アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち 作:外清内ダク
『じゅ~んびかんりょ~!』
脳天気なエリィの声がコックピットに響き渡る。
ペンユウの、ではない。
コックピットに座っているのは金髪の、鋭い目つきの男……ヨシュア。
そしてこの機体は、彼の愛機「ワームウッド」である。
ワームウッドの輝くボディは、まるで四本足の青い蜘蛛のようである。
武装は、武器と腕部パーツが一体化したタイプのガトリングガン。
肩にレーダーとレーザーキャノンを背負っている。
最高レベルの機動力と、強大な火力を兼ね備えた機体である。
しかし扱いが難しく、誰にでも乗りこなせるというものではない。
「了解。起動する」
ヨシュアはいくつかスイッチを操作した。
ジェネレーターが低いうなりをあげる。
正面モニター、レーダー、各種データ表示。
駆動系も火器管制も問題ない。
あとは戦闘用の操作形態に切り替えれば、いつでも出撃可能である。
モニターに外の様子が映った。
どこか、倉庫のような場所。
ただし、リンファの住処などとは較べ物にならないほど整っている。
弾薬や整備にしようする機材、燃料といったものもある。
そして端の方には、上へと通じるリフト。
アリーナ会場の、参加者控え室である。
ただ、名前と違って控えるのは参加者だけではない。
その愛機のガレージも兼ねているのである。
参加者達は、ここで直前まで機体の整備点検に心血を注ぐのだ。
ヨシュアは、リンファとエリィが離れたところにいるのを確認してから、少しだけ機体を動かした。
いつもよりレスポンスがいい。
あまりにも反応が良すぎて、慣れるまで扱いが難しそうである。
一度慣れてしまえば、素早い対応が可能になるだろうが。
ヨシュアは通信をもう一度開いた。
「おい、エリィ」
『あいあ~い』
エリィが手に持った通信機を、口元に当てる。
「何か細工したな?」
『ばれた~! あのね、れすぽんすがおそかったから4ばいそくにしたよ~』
四倍だと?
ヨシュアは自分の耳を疑わざるを得なかった。
ワームウッドは、もともと最高レベルのレスポンスに設定してある。
初心者なら、それでもとても乗りこなせないほどのものだ。
確かに多少の不満を感じていたことは確かだが、まさか現行の最高性能の四倍などというレスポンスが可能だとは。
『でもね~、それりんふぁちゃんとおなじくらいだよ~』
『なんだ、それなら別に大したことないじゃない』
「……常識外れな奴らだ」
ヨシュアはそのまま、ワームウッドをリフトまで動かした。
多少不慣れな面もあるが、まあ戦っている内になんとかなるだろう。
その時だった。
外部からの通信が、いきなり割り込んできた。
モニター一杯に表示される顔。ミラージュである。
『ふふふ、怖じ気づいて』
ぶちっ。
やかましい。
ヨシュアは無理矢理通信を絶ちきった。
いちいち敵の月並みな台詞を聞いてやるほど、彼はヒマではない。
試合開始まで、あと5分。
そろそろリフトが動き始めるころだった。
ヨシュアはふと、横に目をやった。
ガレージの端の方で、ぶんぶんと手を振るエリィ。
そしてその横で、不機嫌そうに佇むリンファ。
しかし、彼は知っている。不機嫌なわけではない。
リンファはきっと、彼が自分のために戦っていると思っているのだろう。
それが、照れくさくてしかたがないのだ。
少しだけ、ヨシュアは笑みを浮かべた。
まだまだ子供だ。こんな下らないところで、自分が命をはるとでも思っているのか。
そう。彼は別に、リンファの身代わりに戦うわけではない。
ただ、あの連中の全財産が欲しいだけなのだ。
リフトが動き始めた。
向かう先は、旧アメリカ大陸F地区。
すなわち、メキシコ砂漠である。
*
ドシュッ!
リフトが地上に到達した瞬間、ヨシュアはレーダーも見ずにレーザーキャノンを放った。
光の砲弾が、近くにあった岩山を切り崩す。
深い意味はない。ただののろしである。
巻き起こる砂埃を突っ切って、飛び出してくる砂漠迷彩の二足AC、サンドストーカー。
地面の砂礫を撒き散らしながら、右腕のライフルを乱射する。
しかしワームウッドのスピードをもってすれば、適当に放たれたライフルをかわすことなど造作もない。
光線は空気を灼いて過ぎ去った。
ワームウッドがサンドストーカーの右手に回り込む。
それを追って回転するサンドストーカー。
さらに放たれる三発の弾丸も、ワームウッドのスピードに惑わされてあらぬ方向へ飛び去っていく。
『どうした!? 逃げるだけか!?』
ミラージュの濁声がいくつかの光線とともに飛来する。
まったく、やかましい奴だ。
ヨシュアは心の中で悪態をつきながら、操縦桿を軽くひねった。
ワームウッドが大きく地を滑り、全てのレーザーをかわしきる。
やはりか。
ヨシュアは一人で納得した。
レーザーの攻撃が止んだ。
かわりに、サンドストーカーがミサイルを放つ。
天空へと上っていく四発のミサイル。
高みまで上り詰めてから、四つのミサイルはワームウッドめがけて降り注いだ。
さらにそこへ迫る二つのレーザーライフルの光!
