アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち   作:外清内ダク

41 / 87
エピローグ
That's not the end. See you someday,somewhare!


 

 

 

 ふうっ。

 

 ロビーのソファにゆったりと腰を落ち着け、エリィは溜息をついた。

 

 ここはアイザックシティで最も大きな病院のロビーである。

 病気だか怪我だか知らないが、数え切れないほどの人々が、入れ替わり立ち替わり、ひっきりなしに会計を済ませたり薬を受け取ったりしている。

 

 中央にある大きなモニターには、ヒーリング・ミュージックに合わせて世界中の森林や渓谷、山頂からの眺めなどが垂れ流しになっている。

 さっきまでそれに見とれていた子供が、薬を持った母親に手を引かれて立ち去っていった。

 

 エリィは手の内にあるココアの缶を口に持っていった。

 甘く、熱い感覚が喉を通り抜けていく。

 

 憂鬱な気分だった。

 

 多分、もう自分は一生男を愛することはできないだろう。

 でも、それでもいいと思った。

 一人ではないのだ。

 きっと、彼はずっと心の中にいて、見守ってくれるはずだ。

 

 もう一口、エリィはココアを口に含んだ。

 

「エリィさん、ですね?」

 

 背後から声がかかった。

 男の声である。

 どこかで聞いたことがあるような気もするが、思い出せなかった。

 

 エリィはソファに座ったまま振り向いた。

 

 そこには、眼鏡をかけてネズミ色のスーツを着込んだ男が、薄笑いを浮かべて立っていた。

 手には黒いアタッシュケースを持っている。

 一見すると企業戦士のようにも見えるが、彼は違う。

 

「あなた……コバヤシさん?」

 

「憶えていらっしゃいましたか。

 光栄です」

 

 彼の名は、シロウ=コバヤシ。

 かつて、ある事件の時にかかわった、アリーナ管理委員の男である。

 その名の通り、レイヴン達がその腕を競う闘技場、バトルアリーナの管理運営をしているのだが、一体何の用だというのか。

 

「お隣、よろしいですかね?」

 

 エリィは無言で頷いた。

 

 コバヤシはにっこりと微笑むと、スーツの裾を気にしながらソファに腰掛けた。

 アタッシュケースを膝の上に置き、留め金に指をかける。

 

「実は、あなたの相棒の方にお話がありましてね」

 

「また、アリーナのお誘い?

 ……御免なさい、あの娘は今、落ち込んでるから……」

 

 コバヤシはまた、微笑んだ。

 何もかも分かっている。そんな感じの微笑みだった。

 

 エリィは少し戸惑った。

 アリーナに出ろ、というわけではないのだろうか。

 

「ええ、お話は伺ってます。

 落ち着かれた時にでよろしいですから、伝言をお願いできませんか?」

 

「……どうぞ」

 

 エリィが答えると、コバヤシは満足げに笑ってから留め金を指で弾いた。

 ぱちんと小さな音がして、黒くて頑丈な箱が口を開けた。

 中からいくつかの書類を取り出しつつ、コバヤシは眼鏡を直した。

 

「実は、先日開かれたマスターアリーナ選考会議……

 そこである決定がなされましてね」

 

 

  *

 

 

 リンファは、椅子に座って窓の外を眺めていた。

 

 壁は白く塗り固められ、飾り気のない室内には最低限必要なものが取りそろえられている。

 

 どうして病室というものはこうも殺風景なのだろうか。

 リンファは思った。

 これでは、余計に患者が落ち着かないことはないだろうか。

 

 しかし、窓の外は一層殺風景だった。

 これが地上なら木々や草花が目を楽しませてくれただろうが、見えるのは病棟に面した道路と、そこを行き交う人々、そしてたまに突進してくる救急車だけである。

 

 リンファは目を移した。

 この病室に一つだけあるベッド。

 

 そこには、一人の男が仰向けに寝そべっていた。

 金髪とそれなりに端正な顔立ち。

 いつものコートはさすがに着ていない。

 今は病院から支給された、真っ白な服に身を包んでいる。

 

 ヨシュア=オースティン。

 

 今日でもう、あの戦いから一週間になる。

 駆けつけたエリィの処置のお陰で何とか一命をとりとめたものの、ヨシュアはこの一週間、ひたすら目を閉じて眠り続けている。

 

