アーマードコアEX 女レイヴンの日常は、血と硝煙と愛に満ち   作:外清内ダク

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07 マスターアリーナ、開戦

 

 

 

 

『じゅ~んびかんりょ~!』

 

 脳天気なエリィの声がコックピットに響き渡る。

 

 ペンユウの、ではない。

 コックピットに座っているのは金髪の、鋭い目つきの男……ヨシュア。

 そしてこの機体は、彼の愛機「ワームウッド」である。

 

 ワームウッドの輝くボディは、まるで四本足の青い蜘蛛のようである。

 武装は、武器と腕部パーツが一体化したタイプのガトリングガン。

 肩にレーダーとレーザーキャノンを背負っている。

 

 最高レベルの機動力と、強大な火力を兼ね備えた機体である。

 しかし扱いが難しく、誰にでも乗りこなせるというものではない。

 

「了解。起動する」

 

 ヨシュアはいくつかスイッチを操作した。

 ジェネレーターが低いうなりをあげる。

 正面モニター、レーダー、各種データ表示。

 駆動系も火器管制も問題ない。

 あとは戦闘用の操作形態に切り替えれば、いつでも出撃可能である。

 

 モニターに外の様子が映った。

 どこか、倉庫のような場所。

 ただし、リンファの住処などとは較べ物にならないほど整っている。

 弾薬や整備にしようする機材、燃料といったものもある。

 そして端の方には、上へと通じるリフト。

 

 アリーナ会場の、参加者控え室である。

 ただ、名前と違って控えるのは参加者だけではない。

 その愛機のガレージも兼ねているのである。

 参加者達は、ここで直前まで機体の整備点検に心血を注ぐのだ。

 

 ヨシュアは、リンファとエリィが離れたところにいるのを確認してから、少しだけ機体を動かした。

 いつもよりレスポンスがいい。

 あまりにも反応が良すぎて、慣れるまで扱いが難しそうである。

 一度慣れてしまえば、素早い対応が可能になるだろうが。

 

 ヨシュアは通信をもう一度開いた。

 

「おい、エリィ」

 

『あいあ~い』

 

 エリィが手に持った通信機を、口元に当てる。

 

「何か細工したな?」

 

『ばれた~! あのね、れすぽんすがおそかったから4ばいそくにしたよ~』

 

 四倍だと?

 ヨシュアは自分の耳を疑わざるを得なかった。

 ワームウッドは、もともと最高レベルのレスポンスに設定してある。

 初心者なら、それでもとても乗りこなせないほどのものだ。

 

 確かに多少の不満を感じていたことは確かだが、まさか現行の最高性能の四倍などというレスポンスが可能だとは。

 

『でもね~、それりんふぁちゃんとおなじくらいだよ~』

 

『なんだ、それなら別に大したことないじゃない』

 

「……常識外れな奴らだ」

 

 ヨシュアはそのまま、ワームウッドをリフトまで動かした。

 多少不慣れな面もあるが、まあ戦っている内になんとかなるだろう。

 

 その時だった。

 外部からの通信が、いきなり割り込んできた。

 モニター一杯に表示される顔。ミラージュである。

 

『ふふふ、怖じ気づいて』

 

 ぶちっ。

 

 やかましい。

 ヨシュアは無理矢理通信を絶ちきった。

 いちいち敵の月並みな台詞を聞いてやるほど、彼はヒマではない。

 

 試合開始まで、あと5分。

 そろそろリフトが動き始めるころだった。

 

 ヨシュアはふと、横に目をやった。

 

 ガレージの端の方で、ぶんぶんと手を振るエリィ。

 そしてその横で、不機嫌そうに佇むリンファ。

 

 しかし、彼は知っている。不機嫌なわけではない。

 リンファはきっと、彼が自分のために戦っていると思っているのだろう。

 それが、照れくさくてしかたがないのだ。

 

 少しだけ、ヨシュアは笑みを浮かべた。

 まだまだ子供だ。こんな下らないところで、自分が命をはるとでも思っているのか。

 そう。彼は別に、リンファの身代わりに戦うわけではない。

 

 ただ、あの連中の全財産が欲しいだけなのだ。

 

 リフトが動き始めた。

 向かう先は、旧アメリカ大陸F地区。

 すなわち、メキシコ砂漠である。

 

 

  *

 

 

 ドシュッ!

