アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち   作:外清内ダク

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08 女の戦い

 

 

 

『後悔することなど何もない。

 後悔する必要もない。

 なぜなら、私が後悔する暇すらも与えないからだッ!』

 

 デコイフィールドを維持したままホロコーストは右手を掲げた。

 その装甲板がめくれ上がる。

 再度その内側にのぞく無数のミサイル!

 

 ――今だ!

 

 ゴガアアアアッ!

 

 ホロコーストの左の手のひらが爆発した!

 ガトリングガンの弾丸を食らったのである。

 

『な……! 何故、貫かれたのだ!?』

 

 ガトリングガンの弾がデコイフィールドを貫いた理由はただ一つ。

 手のひらから発生する磁界に対して、弾丸が並行に飛来したからである。

 

 磁界によって受ける力と弾丸の速度が一直線上にあれば、たとえ威力が殺がれても貫くことができるのである。

 

 勿論、言うのは簡単だが、実行するには針の穴を通すほどの正確さが要求される。

 しかも、ホロコーストが少しでも腕を動かせば失敗してしまう。

 

 だからこそ、相手が右腕を動かすまで待ったのだ。

 テスラがミサイル発射に気を取られている内に、攻撃するために。

 

 ともかく、これでデコイフィールドは封じた!

 

『くっ……だが、まあいい!

 これで終わりだっ!』

 

 ホロコーストの右手からミサイルが発射された。

 ミサイルの引く白煙が、蜘蛛の巣のように四方八方からワームウッドを包み込む!

 

 ワームウッドはガトリングガンでミサイルを撃ち落としながら必死に回避する。

 しかし、ついにかわしきれずに数発が右腕に命中した!

 

 瞬間、コックピットに灯るレッドランプ。

 けたたましい警告音を聞きながら、ヨシュアは舌打ちをした。

 放っておけば、爆発する危険がある。

 

 バシュッ!

 

 ワームウッドの右腕がコアから切り離され、地面に転がった。

 ダメージは小さくないが、まだ戦える!

 

 しかし次の瞬間、目に飛び込んできた光景にヨシュアは驚愕した。

 

 ホロコーストが、片膝を付いてレールガンを構えている!

 

 おそらく反物質レールガンを発射するには長い準備時間が必要なのだろう。

 そのため、接近戦では使いづらい兵器なのだ。

 それを敢えて準備しているということは、多少のリスクは覚悟で早く決着をつけるつもり、ということだ。

 

「させるかっ!」

 

 ワームウッドは全速力で前進しながらレーザーキャノンを連射した。

 相手は止まっているのだ。

 外れるはずもなく、キャノンの弾丸はホロコーストのコアに命中する。

 

 しかし、いくら攻撃を食らっても全くホロコーストは揺るがない!

 常識を外れた装甲のおかげで、攻撃を食らいながら発射準備を進めていく!

 

 こうなったら、至近距離でありったけの弾をぶち込むしかない。

 ワームウッドは猛スピードでホロコーストに迫る。

 

 そして、ホロコーストの目の前まで近付いた、その時!

 

 ゴガアァッ!!

 

 ホロコーストの繰り出すパンチが、ワームウッドを捕らえていた。

 

 

  *

 

 

 ――急げ!

 

 ブースターをこれでもかと噴かして、ペンユウは荒野を突き進んでいた。

 

 ペンユウのレーダーの性能はかなり高い。

 遠距離まで完璧に索敵できる。

 そして、そのレーダーには、二つの赤い光点が記されていた。

 

 おそらく、ワームウッドとホロコースト。

 もう戦闘は始まっているのだろう。

 しかし距離がかなりある。

 全力で進んでも、あと五分はかかる。

 

 ――お願い……無事でいて。

 

 リンファは今まで、神を信じる人間を馬鹿にしてきた。

 神など存在しない。

 仮に存在していたとしても、人間を都合良く助けてはくれない。

 そう思っていた。

 

