アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち   作:外清内ダク

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02 ミラージュ・ザ・サンドストーカー

 

 

 

 

「あとどのくらい?」

 

『んっとぉ、あと15ふんでとーちゃくなのぉ』

 

 リンファは気が遠くなった。

 

 自慢の黒髪が、汗で額に張り付いて気持ち悪い。

 シャツはもう完全に湿ってしまっている。

 唇に乾きを感じて、リンファはスポーツドリンクの缶に口を付けた。

 

 今リンファがいるのは、巨大汎用ロボット、『AC』のコックピットの中である。

『ペンユウ』というのが彼女の愛機に付けられた名前だ。

 

 何度かのバージョンアップを経て、今は『ペンユウ侃』を名乗っている。

 ペンユウの武装は、右手に持ったマシンガンと左手の甲に装着されたレーザーブレード発生装置。

 そして、左肩に背負っているのは新しく購入したミサイルである。

 

 そのペンユウがひた走っているのは、北アメリカ大陸の南部に位置する、メキシコ砂漠のど真ん中である。

 外気温は約40度。

 これからもっと上がるだろう。

 陽炎に揺らめく真紅の巨人は、端から見れば美しくも見えるだろうが、中に乗っているものはそんなことはいっていられない。

 

 一応ACにもエアコンは付いているが、それほど性能が良くない。

 何分巨大ロボットである。

 機体の排熱が精一杯で、あまりコックピット内まで手が回らないのだ。

 そんなわけで、今コックピット内の気温は34度をマークしていた。

 

「暑い……」

 

 ついに口に出してしまった。

 今まで、ずっと我慢していたのである。

 どこかで「暑いと言うと余計に暑く感じる」とかいう話を聞いたことがある。

 普段のリンファなら鼻で笑うだろうが、人は苦しいときには何にでもすがりたくなるものである。

 

『にゃはは~、ヨシュアくんもみちづれにすればよかったのにね~』

 

「仕事とプライベートは別。

 そんなこと言ってないで、ちゃんとナビしてよ」

 

 通信相手は、リンファの専属メカニックのエリィである。

 この間までいろいろと事件があってしばらく落ち込んでいたのだが、ようやく元気を取り戻したらしい。

 本業はメカニックだが、ハッカーでもあり、医学の心得もあり、様々な局面でリンファをサポートしてくれている。

 今回はナビゲーター役である。

 

 向かう先は地下都市『サンタニカ』跡。

 メキシコ砂漠の形成によって破棄を余儀なくされた地下都市の内の一つである。

 そこが最近、テログループの活動拠点になっているらしい。

 そのテログループの殲滅が、今回の依頼内容である。

 

 危険な仕事。

 危険を買う仕事。

 それが、リンファの生業である。

 闇の世界を疾走する傭兵、『レイヴン』。

 リンファはそのレイヴンの一人だった。

 

『あ、レーダーにはんのう~』

 

 突然、エリィが声を上げた。

 

 リンファも自分の目でレーダーを確かめる。

 なるほど、こちらに向かって近づいてくる光点が二つ。

 速度はそこそこ。

 砂漠をこのスピードで動き回れるものとなると、種類は限られてくる。

 

[AC急速接近中。機数2]

 

 コンピューターが報告する。

 

 やはりACか。

 テロリストがACを使うことは少ない。

 おそらく、テロリストが用心棒として雇ったレイヴンだろう。

 

[識別信号確認。AC『スティンク』、及びマスターアリーナ所属AC『サンドストーカー』]

 

 その声を聞くなり、リンファは青ざめて操縦桿をひねり倒した。

 ペンユウが近くにあった巨大な岩の影に滑り込む。

 

 マスターアリーナ所属。

 その一言で、相手のレヴェルがはっきりとわかる。

 間違っても、手加減などできるような相手ではない。

 

 アリーナと言うのはレイヴン達が賞金をかけて闘う、いわば闘技場のような存在である。

 その試合は資産家達の賭の対象となるのだ

 そしてそのアリーナにもいくつもの種類がある。

 マスターアリーナもその中の一つである。

 