 

 リフトが地上に到達した瞬間、ヨシュアはレーダーも見ずにレーザーキャノンを放った。

 光の砲弾が、近くにあった岩山を切り崩す。

 深い意味はない。ただののろしである。

 

 巻き起こる砂埃を突っ切って、飛び出してくる砂漠迷彩の二足AC、サンドストーカー。

 地面の砂礫を撒き散らしながら、右腕のライフルを乱射する。

 

 しかしワームウッドのスピードをもってすれば、適当に放たれたライフルをかわすことなど造作もない。

 光線は空気を灼いて過ぎ去った。

 

 ワームウッドがサンドストーカーの右手に回り込む。

 

 それを追って回転するサンドストーカー。

 さらに放たれる三発の弾丸も、ワームウッドのスピードに惑わされてあらぬ方向へ飛び去っていく。

 

『どうした!? 逃げるだけか!?』

 

 ミラージュの濁声がいくつかの光線とともに飛来する。

 

 まったく、やかましい奴だ。

 ヨシュアは心の中で悪態をつきながら、操縦桿を軽くひねった。

 ワームウッドが大きく地を滑り、全てのレーザーをかわしきる。

 

 やはりか。

 ヨシュアは一人で納得した。

 

 レーザーの攻撃が止んだ。

 かわりに、サンドストーカーがミサイルを放つ。

 天空へと上っていく四発のミサイル。

 高みまで上り詰めてから、四つのミサイルはワームウッドめがけて降り注いだ。

 さらにそこへ迫る二つのレーザーライフルの光!

 

 ……丁度いい。

 

 ヨシュアは口の端に笑みを浮かべた。

 

 こっちも、ようやく慣れてきたところだ。

 

 彼の手の動きが変わった。

 まるで複雑な幾何学模様を描くかのように、ヨシュアの右腕が激しく波打った!

 彼の相棒が、その動きに反応して大地を奔る。

 空中からの四発のミサイルと前から来る二本のレーザーのわずかな隙間を、ワームウッドは縫うようにして駆け抜けた!

 

 その姿は、まさに舞を舞う青い蜘蛛!

 

『ば……馬鹿な!?』

 

 ミラージュが声を上げる。

 無理もない。あれだけの攻撃を、一撃も食らわずに切り抜けるなど、常識では考えられるはずがないのだ。

 

 そのままワームウッドが加速する。

 呆然と佇むサンドストーカーに、猛スピードで走り寄る。

 

 慌ててサンドストーカーはライフルを放った。

 しかしそれもあっさりとかわされ、仕方なくブースターを吹かせて後退する。

 岩陰に潜り込み、即席の盾を作り出す。

 

 ――甘いんだよッ!

 

 ワームウッドが地を蹴った。

 大きく空中へ飛び上がり、ブースターの力で岩を飛び越える。

 

 そこは丁度、サンドストーカーの真上!

 ガトリングガンが無数の弾丸をばらまく!

 とてもかわせる状況ではない!

 

 しかし次の瞬間、サンドストーカーは空中へ飛び上がった!

 弾丸の何発かは命中するが、ひるむことなく左腕に光をともす。

 これは……レーザーブレード!

 

 ヨシュアは慌てて操縦桿から手を放した。

 途端に機体が自由落下を始める。

 光の刃をすんでのところでくぐり抜け、ワームウッドはサンドストーカーとすれ違った。

 

 ――勝った!