……丁度いい。
ヨシュアは口の端に笑みを浮かべた。
こっちも、ようやく慣れてきたところだ。
彼の手の動きが変わった。
まるで複雑な幾何学模様を描くかのように、ヨシュアの右腕が激しく波打った!
彼の相棒が、その動きに反応して大地を奔る。
空中からの四発のミサイルと前から来る二本のレーザーのわずかな隙間を、ワームウッドは縫うようにして駆け抜けた!
その姿は、まさに舞を舞う青い蜘蛛!
『ば……馬鹿な!?』
ミラージュが声を上げる。
無理もない。あれだけの攻撃を、一撃も食らわずに切り抜けるなど、常識では考えられるはずがないのだ。
そのままワームウッドが加速する。
呆然と佇むサンドストーカーに、猛スピードで走り寄る。
慌ててサンドストーカーはライフルを放った。
しかしそれもあっさりとかわされ、仕方なくブースターを吹かせて後退する。
岩陰に潜り込み、即席の盾を作り出す。
――甘いんだよッ!
ワームウッドが地を蹴った。
大きく空中へ飛び上がり、ブースターの力で岩を飛び越える。
そこは丁度、サンドストーカーの真上!
ガトリングガンが無数の弾丸をばらまく!
とてもかわせる状況ではない!
しかし次の瞬間、サンドストーカーは空中へ飛び上がった!
弾丸の何発かは命中するが、ひるむことなく左腕に光をともす。
これは……レーザーブレード!
ヨシュアは慌てて操縦桿から手を放した。
途端に機体が自由落下を始める。
光の刃をすんでのところでくぐり抜け、ワームウッドはサンドストーカーとすれ違った。
――勝った!
ミラージュは確信した。
これでワームウッドの上をとったのだ。
あとは、落下の勢いを利用して斬りつければ、全てが終わる。
そのはずだ。
ミラージュが操縦桿をひねると、サンドストーカーの巨体が空中で反転した。
地面へ向かって落ちていくワームウッド……
『なっ!?』
ミラージュは思わず叫んでいた。
いない。
今自分とすれちがって、下に落ちていったはずのワームウッドがいない!
「何をそんなに驚いている?」
ががっ!
衝撃は、いきなり背後からサンドストーカーを襲った!
連続して装甲板に食い込んでいく弾丸……ガトリングガンである。
そう。いつのまにか、ワームウッドはサンドストーカーのさらに上へと飛び上がっていた!
ヨシュアは笑っていた。
奴にはわからなかっただろう。
ワームウッドは、近くの岩山へと着地し、再度飛び上がったのだ。
空中で反転して下を向こうとするサンドストーカーの、背中側をくぐり抜けて。
無数の弾丸がサンドストーカーを地面に叩き付けた。
それを踏みつけるように、ワームウッドが大地に降り立つ。
丁度、獲物をとらえた毒蜘蛛のように。
「降伏するか?」
レーザーキャノンの砲身をサンドストーカーの方に向けながら、ヨシュアは呟いた。
声は聞こえているはずである。
『……断る』
いい度胸だ。
最後の最後でヨシュアは敵を誉める気になった。
そして、指を引き金にかけると、ミラージュに最後の言葉を投げかけた。
「じゃあな」
*
「おめでと。これで臨時収入ね」
ワームウッドから降りたヨシュアに、最初に声をかけたのはリンファだった。
エリィは、用事があるとかでどこかへ行ってしまった。
そんなもの、あるはずもない。
全く、彼女の意図は鈍感なリンファにも手に取るようにわかる。
いや、むしろわかりやすく振る舞ってくれているのかもしれない。
「飲みにでも行くか?」
リンファは悪戯っぽく微笑み、しなを作って見せた。
それを見ると、ヨシュアの口から自然と笑みが零れた。
いい表情だ。
いつものリンファ。男を平気で利用する、狡猾な傭兵、リンファ。
ようやく戻ってきたのだ。一連のドタバタで、なくしかけていたものが。
「奢ってくれる?」
さて、どうしようか。
ヨシュアは少し迷った。
少し考えた後、彼はさも当然のように言い放った。
「馬鹿言え。割り勘だよ」
THE END.
今回登場したAC
■ワームウッド∞
機体名 ワームウッド∞
パイロット ヨシュア
HEAD HD-H10
CORE XCL-01
ARMS AW-GT2000
LEGS LF-TR-0
BOOSTER B-T001
FCS QX-AF
GENERATOR GBX-XL
BACK UNIT R RZT-333
BACK UNIT L WC-01QL
ARM UNIT R -
ARM UNIT L -
OPTION SP-CND-K, SP-S/SCR, SP-E/SCR, SP-EH, SP-E+, SP-DEtq, SP-ABS/Re
●COLOR
GENERAL BASE(15,15,32) OPTION(15,15,32) DETAIL(15,15,32) JOINT(32,32,32)
CORE OPTION(15,15,15)
●備考
第六話以降のヨシュア機。ぜんぜん描写できないような所ばかり変わっている。
次回予告
R「少年は、力を持ちすぎた。
虐げられたが故に餓え、
その優しさが故に荒ぶる。
全ては少女を守るため。
この世にたったひとりきり、大切な人の幸せのため。
心にそう念じつつ、少年は歩みだす。
定められた死地に向かって――
次回、
『ムーンライト・セレナーデ』
切ない小夜曲の鳴るところ、
今、少年は男となる。
……なんてねっ!
それでは、またっ!」