 別格。

 そう表現するのがふさわしい。

 並のレイヴンでは、まばたき一つする間に葬り去られてしまう。

 そんなレヴェルの猛者たちが、世界一を巡って争っている。

 そういう世界である。

 

 とはいえ、実際に試合が行われることはほとんどない。

 自分の力に恐れを抱く……冗談でも嘘でもなく、自分に恐怖する人間がほとんどなのだ。

 それほどまでに大きな力を持つのが、マスターアリーナ所属のレイヴンなのである。

 

 操縦桿を握る手をぬらすのは、冷や汗か、それとも暑さで吹き出した汗か。

 いずれにせよ、手が滑ってしまいそうである。

 リンファはシャツの裾に手のひらをこすりつけた。

 シャツも汗でびしょぬれになっていることに気付いたのは、その後だった。

 

「エリィ、サポートお願い!」

 

『りょ~か~い!』

 

 

  *

 

 

 飛び散る砂粒。

 それを全身で受け止めながら、ひたすら前進する二つの巨体。

 

 一つは砂漠用の迷彩色で身を包んだ中量級二足AC、もう一つはかびの生えた青銅のような、一見して気色悪い色合いの重量級二足ACである。

 

「わかっているね、カンバービッチくん!」

 

 砂漠迷彩のAC、サンドストーカーのコックピットに、男はいた。

 

 会話の相手は隣の重量AC、スティンクに乗っているカンバービッチ君である。

 通信はさっきから開きっぱなしになっていた。

 

『いつでもどうぞ!』

 

 通信機を通して聞こえる、カンバービッチの軽快な声。

 さっきまでの重苦しい雰囲気はどこへやら。

 

 男は満面の笑みを浮かべると、普通の通信とは少し違うスイッチを押した。

 外部スピーカーの出力ボタンである。

 

 突然、二機の動きがぴたりと止まった。

 男は胸一杯に息を吸い込むと、マイクデバイスに向かって声を張り上げた。

 

『わぁぁたしはぁっ!

 マスターアリーナ所属レイヴン、ミラージュ!

 そしてこれはわたしの愛機サンドストーカーであるっ!』

 

 ついさっきまで沈黙が支配していた砂漠に、突如巻き起こる大音声。

 しかし、地面に受け止められたのか空に飛んでいったのか、岩陰に隠れているリンファにはそれほどの音はとどかなかった。

 むしろ、普通の通信の方がよく聞こえる。

 どうやら派手さを狙った演出のようだが、失敗におわったようである。

 

『そこに隠れているのは、マスターアリーナ所属レイヴン、タオ=リンファだな!?

 かぁくれてないで出てこい!

 そしてわたしと勝負しろォッ!!』

 

 

  *

 

 

 輝く金髪に、鴉のような漆黒のロング・コート。

 そして悪魔でも睨み付けているかのような、冷たい光を放つ瞳。

 どうにも、このスラム街には不釣り合いな風体である。

 

 しかし周囲を徘徊する浮浪者達も慣れたものだ。

 もっとも、彼らのアイドルを奪い取った嫌な奴、という意味でだが。

 

 ヨシュアという名のレイヴンである。

 レイヴンとしての腕前は一流。

 以前に一度リンファと戦い、ほぼ互角の勝負を繰り広げた。

 

 今は、と言われると、実際にやってみなければわからない、としか答えようがないだろう。

 

 彼は今、古臭い倉庫の前にいた。

 

「邪魔するぜ」

 

 ヨシュアはそういうと、倉庫のドアを蹴り開けた。

 あまり行儀が良いとは言えないが、そうしないと開かないのだから仕方がない。

 そんなノウハウを身につけるほどこの倉庫に通っているのか。

 彼はふと、そう考えた。

 

 この倉庫自体、薄汚れたスラムの奥にある。

 しかし、倉庫の中はさらに輪をかけて汚れていた。

 

 どこからか拾ってきたのであろうスクラップの山。

 インスタント食品の空箱。

 タチの悪い、一ヶ月前のゴシップ誌。

 最近はその中に、女性向けファッション雑誌が紛れ込むようになった。

 昔はそんなもの、全く縁遠い存在だったのに、である。

 

 そのゴミの山を断ち切って、一本の道が延びている。

 その姿は大破壊以前の映画にある、聖人が海を割って道を作るシーンによく似ていた。

 