 ミラージュは確信した。

 これでワームウッドの上をとったのだ。

 あとは、落下の勢いを利用して斬りつければ、全てが終わる。

 そのはずだ。

 

 ミラージュが操縦桿をひねると、サンドストーカーの巨体が空中で反転した。

 地面へ向かって落ちていくワームウッド……

 

『なっ!?』

 

 ミラージュは思わず叫んでいた。

 

 いない。

 今自分とすれちがって、下に落ちていったはずのワームウッドがいない!

 

「何をそんなに驚いている?」

 

 ががっ!

 

 衝撃は、いきなり背後からサンドストーカーを襲った!

 連続して装甲板に食い込んでいく弾丸……ガトリングガンである。

 

 そう。いつのまにか、ワームウッドはサンドストーカーのさらに上へと飛び上がっていた!

 

 ヨシュアは笑っていた。

 奴にはわからなかっただろう。

 ワームウッドは、近くの岩山へと着地し、再度飛び上がったのだ。

 空中で反転して下を向こうとするサンドストーカーの、背中側をくぐり抜けて。

 

 無数の弾丸がサンドストーカーを地面に叩き付けた。

 それを踏みつけるように、ワームウッドが大地に降り立つ。

 丁度、獲物をとらえた毒蜘蛛のように。

 

「降伏するか?」

 

 レーザーキャノンの砲身をサンドストーカーの方に向けながら、ヨシュアは呟いた。

 声は聞こえているはずである。

 

『……断る』

 

 いい度胸だ。

 最後の最後でヨシュアは敵を誉める気になった。

 そして、指を引き金にかけると、ミラージュに最後の言葉を投げかけた。

 

「じゃあな」

 

 

  *

 

 

「おめでと。これで臨時収入ね」

 

 ワームウッドから降りたヨシュアに、最初に声をかけたのはリンファだった。

 

 エリィは、用事があるとかでどこかへ行ってしまった。

 そんなもの、あるはずもない。

 全く、彼女の意図は鈍感なリンファにも手に取るようにわかる。

 いや、むしろわかりやすく振る舞ってくれているのかもしれない。

 

「飲みにでも行くか?」

 

 リンファは悪戯っぽく微笑み、しなを作って見せた。

 それを見ると、ヨシュアの口から自然と笑みが零れた。

 いい表情だ。

 いつものリンファ。男を平気で利用する、狡猾な傭兵、リンファ。

 ようやく戻ってきたのだ。一連のドタバタで、なくしかけていたものが。

 

「奢ってくれる?」

 

 さて、どうしようか。

 ヨシュアは少し迷った。

 少し考えた後、彼はさも当然のように言い放った。

 

「馬鹿言え。割り勘だよ」

 

 

 

THE END.




今回登場したAC

■ワームウッド∞
機体名 ワームウッド∞
パイロット ヨシュア
HEAD HD-H10
CORE XCL-01
ARMS AW-GT2000
LEGS LF-TR-0
BOOSTER B-T001
FCS QX-AF
GENERATOR GBX-XL
BACK UNIT R RZT-333
BACK UNIT L WC-01QL
ARM UNIT R -
ARM UNIT L -
OPTION SP-CND-K, SP-S/SCR, SP-E/SCR, SP-EH, SP-E+, SP-DEtq, SP-ABS/Re
●COLOR
 GENERAL BASE(15,15,32) OPTION(15,15,32) DETAIL(15,15,32) JOINT(32,32,32)
 CORE OPTION(15,15,15)
●備考
 第六話以降のヨシュア機。ぜんぜん描写できないような所ばかり変わっている。





次回予告


R「少年は、力を持ちすぎた。

 虐げられたが故に餓え、
 その優しさが故に荒ぶる。

 全ては少女を守るため。
 この世にたったひとりきり、大切な人の幸せのため。

 心にそう念じつつ、少年は歩みだす。
 定められた死地に向かって――

 次回、

アーマードコアEX 第7話
『ムーンライト・セレナーデ』


 切ない小夜曲の鳴るところ、
 今、少年は男となる。

 ……なんてねっ!
 それでは、またっ!」
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