀しみ。

 女一人護りきれなかった自分の無力に憤るときの苦しみ。

 もう何も、失いたくはなかった。

 

 ――そのためなら、命をなげうってもかまわない!

 

 

 

つづく。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。