 ヨシュアは道の奥に目をやった。

 いつもは二人の女性がそこにいるのだが、今日は一人だけだ。

 

 彼女は長い赤毛で大きな三つ編みを一つ作り、濃いピンクのジャケットと薄いピンクのスカートに身を包んでいる。

 高い鼻にかけた小さな丸眼鏡。

 顔立ちは北欧系で、見とれるほどに美しい。

 

 ヨシュアの見知った顔だ。リンファの専属メカニック、エリィである。

 

「あー、よしゅあくんだぁ」

 

「……一人か?」

 

「あのね、りんふぁちゃんはおしごとなの。

 ねね、りんふぁちゃん。よしゅあくんだお~」

 

 エリィがパソコンの画面に向かって話しかけた。

 

 通信の相手はリンファか。

 足下のゴミを踏みつけないように気を付けながら歩み寄ると、ヨシュアはひょいと画面を覗き込んだ。

 

 いくつかのウィンドウが、そこに表示されている。

 どこかの精密な地形図。

 現在の時刻。

 燃料の残量。

 AC「ペンユウ」の状態。

 それから、外気温なんてものもある。

 

 それらの中心に、もっとも大きく開けたウィンドウがある。

 汗だくで、お世辞にもきれいな表情とは言い難い。リンファの顔だった。

 

『何よ。今忙しいの』

 

「今すぐ帰ってこい。危険だ」

 

 モニターの向こうにあるリンファの顔がますます歪んだ。

 眉を寄せ、目を細めてこっちを睨んでいる。

 

「マスターランカーがお前を狙ってる。

 命が惜しいならすぐに逃げろ」

 

 リンファは小さく舌打ちをした。

 マイクの感度があまりよくないせいか、音は伝わってこなかったが。

 

 彼女の右手が動き、モニター全体を覆った。

 

『手遅れよ……』

 

 ぶつっ。

 

 次の瞬間、映像はリンファの側から断ち切られていた。

 

 

 

つづく。




今回登場したAC

■ペンユウ侃
機体名 ペンユウ侃
パイロット リンファ
HEAD HD-H10
CORE XXL-DO
ARMS AN-25
LEGS LN-1001B
BOOSTER B-PT000
FCS FBMB-18X
GENERATOR GBG-XR
BACK UNIT R RZT-333
BACK UNIT L WM-SMSS24
ARM UNIT R WG-MG500/E
ARM UNIT L LS-99-MOONLIGHT
OPTION SP-S/SCR, SP-E/SCR, SP-EH, SP-E+
●COLOR
 NIGHT SHIFT/BLOOD STRUCTURE
●備考
 第六話以降のリンファ機。武装を換えただけ。


■サンドストーカー
機体名 サンドストーカー
パイロット ミラージュ
HEAD HD-REDEYE
CORE XXA-SO
ARMS AN-25
LEGS LN-1001B
BOOSTER B-VR-33
FCS TRYX-QUAD
GENERATOR GBG-XR
BACK UNIT R WM-SMSS24
BACK UNIT L -
ARM UNIT R WG-1-KARASAWA
ARM UNIT L LS-99-MOONLIGHT
OPTION SP-MAW, SP-JAM, SP-CND-K, SP-AXL, SP-S/SCR, SP-E/SCR, SP-EH, SP-E+, SP-ABS/Re
●COLOR
 DESERT PATTERN/STANDARD
●備考
 連載当時のキャラクター人気投票堂々1位!のミラージュさん愛機。



■スティンク
機体名 スティンク
パイロット カンバービッチ
HEAD HD-ZERO
CORE XCA-00
ARMS AN-201
LEGS LN-SSVR
BOOSTER B-VR-33
FCS CONDEX-G0
GENERATOR GBG-XR
BACK UNIT R WR-S50
BACK UNIT L WM-S40/2
ARM UNIT R WG-512
ARM UNIT L LS-99-MOONLIGHT
OPTION SP-ABS, SP-CND-K, SP-S/SCR, SP-E/SCR
●COLOR
 DESERT PATTERN/METAL INSECT
●備考
 やっぱり重量二脚はカッコイイ。
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