アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち   作:外清内ダク

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03 リンファの秘策

 

 

 

 

 言うのが遅い。

 

 リンファは大きなため息をついた。

 いちいち家まで来ずに、電話か何かで連絡すればいいものを。

 そうしたら、こんな面倒なことにならずにすんだのに。

 

 待てよ。

 

 そのとき、彼女はふとあることに思い当たった。

 そういえば、さっきからずっとエリィと交信していたから……そうか。

 回線がビジーだったのか。

 リンファは怒って通信を切ってしまったことを後悔した。

 

『どうした、怖じ気づいたのか?』

 

 外部スピーカーではなく、公共周波数で伝わってくる声。

 あのミラージュとかいう男、どうやら自分の失敗に気付いたらしい。

 

 仕方なくリンファは通信機の周波数を合わせて、口を開いた。

 

「2対1は不公平なんじゃないの?」

 

『安心したまえ。

 カンバービッチ君はジャッジだ。手は下さない』

 

 そんなもの、信用できるか。

 リンファは心の中で呟いた。

 

 だいたい、待ち伏せしてたのならこっちが仕事中なことくらい知ってるだろう。

 全く他人の迷惑を顧みないくせに、他人には自分を信用しろという。

 リンファの一番嫌いなタイプの男である。

 

 どうやら戦う以外に道はないようだが、それにしてもはやく依頼をこなさねば……

 

 ――待てよ。

 

 リンファは口の端を吊り上げた。

 奴を適当にあしらい、なおかつ依頼も完璧にこなす方法が、ある。

 

 覚悟を決めると、リンファは叫んだ。

 

「OK。勝負よ、ミラージュ!」

 

 

  *

 

 

 岩陰から躍り出る赤い影。

 ペンユウは目一杯ブースターを吹かし、一気にサンドストーカーとの間合いを詰める!

 

「ようやくその気になったか!」

 

 彫りの深い顔の奥で瞳を爛々と輝かせ、ミラージュは操縦桿を持つ手に力を込めた。

 快適なレスポンスで横に飛ぶサンドストーカー。

 その直ぐ横を、ペンユウのレーザーブレードが通り過ぎた。

 

 勢い余ってたたらを踏むペンユウ。

 

 絶好のチャンス。

 サンドストーカーは右手のプラズマライフルを構え、その背に狙いを定めた。

 

 キュウンッ!

 

 小型犬の悲鳴のような、甲高い音が響き渡る。

 高エネルギーのレーザー光が、空気を灼いてプラズマ化させる。

 生まれた光の矢、プラズマの矢は、必死に体勢を立て直しているペンユウの背中に、容赦なく襲いかかった!

 

 ――その時!

 

 バオウッ!

 

 ペンユウのブースターが火を噴き、地面の砂を巻き上げた!

 レーザー光は砂粒に阻まれ、一気に減衰して無害なただの光と化す!

 

 ――戦い慣れている!

 

 ミラージュも、こんな方法でレーザーをかわすなど今まで聞いたこともなかった。

 そもそもが砂のある場所、つまり砂漠でしか通用しない戦法である。

 

 今思いついたのか前から考えていたのか、いずれにせよさすがは彼と同じマスターランカー。

 少なくとも、名前負けだけはしていないようである。

 

 ペンユウはそのままの勢いで空中に飛び出し、体勢を立て直した。

 身をひねりながら右手のマシンガンを乱射する。

 ろくに目視もしていないはずだが、無数の弾丸はサンドストーカーのいる方向に正確に飛来する!

 

 あわてて横に飛ぶサンドストーカー。

 

 なんとか弾は避けきったが、ただの回避で終わらせるわけにはいかない!

 サンドストーカーの左肩に備え付けられたユニットが動く。

 いくつか正方形のふたがついた、箱のようなものである。

 そのふたの内四つが一斉に口を開く。

 そして、四発のミサイルが天空へ向かって射出された!

 

 VLS(Vertical Launch System)……つまりは、垂直に打ち上げ、その後降下してくるタイプのミサイルである。

 動作範囲の問題上、どうしても上方に弱くなってしまうACにとって、非常に脅威的な兵器だ。

 

 ペンユウは地面に降り立つと、慌ててバックステップした。

 ミサイルは装甲板をかすめながら地面に命中し、砂塵を巻き上げる。

 

 しまった。

 ミラージュは少し後悔をした。

 これでは相手の姿が見えないではないか。

 

 と、その時だった。

 

『ミラージュさんっ!』

 

 突然聞こえてきた声は、カンバービッチのものだった。

 舌打ち一つして、ミラージュも負けじと怒鳴り返す。

 

「なんだね!? 邪魔をしないでくれ!」

 

『あいつ、逃げていきますよ!』

 

 何?

