アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち   作:外清内ダク

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09 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち

 

 

 

 ――馬鹿な。

 

 信じられなかった。

 テスラには、どうしても事実を信じることができなかった。

 

 ――砲弾を、斬り裂いた……だと?

 

 そう。

 

 ペンユウの振るったレーザーブレードは、一分の狂いもなく撃ち出された反物質生成装置を真っ二つに斬り裂いていた。

 

 対抗する手段とは、つまり――

 砲弾が反物質を生成する前に、砲弾自体を破壊することだったのだ。

 

 まだ、テスラは信じられなかった。

 もし、レールガンの角度が数度ずれていたら?

 もし、レーザーブレードがあと十五㎝ずれていたら?

 小さな砲弾は、間違いなく周囲三十㎞を焼き尽くしていただろう。

 

 ペンユウのブレードがホロコーストのコアに食い込んだ。

 

 先の戦闘で、ヨシュアがひたすら狙い続けていた、コアの中心のある一点に。

 

 無敵のはずのホロコーストの装甲が、破られた。

 

 わからなかった。

 テスラには、わからなかった。

 自分が何故負けたのかが。

 

 ――偶然?

 

 いや、違うな。

 

 ようやく、テスラははっきりと理解した。

 彼は、負けたのだ。

 偶然にでも、運命にでもなく。

 

 ヨシュア=オースティン。

 タオ=リンファ。

 そして、エレン=ガブリエラ。

 あの三人に。彼は、全力で戦い――そして、負けたのだ。

 

 テスラの脳裏に、過去の光景が浮かんだ。

 

 大学の入学式。

 そこで出会った一人の女性。

 エレン、と彼女は名乗った。

 そして次に、エリィと呼んで欲しい、と言った。

 

 エリィは天才だった。

 テスラもまた、天才だった。

 二人は互いに競い合った。

 またある時は協力し合った。

 最高の相棒だと、互いに思っていた。

 

 やがて、二人は惹かれ合った。

 二人は強くなった。

 今までよりも、ずっと強くなった。

 

 ――楽しかったな。

 

 テスラはそう思った。

 あの頃は毎日が新鮮で、よく笑っていたような気がする。

 そして、側にはいつもエリィがいた。

 

 ――ああ、そうか。

 

 やっと彼は全てを理解した。

 

 ――私は、死ぬのか。

 

 彼の心は、自分でも不思議なくらい安らいでいた。

 目を閉じると、心の中で彼は囁いた。

 

 ――さよなら、愛しのエリィ。

 

 

  *

 

 

 近くの丘の上から、エリィは下の光景を見つめていた。

 ブレードに貫かれ、ぴくりとも動かなくなったホロコースト。

 その姿はまるでテスラそのもののようだった。

 

 頬を冷たいものが伝わっていった。

 目を閉じ、昔を思い出す。

 

 きっと彼は、初めて会ったのは入学式の時だと思っているだろう。

 でも、そうではないのだ。

 

 入学試験の時。

 エリィの乗っていた列車が悪戯半分のハッカーにハッキングを受け、乗っ取られてしまった。

 そしてそのハッカーをたったの3秒で灼き殺し、列車の機能を回復させたのは同じ受験生であるテスラだった。

 

 エリィがハッカーとしての腕も身につけたのは、この影響だ。

 

 無事入学を決めたある日、エリィの友人がAC同士の戦闘に巻き込まれ、重傷を負った。

 その時も、ただおろおろするだけのエリィを尻目に、友人に応急処置を施したのはテスラだった。

 彼がいなければその友人は死んでいただろう。

 

 エリィが医学を学びはじめたのは、この後だった。

 

 そうだ。

 今思えば、エリィはずっとテスラと一緒だった。

 何をするにも、いつもその瞳の先にはテスラの背中があった。

 

 ――楽しかったな。

 

 エリィはそう思った。

 

 そして、愛する男に最後の言葉を投げかけた。

 

「さよなら、テスラ。

 運が良ければ、天国でまた逢えるわ――」

 

 

  *

 

 

 終わった。

 

 コアをブレードで貫かれたホロコーストは、今や完全に機能停止していた。

 おそらく、パイロットも生きてはいないだろう。

 

 リンファは肩で息を付いた。

 一瞬の安堵の後に、閃光のように不安が蘇る。

 

 慌ててリンファはペンユウを動かした。

 ゴミのように地面に転がるワームウッドのコアに駆け寄り、膝立ちになる。

 すぐさまリンファはペンユウから飛び降りた。

 

 コックピットのハッチは、リンファの手の届く位置にあった。

 コアと脚部がバラバラになったおかげである。

 スイッチを操作し、ハッチをこじ開ける。

 

 中は凄惨たる様子だった。

 内壁がいたるところで破れ、その破片にべっとりと血が付いている。

 どす黒く、粘りけのある血。

 そしてこの、鼻を突く異臭。

 

 ヨシュアは脇腹を押さえ、シートに横たわっていた。

 転がった時に頭を打ったのだろう。

 額からも血が流れている。

 そしてコートの内側、ちょうど手で押さえている辺りには――

 

 間違いない。

 傷は、内臓にまで届いている。

 一刻も早くちゃんとした手当をしなければ……

 

 リンファは手をヨシュアの体の下に差し込み、力を込めた。

 さすがに重い。

 しかし、持ち上がらないほどではなかった。

 なんとか狭いコックピットから引きずり出す。

 

「う……」

 

 ヨシュアが小さく呻いた。

 慌ててリンファは地面に座り込み、自分の膝を枕代わりにしてヨシュアを寝かせる。

 

「ヨシュア!」

 

 リンファが呼ぶと、ヨシュアは薄く目を開いた。

 意識はまだある。

 

 懐から通信機を取りだし、リンファはスイッチを押した。

 

 その時、ヨシュアの手がリンファの動きを制した。

 

「いい……間に……あわない」

 

 リンファは息を飲んだ。

 

「やめてよ……そんなこと言わないでよ!」

 

 ヨシュアの顔に、驚きの色が浮かんだ。

 

「あたし……やっとわかったの……

 ヨシュアの気持ち、あたしの気持ち、全部わかったの!

 だから……だから……!」

 

 ヨシュアはか細く微笑みを浮かべた。

 そして、静かに両目を閉じた。

 

 リンファは手に力を加えると、ヨシュアの体を抱きしめた。

 

 ――冷たい。

 

 雫が落ちる。

 ヨシュアの頬が露に濡れた。

 

 暗い空から、一筋の雨が舞い落ちた。

 雨は次第に強さを増し、大地を潤していく。

 冷たい雨が、二人の体を優しく包み込む。

 

 今、一つの物語が幕を閉じた。

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