 ――男が眠り姫になってどうする。

 

 リンファは心の中で冗談を飛ばしてみた。

 

 しかしそれでも、心の隙間は埋まらなかった。

 ぽっかりと穴が空いている。

 

 その穴に不安が入り込んでくる。

 ヨシュアはもう、目を覚まさないのではないか。

 医者は大丈夫だと言っていた。

 でもそれは、自分を傷つけないための嘘なのではないか。

 

 穴を埋めようとリンファは必死にあがいた。

 でも、どんなに藻掻いても、結局は無駄に終わるのだ。

 最後に行き着く結論はいつも一つだ。

 

 ヨシュアに、逢いたい。

 

 言ってしまえばそれだけだった。

 

 何度目だろうか、リンファはまた溜息をついた。

 

 その時だ。

 

 ヨシュアの目が、うっすらと開いた。

 

「ヨシュア!」

 

 思わず椅子を蹴り、リンファは立ち上がった。

 ベッドの側に駆け寄り、ヨシュアの顔を凝視する。

 

 彼の頭が少し動き、その視線がリンファのそれと合った。

 

「リン……ファ……?」

 

 呻くように、ヨシュアは呟いた。

 遠い目で天井を見つめる。

 しばらくそうしていると、次第に意識がはっきりとしてきた。

 一つ一つ、想い出が蘇ってくる。

 

「俺は……また、生き残っちまったのか――」

 

 リンファは憮然としてヨシュアの顔を見つめた。

 シーツの中に手を差し入れ、ヨシュアの手を握る。

 ヨシュアの手は冷たかった。

 

「違うよ、それ」

 

 ヨシュアの頭が動いた。

 リンファの一片の曇りもない瞳を見た時、彼は自分の体が槍に貫かれたかのような衝撃を感じた。

 

「あたし、やっとわかったの。

 あなたの気持ちも、あたしの気持ちも――

 

 あたし、あなたの側にいたい。

 あなたに、側にいて欲しい。

 

 だから……」

 

 リンファの瞳に涙が浮かんだ。

 

 彼女の涙を見るのは、これが初めてだった。

 奇麗だと思った。

 不思議なことに、他には何も感じなかった。

 ただ、その涙の美しさに感動し、見とれていた。

 

「だからずっと、あたしの側にいて――」

 

 ヨシュアは目を閉じた。

 

 涙が頬を伝う。

 涙は白いシーツに斑点を創った。

 それは、何よりも大きく、何よりも重い斑点だった。

 

 リンファは立ち上がった。

 

 そして、自分の唇をそっと彼のものと触れ合わせた。

 

 

 

That's not the end. See you someday,somewhare!




■次回予告

R「てなわけで!
 作者が高3の時センター試験そっちのけで書き上げた『アーマードコアEX』。
 これにて第1部完結よっ!」

J「いやー、お疲れお疲れ」

E「あれー? もうおわり?
 なんか、ほかにもイロイロイロモノいたよーなー?」

R「ちょっと! そういうこと言わないでよ!」

J「何を怯えてるんだ?」

R「ウカツなこと言うと、『アイツ』が出てくンでしょーがっ!」

J「ははあん、『アイツ』ね」

E「『アイツ』ってだーれー?」

M「フハーッハハハハハハ!!
 それは!
 この私のことであーるっ!!!」

R「だあああああっ!
 やっぱ出たあああああああ!!
 あたしゃコイツが苦手なのよっ!!」

J「ほう、そりゃあいいこと聞いた」

E「そんじゃー、ここから先は作者大学時代の第1.5部!
 ばっちり続けていってみよー!!」

R「殴るぞ……おまえら……」

M「というわけで! 次回からは主役交代!
 この私ミラージュが、諸君を感動の渦に巻き込むのだっ!!

アーマードコアEX 第6話
『砂漠のグレイ・ロック』!


 楽しみにしていてくれたまえ!!」

R「嘘つけえええええっ!!
 主役はあたしよ! あたしだからねーっ!?」

E「それではまたー!」




(諸事情により、次回の更新まで一週間程度のインターバルをいただきます。悪しからずご了解ください)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。