 

 ミラージュはレーダーに目を遣った。

 離れたところで動かない光点。

 これはカンバービッチの「スティンク」だ。

 前方に移っているノイズは巻き上げられた砂。

 

 そして、その向こう側で、高速で離れていく赤い光の点は……

 

「くっ、逃げるとは卑怯な!?」

 

 レイヴン同士の戦いで卑怯も何もあったものではないような気もするが、ともかくミラージュは操縦桿を押し倒した。

 サンドストーカーのブースターがこれでもかと火を吐きだし、その巨体を前に押し出す。

 猛スピードで砂煙の中を突っ切ると、背を向けて走り去っていくペンユウのあとを追いかける。

 

 その後ろに、一歩遅れてスティンクが続く。

 重量級だけあってスティンクはスピードでは劣る。

 ついていくどころか、少しずつ距離は開く一方である。

 

「ええい、逃げるな! 戦え!」

 

 悔し紛れに通信を送ってみるが、当然ながら答えはない。

 ペンユウの後ろ姿は少しずつ小さくなっていく……

 

 ミラージュは歯軋りをした。

 不快な音が狭いコックピットに響き渡る。

 スピードでは、向こうの方が頭一つ上のようである。

 

 やがて、その姿は完全に地平線の向こうに消えていった。

 

「くっ……臆病者め!」

 

 今更何を言おうと、負け惜しみにしかならない。

 ミラージュの拳がコックピットの壁に叩き付けられる。

 ともすればAC自身が揺れそうなほど激しく。

 

『ミラージュさん、まだいけます!』

 

 カンバービッチの声が電波を介して伝わってきた。

 なにがいけるというのか。

 もう相手は完全に逃げ去ってしまったではないか。

 せっかく何時間も待ち伏せしていたというのに……

 

『奴のレーダー反応はいきなり消えました。

 きっと、どこか電波の届かないところに……』

 

 そうか!

 

 ミラージュの瞳が輝きを取り戻した。

 電波が届かない所……おそらく地下。

 この辺りで地下にあるものと言えば……

 

 ――地下都市「サンタニカ」。

 

 

  *

 

 

 地下へのゲートは、すぐ近くにあった。

 ちょうどペンユウの反応が消えたあたりである。

 

 間違いない。

 あの女は、この都市に隠れているのだ。

 広い地下都市の中を探すのは少し手間だが、廃都市なら不可能ではないだろう。

 

「あらかじめいっておくがね、カンバービッチくん」

 

 ミラージュはもう一度、念を押した。

 

「どんな状況になろうと、手出しは無用だからね」

 

『わかってますよ。

 さあ、はやく行きましょう。

 また逃げられますよ』

 

 彼がせかす理由は、ただ早く帰りたいということだけなのだが、ミラージュはそれを激励と受け取った。

 勢いよく鼻から息を吐き出し、操縦桿に手を当てる。

 

 二機は並んでゲートに踏み込んだ。

 中にあるのは地下へと降りるエレベーターと鉄道が敷かれたスロープ。

 もちろんエレベーターは大型トレーラーでも運べるサイズのものだが、どうやら電源が死んでいるらしい。

 仕方なく二機はスロープの方へ進んだ。

 

 時代が進んでも、鉄道の重要性はかわらない。

 どんなに飛行機械やMT・ACが発達しても、特定区間で大量の物資を運ぶには鉄道が最適なのである。

 

 もちろん技術的な進歩もある。

 今では鉄道列車に人間が乗ることは少ない。

 独立した発電装置とプログラムによって、自動走行するタイプが主流である。

 

 長い長いスロープを抜けて、二機は地下都市の跡へとたどり着いた。

 

 なるほど、噂に聞いたとおり、あちこちで天井が崩れ落ち、土砂や岩によって無数のビルが押しつぶされている。

 地震もあったのか、根本でおれているビルもある。

 確かに人が暮らせる状況ではない。

 

『でも、なんであいつ地下都市の正確な位置を知ってたんでしょうねぇ』

 

「ふむ。おそらく、以前に任務で来たことがあるのだろう」

 

 今がその任務最中だ、などとは露とも知らず、ミラージュは無責任に言い放った。

 

 そう。

 この二人は、リンファが任務でやってくると知って待ち伏せていたわけではないのだ。

 

 ネットワーク上で流れていた噂……

「新しくマスターランカーになった女がメキシコ砂漠に現れるらしい」というただの噂を頼りに、何時間も待っていたのである。

 

 ぴぴっ。

 

 その時、レーダーが小さく音を立てた。

 表示される赤い点。

 位置は、前方百メートルほどの所にあるビルの影。

 レーダーから判断すると、ビルの影から出るコースで移動している!

 

「そこだっ!」

 

 ちょうど敵が現れる瞬間を狙って、サンドストーカーのレーザーライフルが火を噴いた。

 

 地下の暗闇を切り裂いて、突き進む光の矢。

 ライフルの弾丸は、狙い違わず敵を打ち抜いた!

 

 飛び散る青い破片。

 勝利を確信し、ミラージュはほくそ笑んだ。

 

 ……青い破片?

 

『な……何やってんですか! あれは……』

 

 カンバービッチの悲鳴にも近い声は、そこでとぎれた。

 彼が説明をするまえに、AC備え付けのコンピューターが警告音を発したのである。

 

[敵機確認。アスガルド社製、MT『ミッドガルズオルム』。

 機数……]

 

 コンピューターの声は、そこで一瞬途切れた。

 まさか、コンピューターが報告するのをためらったとでもいうのか?

 それとも、その声を聞いている二人の錯覚だろうか?

 

 どちらも違う。声が途切れた理由は簡単だ。

 

 数えるのに時間がかかったのである。

 

[48]

 

「なにぃぃぃぃぃぃぃいいっっ!?」

 

 ミラージュ達の悲痛な叫びを聞く者は、誰一人としていなかった。

 

 

 

つづく。

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