 しかし今。

 リンファは神に祈っていた。

 ただひたすら、ヨシュアの無事を祈っていた。

 そして、一刻も早くヨシュアの元へたどり着くことを願っていた。

 

 あと三分。

 ジェネレーターが悲鳴を上げている。

 ブースターを連続使用しすぎたようである。

 十秒ほど、ブースターを使わずに歩かなければならない。

 

 こんなことなら、ブースターなしで高速移動できる四足タイプにしておくんだった。

 リンファは今さらながら後悔した。

 

 あと一分。

 そのとき、モニターに光が映った。

 あれはおそらく、ワームウッドの放つレーザーキャノンだ。

 よかった、少なくともまだ無事らしい。

 そして彼らは、目の前のこの丘の向こうにいる。

 

 そして。

 ついにたどり着いたリンファの瞳に映ったのは、ホロコーストの拳の直撃を受けるワームウッドの姿だった。

 

 

  *

 

 

 ワームウッドの青いボディが宙を舞う。

 

 コアと脚部のつなぎ目に命中した拳は、ワームウッドの各部をバラバラに引き裂いていた。

 

 青いコアが地面に落ち、なんどか跳ねながら転がった。

 なんてことだ。

 あの中には、ヨシュアが乗っているのに!

 

 リンファは我が目を疑った。

 荒涼たる大地。

 そこに転がる、無惨な姿のワームウッド。

 そして、肩のレールガンを構えた姿勢のまま、ワームウッドを拳で殴り飛ばしたホロコースト。

 

 リンファは俯き、奥歯を噛んだ。

 

『遅かったな、タオ=リンファ』

 

 テスラの声が聞こえてきた。

 息づかいが荒い。

 どれほど激しい戦闘だったのかがよくわかる。

 

『恐ろしい男だった……普通のACで、このホロコーストに傷を負わせた。

 一人で来てくれて助かったよ』

 

 次の瞬間、リンファはたまらず吼えた。

 

 獣の如く、悪魔の如く。

 吼えて、リンファは手の内にある操縦桿をなぎ倒した。

 ペンユウも、彼女の怒りに応えるが如く、駆け抜けた。

 

『今さら何をしようともう遅い!

 準備は既に完了したッ!』

 

 レールガンが火を噴く。

 死を招く砲弾が発射された。

 滅びを撒く悪魔が、その牙をむいた。

 

 そして、ペンユウの左手に光が灯った。

 

 

  *

 

 

「聞いて、リンファ」

 

 ヨシュアを追って出撃する直前、エリィはリンファに告げた。

 

「テスラは、かつて反物質を安定化させる研究を行っていたの。

 でも、結局は無理だった。

 現在の科学では……たとえテスラほどの天才の力をもってしても、物質と出会った瞬間に消滅してしまう反物質を安定化させることは不可能だったのよ」

 

 リンファにはよく意味がわからなかった。

 しかし、心のどこかで少しひっかかるものがあった。

 疑問を抱いたのである。

 

「じゃあ、爆弾なんて造れないじゃない」

 

 エリィは頷いた。

 伝えたかったことをリンファが理解してくれたことに満足しているのである。

 

「そう。

 だから、あのレールガンの弾丸は反物質を練り固めた造った、なんてものじゃないのよ。

 つまり……」

 

 エリィは眼鏡を直した。

 ここからが本題、と言わんばかりに口調を強める。

 

「弾丸それ自体が、小型の反物質生成装置なのよ。

 生成した反物質は、即座に周囲の物質と打ち消しあい、エネルギーをばらまく」

 

 どっちでもいいんじゃないか、とリンファは思った。

 そんな仕組みを知ったところで、大した差はない。

 

 しかしそうではなかった。

 これは重要なことだったのだ。

 

「だから、レールガンに対抗する手段が一つだけあるわ――」

 

 

 

つづく。

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